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【連載】「嬢と私」~キャバクラ放浪記編~ 第5回 港区新橋「S」の嬢(後編)

StoryWriter

~前回までのおはなし~

新橋のキャバクラ「S」でフリー入店したものの、あまり嬢がお気に召さないアセロラ4000。ドリンクをせがむ嬢に対し、NGを出すと気まずい雰囲気に。ついには嬢が席に戻ってこない事態に。


2番目に私の席についたのは、元美容師の25歳、ひとみ嬢だった。

彼女は、イケてる美容室のメッカ、表参道の美容室にいたという。その前は、西葛西の美容室にいたそうだが、あまりの薄給に耐えかね、ガールズバーのアルバイトを始めたのだという。そして、どちらも退職後、再起を図るべく都内へと進出し、昼は表参道の美容師、夜は週4で新橋の嬢となったそうである。

キャバクラは、まさに人間交差点。それは、歌舞伎町であろうと、経堂であろうと、同じこと。政府が推進する、一億総キャバクラ計画も軌道に乗りつつあるという(※アセロラ4000調べ)。そう、人には人のキャバクラ人生がある。きっと、たいした違いはないのだ。

情熱大陸気分で、西葛西時代の生活を語る、嬢。

「もう、毎日睡眠時間6時間とかでしたからね〜」

いや、結構寝てるし。というツッコミ待ちなのか。だとしたら、私は絶対に、ツッコまない。

なぜならば、ガキ使を放送第2回目(山ちゃん初登場回)から観ている私。ごっつええ感じがヤクルトの優勝試合のため休止になったときには、まっちゃん以上に激怒した私。花王名人劇場で繰り広げられた、サングラス姿のシュールなコントにお茶の間が固まっていたときも観ていた。そんなダウンタウン世代の私に対しての、無謀なボケ振り。通用するわけが、ない。私は、ひたすら真顔で嬢を見た。

「あたし、10時間は寝たい派なんで」

私がツッコまないとみるや、ボケたつもりがないことをアピールすべく、会話の舵を切る嬢。そうだ、おまえが舵をとれ。ヨーソロー。

私は、自分は10時間寝たい派ではなく、自民党二階派であることを告げる。もちろん、アカデミック且つ高度なギャグであることは、明白。

「えっ政治家の先生だったんですか!? 失礼しました」

あたりを見回し、小声で話し出す嬢。急激に体の密着度が増し、膝に手を置き、潤んだ瞳で見つめ出した。本気で私を政治家だと思っているのだろうか。もしかしたら、愛人になりたいのかもしれない。

チャンス、到来。だとしたら、嬢の夢を裏切るわけには、いかない。私は、精一杯の政治顔をこしらえて、言った。

コンド、カンジチョウニ、リッコウホ、シマス。

あまりに慣れない嘘をついたばかりに、AIっぽい口調になる私。まあいい。嬢に見破られるとは思えない。

「あははははー! ウケる! そんなわけないですよね」

いとも簡単に、嘘を見破る、嬢。なぜだ。なぜなぜな~ぜなのだ。

「だって普通、スーツですよね」

カジャグーグーのツアーTシャツに、ストーンウォッシュのジーンズ、マジックテープの白いスニーカーに、ダイクマで買った謎メーカーのベースボールキャップ(後頭部が網になってるタイプ)姿の、私。

人を服装で判断するとは、なんて失礼な、やつ。しかし、よく考えてみたら、政治家になりきることなど、できるはずがない。私は嬢に、助けられたのかもしれない。ありがとう、嬢。私は改めて、ひとみ嬢を見た。

耳にかかった黒い長髪、グロスで光る唇。色っぽい眼差し、そして巨乳。

今まで気がつかなかった。よく見たら、パーフェクト・ボディ。推定カップ、F。本腰を入れて嬢に向き合う必要を感じる、私。その瞬間、ボーイからの宣告が耳に入った。

「お時間ですが、延長はいかがでしょう?」

延長、したい。そして場内指名、したい。しかし。正味の話、金が、ない。ああ、無情。運命に翻弄される、キャバクラ界のジャン・バルジャンこと、私、アセロラ4000。せっかく良い嬢(=F カップ)と出会えたのに。

「また来てくださいねー!LINE、交換しませんか?」

もちろん、する。

私はすかさず嬢のスマホを覗き込む。すると、待ち受けを新日本プロレスのオカダカズチカにしているではないか。

「え〜、アセロラさんも、プロレスファンなんですか!? もっと早く言ってくださいよ! もっと話したかったなあ〜」

話が合うはずの嬢との、すれ違い。男と女のラブゲーム。

私は、少し後ろ髪を引かれながら、新橋の街を、あとにした。

新橋編・終。

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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