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コロナ禍で野外フェス開催を選んだ男のしぶとさ、スポンサーがいると中止にせざるを得ない

StoryWriter

長野県松本市のアルプス公園で2009年から毎年開催されている野外ミュージック・フェスティバル〈りんご音楽祭〉。今年12年目を迎える同フェスの主催者である、dj sleeperこと古川陽介に3ヶ月にわたり密着した記事を連載していく「CHOOSE YOUR DISTANCE」。

新型コロナウィルス感染拡大により様々な音楽フェスが中止・延期になる中、〈りんご音楽祭2020〉が2020年9月26日(土)、27日(日)に開催される。今年は身近な仲間とともに作り上げる長野県松本市の“祭”という根源的な観点に立ち返り、チケットは長野県内のチケット取り扱い店舗のみ、通常キャパシティーの5分の1にあたる1日1000人限定で販売、りんごステージ、そばステージ、そして新設となる山の神ステージの計3ステージで行われる。

連載第2回目となる今回は、東京にパーティー開催などできていた古川氏に2020年6月25日に行ったインタビュー記事を掲載する。コロナ禍の真っ只中で〈りんご音楽祭〉開催の道のりを探していた古川氏のアティチュード、決定に至るまでの裏側をお伝えする。

取材&文:西澤裕郎


大事なのは音を鳴らすってこと

──コロナ禍で世の中がざわざわしていた2020年3月6日、〈りんご音楽祭〉のライヴオーディション「RINGOOO A GO-GO 2019」グランプリを決定する「ゴーゴーアワード」を東京で開催しました。いま思い返してみると、よく開催する判断をされましたよね。

古川陽介(以下、古川) : あの1日は重要な日でしたよね。未だにあの日のことを誇りに感じています。あの状況の中、多くの音楽関係者が来て、盛り上がったっていうことに未来を感じました。

──僕も審査員の1人として伺わせていただきましたが、なかなか行きづらい状況であることも、グランプリのpaioniaの叙情的なサウンドをより染みさせてくれたなと思います。あれからもう3ヶ月近く経つんですね。

古川 : もう5年くらい経った感じですよね。

──東京都内では6月19日から休業要請などが全面的に解除され、接待を伴う飲食店やライヴハウスの営業が再開できるようになったばかりです。古川さんがオーナーを務める松本市の瓦RECORDはパーティを始めているんですか?

古川 : 先週金曜日に3ヶ月振りにやったんですけど最高でしたよ。お客さんが来ないかと不安だったんだけど35人来て。キャパは70人ぐらいなんですけど、同時に入れる人数は30人までにしました。20万円ぐらいする換気扇も新しく装着しました。あと、電気のノイズを取り除く機械を入れたし、機材も新調して、コロナ休業中にかなり音が良くなりましたね(笑)。

──昨日電話で話していて盛り上がったのが、山本精一さんが3月5日に大阪・難波ベアーズで行った無観客ライヴで。

古川 : かっこよかったですね。

──お客さんを入れず、配信もせずに、たった一人で演奏をした。ライヴハウスは音を鳴らす場所だってことを提示したということが素晴らしいと。

古川 : 大事なのは音を鳴らすってことだ、と示したと思うんです。1番大事なものだけをやって、他は二の次だっていう明確な表明というか。もちろん表現としてあれを一生やっていたら金銭的に成り立たないと思うけど、あれは1回しかやっていないわけで、ああいう表現なんですよ。この方法が正解だなんて言っていないし、あれを一発やるってことが表現だったと思う。箱をやっている人があれをやったのはかっこよかったですよね。

どのフェスも開催した瞬間に100点だと思う

りんご音楽祭2019の様子

──現状、様々なフェスが中止になっていますが、2020年6月9日に〈りんご音楽祭2020〉の開催を発表しました。どのような開催イメージをされているんでしょう。

古川 : 極力例年通りの形態でやりたいとは思ってますが、内容はまだ判断していないです。今すぐに判断しないといけない状況だったら、うちも他のフェスみたいに中止していると思います。正直、パーティーにとって、フェイスシールドって邪魔だし、マスクをつけている方が熱中症が心配。なるべくそのままやるのがみんなの健康にとっていいと思っているんですけど、今とても判断できる状況ではないからギリギリまで状況を見たいんです。お盆前ぐらいまでかな。

──以前、松本を案内してもらったとき、〈りんご音楽祭〉のステージを設営している方と街で出会って一緒に飲んだりしていたじゃないですか。そういう日常の関係性があるから、ギリギリまで判断を待てるというか。

古川 : それもあるけど、最終的な決定権が俺1人にあるところが重要なポイントだと思いました。即決できる責任者が1人であることの強みを感じました。普通は全会一致じゃないと開催が決まらないじゃないですか。特にスポンサーとかがいると、こんな状況だと全会一致にならないだろうから、中止にせざるを得ない。それはフェスに限ったことではなくて、いろんな仕事にも当てはまっていると思う。大所帯な企業は動きづらいし、小規模な団体は自分達で考えて、責任取って、フットワーク軽く行動できる。だから、こうゆう状況でも何かしら結果を出せるんだと思います。

──StoryWriterも良くも悪くも広告ベースでの記事制作はほとんどないので、取り上げたいものを即座に取り上げることができた。

古川 : 今、インディペンデントの強さが出ていると思いますよ。経済的弱さも出てしまっているけど、俺らはそれを知っていてこっちの道を選んでるわけで。もともとリスキーな生き方をしているから、どれだけリスキーになっても俺らはたぶん生き残ると思います。しぶとさが違いますから。

──ブッキングはこれから行うそうですね。

古川 : ブッキングはもう少し粘ってからやろうと思っています。というのは、今週末に〈瓦祭〉があるんですね。これを経験してからの方がより想像力が湧くし、絶対にいいブッキングになるじゃんって。あと、開催する形態がある程度決まってからオファーの連絡をしたいなって思いもあるんです。二転三転するのも双方にストレスでしょうし、本位でなくてもブッキング後に「そんなはずじゃなかった」なんて思わせたくないですから。今までだったらミュージシャンの返事に1ヶ月かかることもあったけど、今年はイベントも全然ないからスケジュールも埋まってないだろうし、そもそも年内にライブするかしないか判断していると思うので、すぐに決断できる状況になってると思うんです。迷っているんだったら、今年は辞めといた方がいいですよって思います。不安な気持ちでやっても、良くないだろうし。だったら9月末の情勢がわかってきてからでも遅くないかなって思ってます。

──そういう意味では、お客さんも絶対に行く! っていう気持ちで来るだろうから、いつもとは違う盛り上がりやグルーヴが生まれそうですね。

古川 : 正直、今年は誰が出るとか関係なくて、どこのフェスも開催した瞬間に100点だと思うんです。こうした状況でリスクも高い中での開催だから。そして、こんな中でも出演するって決めたアーティストは絶対にいい表現をする。有名、無名は関係ないです。歴史に残るライヴをすることは間違いないと思います。シンプルに、この時代に今ライヴをするってことを選んだミュージシャンのライヴが見れるって瞬間なだけだと思います。迷うゆとりもない状況だから、逆に超シンプル、今年は。やるかやらないか。すごいシンプル。


■イベント詳細

〈りんご音楽祭2020〉
2020年9月26日(土)・27日(日)@長野県松本市アルプス公園

・オフィシャルサイト:https://ringofes.info

・古川陽介 Twitter : https://twitter.com/dj_sleeper

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