watch more

【連載】カウンセリング入門Vol.20──フロイトから繋がるカウンセリング理論の5系統

StoryWriter

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。

■書籍情報
タイトル:なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門
著者名:手島将彦
価格:1,500円(税抜)
発売日:2019年9月20日(金)/B5/並製/224頁
ISBN:978-4-909877-02-4
出版元:SW

自らアーティストとして活動し、マネージャーとしての経験を持ち、音楽学校教師でもある手島が、ミュージシャンたちのエピソードをもとに、カウンセリングやメンタルヘルスに関しての基本を語り、どうしたらアーティストや周りのスタッフが活動しやすい環境を作ることができるかを示す。また、本書に登場するアーティストのプレイリストが聴けるQRコード付きとなっており、楽曲を聴きながら書籍を読み進められるような仕組みとなっている。


Vol.20 カウンセリング理論の5系統

Mr. Childrenに「es」という曲があります。

この「es(エス)」という言葉はフロイトの理論に出てくる言葉からとられたものだと思われます。(※1)

ちなみにこの言葉についてメンバーが語っている動画もあります。

Mr.Childre 「talk es とは」
https://www.youtube.com/watch?v=L-6nQNmxnfI&app=desktop

また、米津玄師がハチ名義のボカロPだったころの曲「マトリョシカ」にもフロイトという言葉が現れます。

 

一般的には、メンタルに関する話で想起される人物と言えば、知名度的にフロイトは真っ先にあがる人かもしれません。

それだけに、メンタルヘルスやカウンセリングに対するイメージも、ある意味誤解されてしまう原因にもなっているかもしれません。

ここではまず、カウンセリングの大まかな系統を説明したいと思います。

■精神分析的療法

フロイト(1856〜1939)は、無意識の意識化・理論化を試みました。

その「夢分析」や「自由連想法」といった技法や、無意識や転移現象などの分析は、20世紀前半の心理学や精神医学、さらには文化芸術にも大きな影響を与えます。

そうした彼の影響下にあったり、発展させた療法は「精神分析的療法」と呼ばれます。

フロイト以後、さまざまなカウンセリング理論が誕生しますが、その多くは、この理論を発展させるか、逆に批判的な立場で構築されるかによって成立している面もあります。

カウンセリングを含めたメンタルに関する療法に対して「精神分析的」なイメージを持たれる方が多いのは、このフロイトの知名度の高さによるところが大きいと思うのですが、現代のカウンセリングは必ずしもそういうスタンスではなく、むしろその逆である(分析・診断的ではない)ことも多いのです。

この精神分析的療法には、フロイトの共同研究者・弟子であったユングやアドラー(この2人は後にフロイトと袂を分かちます)の心理療法などがあります。

また、同じような考え方から独自に発展させた、パールズによるゲシュタルト療法や、バーンズによる交流分析などがあります。

■特性因子理論

20世紀初頭には、この連載のVol.18でも少しだけ取り上げた、アメリカでのパーソンズによる「職業指導運動」などが起ります。

ここでは、人の心理特性を客観的に調べる知能検査、人格検査、作業能力テストなどが発展します。そうしたものを利用して、ミネソタ大学のウィリアムソンは、大学での進路指導を行ないます。

そしてそれは進路指導だけでなく、学生の人格の発達、支援にも有用だとして、カウンセリングでの心理テストを実施するようになりました。

その結果をもって「診断」してアプローチする、医学的な手法とも言えます。

こうした、人をできるだけ客観的に見て、心理特性から理解しようとする立場を「特性因子理論」と言います。

■非指示的療法・来談者中心療法

1940年代になると、Vol.2でとりあげたカール・ロジャーズが現れ、先述のウィリアムソンらの療法を「指示的療法」と批判し、「非指示的」「来談者中心」療法が提唱されます(内容に関してはVol.2を参照)。

ちなみに筆者は基本的にこのスタンスでのカウンセリングを行なっています。

■認知行動療法

1950年代から行動療法、認知療法、論理療法などの理論が発展し、統合されて生まれた療法で、ごく簡単に説明すると、人のものの考え方や受け取り方(認知)に働きかけて、
気持ちを楽にしたり、行動をコントロールしたりする治療方法です。

筆者もこのアプローチをとることがあります。

以下「国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター」の説明から引用します。

私たちは、自分が置かれている状況を絶えず主観的に判断し続けています。これは、通常は適応的に行われているのですが、強いストレスを受けている時やうつ状態に陥っている時など、特別な状況下ではそうした認知に歪みが生じてきます。その結果、抑うつ感や不安感が強まり、非適応的な行動が強まり、さらに認知の歪みが引き起こされるようになります。 悲観的になりすぎず、かといって楽観的にもなりすぎず、地に足のついた現実的でしなやかな考え方をして、いま現在の問題に対処していけるように手助けします。認知療法・認知行動療法は、欧米ではうつ病や不安障害(パニック障害、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害など)、不眠症、摂食障害、統合失調症などの多くの精神疾患に効果があることが実証されて広く使われるようになってきました。(認知行動療法とは「国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター」

■人間学的アプローチ

19世紀のキルケゴールやニーチェ、20世紀のハイデッガーやサルトル等の実存主義哲学に影響されたアプローチです。

その中でもフランクル(1905〜1997)の実存分析(ロゴセラピー)は有名です。

この療法は、人間が自らの「生の意味」を見出すことを支援する心理療法です。

ユダヤ人であった彼は第二次世界大戦中、アウシュビッツや他の強制収容所に収監され、言語を絶するような過酷な日々を強いられるのですが、そこでの体験を踏まえた療法でもあります。

その体験を心理学者として記した『夜と霧』は、世界的に読まれている名著で、このコラムをご覧になっている方にも、ぜひ一度読んでいただきたいと思います。

ここであげた5つの系統以外に、家族療法、現実療法、森田療法、短期療法、ナラティブセラピー、など非常に多くの療法が存在します。

最初に書きましたが、一般的に抱かれがちな「精神分析的」なアプローチは、これらの療法の中のひとつでしかありません。カウンセリングを受けるという時には、どのようなアプローチなのか調べておくのも良いでしょう。

一般社団法人日本臨床心理士会のホームページの「臨床心理士の面接療法」というところに、様々な方法の簡単な説明が掲載されていますので、そちらを参考にしてみても良いかもしれません。

一般社団法人日本臨床心理士会『臨床心理士に出会うには』
http://www.jsccp.jp/near/interviewtop.php

(※1) フロイトの「心的装置論」では、心の構造は「エス」「自我」「超自我」の3つの機能に分けられます。「エス」は生物的・本能的なもので、無意識的です。「自我」はエスから生み出されるエネルギーをコントロールして外界で行動する主体です。「超自我」は道徳的・良心的側面です。これら3つはお互いに葛藤的で、自我はそれを統合する役割を持っています。このように葛藤的な構造では、常に不安が生じます。自我はその不安に耐えるために、「防衛機制」を働かせ、現実をありのままに見ずに、自分に都合の良いように歪曲して見ることがあります。こうすればするほど、現実とのズレは大きくなり、葛藤と不安も大きくなります。


Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事
Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!
Vol.4 うつ病と双極性障害
Vol.5 とにかく「休む」! 不安や絶望はクリエイティヴに必須ではない
Vol.6 「人はどこまで環境に左右されず意思決定できる?」
Vol.7「現在」と「事実」を重視、視点を変えてみる
Vol.8「I Love Myself」自己肯定感を持て!
Vol.9 睡眠は大切!不眠の悪循環から抜け出す方法
Vol.10 LGBTについて LGBTと音楽
Vol.11 発達障害(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
Vol.12 発達障害(2)ADHD(注意欠陥・多動性障害)
Vol.13 発達障害(3)LD(学習障害)
Vol.14 発達障害(4)「個性と障害」
Vol.15 防弾少年団(BTS)の国連でのスピーチ
Vol.16 アイデンティティとは?
Vol.17 2つの革命と音楽の関係
Vol.18 アメリカの発展とジャズ&ブルースとカウンセリング
Vol.19 これからの音楽業界が考えなければならないこと

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

PICK UP