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【INTERVIEW】アイドルを目指す女子24人を鬼才・岩淵弘樹が映し問う「アイデンティティ」の在りか

StoryWriter

岩淵弘樹監督

『世界でいちばん悲しいオーディション』は、長崎県にある離島・壱岐島を舞台に、2018年3月12~18日の1週間をかけて行われた合宿型合同オーディション「WACK合同オーディション2018」を映像化したドキュメンタリー映画である。

BiSH、BiS、GANG PARADE、EMPiREをマネジメントするWACK代表の渡辺淳之介が『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹よろしく、24人の候補生たちにマラソンやダンス審査、学力テストなど課題を与え、涙や怒号、予期せぬパニックにも見舞われながらも、WACKに所属するにふさわしいアイドルを選ぶという過酷なオーディションでもある。

その舞台に1週間密着し、映画として切り取ったのは鬼才・岩淵弘樹監督。かつて自らが工場の派遣労働者となって社会を切り取った作品『遭難フリーター』で話題を呼んだ岩淵が、このオーディションで切り取ったのは「アイデンティティ」。仮の名前を与えられた女の子たちは、与えられた役割を演じることによって、本当の自分らしさを見つけることができるのか?

その問いはアイドルに限ったものではなく、一般社会で生きる我々にも投げかけられる。本当の自分らしさとはなにか? 自分の役割を押し進めることは自分らしさに繋がるのか? この映画で描かれているのはアイドルのオーディションではなく、社会の縮図でもあることにも注目してほしい。

このインタビューは、映画公開初日の夜に「ちょっと飲みいきましょうよ」という岩淵監督と2人で入った新宿三丁目の居酒屋でしっぽりと行われた。インタビュアーである西澤は岩淵と同い年であり、合宿オーディションにライターとして参加、1日3回現地から記事を書いていたことも最初にお伝えしておく。

インタヴュー&文:西澤裕郎
写真(合宿写真):外林健太


見えざる手で作られたような感じがするんです

──これまでWACKの合宿オーディションを舞台にした映像作品は何人もの監督が撮られてきましたけど、ここまで客観視点で描かれた作品はなかったと思います。しかも、パイロット版から100分くらいに編集されていましたよね?

岩淵弘樹(以下、岩淵) : そうですね。完成版とあまり変わらないくらい。

 

──九州の離島・壱岐島というロケーション、6泊7日という合宿期間、24人の女の子たちの合格と脱落、BiSH、BiS、GANG PARADEの現役メンバーたちの改名を賭けた戦い…… それらを5人のカメラマンで撮影したわけで素材も膨大だったと思うんですけど、どういう方針で編集していったんでしょう?

岩淵:まずは全部文字起こしをして。

──全部!?

岩淵:それで1ヶ月間かかったんですね。そのあと1ヶ月間で編集をしたんですけど、自分なりに締め切りを立てて逆算していくと自ずと1日の作業量って見えてくるじゃないですか。そこに向かって全部やっていきました。

──今までに作られた他の作品もそうなんですか?

岩淵:いや、そこまできっちりやらなかったと思います。最近テレビのドキュメンタリーもやっていて、尺だけじゃなく、ここにCMが入るみたいなことも決まっているので、その経験も反映されているのかもしれないです。

──それこそ村上春樹さんが毎朝何時から何時の間に何枚原稿を書くみたいなスタイルに近いというか。

岩淵:町田康さんとかもそうですよね。

──小説家の場合、ある程度年齢を重ねてから、そういうスタイルに変化していくので、岩淵さんも年齢を重ねたことが1つの作品に影響しているのかもしれないですね。

岩淵:たしかにそうかもしれないですね。あと今回は全体像が見えていたというか。それこそ、撮影で参加してくれているエリザベス宮地くんは撮影しながら終わり方を探していくタイプのドキュメンタリー作家じゃないですか。全く批判的な意味じゃなくて、宮地くんはBiSHを撮っている中でテーマを発見していったのかなと思っているんですけど、西澤さんはどう思います?

──僕はMOROHAのUKさんと宮地さんの3人で18禁楽譜「GRAYZONE」を作ったんですけど、その場その場で浮かんだフラッシュアイデアを瞬発力と行動力でやり遂げる人だなと思ったので、撮りながらゴールを見つけていったり、現場で閃くってこともあったのかなと思います。

UK(MOROHA)、エリザベス宮地と制作した18禁楽譜「GRAYZONE」

岩淵:あとBiSH自体がずっと動いているから、幕張ワンマンとか横アリワンマンとかに帯同しながらテーマが見つかる部分もあったのかもしれないですね。

──映画では少ししか使われていませんけど、合宿合格者のお披露ライヴにも岩淵さんは撮影しに来ていたじゃないですか? 2018年夏の時点では、テーマというか落とし所をまだ探していたのかなって。

岩淵:確かに、ギャンパレ、EMPiRE、BiSのそれぞれ新メンバーが入っていく過程も撮ってはいるんです。受かった子たちの最初のステージに向けての気持ちだったり、最初のステージも本来は入れるつもりだったんですけど、編集してみたら、入れなくてもいいかなという作品になっちゃいました(笑)。

──映画を観て僕もこの作品にはなくても正解だと思いました。ただ、合格したメンバーも新しい道へ踏み出したわけで、使わない勇気をよく持てたなと。

岩淵:だからこそ終われたというか。ラストのシーンを作ってみて、これで終われるみたいな気持ちになったんです。撮影しているより、むしろ編集して画を繋げてみたら、これで終われるなと思えた。合宿中の出来事は渡辺(淳之介/WACK代表)さんがその場その場で生み出したことだけど、物語があまりにも出来すぎているじゃないですか? だから、俺も「いつのまに誰が編集したんだろう」みたいに、自らの意志を越えたところの見えざる手で作られたような感じがするんです。

──いってみたら身内の物語のはずなのに、超客観的な映画なんですよね。

岩淵:もしかするとそれは、物語の基本構造っていうものがあるわけじゃないですか? そこに、合宿での出来事と、僕のテーゼみたいなものが混じり合っているのかなって。何に似ています? この映画。

──似ているもの……。

岩淵:フォーマットというか。いろんなものが複合してはいるんですけど。

──三人称視点の小説って感じがします。いろんな場所に神の視点があって、それをつまみ上げて話が進んでいく、小説を読んでいるような気持ちでした。

岩淵:自分で編集しておいてなんですけど、カメラがちゃんと出来事を待っているんですよね。基本的には1日の終わりに脱落者が出ることの繰り返しなので、カメラは脱落者への振りを作るために撮っている訳ですよ。無意味そうに見えるカットも全部脱落者への振りだったり。あと言葉が際立つような見せ方をしてるので、それも小説っぽいかもしれません。

今回は複数の視点で物事を語っている

岩淵:…… 大丈夫ですか、この話おもしろいですか?

──おもしろいですよ(笑)。

岩淵:話が飛んじゃうんですけど、(BiSHの)モモコ(グミカンパニー)さんに関しては宮地くんがずっと密着してくれていたおかげでフランクな言葉を撮ってくれたなと思っていて。俺も最初にインタヴューをしているんですけど、壁があるなと思ってしまった。宮地くんはBiSHとの関係性作りをかなり時間をかけてやっているから、彼にしか撮れない映像が撮れていると思います。

──最初から、映画を想定してカメラマンを配置していたんですか?

岩淵:それも逆算ですよね。写真家の西光(祐輔)さんには、とにかく実景を撮ってくれと伝えて、白鳥(勇輝)くんはドローンもOSMOも使えるので、ちょいちょいそれを撮っておいてくれと。バク山(バクシーシ山下)さんには全体的に撮ってくれってお願いして。俺は本編でも使っている「今のあなたは本当の自分ですか?」みたいなテーマ部分を聞くみたいな。

──アクの強いカメラマンの人たちが集まっていてので、どうやって撮影しているのかなと思ったんですけど、そういう役割があったんですね。

岩淵:基本は分担してやっていたんですけど、毎日誰が脱落するか分からなかったじゃないですか? 落ちた瞬間に話を聞きに行かないといけなかったので、そこに関しては、それぞれのアプローチで話を聞いていってもらいました。タンタンコとか、深夜まで3、4時間くらい話し続けていましたからね。

──それも文字起こしして?

岩淵:しましたね。だから西澤さんの作業にちょっと近いのかもしれないですね。西澤さんもその場でコメントをとっていたじゃないですか? 西澤さんの場合は西澤さんっていう一視点からやっていたから、それをもうちょっと複数の視点でやって統合させたって感じですよね。

──そういう意味で、非常に神の視点を感じたんだと思います。合宿に参加しているからこそわかる温度感や雰囲気もあるんですけど、ニコ生で観ているような細部は分からないし、意外と見れる視点が狭いんですよね。

岩淵:西澤さんはニコ生も観ていたんですか?

──現地で観ていたんですけど、ほぼほぼ観れていないですね。朝に落ちた子たちの話を聞いてまとめ、昼に午前中の出来事を書いて、夜はダンス審査の発表があってそれを書いてみたいな感じで1日3回記事をあげていて。それこそ、落ちた子たちが裏で何を話しているかなんて、あの場にいても分からないし、ニコ生を観ても分からない。淳之介さんも知らないと思うし。

岩淵:これはドキュメンタリー論になっちゃうかもしれないんですけど、今回は複数の視点で物事を語り、かつ映画に落とし込むために引き算や因数分解を使いまくった編集をしていて。本当は1日1時間で7時間ものとかも作れる訳ですよ。

渡辺コンピューターのエラーが起きた方がおもしろい

渡辺淳之介

──合宿が終わって東京に戻って来たとき、「こんなに自分の役割だけをやっていい場所はないから、ある意味でものすごく充実していた」って岩淵さんが話してくれたの、覚えています?

岩淵:覚えていますよ。それが今回の映画の根本的なテーマにもあって。それぞれがそれぞれの役割を全うすることって、候補生の子たちがアイドルになっていくことと一緒じゃないですか。俺はカメラマンになっていくし、西澤さんはライターになっていく、渡辺さんはプロデューサーになっていくし、っていうのと、アイドルになっていくっていうテーマはなんとなく自分の中で統合できていて。

──しかも離島だったので、外部的なノイズが入り込む余地もなく、より純度が高いものになったというか。

岩淵:どうなんでしょうね。西澤さんは毎回落ちた子に話を聞いていたじゃないですか? アプローチの方法としては、西澤さんも客観的でしたよね。

──2年前の合宿から基本的に決めているのは、脱落者に対して「合宿を通して何を学んだか」と「もう1回オーディションがあったら受けたいか」を聞くこと。おもしろかったのは、ヒラノってすごく頭が良かったじゃないですか。落ちた役を演じられるというか、敗者復活のスクワットでも、ここで叫んだ方が盛り上がるでしょってところまで分かった上でやっていた。

岩淵:そうそう。自己演出を渡辺さんが評価してくれるでしょってくらい、あの子は狡猾だった。年末にあったBiSの100kmマラソンにもちょっと思ったことがあって。途中から絆が大事みたいな話になっていったじゃないですか? いやいや、時間内にゴールすることが第一の目標だったはずなのに、頑張ることが目的になっちゃうと、ちょっと意味が変わっちゃうよなって。オーディションもそうで、合格することが本当はゴールなんだけど、頑張ることを見せ始めると違うものなんじゃないですかね。脱落したヒラノが「ごめんなさい」って言うんですけど、それはニコ生の視聴者に向けた言葉なんですよね。期待に応えられなくてごめんなさいと。誰にも迷惑かけてないし、オーディションをしに来たのに、あの瞬間は自己演出に飲み込まれたようだなと思って。頑張ることを評価するってどう思います?

──そもそも旧BiSは、無理難題なことを頑張るとかエモーショナルを武器にしてきた訳じゃないですか。だからその過程をおもしろがるというのも十分わかるし、僕もそれに感動してきた側でもあるんです。そのあとに生まれたBiSHは、エモーショナルだけではないパフォーマンスや個性や総合力で成功した。そして、また新生BiSが生まれているわけですよね。プー・ルイがいたときの新生BiSで個人で最初に100kmを走った時、5人中3人が時間内にゴールしたんですけど、目的を達成しただけで終わっちゃったじゃないですか。

岩淵:むしろプー・ルイさんがバテて遅れてゴールに向かって走った方がドラマチックに見えたってやつですよね。

──言ってみれば、コアなファンたちも慣れてしまったというのもある。かと言って、新規の人が観てそこに感動を覚えるかというとわからない。それは時代の移り変わりなのかもしれないし、それこそヒラノは5年前だったらもっと違った結果になっていたかもしれなくて。淳之介さんも言っていたけど、芸能人っていうのは運とかタレント性みたいなものも必要だと。そういう天性の素質みたいな部分は昔より今のほうが求められているのかもなって。

岩淵:個性?

──個性というか、生まれ持ったものって表現するとざっくりしちゃうんですけど。BiSは、そういう存在に対抗して素人でもできるんだって始まったグループではあるけど、そこも時代とともに変容し始めているのかなって映画を観て思ったんですよね。だって努力しているし理不尽に落ちていく人だっている訳じゃないですか。ヒラノは運も味方につけているのに合格に届かない。

岩淵:体力もあって(笑)。

──気力も演出力もあった。それこそニコ生でのコメントも多かったけど落ちる訳じゃないですか。そう考えると、「逆に私みたいな人がタレントになると思いますよ」って落ちたのに言えちゃう脱落者のほうが人生を楽しめるというか。

岩淵:まんまと駄目なコメントを言ってくれましたからね(笑)。

──彼女みたいな子がいることで、残った候補生との対比が生まれますよね。

岩淵:俺が散々意地悪く抜いている部分もあるけど、ギターを弾こうと思っていたとか、本当はデザイナーになりたかったとか、カメラの前でぽいぽい出るなと思って。お前何しに来たんだよ、って(笑)。

──よく合宿オーディションまで辿りつきましたよね(笑)。

岩淵:言っちゃえば、あそこまで上陸させてしまったっていうのは渡辺さんのミスな訳じゃん(笑)。ただ、オーディションエンターテイメントとしては、渡辺コンピューターのエラーが起きた方がおもしろい。EMPiREに入りそうな子がEMPiREに入ったっていうのは言っちゃえば渡辺方程式の範疇だから、そこを越える何かを渡辺さんも求めているのかもしれないですよね。

それぞれの役目を全うしていくと、世の中は良くなる?

──そこの寛容さはありますよね。落ちた子の素も描かれているのが、すごくいい映画だなと思うんですよね。結局、エリートばっかり集まってもおもしろくないというか。特に、EMPiREに入った子はWACKっぽくないって言われることも少なくないけど、多種多様な子たちの中の綺麗な子だと考えると、非常に幅広く受け入れているのかなって気持ちはしますね。

岩淵:あと、他のオーディションを撮影に行っても候補生は泣かないですから。WACKのオーディションって指をつんって突けば泣くから、インタヴューのしやすさとしては楽な訳ですよ。あの空気感とか環境も含めてなんですけど非常にドキュメンタリー映えする空間ではあるし、なんだかんだで渡辺さんは視聴者のことも考えているから、どうやればおもしろく見えるかって部分も含まれている。今回の映画ではガミヤの件もエラーではあったと思うんだけど。

──「1分考えさせてくれ」ってシーンですよね。言ってみれば宮地さんもエラーだった訳じゃないですか。あの場面(笑)。

岩淵:あの宮地くん、嘘くさいよね(笑)。宮地くんが、とある騒動の中で女性に寄り添う場面があるんですけど、途中までカメラを回していなかったんですよ。俺は横目で見ながら「忘れているな」って思ったんです。だけど途中からカメラを回し始めるんですね。そこからは宮地スイッチが入ったというか、宮地くんも自己演出をやり出しているなみたいなことは思っていました。

──そう考えると、スタッフ側もカメラマンならカメラマン、ライターならライター、宮地さんなら途中で出演者の1人みたいな役割が生まれて、それぞれが全うしようとしているというか。

岩淵:これはいい悪いの話になっていくんですけど、それぞれの役目を全うしていくと、世の中は良くなるんですかね?

──良くなるかどうかは結果論ですよね? 候補生含めて、僕たちは別に世の中をよくしようと思ってやっていないじゃないですか。それに、あの日々が一生続くと思ったらできないですよ。1つのことを全うすることは現実的にできる訳ないと思っているからこそできる。

岩淵:でも、例えばBiSのパン・ルナリーフィさんとかは全うしているわけでしょ?

──たしかにBiSを全うし過ぎるくらいしていますよね。

岩淵:その実直さっていうのが彼女の原動力になっているし、それぐらい張り詰めないとやっていけない。闘い続けないと生きていけないサイヤ人みたいなものでしょ? それはBiSのパン・ルナリーフィというパーソナリティで成立している。例えば、もしもギャンパレに移籍することになったらどうなんですか?

──わからないですけど、最終的にBiSに戻るために試練を与えられているんだって理由付けができるから、全うできるんじゃないかなと思いますけど。

岩淵:そしたらアイドルって、アイドル・グループの一部ってこと? あくまで「BiSの私」って考えると会社員みたいだよね。会社じゃんって。

──たしかに組織の一部と言い換えることもできますよね。

岩淵:そうそう。組織の一部。

──ただ、WACKグループの中でも、BiSHはメンバーがグループと自分を対象化することができていて、BiSHの私と、プライベートの私っていうのをしっかり持っている。それぞれが相互作用を与えていると思うんです。

岩淵:それこそモモコさんがインタヴューで言っているけど、BiSHとしてのモモコグミカンパニーを限界値まで高めたあと、BiSHを離れた自分を高め始めたことで、BiSH自体を高めることに繋がっている。そういう2番目のフェーズにいっているのかもしれないですよね。

これはアイデンティティの話なんですよ

──映画の中で「宗教じゃん」みたいな話がありますけど、落ちた子たちはそこで夢が覚めるというか、合宿の世界から解き放たれる訳じゃないですか。そのときに、合格することが果たして一方的ににいいことなのかという問いが、合格者やWACK所属メンバーに向けても生まれるわけですよね。

岩淵:幼稚園の先生になるのも素晴らしい選択の1つで、アイドルと幼稚園の先生どっちが優れているってことは絶対にないですからね。

──今回描かれているオーディションが、たまたまアイドルってジャンルだったってだけで、例えば就職活動でも理不尽なことっていっぱい起こっていると思うんです。その過程は描かれないだけで、そういう組織の物語なのかなって。2019年の合宿オーディションも岩淵さんに撮ってほしいなと思いますけどね。

岩淵:すっごく行きたいし、撮りたいんだけど、仕上がりが今回と同じものになってしまうかなって心配もあって…… 俺がやるかどうかはまだ分からないけど、撮影のフォーマットとしては同じことができる訳ですよ。

──岩淵さんは、映画を通してテーマを投げかけているじゃないですか。今回だったら、BiSのペリ・ウブが「ペリ・ウブという役割」を追求することによって本当の自分らしさに行き着く、と答えているシーンがある。与えられた役割と自分が同一化するんだ、と。岩淵さんは、そこをこの映画で問うている訳じゃないですか。

岩淵:そうです。そこは別にアイドルに限らない話でもあります。自分の役割を押し進めていくことが自分らしさに繋がるんじゃないのかなっていう。

──役割を押し進めていった結果、それが本当のアイデンティティなのか、それともアイデンティティの喪失なのかみたいなところですよね。

岩淵:そう。これはアイデンティティの話なんですよ。編集中にモモコさんの本を読んだんですけど、本当の自分と、BiSHの私との境目が語られていて、それが今回の映画のテーマとも被っている。今回の合宿は、BiSHの私と、本当の私みたいなギャップに悩んでいたモモコさんが来ていたことで、そういうテーマがより浮き出た。2019年のオーディションには、BiSHのアユニ・Dさんが参加することになっているけど、彼女は世の中と戦っているじゃないですか。戦ってはいるんだけど、どこか冷めているような感覚もある。彼女と同じ感覚を持つ人に対して何かメッセージを放っているし、受け取ったその人がそれをどう思うかも分かっていると思うんですよね。そういうアユニさんの感覚っていうのはすごい新世代だと思う。オーディションの中で、アユニさんっていう価値観に他の何も知らない参加者がぶつかって来た時、どう変化するんだろうってちょっと気になっています。

「あー、やばいの観ている」って感覚にはなる

(ここで、近くで飲んでいた岩淵監督の妻・阿倍さんも参加)

阿倍 : 今日の上映どうでした?

──盛り上がっていましたよ!

岩淵:やっぱりお客さんと一緒に観るとグルーヴが出るよね。

──ちなみに、阿部さんが映画のナレーションをされているんですよね?

阿倍 : すみません、下手くそなナレーションで(笑)。

──今回、ナレーションを阿部さんが担当した理由というのは?

岩淵:わざわざWACKのアイドルさんに読んでもらうほどの内容のナレーションでもないから。誰でも良かったんです。

──そこでWACKの誰かが読んじゃうと、意味が出てきてしまうから。

岩淵:そうそう。モモコさんが読んじゃうと、モモコさんの視点っていう入り口になっちゃうんですよね。そういうのは一切いらないなって。(阿部さんに向かって)今回の映画を全部観てどうでした?

阿倍 : 普通におもしろかった。やっぱ編集が上手いよね。磨きがかってきたっていうか。私は岩淵さんの作品が嫌いなので褒めたりしないんですけど、今回の作品は最初に観た時、あーおもしろかったって思いました。

岩淵:渡辺さんのことはどう思ったの? 旧BiSの全裸PVの撮影のときにアシスタントで現場に行っていたわけでしょ?

阿倍 : すごく悪者っぽいけど、渡辺さんに対しての視点がすごく優しいよね。いくらでも渡辺さんのこと悪者に描けるじゃないですか?

岩淵:結構描いているけどね(笑)。

阿倍 : 今日、映画の制作会社の新年会に行って来たんですよ。ほとんど知り合いがいなかったんだけど、ちょっと宣伝したら、「今ドキュメンタリー需要がすごくあるから話を聞きたい」って言われた。

岩淵:聞きたいじゃなくて、観に来てほしいよね(笑)。WACKのすごいところは、よくこの映画を流すなっていうところで。お客さんは、「あー、やばいの観ている」って感覚にはなるじゃない?

阿倍 : え、なるの!?

岩淵:だって笑えないじゃん。

阿倍 : たしかにあの映画を出すのは勇気がいることなんじゃないかなって思うよね。結構切り込んでいると思うんですよ。アイドルになりたい子はゴマンといるのに、実はああいうことを経てアイドルをやっているんですよってことを、渡辺さんの態度も含め出すっていうのは、なかなかすごいことだなって。

岩淵:毎年言っていますけど、いつまでさらけ出してくれるんでしょうね。

──そこを見せるっていうのがWACKの本質だとも思うから、そこはなくならないんじゃないですかね。

岩淵:やっぱり矢面に立たなきゃっていう意識が渡辺淳之介っぽいところではあるのかもしれないですね。今年の合宿も行きたいですね。まだわからないけど(笑)。

>>WACK合宿オーディション2018の現地レポートはこちらから


『世界でいちばん悲しいオーディション』情報

『世界でいちばん悲しいオーディション』
テアトル新宿ほか、全国順次公開中
監督・撮影・編集:岩淵弘樹
プロデューサー:渡辺淳之介
撮影:バクシーシ山下、西光祐輔、白鳥勇輝、エリザベス宮地
出演:オーディション候補生、モモコグミカンパニー(BiSH)、パン・ルナリーフィ(BiS)、ペリ・ウブ(BiS)、キャン・GP・マイカ(GANG PARADE)、BiSH、BiS、
GANG PARADE、EMPiRE
配給:松竹メディア事業部
2018年/98分/ヴィスタサイズ
(c)WACK INC.
公式サイト:http://sekakana-movie.jp
公式Twitter:@sekakana_movie
WACK公式サイト:https://www.wack.jp


舞台挨拶付き上映スケジュール

2019年1月26日(土)①11:50の回上映後 ②14:10の回上映前(14:10舞台挨拶開演)
【BiSH】アイナ・ジ・エンド、ハシヤスメ・アツコ、アユニ・D
※ローソンチケットにて販売中!(詳細は下記チケット情報)

2019年1月27(日)①11:50の回上映後 ②14:10の回上映前(14:10舞台挨拶開演)
【BiSH】モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、リンリン
※ローソンチケットにて販売中!(詳細は下記チケット情報)

2019年1月29(火)18:30の回上映後
【BiS】アヤ・エイトプリンス、ミュークラブ★、YUiNA EMPiRE
※ローソンチケットにて販売中!(詳細は下記チケット情報)

1/26(土)、1/27(日)チケット情報
現在ローソンチケットにて販売中!※1/25(金)16:00まで
→残席ある場合
1/25(金)22:00~ 劇場オンラインにて
1/26(土)劇場OPEN時刻~ 劇場窓口にて

1/29(火)チケット情報
現在ローソンチケットにて販売中! ※1/25(金)16:00まで
→残席ある場合
1/26(土)9:00~ 劇場オンラインにて
1/26(土)劇場OPEN時刻~ 劇場窓口にて

シネ・リーブル神戸
2019年2月2日(土)20:30の回上映前(20:30舞台挨拶開演)
【BiS】パン・ルナリーフィ、ゴ・ジーラ、ムロパナコ★

なんばパークスシネマ
2019年2月3日(日)19:45の回上映前(19:45舞台挨拶開演)
【BiS】トリアエズ・ハナ★、アヤ・エイトプリンス、ペリ・ウブ

岡山メルパ
2019年2月9日(土)20:00の回上映前(20:00舞台挨拶開演)
【BiS】ゴ・ジーラ、キカ・フロント・フロンタール、ミュークラブ★

広島バルト11
2019年2月10日(日)20:00の回上映前(20:00舞台挨拶開演)
【GANG PARADE】ヤママチミキ、ユメノユア、ユイ・ガ・ドクソン

MOVIX周南
2019年2月11日(月・祝)10:00の回上映後
【GANG PARADE】キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、月ノウサギ★

ユナイテッド・シネマ福岡ももち
2019年2月23日(土)19:45の回上映前(19:45舞台挨拶開演)
【BiSH】セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、アユニ・D

鹿児島ミッテ10
2019年2月24日(日)10:00の回上映後
【EMPiRE】YUKA EMPiRE、MAHO EMPiRE★、MiKiNA EMPiRE★

※上記はすべて先着販売につき、売切れ次第販売終了となります。
▼購入はこちら
https://l-tike.com/sekakana-pr

全国各地での上映が決定!!
シネマサンシャイン大街道 (愛媛県)
上映スケジュール:2019/2/1(金)~2019/2/7(木)

シネ・リーブル神戸 (兵庫県)
上映スケジュール:2019/2/1(金)〜2019/2/7(木)
登壇:2019/2/2(土)

シネ・リーブル梅田 (大阪府)
上映スケジュール:2019/2/1(金)~2019/2/7(木)

なんばパークスシネマ (大阪府)
上映スケジュール:2019/2/3(日)
登壇:2019/2/3(日)

岡山メルパ (岡山県)
上映スケジュール:2019/2/8(金)〜2019/2/14(木)
登壇:2019/2/9(土)

広島バルト11 (広島県)
上映スケジュール:2019/2/8(金)~2019/2/14(木)
登壇:2019/2/10(日)

MOVIX周南 (山口県)
上映スケジュール:2019/2/8(金)~2019/2/14(木)
登壇:2019/2/11(月・祝)

鹿児島ミッテ10 (鹿児島県)
上映スケジュール:2019/2/22(金)~2019/2/28(木)
登壇:2019/2/24(日)

チネ・ラヴィータ (宮城県)
上映スケジュール:2019/3/1(金)~2019/3/7(木)
登壇:2019/3/2(土)、2019/3/3(日)

T・ジョイ新潟万代 (新潟県)
上映スケジュール:2019/3/8(金)~2019/3/14(木)
登壇:2019/3/10(日)

ディノスシネマズ札幌劇場 (北海道)
上映スケジュール:2019/3/15(金)~2019/3/21(木)
登壇:2019/3/16(土)、2019/3/17(日)

※今後も舞台挨拶、上映劇場については随時追加予定です。
※実施劇場・登壇者は予告なく変更になる場合がございますので予めご了承ください。

▼購入はこちら
https://l-tike.com/sekakana-pr

▼劇場情報
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=sekakanamovie

Profile
岩淵弘樹(いわぶち・ひろき)
ドキュメンタリー映画監督。代表作品に『遭難フリーター』『サマーセール』『サンタクロースをつかまえて』『モッシュピット』など。2019年1月11日よより「WACK合同オーディション」を舞台にしたドキュメンタリー映画『世界でいちばん悲しいオーディション』をテアトル新宿他にて公開中。

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