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【INTERVIEW】いま本屋が増えている?! 本屋ライター和氣正幸に訊く、独立系書店の系譜

StoryWriter

書店調査会社のアルメディアによると、この20年間、書店の数はほぼ変わらないペースで減少を続けているという。筆者の職場がある渋谷でも、街の再開発に伴い閉店してしまった書店がある。他の地域に比べて比較的書店の数は多いけれど、この先どうなってしまうのか不安で書店に立ち寄っては本を買っている。

そんな中、とある特集記事が目に留まり驚いた。本の雑誌の2021年5月号の特集が「本屋がどんどん増えている!」だったのだ。まさか?! と思い読んでみたところ、1990年代から2020年代にかけての書店の系譜がまとめられており、さらに注目の独立系書店のリストも掲載されていた。確かに、筆者からしても独立系書店の勢いは強く感じるところがあった。

4月20日に自社で『ねるね』という雑誌を創刊した。眠れない夜に手にとってほしいをコンセプトに、手触りにもこだわり、両面から読めるように工夫した雑誌だったため、丁寧に販売してくださる書店さんに置いてほしかった。全国各地の書店さんに連絡をして、気に入っていただいたお店に直取引で置いてもらうことにした。その結果、名もなき雑誌にもかかわらず、40店舗以上の書店さんが置いてくださり、1000冊近くを売ってくださった。こちらから連絡せずとも連絡をくださる書店さんも多かった。

そうした動きを知り、今回、上記特集で書店の系譜を丁寧にまとめている本屋ライターで、下北沢にある本屋のアンテナショップBOOKSHOP TRAVELLERの店主でもある和氣正幸さんに話を伺わせていただいた。2010年から日本各地の書店について調査し記事を書き続けている和氣さんが感じる現在の書店や本を巡る状況。いま、独立系書店を中心とした書籍業界は大きな転換期にいるのかもしれない。

取材:西澤裕郎
構成:玉澤香月


本屋が増えている実感がある

──本の雑誌(2021年5月号)で特集「本屋がどんどん増えている!」が組まれていました。和氣さんも寄稿されていますが、本屋さんが増えている実感はありますか?

和氣:最近はちょっと落ち着きましたけど、昨年はTwitterのタイムラインで月に1回以上は見ることが多く、増えている実感がありましたね。前は年に何回かみたいな感じだったので、だいぶ増えたなという印象です。

──理由はいろいろあると思いますが、1番大きい要因はなんだと思いますか?

和氣:書籍『本屋、はじめました』『これからの本屋読本』が出版されたのが1番大きいきっかけだと思います。情報が欲しい人に届いたんですよ。

──本屋をやりたいけど、どうしたらいいか分からない人に門が開かれたと。

和氣:同じくらいの時期に、僕は双子のライオン堂の竹田信弥さんと一緒に〈本屋入門〉、内沼晋太郎さんは〈これからの本屋講座〉という講座をやっていたんですけど、それが書籍という形になって、本が好きな人、特にご年配の方や、インターネットがあまり得意じゃない人に届いたんだなと感じました。

──そもそも、和氣さんがお店を持たれたきっかけは何だったんでしょう?

和氣:僕は、本も本屋も全然関係ない会社に2009年に就職しているんですよ。就職して1年くらい経った2010年にBOOKSHOP LOVERの活動を始めて、本屋を紹介するようになった。独立したいなと思っていたんです。ただ、本に囲まれた状態がすごく好きだったので、本屋をやろうと思ったけど、インターネットを含めて本屋を始めるための情報が全くなくて。だったら自分で始めちゃおうということで、本屋に行って調査をしたことをブログにあげていったらライティングの仕事が先に形になったんです。

──独学で調べあげた情報をもって、自分でも本屋をはじめたと。

和氣:実はその前に、西荻窪にある西荻ペーパートライで1年程、週1で古本屋をやっていたんですよ。そのときはちゃんと運営できなくて。だったら自分はライターとしてちゃんとやった方がいいと思って、本屋ライターとしての仕事に力を入れて。『日本の小さな本屋さん』の取材旅行で本屋さんに行くと「西荻の本屋どうなったの?」と訊かれることが多く、「半端はよくないのでもう閉めました。僕はやっぱりライターをやらないといけないんですよ。そっちの方が求められてますしね」と、それっぽく言っていたんです。

──ライターとしての仕事を確立しつつ、どのタイミングでBOOKSHOP TRAVELLERを始めることになったんでしょう。

和氣:2012年頃、下北沢に来る度に現BOOKSHOP TRAVELLERの入っている北沢ビル1階のバロンデッセに通っていて。コーヒーがおいしいんですよ。もともとオーナーとは、本屋B&Bの、とあるゼミで知り合って、よくお話する関係だったんです。2013年に「カフェの2号店(アンソロップ)を出すときに本で何かをやらない?」と言われて。「ぜひ!」とやらせていただいたんです。今よりも全然小さくて、下北沢にゆかりのある人だけでやっていました。2018年の春頃に「アンソロップも大きくしたいし、本屋も大きくしたらどう?」と言われて。ちょうど自分の出版も一段落ついて、次はどうしようかなというタイミングだったし、お世話にもなっているのでやることに決めました。

なんで紙でやりたいんだという問いがすごく増えた

──僕も大学生のときに書店でアルバイトをしていて、就職先も本屋だったんです。ただあまりに大変で、本屋を自分で開く考えにはまったく至りませんでした。今でこそ独立書店で小規模でやっていく方法はあるかもしれないですが、今ほど環境が整ってない中で、商売としてやっていくのは厳しいかもしれない、そうした判断はなかったんですか?

和氣:ともかく1人でやりたかったので、そのためにどうしたらいいかを考えたんです。1人の人が何かをやり出して有名になって、大きい資本が入ってきて全部かっさらっていくみたいな構図ってよく見るじゃないですか。そうならないためにはどうしたらいいだろうと考えたとき、1つ条件として、資本があまり入って来なさそうなことが重要だなと。そんなに利益が出ない場所が結構大事だと思ったんですよね。

──それは、2010年代という時代性もマッチしたわけですよね。そういう意味で、和氣さんが本の雑誌(2021年5月号)で書かれている「独立書店年表」の歴史はすごくわかりやすかったし、興味深かったです。

和氣:90年代に出版されたレイモンド・マンゴー『就職しないで生きるには』からの往来堂書店オープンがあったり、いろいろな文脈があるんです。誌面に書ききれていないほど、お店がいっぱいあるんです。

──僕は大学が名古屋だったので、90年代後半から2000年代前半のヴィレッジヴァンガードの影響の大きさは身をもって実感しました。あと、ブックオフ。

和氣:そのあと2000年ぐらいにAmazonが出始めたんですけど、当時、失敗例って言われていたんですね。条件が悪い中でともかく速攻で届ける。ただ、儲けられないみたいに言われたらしいんですけど全てを力技でどうにかしたという。

──僕は2018年から自社で本を作るようになったんですけど、どうやって売ればいいのかすごく難しくて。大手取次はビジネスにならないと口座が開けない。その中で、独立書店が増えているのは、作り手にとっても、すごくありがたいことだと思いました。出版をする書店も増えている印象があります。

和氣:本屋が出版することは普通になってきた感じがしますね。有名どころだと、双子のライオン堂さんとか、名古屋のON READINGさんのレーベルELVIS PRESSとか。BOOKSHOP TRAVELLERでも今度ZINEを出すんです。ZINEやリトルプレスの出版が簡単になってきた。昔に比べて、本の権威が薄れていますよね。インターネットとかSNSの普及によっていろいろ問い直された。2012年が電子書籍元年らしいんですけど、文章に限って言うと、わりと長めのテキストを読むときに1番適したものは紙という状況が相対化された。なぜ紙なんだろうとなったときに、初めて私は紙の本が好きなんだという言い方になってくるわけです。そこで意識化されて、その部分の価値が変わった気がします。

──僕も2009年に自分で初めてZINEを作ったんですけど、音楽メディアがウェブに移ってきた中で「目立つためには紙だ!」という方向で作ったんです。

和氣:〈TOKYO ART BOOK FAIR〉のはじめが2009年なんですよ。当時、名前は〈ZINE’S MATE:TOKYO ART BOOK FAIR〉でした。

──このあたり、ZINEブームが来てましたもんね。紙であることの意味、意思を持ってやることの重要性がより強くなってきたのかもしれないですね。

和氣:問いをちゃんとしている感じですね。なんで紙でやりたいんだ? という問いがすごく増えたような感じがします。

──僕はずっと音楽文脈で仕事をしてきているのですが、音楽って2000年代ぐらいにインディーズ・ブームが起こってDIYのパラダイムシフトが起こった感覚がある。そういう意味では、本もインディペンデントの波がすごく来ていて、変化の時期な気がします。

和氣:出版の場合は、(ベストセラーを出せば別ですが)あまり大きく稼げるわけじゃないので、それもすごくいいような気がします。ただ、本は結構フィジカルに依存するところが多いので、まだまだ書店を出す場所の賃料など問題はあるかなとも思います。

3.11から生き方が変わった人たち

──今年4月に新しい雑誌『ねるねnerune』を発行したんですけど、地方の書店さんで反応をたくさんいただいて。地方の方が熱気を感じました。

和氣:地方にカルチャーがないという話は聞くんですよね。例えば、広島のREADAN DEATは、「ZINEとかを売っているお店や大型書店がなくなってしまった。じゃあ自分でやる」という動機で始めたんです。そういう書店さんが、結構多いような気がしていて。今、東京はまちに1つとは言わないまでも、電車で30分も行けば、いろいろな本屋にアクセスできる。でも、地方だと都心部に行かないといけないというところも多い。

──実際問題、本屋としての運営を続けられるのかなとも疑問に思います。2000年代でも文具を併売したり、カフェを併設したりする本屋が増えていて、本だけでは成り立たないんじゃないかと。

和氣:それは(インタビュアーが)本屋にいたからだと思いますよ。だって本屋の中にいると、構造がいまに合っていないのがわかるから、絶対疲弊するじゃないですか。ただ、合っていないと言っても、その構造自体はすごいんですけどね。あと、2011年に起きた東日本大震災もだいぶ大きいと思います。取材をしたとき、3.11がきっかけでという人は結構いました。特に東京じゃない場所で聞くことが多かった。今と違うことをやろうと思ったとき、たまたま本屋になったという感じの人もいた。社会全体はともかくとして、3.11から生き方が変わったという人はいたと思います。

──僕はどちらかと言うと、出版業界はもう無理かもと思って辞めてしまったけど、心残りがあってまた戻ってきた人間なんです。

和氣:僕は何か悪いことがあるときに、個人のせいにするのがすごく嫌いで、システムをどうにかしたいんです。大きくて、わりと上手くいっているシステムを中から変えるのは不可能だと僕は思っているので、個人なり、仲間たちで勝手にやるのが1番よくて。それが上手くいくと全体を変えるかも分からないし、そうでなくとも少なくとも自分は楽しい。そういう流れで自分は今のような感じになっています。あまりシステムを決めきらないようにはしていますけどね。

独立書店が本を出版したり、新しい取次の形も増えてきている

──最近だと講談社、集英社、小学館の出版社3社と丸紅で取次業務を始めるというニュースが出ていましたけど、取次業界でも変革が起こりそうですよね。

和氣:取次に関しては、大きすぎてすぐに壊したとして、そのあとどうするんだという話になるじゃないですか。それにもし今壊したら、末端の人たちはどうなるの? という話があって、利害関係が絡み合って中からどうにかできる話では絶対になさそうにみえる。かと言って、オルタナティブがすごく育っているわけでもないから、悩みどころではあると思います。

──流通に関しては、僕のような新規出版社も、独立系書店さんも悩みの種ではあると思います。

和氣:独立書店の世界をちゃんとやっていくとしたら、本屋の検索サイトがまず必要だと思うんです。『本屋、はじめました』が出版されて、『これからの本屋読本』はネットで無料公開されているので、独立書店を作る人に対しての訴求はできたと思うんですよ。となると、次はユーザーに知らせないといけない。そのためには、本屋巡りが当たり前のことにしないといけないんです。本を読まない層も、とりあえず検索して本屋に行くアプローチを投げかけていかないといけないのかなと思います。

──たしかにそこは一枚岩になって働きかけていく必要がありますよね。

和氣:独立書店と1人出版社って繋がっているようで繋がってない。他の業界でもそうだと思うんですけど、基本的にセクトごとで完全に別れていて、あまり交流がない。そこをもうちょっとゆるく繋げるようなプラットフォームがあったらいいですよね。何かあったときに相談事に乗ってもらえたり、独立書店内で在庫の融通が効いたりとか。1人出版社側からしたら、独立書店で売れている本が数字として分かったり。先日、取材をした書店さんが、出版社さんが大手の書店にはたくさん営業に来るけどうちには来ないのかと言っていて。たしかに大型書店の方が何万冊も売れるのは分かるけど、こういうところからやらないとダメじゃないの? と。それはそうだと思うんですけど、でも彼らは利益団体なわけですよ。自分たちの利得のために動かざるを得ないわけで、1番リソースをかけるのは商品を売ってくれるところになるのはある意味当たり前じゃないですか。

──本の種類も様々ですからね。そういう意味で、どこの書店にも同じ本が並んでいる、という構造もそれでよいのかと問われているとも言えますよね。

和氣:中にはほしいお店もあるんだろうけど、独立書店にベストセラーは別にいらないと思うんですよね。これは、この前本屋Lighthouseの関口さんがツイートしていましたけど、お客さんから注文が入ったときに在庫があるんだかないんだかはっきりしてほしいと。2週間後にならないと届かないんだったら、今どこにあるかはっきりさせてほしいし、結局なかったはやめてくれと。

──たしかに僕が書店に勤めているとき、版元に電話注文していた本が、2週間後に在庫なしとスリップだけ送られてくることが普通にありました。

和氣:その期間が長すぎるし、状況が分からないから、お客さんに明確な期日が言えなくて、ストップもできなくて。それってビジネスとしてありえないじゃないですか。そこらへんの話をちゃんとしないといけないですよね。

──『ねるねnerune』で書店さんと直取引させてもらっているのが、すごく分かりやすくて明瞭なんですよね。今40店舗ぐらいで扱ってもらっているんですけど、みなさんたくさん売ってくださって、すごくありがとうございますという気持ちになるし、ちゃんと宣伝しようと思えます。

和氣:日本語的な意味でのビジネスではないかもしれないけれど、スモールビジネスというか、社員何名かとか、自分1人とか、関わってくる人たちが上手く回るようなやり方はきっとるわけで。出版ってそういうものじゃない? という気が、めちゃくちゃしますよね。

──僕が以前働いていた出版社の社長も、出版なんて1人いればできるんだと口すっぱく言っていて。時代を経て出版業界が肥大化しすぎてしまったんだろうなと思いました。

和氣:そもそも、今の構造自体が出版社に対してめちゃくちゃプラスなやり方で、書店にその分の不均衡がのしかかってきてしまっている。かといって出版社さんが楽な商売かと言われたらそんなことは絶対にないとは思うんですけど。じゃあどうしたらいいの? というときに、独立書店が本を出版したり、H.A.Bツバメ出版流通や、子どもの文化普及協会とか、新しい取次の形が増えてきている。

──書店側からすると、新刊の点数が多すぎるんですよね。書店員さんも選べないというか、把握しきれないだろうなということも一方では分かります。

和氣:みんながみんな悪いことをしたわけじゃないんだけど、なんとなく全部が沈んでいくという例ですよね。だったら、全然違うことをやらないといけないんです。そういうことをやりたい人は自分でやっちゃうのが1番早いと思いますけどね。

棚貸しのサブスクリプションをはじめたBOOKSHOP TRAVELLER

──その中でも和氣さんが現在、BOOKSHOP TRAVELLERでやっている棚貸しは、新しいスタイルとして始まったものなんですか?

和氣:月額制サブスクリプションの棚貸しは、おそらく2017年のみつばち古書部が初めてですね。棚を貸す行為自体は結構前からあって。僕が把握している限りだと一箱古本市が2000年からで、古本屋の一部の棚を貸して、売上の販売手数料を古本屋側がもらっていた。棚貸しがメインの店は2017年に初めてできたと思います。

──そうした文脈があったんですね。

和氣:みつばち古書部は、大阪の文の里の商店街の外れに2013年にできた居留守文庫がボックス型の本棚を積み重ねて古本を売っていたのが始まりで。ボックスを一部貸し出していた。あるとき、商店街の人から、「場所が空いたから何かやらない?」と言われたらしく。居留守文庫は基本的に1人でやっているので、どう回すのかというときに、棚を貸しているスタイルで全部実験的にやってみたら大ヒットして、すぐに満員になった。そこの卒業生で、風文庫さんという実店舗を持たれている本屋さんもいるんです。

──BOOKSHOP TRAVELLERもそこからヒントを得ている?

和氣:自分の活動をそのまま落とし込んで本屋を紹介する本屋っていいなと思って。本屋を旅するように楽しむコンセプトなんです。そのためにビジネス・モデル的に解釈すると、棚貸しがいいなと。サブスクリプションは目の前の売上をそこまで追わなくていい、しかも棚を借りてくれた人が喜ぶようなことをすれば、それが店の安定存続に繋がるわけで、幸せしかないじゃないですか。ただ、棚貸し本屋としての弱点は補充がコントロールできないところなので、途中から新刊を入れるようになりました。

──現在のBOOKSHOP TRAVELLERは、ひと箱店主さんの棚と和氣さんの新刊棚が混在しているんですか?

和氣:中には古本も少し入っていたりします。絵本のコーナーとか僕は全然分からないので選書してもらって僕が仕入れたり、僕が選書して、ひと箱店主の方がプラスアルファしたりもしています。

──BOOKSHOP TRAVELLERで棚を借りている方々が多いのは、それだけ本屋さんをやってみたい方も多いということですか?

和氣:本屋をやってみたい人もいるし、自主出版で本を出したから置く場所が欲しい人もいます。リトルプレス的なものを作っていて、拠点として使いたい人もいるし、出版社さんがアーカイブとして置いておきたいとかいろいろですね。もしくはこの場所を気に入ってくれたので借りてくれたり、そういうことも結構あったりします。

楽しくやるためには別に本で儲かる必要はないかもしれない

──最近だと、出版社が本屋もやっているケースが増えてきました。これからそういうスタイルも増えてくる予感はしますか?

和氣:1人出版社も本屋をやった方がいいと思うんですけど、リソースの問題があるので。1冊1冊をすごく頑張って全部売り切るタイプだったらできるのかもしれないけど、回転させてやっていくタイプの場合、構造上難しいのかなとは少し思います。アメリカだと出版社さんがカフェや本屋を開いていて。要は自分の出版社のファンをもてなすための場所というか、ブランディングのためにやるのが当たり前にあったりするらしいんですけど、日本だとあまりないじゃないですか。それって構造的な話だと思うんです。早く回転させる話になっちゃって、出版ってそもそも回転が遅いビジネスだと思うんですけどね。

──出版社は本を作って取次に入れると、一度売上が立つ方式ですからね。変な話、本を作ることがお札を刷ることみたいになっているというか。

和氣:そういう意味で言ったら、取次はすごくいいシステムだとは思います。

──ただ、新規出版社は体力が持たない。物流コストがあがっているのは理解しているつもりですが、7ヶ月後の入金がある前にお金が尽きてしまいそうで……。

和氣:今の構造の歪みが全部新参者、弱い者に回って来ていますよね。

──ある程度見込みがある本だったらいいんですけど、そうでなければマイナスになってしまうんですよね。なので、独立系書店などの新しい波は非常に励みになります。

和氣:大事なことは楽しくやりたいだけで、システムが目的なわけではないじゃないですか。本屋もそうですけど、楽しくやるためには別に本で儲かる必要はないかもしれない。そういう考え方の人も増えてきたらから、ここ5、6年ぐらいいろいろなスタイルで、出版社や本屋ができるようになってきたのかもしれないですね。

──下北沢の土地柄と本屋さんの相性はどう思われますか?

和氣:カルチャーが好きな人が多いので、本に興味を持ってくれる方は多い感じがします。特にうちは一見さんや若いお客さんが多くて。

──本屋以外にもギャラリーとして使用されているスペースがありますよね。どういう発想からギャラリーとしてスペースを活用しようと思ったんですか?

和氣:もともと下の階にあるバロンデッセの3rdギャラリーという形で、7部屋全部がギャラリーだったんです。常駐して専門でギャラリーを回している人がいるわけではなくて。僕はすごくこの場所が好きだったので、一部を本屋で、残りをギャラリーとして共同で運営させてもらっています。

──和氣さんは、新刊をどういう基準で選んでいるんですか?

和氣:好き嫌いですかね。サイエンスや独学の本をもうちょっと増やしたいです。アートとデザインの棚が思ったよりも埋まっているので、もうちょっと増やしたいなとか、いろいろ細かくあるんですけどね。いろいろ調査した中で、いいなと直感的に思ったものを入れています。あと、小説は仕入れないとか、ヘイトとフェイクは入れないとか、棚のメンバーに関してもヘイトかフェイクだと僕が判断したら、どかしますね。

──BOOKSHOP TRAVELLERでしか扱ってないものもあるんですか?

和氣:アーティストの作品や、アロマ書房の「読むアロマ」はうちだけですね。なかなか他で取り扱えてない本も結構あると思います。うちでしかというものだと、今度出版する(2021年5月24日出版)本屋旅行ZINEかな。ただ、うちだけの取り扱いというのはたぶんなくて、他にも絶対何店かでは販売しているんじゃないかと。

──今後計画されていることで今お話できることを訊かせていただけますか。

和氣:今すぐにではないですが文庫形式のZINEを出したいんです。それは、僕のサイトBOOKSHOP LOVERで連載していたもので、背に文字がつけられるぐらいの太さにして、文庫シリーズで出していけたらと思っています。1つ1つの本屋の深いストーリーを文庫にして、その本屋さんで読めたらすごくいいなと思って。あとは、展示をもっとちゃんとやっていきたいですね。

──和氣さんが全国の書店さんを巡って紹介しているのは、本屋さんや出版の未来を作っていく使命感があってこそなのでしょうか?

和氣:別に使命ではないんですけど、そういう役割がいた方がいいなと思って。マイペースにやっている感じです。

和氣正幸(わき・まさゆき)

本屋ライター。下北沢にある本屋のアンテナショップBOOKSHOP TRAVELLERの店主でもある。2010年よりサラリーマンを続ける傍らインデペンデントな本屋をレポートするブログ「本と私の世界」を開設。現在は独立して、「本屋をもっと楽しむポータルサイト BOOKSHOP LOVER」の運営を中心に、〈本屋入門〉などのイベントも開催。本屋の映像を配信する企画「BOOKSHOP MOVIE」をYouTubeで配信中。そのほか東京新聞での月1連載【BOOKS】(2021年2月連載終了)や2020年9月下旬から時事通信社にて全国地方紙に配信の全15回連載「独立書店の本棚」など各種媒体への寄稿、電子図書館メルマガの編集人ほか、本屋と本に関する活動を多岐にわたり行う。2020年10月からはNHK Eテレ『趣味どきっ!(火曜)こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ』に本屋案内人として全8回を通して出演した(2021年5月再放送)。著書に『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(G.B.)、『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)、『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)。共著で『全国 旅してでも行きたい街の本屋さん』『全国 大人になっても行きたいわたしの絵本めぐり』(G.B.)がある。

BOOKSHOP LOVER 公式HP
https://bookshop-lover.com/

BOOKSHOP TRAVELLER 公式HP
https://wakkyhr.wixsite.com/bookshoptraveller

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