「生誕祭、やりたいんだよね」
目の前でそうつぶやいた嬢。
「ここ一週間くらい、そのことで眠れないくて。昨日も、6時間しか寝てないかんね」
眠れないくて。新人類世代・嬢ならではの言語感覚。
そして、睡眠タイム、6時間。結構寝てんじゃん、とツッコミ待ちをしてるのか本気の寝不足アピールなのかわからない絶妙な時間を提示する嬢。私は、頬杖をつきほっぺたを膨らませる嬢をじっと見る。
火照った頬、潤んだ瞳。艶やかな唇、そして巨乳。
もしかして、酔っているのかしら。許されることなら、今すぐこの場で押し倒したい。いや、ダメだダメだ。嬢に性的な興奮を覚えるなど、私には5億万年早い。
嬢への想いは、無償の愛。自分の体は、嬢に捧げたものであり、自己主張などもってのほか。私の存在は、言ってみれば、嬢の感情を認識するAI搭載ロボ。嬢専属ペッパー君なのだ。
嬢、ハンパしちゃってごめん。高部知子ばりに告白する私。欽ちゃんファミリーでいえば、私の立ち位置は見栄晴。ドリフで言えば高木ブー。そう、私は高木ブー。俺は高木ブーだよ。思わず立ち上がり叫びそうになる私。ボヨヨンボヨヨンボヨヨンボヨヨン…… いや違う。これは違う曲だった。そんな私の戸惑いをよそに、嬢はレモンサワーを飲んでいる。
「先輩がこの前、生誕祭やったの。そしたら、めっちゃお客さんきてさ。私もやりたいんだけど、プレッシャーなんだよね」
上目遣いで私を見つめる嬢。かわいい。こんなにかわいい女性がこの世にいるなんて。安達祐実ちゃん以来の衝撃ではないだろうか。
「お客さんくるかなあ」
なんだ、そんなことか。だったら私がいつも通りにデート(同伴)すればよいだけの話じゃないか。善は急げ。私は早速嬢の誕生日にアポを取るべくアプローチを試みた。
「その日は、同伴(デート)できないんだよね」
お客さんの心配をしつつ、なぜかデート(同伴)は拒む嬢。まあいい。嬢の幸せのために役立てるなら、喜んで貢献しよう。
「アセちゃん、来てくれるの!? 嬉しい! なんか泣きそうかも」
最大限の喜びを表現する嬢。泣きそうかも。でも絶対に泣かない。それが嬢。私は手帳を開き、嬢の誕生日である4月某日に◯をつけた。プレゼントの出費は痛そうだが、なんとかしよう。
とたんにウキウキしだす嬢。私との約束がそんなにも嬉しいなんて。嬢の喜びは、私の喜び。我々は、嬢生誕祭の前祝として、乾杯した。
「プハー!」と、美味しそうに5杯目のレモンサワーを飲み干す嬢。さっきまでの曇った表情は消え、満面の笑みで私にまくしたてる。
「イベントやったら、あたしの特注ドンペリ出すから。ラベルにあたしの顔載せるの。ウケる! ちょうウケる!」
両手をチンパンジーのように大きく広げ、手を叩いて喜ぶ嬢。面白いかと言われたら、たいして面白くはない。しかしツボにハマったらしい。嬢が笑い止むのをしばらく待ち、特注ドンペリの値段を聞いた。
「5万円、かな」
だいたい、家賃。
「アセちゃんにも、飲んでほしいな」
私は奥歯を食いしばり、コクリとうなづいた。
〜シーズン2 第3回へ続く〜
※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
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