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甲田まひるが語る、アングラとK-POPとヒップホップが融合した超ド級のデビュー作

StoryWriter

とんでもない才能とセンスと努力によって生まれた楽曲「California」が、2021年にリリースされた。ポップス、ヒップホップ、K-POPと、1曲の中で目まぐるしく展開していくのに、一貫してキャッチーで、エモーショナルで、クールという衝撃的なバランスで保たれている。

そんな衝撃的な楽曲を作り上げたアーティストの名前は、甲田まひる。8歳でジャズピアノを弾き始め、2018年には石若駿と新井和輝(King Gnu)を迎えたトリオ編成でジャズ・アルバム『PLANKTON』をリリース。ファッションアイコンとして雑誌連載やモデル活動も行い、映画『サマーフィルムにのって』にも俳優として出演するなど多彩な活躍を見せている。

そんな彼女がシンガー・ソングライターとしてリリースしたのがEP『California』だ。作詞作曲を甲田が手掛け、共同アレンジにGiorgio Blaise Givvn、レコーディングに新井和輝と勢喜遊(King Gnu)、山田健人を迎えて制作された「California」について甲田にインタビューを行った。まだまだ底知れない才能の一端に触れる取材となった。甲田まひる、すでに底知れない。

取材&文:西澤裕郎
写真:雨宮透貴


9歳の時点でジャズ・ピアニストになりたかった

──映画『サマーフィルムにのって』の花鈴役を演じていたのが甲田さんだと知って、めちゃめちゃ驚きました。時代劇オタクの主人公とは真逆の、ネアカで悩みのなさそうな女子高生役じゃないですか? 本作の音楽性やジャズピアニストというギャップに衝撃を受けました。

甲田:監督やみんなからは、役の感じが「そのままじゃない?」みたいに言われていて。口調とかも近いというか。そのままのキャラクターでやったらいいって言われていたんですけど、そこに苦労しましたね。花鈴って、明るくて友だちが多くて、みんなのためにいろいろやってあげる。しかも、それが楽しいと思える子で。傍から見ると、いい思いをして楽しくやっている子なんですけど、彼女のことを分かる部分もあれば、分からない部分もあって。

 

 

──普段の甲田さんは、周りから見ると花鈴のように見えている?

甲田:近い部分もあると思うんですけど、それを演じるのが難しくて大変でした。私とゆうたろうくんの2人が出てくると笑いが起きるみたいな演出にしたかったみたいで、コミカルにいてほしいみたいな役割でもあったんです。ただ明るくやればいいってものじゃなくて。

──逆に『台風家族』での鈴木ユズキみたいな、クールな役柄の方が演じやすい?

甲田:無口な感じですよね? いっぱい演技をやっているわけじゃないからなんとも言えないんですけど、たしかに意外とクールだし、表面にそんなに出さないみたいな方がやることが明確というか、分かりやすいなとは思うんです。

 

──『台風家族』の最後、海でアップになる甲田さんの表情がいいですよね。

甲田:あれは一発撮りだったんですけど、朝日が昇るタイミングを狙っていたんですよ。ただ、昇らないけどやっちゃおうってことで撮ったら撮り終えた瞬間に朝日が昇って、もう1回撮ったんです。

──あの長回しのシーンは、テイク2だったんですね。

甲田:言葉に表せない緊張感がありました。カメラには私しか映らないけど、「最低」って言うカメラの向こう側には30人くらいいて。演技って本当にすごいなって感じましたね。

──演技も本格的にやりながら、音楽活動もファッション分野でも活躍されています。アウトプットの仕方が違うだけで根底にある表現の部分は変わらないイメージなんでしょうか。

甲田:その通りですね。

──その中心にあるのは音楽ということなんでしょうか。

甲田:最初に仕事としてやらせていただいたのはファッションなんですけど、9歳の時点でジャズ・ピアニストになりたかったんです。1番根底にあるのが音楽で、それと同じくらい好きなのがファッション。どっちも自分を表すツールと思ってやってきました。それを中心にしながら、演技などいろいろなものがその時々で入ってきた感じです。

──他のインタビューを拝見すると、お母さんの影響が大きかったようですね。

甲田:なんでも挑戦させてくれたのは母のおかげです。何も否定する環境じゃなかったのが1番大きかったと思います。ファッションに関しては、お母さんが自分の着たいものを着るのがすごく好きで、安くいいものを見つけるのが好きな人だったので、私もいかに安くかっこいい服を見つけるか完全に影響されて古着が好きになりました。

──お母さんはかなり多趣味でセンスがある方という印象を受けるんですけど、どんな音楽を聴かれていたんでしょう。

甲田:幅広く聴く人なんですけど、トランスがすごく好きなんですよね。レゲエとかも好きだし、ビートルズとかもめちゃめちゃ好き。20代でゴアを現地で体験して、そこで知り合った人たちと遊ぶみたいな感じだったみたいです。憧れますね。自分にできないことをやっていて。私がたぶんこの先も後もしないであろう経験を20代のうちにしていて、すごくうらやましい。

──甲田さん、20代はまだまだこれからじゃないですか(笑)。

甲田:まあそうですけど、インドアなので(笑)。

「California」はギターが主役だと思っています

──「California」のMV、めちゃくちゃよかったです。監督の山田(健人)さんにも深夜に最高って連絡しちゃいました。甲田さんが、こういう作品にしたいと話したんですか?

 

甲田:いや、ダッチ(山田健人の愛称)には言ってないです。むしろギリギリまで絵コンテとかも出てこなくて、スタッフもどうなるか分からない状態で。最初にダッチが「俺が出た方が絶対おもしろい」って言っていてMVにも登場することは決まっていました。もともと別の場所を想定して組んでいたみたいなんですけど突然ひらめいたみたいで、最後の打ち合わせでトラックを基準にするってことを話して。衣装は私も一緒に決めていったんですけど、MVに関してはダッチにお任せしました。それで、髪を黒にしなよって言われたんです(笑)。

──撮影のために?

甲田:2日前くらいに「黒の方がいいよ」って言われました(笑)。それまで、かなり金髪に近かったので。かなり印象が違くないですか?

──印象が全然違いますね。ちなみにMVで気になったのが、デモに入ってるセリフがサビ前で取り入れられているじゃないですか。

甲田:そうなんですよ! 初めて言われました、それ。

──どうしてMVでそのような試みをしたんでしょう?

甲田:もともとデモがあって「California」を作っていったんですけど、「デモの感じもよかったよね」ってことで、もう1回デモを作ったんです。マイクに背を向けて超でかい声で叫んだりして(笑)。そのデモをダッチに聴かせたら、デモもいいじゃんみたいになって、ここだけ使おうってことでmp3音源のそこだけ切ってハメていったんです。

──あれはなんて言っているんですか?

甲田:「Can you play The one I Gave My Heart To」って言っています。アリーヤの「The One I Gave My Heart To」って曲をかけてくれない? って。

──MVで「了解」って文字が出てくるので、そういうことだったんですね。

甲田:ダッチは適当に「了解」ってはめこんだらしいんですけど、意味が完全に一致していて(笑)。あの謎な感じも「California」の曲に合っていていいですよね。

──山田さんがギターを弾いているのもびっくりしました。

甲田:「California」はギターが主役だと思っています。デモで尖ったギターを自分で入れていったんですけど、誰かに弾いてほしいねって話もしていて。MV監督がダッチに決まって、ギター弾けるからいいんじゃない?ってことでお願いをして。曲を聴いているし、MVを撮るってことで、世界観も分かってくれているじゃないですか。誰にでも弾ける感じじゃないと思って。ミックスでめっちゃギターを前に出しました。

──山田さんがああいう感情的なギターを弾くのがエモいというか。

甲田:ストーリー性があると楽しいですよね。

──デモはかなりドープな仕上がりになっていますよね。

甲田:ベースミュージックで、クラブ寄りな音にしましたね。

──さっきマイクに背を向けて歌ったと言っていましたが、歌録りはどんなスタジオで行ったんでしょう。

甲田:基本的にいつもプロデューサーと入っているスタジオがあって、そこでデモの制作とか歌入れもしつつ、「California」と「Love My Distance」の本番RECは別のスタジオで録っています。叫ぶのは部屋で録っているんですけど、そういうところでしか浮かばないアイデアというか。やっちゃおうみたいな感じで録りました。

──声を加工したりコーラスが入ったり、トラック以外の歌の部分もかなり実験的ですよね。

甲田:ヴォーカルだけでも50本近くファイルがあるんです。とんでもない量のコーラスを録って。昔からコーラスを書く仕事をしていたのか?ってぐらいハマっちゃった(笑)。楽しんで作りました。

──甲田さんは、音楽理論を学んできたから自分の作りたい音楽を作ることができると別のインタビューでおっしゃっていましたが、コーラスも理論から考えたんですか。

甲田:コーラスはそこまで深く考えず作ったんですけど、アリアナ・グランデみたいにとかヤング・サグみたいに入れたいとか、本当にちょっとしたイメージがあって。ゴスペルのフェイクを真似してみるとか。ポップスなのに裏でブラックな人たちがやってるコーラスが入っている感じがいいなと思って再現してみたり。本当にその都度都度やっていましたね。

ポップスが作りたいんですけど、ちょっとアングラなサウンドがないと落ち着かない

──甲田さんの音楽ルーツは海外作品がメインですが、年代、国など越境している感じがしますよね。

甲田:ビバップをやっていたり、古着も好きだったので、昔からあるものを好きな傾向にあるんですけど、新しいものも好きです。最近はますますどの国も関係ないなって思いますね。韓国の作品がアメリカで通用するようになっているのも革新的で最高なことですよね。

──そういう意味で言うと、甲田さんのMVではK-POPの雰囲気を感じるダンスシーンもあります。ダンスも昔からやってきたんですか?

甲田:好きではあったんですけど、1回もやったことはなくて。今回の歌のプロジェクトは3年前くらいからやりたかったことなんですけど、その時からダンスはマストだと思っていて。海外の大きなフェスでパフォーマンスしたいと頭に浮かんでいたんです。舞台として見せたいと思っていたので、歌もダンスも新しいことを始める気持ちでやりました。これからやりたいことを提示できると思って頑張って踊りました。

──これまでの興味をすべてこの楽曲に落とし込んでいったんですね。

甲田:何が本当か分からないような歌詞と、いきなり違うジャンルが入ってくるようなところが、コンセプトとしてハマっているなと思って。作詞に関してはリズムに合わせることをめちゃめちゃ意識しました。コンセプトとしても自分が分からなくなっている状態の女の子の頭の中を書いていて。多重人格感を出そうと思ったんです(笑)。

──甲田さんの音楽への感性ってすごく鋭いですよね。そしてちゃんと自分の好きなものをわかっているというか。

甲田:それがなかったらきつかっただろうなと思います。好きな音楽に本当に助けてもらっていると思うので。1回好きになったものは関連して調べていくので、詳しくなるのも楽しいというか、掘るのがすごく好きなんですよね。

──甲田さんが、音楽を聴くきっかけになったアーティストや作品はどんなものですか?

甲田:バド・パウエルとセロニアス・モンクに出会ってジャズを始めて、そこからア・トライブ・コールド・クエストにハマって、ローリン・ヒルなどを聴いて歌をやりたいなと思ったんです。自分はどんなアーティストになるのがいいかなと考えた時に、もっと幅広くK-POPとかアリアナとかいろいろ聴いての今に至っているので、大きく分けると全部ですね。

 

──ジャズ、ヒップホップ、ポップスが軸となって、自分が表現するにあたって他の養素も聴くようになっていったと。「California」のデモから構成がすごく変わっているのも、そういう影響があるんでしょうか?

甲田:自分でアレンジしてどんどん変えていっちゃう癖があって。どこまで行っても納得いかないんですよね。これじゃ飽きられるなとか、キャッチーじゃないなと考えていって。ポップスが作りたいんですけど、ちょっとアングラなサウンドがないと落ち着かないところもる。それが逆にプラスになって、いい曲になったら1番楽しいんじゃないかと。この曲もそうなんですけど本当に挑戦ですね。やりたいこととやりたいことを合わせてよくさせるために、今まで理論的にやってきたことが活かされたりしたので。デモからガラッと変えました。

──構成を変えたのは甲田さんご自身だったんですね。

甲田:完成してから、友だちとかプロデューサーにも相談はしつつ、構成は悩みました。元々作った時は、サビがあって、A、B、ドロップ、ラップ、また2Aに戻ってと全部決めていたんですけど、どんどんセクションが増えていったから「聴きにくいかも」と1回振り返って。ラップごとなくすとか、ドロップを削るとか⼤⼯事を紙に書いていろいろやったんです。ただ、歌詞がそれで成⽴しちゃっているから、ブリッジだけ抜いちゃうとまた違うしとなって。その時、同じBが出てこなきゃダメなんて誰も⾔ってないなと。展開が多くても別にルールはないなと思っていたので、そのままで行こうとなりましたね。

──「California」のピアノバージョンも最初から入れようと考えていたんですか?

甲田:今後自分のやりたいことをやっていくにあたって、今までやってきたことを引き継いでいくことが、やりたいことへの近道なのかなと思って。普通にピアノを聴きたいって周りからの声もあったんです。最初は戸惑っていたんですけど、アレンジをしてみて勉強にもなったし、結果おもしろい感じになりました。

──自分で作った曲をピアノアレンジして弾いているんですね。

甲田:自分はピアノのプレイヤーだから妥協できないというか。ちゃんとやらないと恥ずかしいなと思ったし、1番お腹が痛くなりました。

──カップリングの「Love My Distance」はどのようにして選んだ楽曲なんでしょう。

甲田:他にもデモはあったんですけど、「California」がある程度できた時からカップリングはもうちょっと規則性があってサブ的なノリがほしいなと考えていて。「California」は熱量が高めなタイプなので、洋楽のある種の軽さみたいなものが欲しかったんです。ずっと同じループで、今っぽい感じ。ちょっとしたオートチューンを使うとかはラップとの相性を考えて、最近の気分で取り入れました。

──バランスだったり作品のトータル的な部分も見据えて作られたんですね。

甲田:2曲目も「California」の感じだと、ちょっと胸焼けするかなと(笑)。自分が聴く時の感じを想像して作っていきましたね。

吐きそうになりながらでも、思っていた形を全部やってこれた

──ポップスに挑戦するにあたって、オカモトレイジさんの繋がりも大きいんですよね。

甲田:もともと事務所の先輩で、中1の頃から知っているんですけど、私がピアノをやっているのを知ってくれてから近くなって。アルバム『PLANKTON』を出した後に、私は今回のようなことをやりたいと思っていたんですけど、ジャンルも違うし、弾き語りとかで作れるようなジャンルでもないから、どうしたらいいかわからなくて。レイジくんはDJもやっていて、そういうサウンドが好きな人だったから相談していたんです。それで、たぶん相性いいと思うよみたいな感じで今のプロデューサーも紹介してくれて。レイジくんがいなかったら、そもそもここにいないかもしれない。すごく力になってくれました。K-POPが好きだから、その話もできて斬新なアイデアをくれたりもしましたし。

──そうして完成した「California」ですが、この先やりたいことのビジョンはありますか?

甲田:とりあえず今始まったなという感覚なので、行けるところまで頑張っていろいろ作っていきたいです。特に細かく次はこれがやりたいとかは本当になくて。ピアノを始めた時みたいな感じです。

──新しくできることが増えていくのが楽しいというか。

甲田:そうですね。初めて泳ぐ人みたいな(笑)。

──ちなみに、ライヴの予定はあるんですか?

甲田:まだ具体的ではないんですけど、近々できたらなと思って今準備中ですね。今まで何かやりたいと思った時は、やる!って気持ちで全部やってきていて。本当に吐きそうになりながらでも、思っていた形を全部やってこれた経験があって。とりあえず自分との約束をして、それができたらできただけ自信にもなるし、できなくても自分が弱かったってなるだけなので、人のせいにもできないから常にやるぞ! っていう気持ちでいます。

──そこまで自分を追い込んで苦しくならないですか?

甲田:うーん…… そうですね。考えないようにしています。『サマーフィルムにのって』も先を考えすぎず飛び込んだので(笑)。これからも先をひたすら見る感じでやっていきたいなと思っています。


■リリース情報

甲田まひる
1st Digital EP『California』
収録曲:
1. California
2. Love My Distance
3. California.pf
4. California_demo@201113
全作詞作曲:甲田まひる(※M-3はピアノ演奏)
編曲:甲田まひる/Giorgio Blaise Givvn※M-3除く)

ワーナーミュージック・ジャパン
配信日:2021年11月5日

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