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StoryWriter

「嬢、俺たちもう終わっちゃったのかな?」

「バカヤロー、まだはじまっちゃいねえよ!」

私は夢から覚め、机の上に置いたポムポムプリンカレンダーを見る。週の真ん中・水曜日。「真ん中もっこり、夕焼けにゃんにゃん」という格言があるように、私の心ももっこりしている。

ここ数週間、嬢との連絡を絶ち、ヨガ仙人・片岡鶴太郎ばりのストイックな生活を送ってきた私。嬢に会いたい、でも会えない。ストレスのため、気付かないうちに「マッチで~す!黒柳さ~ん!」と大声を出してしまうほど、気持ちがたかぶっている。

このままでは、事件を起こしてしまいかねない。

街中で包丁を振り回し「相手は、誰でもよかった」とのコメントと共に、幸田シャーミンにニュースで紹介される私。そんな犯罪者にはなりたくない。

そうだ、そんなときは、おでんだ。アツアツのおでんを食べて自分を戒める、日本古来の風習に頼るのだ。

私は早速セブンイレブンでおでんを買い、自らアツアツのおでんを顔に当てて「熱い熱い!」とリアクションをとってみる。近所から募集した笑い屋のおばさんたちに囲まれ、爆笑の渦に包まれる私。

「悲惨だな、悲惨だな、悲惨だな~」

爆発したヘアスタイルで叫ぶ私を、おばさんたちはスタンディングオベーションで称え、涙を流して笑い続けている。カレンダーのポムポムプリンがこっちを見ている。よかった。私はなんとか平静を保てた。

嬢のことを思い、冷静と情熱のあいだで揺れる私のギザギザハート。むなしい。どうしてこうなったのか。私は、嬢と暮らした日々(同伴)に思いを馳せた。

※ ※ ※

2度目のLINEブロックから数ヶ月後、深夜にかかってきた電話。その声の主は、まぎれもなく嬢だった。

「アセちゃん、わたしだよ! わかる?」

照れたような笑い声と共に私に語りかける嬢。

もちろん、わかるに決まっている。

ハスキーな声、漏れる吐息。無邪気な笑い声、そして巨乳。私の情に訴えかけ、再会を望む嬢。誰よりも人情に厚い私は、あっさりと嬢と約束を交わした。

電話から数日後。私は新宿駅南口で嬢を待っていた。

じつに数ヶ月ぶりのデート(同伴)。約束の時間になり、当然のように姿を現さない嬢。LINEがきた。

「ゲロゲロゲロゲ~」

派手にゲロを吐いているウサギのスタンプ。続いて「キモくて一回駅降りたごめん」の文字。二日酔いの嬢。それでも、会いに来てくれる。そんな優しさはすぐに証明された。

「アセちゃんの誕生日にも、お正月にも、LINEしてたんだよ?」

と、LINE履歴を見せる嬢。

そこには確かに、私の誕生日を祝うメッセージや、新年のあいさつが記されていた。既読もつかないのに、律儀にメッセージをくれていたのだ。

それなのに私ときたら。すまない、嬢。

私は心の中で土下座謝罪を行い、嬢の店へと禊に向かった。そして、アセロラと鏡月の合体ボトル「アセロラ鏡月」(5,000円)を入れ、再び忠誠を誓ったのだった。

その日を境に、以前よりも絆を深めつつあった、嬢と私。会えない時間が愛を育てたのかもしれない。

間髪入れずに、約2週間後にデート(同伴)。下北沢にて、予約していた高級居酒屋で乾杯する嬢と私。

季節は、冬。ニットキャップ姿の嬢が愛おしい。嬢を見つめる私。見つめ返す嬢。しばし、見つめ合う2人。高まる鼓動。

「なんだか今夜いけそうな気がする」

私の中の天津木村が高らかに吟じていた、その瞬間。

「じつは、悩みがあるんだよね」

めずらしく、真顔で切り出す嬢。

「アセちゃんに、相談していい?」

私は、頷くと、背筋を伸ばして次の言葉を待った。

「生誕祭、やりたいの」

嬢が、言った。

〜シーズン2 第2回へ続く〜

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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