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StoryWriter

「プロレスって、そんな深夜にやってるんですか。近所迷惑って感じですよね」

今となれば、滅多に現れないポケモン並みにレアな「敬語で話すモード」の嬢。背が高く、ハーフっぽい顔立ち。そして、巨乳。私の好みのすべてを兼ね備えた嬢との出会い。それは、ふと立ち寄った、とある小さな街のキャバクラでのことだった。

そのファーストコンタクト。とりとめのない雑談の中、深夜2時くらいにプロレスを見る、という私の話になぜか激おこな嬢。何が嬢を苛立たせてしまったのか。私は冷静に発言を振り返り、嬢を諭す。「夜中の2時に外でやってるわけじゃないよ、テレビだよ」。一瞬にして自分の勘違いに気付いた様子で顔を赤らめる嬢。「ちょうウケる!」チンパンジーのように両手を広げ笑い転げ、左手でバンバン私の方を叩く。そのたびに覗く胸の谷間。ただよう香水の匂い。私は、どんどん嬢に惹かれていく自分に気付き始めた。

「そんな夜中に外でやってるわけなくない? ウケる! ちょうウケる!」

いつまでも笑い続けている嬢。そんなに面白いかというと、そうでもない。ただ、そんなことはどうでもいい。この子はめちゃめちゃかわいい。なんておバカでかわいい子なんだ。なんだかフィーリングが合う気がする。よく見れば相当な美人であどけないかわいらしさも兼ね備えている。そして巨乳。

「よし、決めた」

よし、という自分のつぶやきで吉幾三を連想した私にワークマンの吉幾三と同じメロディが降りてくる。この店に通おう。嬢がいる店に。行こうみんなでワークマン。いや、違う。行きたいのはワークマンでもハローワークでもない。行こう、キャバクラに。嬢に会いにまたこよう。そして、これからの人生は嬢に捧げよう。その日から、嬢と私の物語が、始まった。

「アセロラちゃ~ん! ごはんいこ」。嬢から誘いのLINEが届き、狂喜乱舞する私。衝撃の出会いから数ヶ月。その間、私はあれだけ誓ったにも関わらず、嬢がいる店に行くことができていなかった。金が、ない。金がないのだ。

私は派遣社員として、企業へと電話をかけアポを取る仕事をしている。生活するだけで精一杯のお給料。本来、私にはキャバクラに行く資格などない。ただし、義務ならある。嬢に誘われたら行かねばならないという義務。そのためにお昼ご飯を抜くことになろうと私は構わない。

「お忙しいところ失礼します」「グ~」「突然のお電話ですいません、今回お電話を差し上げたのは……」「ググゥ~」

通話相手に聴こえてしまうほどの空腹。それでも、へっちゃら。私は、初めての嬢からのごはんの誘いを受け止めるため、しばらく1日1食で過ごし「J(嬢)資金」を捻出した。

同伴。それはキャバクラ・ウォーカーにとって、避けては通れない関門。「ごはんいこ」がただのごはんで終わるわけがない。当初私は、嬢からのごはんの誘いにこう返答をしていた。

「ごはんの後、お店には行けないよ」

言ってはならない一言。バカ、私のバカ。今思えばなんと未熟なことだろうか。ドラクエならばキメラに一撃で倒される経験値のなさ。そんな未熟な私の返答に対し、既読無視という女性ならではの殺人兵器で私を苦しめる嬢。私はようやく悟り、後日、嬢に自らの首を差し出した。

「ごはんいこう! その後お店いくね」
「いついく?」

食い気味に高速で返ってくる嬢の返事。獲物がかかった瞬間の嬢の瞬発力の速さ。巨大マグロを釣り上げた松方弘樹ばりの豪快な竿さばきに思わず空高く飛び出しそうになる私。いや、嬢にとって私などマグロのような大きな獲物ではない。せいぜい、イワシだろう。今はそれでもいい。食べてもらいたいのだ、嬢に。私というイワシを。そして、いつかきっと、大きなマグロとなって嬢を喜ばせたい。そのための一歩を、私は今踏み出した。同伴に、行こう。

〜第2回へ続く〜

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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