【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.1 レジリエントな(回復性の高い)人とは?

《カウンセラー》というと、どんな人を思い浮かべるでしょうか?

なんとなく、
・メンタル的なところに働きかけて人を良い方向に導いていく人
・しかし胡散臭い
みたいな感じでしょうか(笑)。

音楽好きな人だと、メタリカのドキュメンタリー映画『真実の瞬間』に出てきたカウンセラーを思い出す人もいるかもしれませんね。また、実話を基にした映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディ』では、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンを精神的に支配し金を巻き上げたユージン・ランディというカウンセラーが出てくるので、そうした悪いイメージを持っている人もいるかもしれません。

 

実際のところ、カウンセリングの手法は多岐に渡っているので、「こういうやり方でやる」と、簡単に類型化しにくいものでもあります。いちおう日本カウンセリング学会の定義を提示しておきますが、面倒くさい文章なので、ここは飛ばしていただいてかまいません(笑)。

「カウンセリングとは、カウンセリング心理学等の科学に基づき、クライエント(来談者)が尊重され、意思と感情が自由で豊かに交流する人間関係を基盤として、クライエントが人間的に成長し、自律した人間として充実した社会生活を営むのを援助するとともに、生涯において遭遇する心理的、発達的、健康的、職業的、対人的、対組織的、対社会的問題の予防または解決を援助する。すなわちクライエントの個性や生き方を尊重し、クライエントが自己資源を活用して、自己理解、環境理解、意思決定および行動の自己コントロールなどの環境への適応と対処等の諸能力を向上させることを支援する専門活動である」

いろいろ大事なことが書いてあるんですが、「クライエントの個性や生き方を尊重して、問題を自分で解決できるようになることを目指す」のがカウンセリングといえます。「自分で解決する」というところが結構重要で、あまり「ああいろ、こうしろ」と指示するものではないんです。その辺りが、一般的なイメージとは違うところかもしれませんね。

で、なんでカウンセリングの話なんかをはじめたのかというと、アーティストって、プロアマ問わず、精神的に病んじゃう人がけっこう多いような気がしませんか? アーティストのみならず、スタッフ側の人も「悩んだ挙げ句、行方不明になっちゃった」という話なんかも結構耳にします。

なんでなんでしょう?

「アーティスト(もしくは芸術)とは、そういうものだから」という答えも聴こえてきそうですね。これ、半分は当ってるかもしれませんが、半分は外れてると思います。

「アーティストって、そういうものじゃん」という場合の話の一部は『なぜアーティストは生きづらいのか?』という本に書いているので、いずれご紹介していけたらと思いますが、「外れてる」とい思うのは、「間違った精神論」とか「間違った環境」のせいだったりするからなのです。

そういう精神論や環境をうまいこと避けて、「個性や生き方を尊重して、問題を自分で解決できるようになることを目指す」ことができれば、案外なんとかなったりするんです。

物も人も、なんらか強い圧力がかかると「へこみ」ますよね? それは仕方がないことなんですが、問題は、それが一時的なものなのか、ずっとへこんだままなのか、というところにあります。人間は、精神的にへこんでも多くは元に戻れるんですが、そういう回復性=レジリエンスには個人差があります。

では、どういう人がレジリエントな人(回復性の高い)なのか。

これにまつわる研究で「カウアイ研究」というのがあります。これは、ハワイのカウアイ島で1955年に生まれた698人の子どもたちを対象に、30年間にわたって追跡調査したものです。この子どもたちの約30%は、貧困や親の不和・アルコール依存・精神障害などの環境に置かれていた「ハイリスク児」でした。彼らの2/3は、10歳までに学習面や行動面で問題が起き、18歳までに非行、精神障害などの問題を抱えてしまいます。

しかし、その2/3の子どもたちで精神衛生上の問題を抱えていた人も、30歳になる頃には80%が回復し、非行歴のある者の75%は立ち直っていました。

その転機となったのは、家族・親類・友人・先輩・教師・教会関係者などの支えがあったからでした。

「パーソナリティや心身のハンデキャップの有無に関係なく、無条件に受け止めてくれる人が周囲に最低でも1人いた」

その条件が満たされれば、意外と人間のレジリエンスは高いということがわかったのです。

「無条件に受け止めてくれる」というところがとても大事なところです。カウンセリングの態度のひとつに「無条件の肯定的配慮」というものがあります。これはいずれ別の機会に説明しますが、カウンセラーでなくとも、アーティストにも、そういう「無条件に受け止めてくれる」信頼できる人が身近にいてくれれば、なんとかなるかもしれないものなんです。

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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