【連載】なにが好きかわからない Vol.10「容疑者Xの献身」

皆さんこんにちは。

毎度冒頭から、そこら辺にいる大学生の就活状況なんて聞いて何が面白いんだとは思いますが、性懲りもなく身を削るつもりで晒させていただきます。

出版業界を志望している僕ですが、1社辺りのES(手書き)や筆記試験の負担が大きく、数多く出すということもできず、だいぶ不安が募ってまいりました… 選考が始まるのが遅く、とりあえず苦し紛れに出している数社はとりあえず筆記試験を終えて結果待ちという状況です。これらを乗り越えたところでようやく面接で自分の話を聞いてもらえるわけです。「やりたいことをやる」為に血反吐を吐く… 僕みたいに逃げ腰で自分の殻に閉じこもりっぱなしの人間には積極的に御社にすり寄るというスタンスがだいぶ苦手です。高校時代、数学の先生が赤本の問題の解説をする時、模範解答よりもあきらかに簡単なアプローチで解いてくれたことがありまして、「どんな問題にも必ずいくつかのアプローチの仕方があるんだから、その中で自分が最も得意で楽できる武器を選びなさい」という旨のお話がありました。それを信条に生きてきたのですが果たして就活は… 僕にはどんな武器があるのかな。

さて、今回お話したいのは「容疑者Xの献身」です。

僕はこの“ガリレオシリーズ”のドラマをリアルタイムではちゃんと観たことがなく、たまたまテレビでこの映画が放送されていたのをキッカケに何度も観ることになったわけです。ドラマのガリレオシリーズってもっと柔らかな雰囲気でしたが、映画は終始シリアスな物々しい雰囲気で本格サスペンスという感じです。ドラマでは湯川学(福山雅治)や内海薫(柴咲コウ)らが主役ですが、映画では花岡靖子(松雪泰子)と石神哲哉(堤真一)がメインとなり、湯川らはその2人と事件の顛末を見届けるような立ち位置など、初見の人でも見やすい設定ではないかなと思います。

作品自体の解説は是非観て頂ければと思うのですが、僕がこの作品を好きな1番の理由は堤真一さんが演じる石神という人間が大好きだからです。湯川の旧友である石神は、天才的な数学者であったにも関わらず、家の事情で研究を続けられず、荒れた高校で数学教師を勤めています。数学以外何も趣味もなく話の合う友人もいない、暗い性格で小汚い身なりの彼は感情も全く表に出ていません。そんな彼は、元旦那を殺してしまった好きな人(隣人のシングルマザー)を守る為にそれを隠蔽する完璧犯罪を犯すのですが… 湯川を前に唯一ボロを出してしまうシーンがあります。数学にしか興味がない人生を送ってきた石神は、久しぶりに友人と呼べる人間の湯川と会った時に「君はいつまでも若々しいな、俺なんて…」と漏らしたことによって彼が恋をしていることを察せられてしまうのです。なんかすごいロマンチックじゃないですか? 読んでいて僕も「あっ」って思ってしまいました。そして、その恋の為に罪を犯す…。

ただのハッピーで明るいロマンチックよりこういうダークなロマンチックの方が、ひねくれている僕は好きです。世の中って綺麗なことばかりじゃなくて、世間の常識に照らし合わせたら「正しい」ことだけで固められてはまかり通らない、苦痛だなってことが結構あると思っています。義務教育で習った「公共の福祉」の考え方とか典型的な例ですが、結局ただの理想的な基準であってそれとは別に大事なことって必ずありますよね。僕は自分が興味のないものには一切のシンパシーを感じられず、助けてあげようとも思えないし、興味ある物事にだけ全力でぶつかりたいんです。ただ気持ちはそうなのに、どうしても何かしら常識と照らし合わせた上での躊躇いや取り越し苦労に憑かれて、全力で行動できない自分がダサくて仕方ないなと日々思っていて。

だから石神のように世間的には間違っているけど、自分がやっと会えた好きな人や事に対して(間違ったアプローチとはいえ)心からの衝動に突き動かされて行動できる人って面白いなあ、素敵だなあと思います。これは度を越した見方ですが、以前「君たちはどう生きるか」について書いたときにも、心から突き動かされる衝動に基づく善い行動をしなさいという話がありましたよね。あれはもっと道徳的な話でしたが、今回も「容疑者Xの献身」の何がそんなに好きなんだろう? と考えた時に、やっぱり僕はそういう生き方に憧れてるんだなあ、と感じました。そしてこの作品はそれが報われないというところまでが一つのトラジディとして素敵なんですよね…。

ちなみに僕の1番の好きなシーンは最後の泣き叫ぶ堤真一さんの演技です。それまで暗く何の表情もない石神が初めて大声をあげて泣き叫ぶシーンだけでも涙が… 全てはあのシーンの為にあるんじゃないかと思ってしまうくらいの迫力がありました。

今回はこんなところで。あまり面白いことが書けずすみません、また来週。

※「【連載】なにが好きかわからない」は毎週木曜日更新予定です。
エビナコウヘイ(えびな・こうへい)
1993年生まれ、青森県出身。進学を機に上京し、現在は大学で外国語を専攻している。中国での留学などを経て、現在では株式会社WACKで学生インターンをしながら就職活動中。趣味は音楽関係ならなんでも。
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