THE 夏の魔物が解散を発表した。
DPG〜夏の魔物〜THE 夏の魔物と名前を変えて続けてきた成田大致が、はじめて明確に解散という言葉を使ってバンドに区切りをつける。2018年末、グループの良心といえる存在の大内雷電が脱退し、メンバーの入れ替わりが立て続けに起こった。そんな継ぎ接ぎだらけの状態で活動を続けることは、成田にとっても、バンドにとっても、ファンにとっても、耐え切れる状態ではなかった。ここで一度バンドを解体し、成田は再び新しい道を歩み始めるという。
メンバーの間の絆にヒビが入ったことはどうしようもできないが、それぞれが別の道を歩み、何年後かにどこかでクロスする日が来ることを願っている。これを読んでいるあなたも言いたいことはたくさんあると思う。それも当然だ。ただ、ここに掲載している言葉は、事実確認以外しておらず、ほぼ成田と話した内容をそのまま掲載している。最後に語ったTHE 夏の魔物としての素直な言葉。読んでみてほしい。
インタヴュー&文:西澤裕郎
写真:Jumpei Yamada
なんでも貪欲に食べる姿勢のツケが返ってきた
──先週、成田くんと喫茶店で会ってざっくばらんに話をしたじゃないですか? リーダーとしてもっと責任を持ってバンドを引っ張っていったほうがいいんじゃないかって。そしたらその3日後くらいに「解散する」って電話がかかってきて……。一体何があったんですか?
成田大致(以下、成田):ここ2年間くらいの出来事を振り返って、いろいろ考えたんです。その結果、THE 夏の魔物を解散した方がいいという結論に至りました。THE 夏の魔物は、DPG〜夏の魔物の延長線上で地続きでやってきたせいで、周りを困惑させてしまった。語弊があるかもしれないけど、なんとなく俺が活動を進めてきてしまったことが全部の歪みを生じさせてしまったんだって。
──その歪みを解消するには、バンドを1回終わらせないとと思った?
成田:俺の中では、どの体制もバンドをやっているつもりだったんです。ただメンバーそれぞれのバンドに対する考え方があるし、アイドル出身の子たちが多かったこともあって、アイドル・フォーマットみたいになっている部分もあった。俺が1人1人に自分はどういうバンドを目指しているのか言うべきだったんです。
──成田くんが最初に始めたTHE WAYBARKはバンドっぽいバンドでしたけど、その後に作ったSILLYTHINGからいろんなカルチャーがミックスされたグループに変わっていった。当時そんなこと他に誰もやっていなかったし、成田くんにしかできないものだと思っていたから、すごくおもしろかったですけどね。
成田:なんでも貪欲に食べる姿勢でやってきたツケが今になって一気に返ってきたというか。去年末に取材してもらった時に、もう全部辞めようと思っているって言ったじゃないですか?
──言っていましたね。その直後にメンバーとの離別騒動が起こりました。個人的には、ただただ残念に思っていて。一方的な発言になっちゃうので、大内さんと本当は何があったかは訊かないけど、なんでこうなっちゃったんだとしか思えないというか。大内さんは成田くんの考えややりたいことを1番よく分かっている人だと思うんですけど、大内さんの脱退も解散に至る理由になっている?
成田:そこはあまり関係ないです。単純に違うことがやりたくなっただけで。過去をほじくり返して、例えば今後「過去こんなことを成田はしてました」とか誰かに言われても、その時のことはその時のことだし…… すみませんでしたっていう感じです。それが上手く伝わっていないだけの話で。誰か1人でも欠けたらこのバンドは崩れるみたいな考えの時期もあったし、誰々がいなくなったら解散しなきゃって考えたこともあった。でも今は、そのときどきで1番作品に適した人と作る方法がいいって考え方に変わったんです。どうしてそういう考え方に変わったかってことは、いちいちメンバーにしゃべってこなかっただけで。
──その考え方の変容を語らないから、メンバーにも伝わらないし世間でも推測が膨らんでいくんですよ! 強烈なリーダーがいるバンドが崩壊するケースもあると思うんですけど、夏の魔物の場合、成田くんがふわふわしているから、なんだかわからない形になって揉めていったんだと思いますよ。
成田:もちろん、俺のはっきりしなさが全ての物事に全部リンクしているのは自覚しています。昨年末にリリースしたアルバム『この部屋が世界のすべてである僕、あるいは君の物語』は、西さん(越川和磨)とエンジニアさんと3人ですごい時間をかけて作って、初めてやりきったなと思ったんですよ。実験的にいろいろやってきたことが1つの形になって、次やりたいことがはっきりした。普通のバンドのように、同じメンバーでアルバムを作ってライヴをしてという形ではなく、その作品に一番あった人に参加してもらいたいと思った。だから「このメンバーが魔物なんです!」みたいな考えも違うなと思っていて。1作品ずつ、いろんな景色が見えることの方が自分は好きなのかなって。
──その考えがメンバーにちゃんと伝わっていなかったから、成田くんがフェスの借金を背負いきれずにクビを切ったみたいな話になってしまったわけでしょ。
成田:お金の問題もそうですけど…… 全部に疲れていたんですよ。目の前のことを処理していくのにも手一杯だった。フェスのこともバンドのことも全部膨れ上がってしまっていって。前までは自分の目が届く範囲でいろんなものが分かっていたけど、どうしたらいいか全然分からないし。やっておいて何言っているんだっていう話なんですけど、本当は9月のフェスも開催を中止するつもりだったし。
──2018年の〈夏の魔物〉を?
成田:はい。開催直前に制作会社から、大赤字な上に、実はこういう会場レイアウトなんですって言われたとき、初めて中止という考えが頭をよぎって。一旦全部辞める勇気も必要なんじゃないかと思って。でも、反面で待っている人もいる訳だから。
──さすがに直前で中止はお客さんに対して説明がつかないですよね。
成田:そうですよね。あまりに直前過ぎたので辞めることはできなかった。
どう考えても100%俺が悪い
──成田くんは、音楽、漫画、ゲームみたいな作品物が好きで、自分でも作りたいという情熱を持っている人ですが、人間関係は上手くないというか。
成田:向いてないなと思ったので、今はやり方を変えてスマホを辞めたんです。
──もうスマホを持っていないっていうこと?
成田:あの1件があってからiPhoneをすぐ解約しました。今はショートメールと電話でメンバーとやり取りをしていて。それがすごくやりやすい。電話して「スタジオに入る?」って話をしたり。高校生に戻ったような感じ。
──成田大致のTwitterアカウントがなくなったのも同じ理由?
成田:それはだいぶ前のことですよ。去年の名古屋のライヴの時にキレまくって、アントンさんにSNSはもう辞めた方がいいって言われて。バンド会議でめっちゃ揉めて、その場で消しました。
──辞めたら辞めたで、成田くんのオフィシャル発言がないから余計何を考えているかわからずに炎上するというか(笑)。
成田:そうなんですよ(笑)。何を考えてるんだ! って。でも最終的にキレちゃったのは俺だし、どう考えても100%俺が悪い。今はただただ練習してライヴをするだけなので、あるべき姿に戻ったのかなって。
──成田くんの言動に問題はあるかもしれないけど、別に芸能活動をしている訳じゃないし、バンドだから別に恋愛してようが何してようが、音楽を聴く上で関係ないことだと思うんですよ。それが成田くんの場合は導火線になっちゃう。
成田:多分魔物に対してアイドル的な感じで捉えている人が騒いでるんじゃないですか? 分からないですけど。
──僕が成田くんとこうやって関係が崩れないでいるのは、普通にヴィレヴァンとかに行ったら会うじゃないですか? 漫画買いに来たとかさ。未だにものすごいヘビーなリスナーであり、読者でもあるというか。
成田:音楽を聴いたり、映画館に行ったり、漫画を読んだり、小さい時からの習慣を変えていないんですよ。この3ヶ月間、自分は何をやりたいのかってことを久々に振り返ったんです。それを考えたとき、自分が納得のいくバンドを作りたいと思った。フェスに関しても「これが夏の魔物です!」っていう真価を問われる年だと思うから、原点に帰って1からやっていきたいなって。
自分が引っ張ってやっていきたい
──解散した後のことは決めているんですか?
成田:4月からもうライヴをやりますよ。すぐにアルバムを作ってリリースして、フェスに向かっていきたい。
──ちょっと待って! ちゃんとリセットはできているんですか? バンドが解散した後って、ちょっと充電期間があって始まるじゃないですか。
成田:キャリアの中で作ってきた曲で、この先やっていきたい曲がはっきりしているんですよ。簡単に言えば、俺が思う音楽をやりたい。いまは、SILLYTHINGの時に弾いてたベースのazuちゃんって子と、自分より年下のドラムの吉田くんとスタジオに入っていて。ギターは今探しているんですけど、本当に1からやっている。もちろんメンバーによってライヴに出れない日もあるだろうから、違う人ともやるし、その時にやりたいことをやりたいメンバーでやる、みたいな。
──固定のこの4人とかそういうことじゃなくて、流動的なメンバーだと。
成田:そうです。メンバーは俺だけですが、サポートっていう概念ではなくて、みんなはライヴ・メンバー。急にまた昔のような作風をやりたい時も来るかもしれないし、そこは分からない。今考えているのは、高域の派手な作り物の曲は疲れたんでやりたくないのと、普通のバンドサウンドだけを追求する金太郎飴みたいなのも自分に合わないので、もっと自由に、音楽を作ろうっていうこと。SILLYTHINGを立ち上げた時もそういうスタジオワークでしかできないことを求めていたけど、やっていくうちに生っぽくなっていったんです。そこからライヴに合わせて、誰が来てもいい入れ物を作っていったのがよくなかったんだなと思って。
──それこそヴォーカルが複数人いたのが夏の魔物の特徴でしたけど、アントンさんとかるびいちゃんは新バンドで歌うのかどうかとか気になります。
成田:アントンさんとるびいは、そのまま歌ってくれると思います。あとは、福ちゃん(トランザム★ヒロシ)が来れる時には来るっていう。基本的にはこの4人かなって。
──成田くんもいない日もあるかもしれない?
成田:かもしれないですね(笑)。なので、自分がリードを歌わない曲も作りたいし、実際、今作っているんですよ。SILLYTHINGのときみたいにデモを作りたいんだけどって伝えて、azuちゃんにデモを作ってもらっている。例えば、俺のキーのマッチングでこういう風にアレンジしたいっていうことを喋って。デモが上がってきたときは感動しましたね。これが普通のバンド活動なのでは? って(笑)。
──新バンドでは、新曲を作って歌っていくんですか?
成田:再録もバンバンしますよ。自分のキャリアでやってきた曲でも、これから歌い続けたい曲もはっきりしているので。作品上で完成しているものもあるし、もっとエッジが立った感じでやりたいっていうのもあるので。2枚同発にしたい。
──GOING STEADYを解散したあとの銀杏BOYZも最初2枚アルバムを出しましたしね。
成田:そうそう、Theピーズも2枚じゃないですか。今までは深く考えずに録り直していたけど、今はスタジオに入って違うものを作ろうっていうところから始まっている。例えば男女で歌っていた曲を僕1本で歌ったり。もし解散せずに地続きでそういう試みをやったら、今までの活動は何だったのかわからないだろうし、ちゃんとやりたいことも伝わらないと思って。これまでの魔物が好きでいてくれる人もいるだろうけど。
──フェスはどうしようと考えているんですか?
成田:負債を返すためにフェスも頑張るってことを決めたので。自分の目が全部に届く範囲でお客さんが楽しんでもらえるような環境を作りたい。納得のいくものをやるっていう点ではバンドと一緒です。
──30年後くらいに夏の魔物のフェスの裏側を暴露した本を作りたいですよね。実はあの時こうだったみたいな。
成田:楽しいですか、それ(笑)。
──いろいろ表に出せないことばっかじゃないですか。夏の魔物というフェスの裏側で起こっていたことはいつか語ってほしいです。
成田:本当に言いたいのは、変わったことをしに来る場所じゃないってこと。純粋に今熱があるものを見せたくてブッキングしているのに、変なことをしてやろうって人が多くて。もちろんその気持ちも分からなくはないですよ。だからといって無法地帯っていうのは違う。
──新しいバンドの目標というか、どんなバンドにしていきたいと思いますか?
成田:バンドは固くやってライヴを続けていきたい。1万人規模にしたいとかもないです。来てくれたら嬉しいけど(笑)。
──そのためには、成田くんがフロントマンとして腰を据えてしっかりやる必要があると思いますよ。
成田:バンドもフェスも、リーダーシップをとるって何回も言っているんですけど、やれていなかった。でも最近は自分がやるしかないんだなと思っていて。俺のやりたいことをはっきりさせなかったことで変な誤解をされてきた。だったら、ちゃんと責任を持ってやった方がいいなって。先輩に頼ったり、いろんな人に助けられて今があるんですけど、それに頼りきりじゃなく俺自身が引っ張ってやっていきたいです。
・THE 夏の魔物 オフィシャル・ウェブサイト
http://thenatsunomamono.com/
・夏の魔物フェスホームページ
http://natsunomamono.com/
・リリース消滅、大内雷電の脱退発言、バンド最大のピンチ──THE 夏の魔物、約1年を赤裸々に語り尽す
https://storywriter.tokyo/2018/07/25/0288/