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【対談】坂本慎太郎と語るクリトリック・リスが日比谷野音ワンマンまで絶対にしないといけないこと

StoryWriter

2019年4月20日、今年50歳を迎えるパンツ一丁のスギムによる音楽ユニット、クリトリック・リスが、日比谷野音でのワンマンライヴに臨む。サラリーマンをしていた36歳のとき、行きつけのバーの常連客たちと酔った勢いでバンドを組んだものの、初ライヴ当日に他のメンバー全員がドタキャン。やけくそでリズムマシーンに合わせてパンツ一丁で行った即興ソロ・パフォーマンスが〈笑えるけど泣ける〉と話題になり、活動を開始…… そこから14年間、会社も辞めて全国を巡りライヴを行ってきた男の一世一代の大勝負が行われる。

いよいよ開催まで2週間を切った今、坂本慎太郎との居酒屋での対談をお届けしたい。なぜこの2人が? と思うのは当然のこと。かつてスギムが書いていたブログに、ちょくちょく坂本が登場して一緒に酒を酌み交わしていることがあった。話を訊けば、オシリペンペンズをきっかけに出会い、スギムが勝手に写真を撮ってアップしていたという……。そんなめちゃくちゃなきっかけにも関わらず、今回の対談を快く快諾してくれ、対談後は終電まで一緒に酒を交わし、帰り道ここには書けない野音での演出アイデアまで出してくれた。

日比谷野音は来年、オリンピックイヤーということもあり、ほとんど使用することができない。平成も終わろうとしている4月20日、パンツ一丁というまさに裸一貫で3000人キャパのステージに立つ。果たして伝説は生まれるのか? ……と大きなことを語ったものの、対談は思わぬ心配事へと行き着くことに。いろんな意味で4月20日はなにが起こるのか。その答えは現場にある。

インタヴュー&文:西澤裕郎
写真:RYUTARO SAITO


坂本慎太郎

1989年、ロックバンド、ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。
2010年ゆらゆら帝国解散後、2011年に自身のレーベル、”zelone records”にてソロ活動をスタート。
今までに3枚のソロ・アルバム、1枚のシングル、6枚の7inch vinylを発表。
NYの”Other Music Recording Co.から、1stアルバム『How To Live With A Phantom (2011)』と2ndアルバム『Let’s Dance Raw (2014)』、”Mesh-Key Records”から3rdアルバム『Love If Possible (2016)』をUS/EU/UKでフィジカルリリース。
2014年には、Mayer Hawthorneとのスプリット7inch vinylが、全米/全欧のRecord StoreDayでリリースされる(zelone/Republic)。
2017年、ドイツ・ケルンで開催された「WEEK-END Festival #7」にて初のソロライブで出演。
Devendra Banhartとのスプリット7inch vinyl『Another Planet』 (独Slow Boy Records) をリリース。
2018年、9月に中国ツアー(北京 / 杭州 / 深圳)。11月にオランダ ”LE GUESS WHO?”、ロンドン単独公演、そして12月にメキシコ・アカプルコでの”Festival Trópico 2018”に出演。 
2019年、サンパウロのO Ternoの新作「atrás/além」に1曲参加。 
様々なアーチストへの楽曲提供、アートワーク提供他、活動は多岐に渡る。

Official HP


パパラッチみたいに勝手に撮って載せていたんですよ

──本日はよろしくおねがいします! 対談の進行をさせていただく西澤と申します。クリトリック・リスの自伝本を作るために独立して会社を作ったんですけど、50歳の記念で野音ワンマンをやりたいという話が取材の中で出てきて。野音使用権の抽選に応募したら当選して、そこからいろいろ手伝っています。

坂本慎太郎(以下、坂本):自伝を作るために会社を辞めて起業するってすごいじゃないですか。

スギム:一昨年の12月くらいに、久しぶりに西澤くんと飲む機会があって。野音を使用するための抽選は法人名義じゃないとできないので西澤くんに行ってもらったら、400倍近い倍率やのに一発で当たって。50歳を前にした僕にとっての一大イベントなので、クリトリック・リスを知らなかった人たちにも知ってもらえるようにと、この間アルバムもリリースしたんですけど、そのプロモーションまで手伝ってもらってて。仕事じゃなくて、ボランティアなんですよね。

坂本:(クリトリック・リスは)メジャー・デビューしたでしょ? 今作はまた違うの? 流れでずっとメジャーでやっているんだと思っていた。

スギム:いや、違うんです。今回のアルバムは完全に自主で作ったんですよ。野音も、アルバムも、西澤くんを含め4人でチームを組んでて、全部自分たちでやってます。僕は野音でゆらゆら帝国を見たことあるんですよ。初めてゆら帝を観たのは多分1999年やと思います。

 

坂本:東京で? 大阪で?

スギム:大阪です。その頃から、ゆら帝と坂本さんを追っかけさせてもらっているので、今日はいろいろご意見を聞かせてもらえたらなって。

坂本:ご意見は特にないと思うんですけど(笑)。どうですか? チケットの売れ行きは?

スギム:最初告知した時、800人ぐらい先行で申し込んでくれたんですよ。でも800人全員が入金してくれた訳でもなくて……。そこから手売りやプレイガイドで、今1000枚ちょっとですね。3000人キャパなんですけど、僕の周りの親しい人たちがまだ全然買うてくれてないですね……。

坂本:当日ふらっと来る人が多いんじゃない? 前売りを買う習慣がないでしょ、みんな。

──たしかに直前でチケット買ってくれる人は多いと思うんですけど、スギムさんが自腹で制作費を出しているので、心配で……。この対談が意外だと思う読者の方もいると思うんですけど、昔スギムさんがやっていたブログに坂本さんと飲んでいる姿が何回か出てきていましたよね。付き合い自体は長いんですよね。

スギム:それね、俺、勝手にやっていたんですよ(笑)。

坂本:そう。最初はパパラッチみたいに勝手に撮って載せていたんですよ。だから、めちゃくちゃ警戒していて。打ち上げとかに来たら、絶対写真撮らないように何度も言って。

スギム:坂本さんを好きな衝動が失礼な行動に向かっていっちゃっていたんです。ギラギラしていたんですよ。あの頃は(笑)。

坂本:ブログを見る分にはおもしろいんだけど、登場するのはちょっと(笑)。

スギム:肖像権とか無視してガンガン載せていたので。

坂本:あれで大阪のアンダーグラウンド・シーンのこと学んだんだけどね。ほとんど知らない人だったけど(笑)。

アシッド・ハウスみたいな感じ、あるじゃん

──どのタイミングで2人の接点が生まれたんですか?

スギム:ゆらゆら帝国がリキッドルームでやったライヴのオープニングアクトに、オシリペンペンズが出た時があったんですよ。その時、(石井)モタコから中打ちに来ないですか? って誘ってもらって。初めて生の坂本さんに挨拶をさせてもらいました。

坂本:「UFOクラブでサイケやってます」って言ってきたのは覚えているよ。

スギム:僕が自分のことをサイケって(笑)? それはまたかなり尖っていましたね……。覚えてない(笑)。坂本さんの気を引こうと思って、若かりし頃の俺がそういう言い方をしたんでしょうね。ベロベロの状態で。

──まさかパンツ一丁でライヴをしているとは想像できないですよね。

坂本:そのあとライヴも何回か観ましたよ。UFOクラブとかで。

──印象っていかがでしたか?

坂本:意外とちゃんとしているっていうか。最初がブログの人っていう認識だったから。ブログが酷いでしょ?

──男の全裸写真がいっぱい出てきましたからね(笑)。

坂本:そっちが最初だったんだけど、ライヴはオケとかちゃんとしているし、格好よくて。

スギム:それはないでしょ(笑)。誰にも言われたことないですよ。オケがかっこいいっていう評価は誰からもされていないです(笑)。

坂本:なんかアシッド・ハウスみたいな感じ、あるじゃん。

スギム:TB-303に似た音を使った曲とかあります。

坂本:ね。よく言ったらアシッド・ハウスみたいな感じだったよね。

スギム:当時、玄人の人に認められたいためにそういうトラックを作っていたんですよ。

──たしかに、The Clashの楽曲をサンプリングしてトラックにしていたり、割と音楽的な人なのかなって印象もありました。

坂本:ちゃんと考えられているというか、めちゃくちゃじゃなくて一応計算されているから、ちゃんとした人なんだろうなって思ったり。

スギム:ちゃんとした音楽を作りたかったんですけど、できなかったんですよね。僕の生まれた関西シーンは、音楽をやりたての人たちでもいきなり山本精一さんと対バンできるような環境だったんですよ。テクニックや音楽のスキルでは勝てないので、ハプニングを起こしたりする。でも山本さんもスカムの人なので、その上を超えてくる。そういうところで認めてもらいたいって気持ちでやっていたんです。

坂本:昔から大阪にはそういう歴史が面々とありますもんね。今もあるのかな?

スギム:今は全然ないです。ライヴハウス自体にハプニングを起こしたりとか、音楽以外の何か、キャラクターとかで勝負するみたいな文化はもうないですね。

坂本:大阪のバンドと対バンすると、なんか普通にやっていたらダメな気がしてくるけどね(笑)。みんななんかするでしょ? 突飛なこと。音楽だけやっていると、なんかダメな気がするというか。

スギム:そうですね。武器が音楽だけじゃなくて、別の何かでも戦えるシーンやったんです。オシリペンペンズとかは音楽的にも成立はしとったんですけど、音楽で勝てないなら何か爪痕を残していこうって。当時はそっちの人間も多かったですね。

坂本:それはもう今の大阪に受け継がれていない?

スギム:それをやるとTwitterで炎上しちゃうんですよね。裸になったりゲロ吐いたり、しょんべんをしたりっていうのが、その場にいない人から批判が来る。全裸自体、ライヴハウスって普通にあったのに、ライヴハウスに警察が来たりするんですよ。Twitterで流れたりすると。だからライヴハウスでほとんどハプニングは起こらなくなっちゃいましたね。

坂本:でも平和なのもあったじゃない? ご飯を炊いたりとか。

スギム:ありましたね(笑)。

坂本:鍋をしたり。

スギム:掃除するだけのライブとか。そういうのはインスタ映えしないと思うんですよ(笑)。

「夜行性の生き物三匹」を参考にしたんですよ

坂本:そういう感じなんだ。あと、アイドルとかと対バンしたりしているんでしょ?

スギム:めっちゃ多いわけではないんですけどね。増えましたね。ドルオタって祭りみたいな一体感を求めるんですよ。今まで祭りみたいな曲は作ったことがなかったし、作ろうとも思っていなかったんですけど、今回のアルバムには祭りの要素を入れました。それは「夜行性の生き物三匹」を参考にしたんですよ。

 

坂本:ほんとに?

スギム:2拍子を。

坂本:あれ2拍子なの?

スギム:2拍子じゃないんですか?

坂本:あれ、2拍子って言うのかなあ。

スギム:阿波おどりのリズムって2拍子らしいんですよ。

坂本:あ、そうなんだ。アイドルのファンたちにどういう受け入れられ方してるんですか? クリトリック・リスは。

スギム:始めの頃はクリトリック・リスって名前が卑猥だと捉えられて、近づくなって感じやったんですよ。楽屋でも「あいつに近づけるな」って。

坂本:でしょうなあ。

スギム:でしょうなあ、じゃないですけど(笑)。ちょっと大きなフェスで対バンをした時、有名なアイドルグループの子にマイクを向けて「クリトリック・リスって言ってみてよ?」って言ったことが炎上したんですよ。許さんみたいな。

坂本:殺すみたいな?

スギム:殺すまでは言われてないですけど(笑)。割と怒られたんですよ。でも、それから何年か経って、僕もほんまの変態やないし、アイドルに危害を加えないってことが分かってもらえてからは、逆にアイドル現場を卒業したり推しを失ったオタクがクリトリック・リスに流れて来るようになって。

坂本:金脈掘っちゃったみたいな?

スギム:そう。だからというか、酔っぱらいのお客さんも多いですね。

坂本:すごいところを見つけましたね。それは自分からアピールした訳? アイドルファンに嫌われないように。

スギム:いや、逆にアイドルオタクをディスるような曲を作ったりしたんですけど、それすら受け入れられちゃって。若いお客さんってお金を持ってないじゃないですか。逆にアイドルオタクって僕らぐらいの50歳とかの人も多くて暇とお金を持っているし、お客同士の結束が強くて集客に繋がるんですよね。バンドが好きな若いお客さんも来るんだけど、現場でのアイドルオタクの主張が強いので、目立っちゃって。

坂本:同世代のおじさんってことでしょ?

スギム:そうです。裸の禿げたおっさんを、40代、50代のおっさんが観に来るんですよ(笑)。そういう日ばっかりじゃないんですけどね。

──最初、野音のチケットもホームページ先行で受け付けたんですけど、「来年まで生きていたら行きます」ってコメントが多くて。

坂本:命がけなんですね。

スギム:命がけ(笑)。

坂本:そういう人が集結する訳ね。

野音だったら行きたいなっていうのもある

スギム:今のところ、2部構成にしようと思っているんですよ。座席指定になっているので、いつもは束になって群れている人たちが点在している状態。

坂本:一緒になると何かやばいことが起こっちゃうの?

スギム:1部が終わって休憩で知り合い同士が顔を合わせると、空いたスペースに群がって、2部からはみんな酒盛りして音楽なんて聞かないかも(笑)。

坂本:円陣を組んだり?

スギム:円陣はわからないですけど(笑)。

──僕もゆらゆら帝国の野音を観に行った時、友だち同士でお酒を飲みながら、気持ちよく観ていたから、ある程度その自由度はあった方がいいと思いつつ、クリトリック・リスのファンがどういう行動を起こすかはわからなくて。

坂本:全裸になるとか?

スギム:全裸っていう可能性は……。

坂本:全裸はまずいの?

スギム:全裸はまずいっすね。

坂本:放送しなければいいんじゃないの?

スギム:ライヴハウスやったら進行を乱すお客がいたら、ステージから降りて行って、直接怒るんですけど、野音はステージから降りれないんで、僕が遠くから注意しても言う事を聞いてくれるかどうか。

坂本:ほら、警備団雇わないと。

スギム:野音自体も自主でやるんですけど、警備員とかそういうことに関しては外部のちゃんとした制作チームを雇うので、安全面は問題ないと思うんですけどね。

 

──野音って結構ステージ広いじゃないですか。そこに1人で立つことのハードルが高いのかなと思うんですけど、坂本さんが野音に立たれたときも、普段のライヴとは違って、野音って特別感みたいなものを感じたりしたんですか。

坂本:それはありましたね。僕も、自分がバンドをやる前にお客さんとして野音にライヴを見に行っていたから、まさか自分がここでやれるとは思っていなかったし、初めてやった時はすごく感動しましたけどね。

スギム:僕もライヴハウスの最高峰と思っているんですよ。個人的な感覚で言うと、野音は今まで多くのミュージシャンたちが伝説を作って来たライヴハウスっていう感覚。

坂本:なんかわからないけどいいんだよね。観に行く側からしても、野音だったら行きたいなっていうのもあるし。特別な感じがありますね。

──実際、普段のライヴとは違う臨み方をされていたんですか?

坂本:それは特にないですけど、野外だから明るい時間にいい感じで始まって、夕方ぐらいこうなってっていうことを想像して、日の入り時間を調べて計算したりしたことはあるかな。ちょうどこの曲あたりで暗くなるとか。

プロの意見をあえて聞かずに自分でやれることを信じて作ろうと思った

──さっきスギムさんのブログを通して大阪シーンを知られてたっていう話が出ましたけど、それこそ音楽以外のカルチャーを坂本さんはどう捉えて、どういう気持ちで見てたのかも気になります。

坂本:ただ見ていただけですよ(笑)。

──坂本さんが作られるものは、音楽的に素晴らしいじゃないですか。それ以外のアティチュードみたいなものをどれくらい重要視されているのかなって。

坂本:あー。もちろん重要視しているんですけど、ロックだからとかパンクだからとか、そういう一言で言える感じじゃなくて。個人個人から感じるもので見ているかもしれないですね。こいつはチャラいとか、通だとか。

スギム:坂本さんは絵も描くし、トータルで表現をしようとしているじゃないですか。関西の人らは、割と音楽以外の別の部分も自分らで手を出して、トータルで自分をアピールしようとしている人は多いから、そこは共通するのかなって。

坂本:やっぱり顔とか佇まいとか、ちょっと喋った時の感触とか、そういう部分はすごく関係していると思うけど。顔が良ければいいって訳じゃなくて、いい感じの雰囲気ってあるじゃないですか? そこがおもしろくて興味を持ったり、もしくはこういうようなのは違うって思ったりと。そういうのはありますよ。

スギム:坂本さんが誰かを拒否したり受け入れないとか、そういうところは見たことがないですね。

坂本:俺は敏感に察知して、ダメだったらスッとそこからいなくなるから。

──スギムさんは活動を始める前から、ゆらゆら帝国を聴いていたわけで、こうやって対談していただけることはすごく大きい出来事なんじゃないですか?

スギム:それはもちろんそうですね。クリトリック・リスは、自分の聴いてきた音楽がアウトプットできないんですよね。10何年やっているんですけど。

坂本:例えば、どういう音楽を聴いてきたの? パンクとか?

スギム:パンクも聴いてきたし、サイケとかテクノとかも聴いてきたんですけど、それをアウトプットできないんですよ。自分でパソコンを使って曲を作っているけど、未だにコードとかも理解できていない。

坂本:いいんじゃないですか、それで。

──前、スギムさんのお家に伺ったら、壁一面CDがぶわーって並んでいて。音楽リスナーとして、本当にいろいろ聴いているんですよね。

坂本:読んだよブログで。服を買いに行ったら、革ジャンを売ってもらえなくて、その金でCD買え! って言われたって話。すごくいい話だよね。

スギム:初期パンクの服を「お前には着る資格がない」って言われて買えなかったんです(笑)。中身が伴ってなかったんですね。今は作る際に音としてアウトプットができてないっていうそういうもどかしさの方。10年ギターとか弾き続けたらめちゃくちゃ上手くなると思うんですよね。

坂本:弾いてないからじゃない?

スギム:それはそうです。ギターはやろうとは思っていないですから(笑)。Macに入っていたフリーのガレージバンドでなんとなく作り始めたんですけど、未だにガレージバンドで、しかも使いこなせてない。

 

坂本:ライヴが忙しすぎるんじゃない? 制作に当てる時間がない。

スギム:正直言うと、曲づくりもあまり好きじゃないんです。ライヴで同じ曲を繰り返すのに飽きてきて、新しい曲が欲しいなと思ったとき作るんですよね。

坂本:家に帰らないんでしょ? ほとんど。

スギム:意外と帰っています。ほんまに自分が作らなあかんって追い込まないと、作らないですね。坂本さんはどういうスタンスで作りますか? 曲作り。

坂本:最近ライヴを始めちゃったから、全然作る暇がないですね。練習しなくちゃいけなくて。ライヴをしてない時は全部時間を曲作りにかけられたから、結構じっくりできたけど。

──それこそイラストとかMVも作られたり、かなり制作に時間を費やされていましたけど、ライヴが始まってくるとバランスがまたちょっと変わってきたと。

坂本:練習したり、アレンジを考えたりすると、作業も中断するし、1ヶ月間、それだけ朝から晩までやってればいいっていう状況じゃなくなってくるから。

──朝から晩まで制作できる時間っていうのは心地いい時間だったんですね。

坂本:かなり贅沢な環境だとは思います。没頭できている時は一番楽しいですよね。何も思い浮かばない時はダメだけど。

──それこそスギムさんは逆で、基本にライヴがあって、アルバム制作は一気にそこで集中しましたもんね。ミックスも2ヶ月くらいかけて。

スギム:前回はメジャーに作ってもらった感があって。プロのミキサーの人や環境を与えてもらったんですけど、今回は僕自身がコントールできる人を集めて作ったんですよ。前はガレージバンドで作ったちゃっちい音でも、プロのエンジニアさんがめちゃめちゃ抜けのいい音に仕上げてくれたんですよ。そういうのは身の丈に合うてないなと思った。前回は前回で良かったんですけど、今回はあえてローファイ宅録感を出したくって、そういうところを目指して作りましたね。

坂本:今は機材もいいから、なかなかそういうの出ないんじゃないの? 素人が作っても結構なクオリティになっちゃうんじゃない?

スギム:そうなんですよね。

坂本:昔は宅録って言ったら、もろ宅録の音だったけど、今はもうね。

スギム:録音とかミックスとか、分からんなりの強さってあるじゃないですか?シャグスみたいに、意識していないのに作り方が分からん中、みんなに愛される盤ができたみたいなところに踏み入りたいっていうか。プロの意見をあえて聞かずに自分でやれることを信じて作ろうと思ったんです。

僕のライブで流す音源、全部mp3なんですよ……

坂本:野音は、オケを出して歌うんでしょ?

スギム:はい。

坂本:でかい会場だから、軽い感じになっちゃう可能性あるよ。

スギム:粗が出るってことですか?

坂本:そう。mp3とかを野音ででかい音にすると、たぶん聴けないと思うよ。

スギム:そこは全部作り直さないといけないかもしれないですね。僕が使ってるオケを流す機材が2GBしか入らないんですよ。

坂本:ちっちゃい箱でちっちゃいスピーカーでやっている分には気付かないけど、でかいところでシステムで出した時にmp3だとなあ……。

スギム:僕のライブで流す音源、全部mp3なんですよ……(笑) 。

──CDで出しているわけですし、WAVデータはありますよね?

スギム:曲をWAVで書き出すと、2GBでは入らないんですよ。パソコン作業を軽くしたいからmp3で録った音源を使って作った曲もある。

坂本:そこ、なんとかならないんですか(笑)?

スギム:そこを求められてないと思うんですよ、クリトリック・リスは(笑)。

坂本:そうなの?

スギム:音圧とか。

──でも、さすがに野音でmp3は前代未聞な感じがしますけど……。聴くに耐えないかもしれないですし。

スギム:そうですね…… そこはなんとかしないとね。

坂本:そこがこだわりなんだったら別だけどね。

スギム:正直、僕もそこらへんの音の差が分からなかったんですよ。たまにシャリシャリとか、ほわんほわんなっているのを感じる時があるんです。ええ環境で聴くと。やっとmp3のちゃちさっていうのが分かって来たんですよね。

坂本:高音がキンキンしていてきついみたいな。そういうのは家でちっちゃいスピーカーで自分で聴いても分からないじゃないですか。大きいところで音量上げると、下が全部繋がっちゃっていて、ハウっちゃったっていうのもあるでしょ。

スギム:たしかに、オケはステレオのツーミックスになっちゃってるから、そこはちゃんとしとった方がいいですね。

坂本:全部作り直した方がいいんじゃない?

スギム:今回、アルバムを作るお金がなかったのでクラウドファンディングをしたんですよ。そのリターンの制作や発送作業ばっかりしてて音楽作業にシフトできる時間がなかったんですよ。

やっぱ音質だよ、音質

──今の話を聞いたら音源制作を優先した方がいいんじゃないんですかね。

坂本:いや、わかんない。いいのかも。

スギム:いや、そこはなんとかします(笑)。みんなから特別なことするの? バンドやるの? ってことを言われるんですよ。あえて僕は1人でステージに立つことを考えていて。多少なんらかの要素は入れるけど、基本オケで歌う僕のスタイルで考えています。1個アイデアがあって曲ごとにゲストを呼び込んで僕のMTRのボタンを押してもらおうかなって。そこ、坂本さん候補に入っていますんで(笑)。

坂本:え、もう1回言って。

スギム:僕が曲を始める前に毎回ゲストに出てきてもらってプレイボタンを押してもらう。

坂本:ボタンを押す人?

スギム:ボタンを押す人です(笑)。そして曲が始まる。

坂本:もっといい人いるでしょ。

スギム:そういうことぐらいしか考えていないんですよ。

坂本:ライヴ前に曲順は組んでいくの?

スギム:ある程度組みますけど、なにかあった時にジョグダイヤルで別の曲を出せるようなデータの作り方をしています。もし曲が合わないなと思ったら、ジョグダイヤルを回して2、300曲の中から10秒以内には出せるようにしているんですよ。

坂本:どれくらいのランクのmp3に入れてるのそれ。

スギム:2GBで、200曲くらい入るんで、相当ぺらぺらやと思いますよ。

坂本:128kbpsとか。

──128kbpsで野音は結構やばそうですよね。せめて320kbpsとかじゃないと。そういう問題でもないか……。

坂本:パソコンにオリジナルがあるんでしょ?

スギム:あります、あります。

坂本:それがあれば簡単だよ。もっと容量が多いプレイヤーも今安いでしょ。

スギム:今のやつってジョグダイヤルが付いてなくて、液晶画面で操作なんですよ。

坂本:それ重要なの? 俺の使っているハードディスク・レコーダー貸すよ。カードを替えたら容量大きくなるし。

スギム:自分に合う機材をずーっと15年くらい探し続けていて、使いやすさで言うと未だに今のに変わるものがないんですよね。

坂本:絶対mp3は辞めた方がいいと思うけど。mp3の酷さってさ、派手な酷さじゃなくて、なんか心地悪いって感じで、純粋に耳が痛いとかね。

スギム:10年近く前、1回ミドリのクロージングアクトで野音に出ているんですよね。その時は全然そういうことも意識もしてなかったし、せいぜい20分とかの時間やったけど、今回2時間ぐらいやるつもりなので、耳が痛いからってお客さんが帰るのは嫌ですね。

坂本:DJみたいな人に頼めば? CDに焼いて1曲ずつ進行に合わせて出してもらって。そしたら出音も、調節できるしさ、トラックによってバラバラでも外で整えたりできるから。もしくは手元にCDJをステージに置いてさ。覚えてさ。

スギム:やってみますか、それは(笑)。坂本さんはDJとかやられているから、そのへん詳しいのかもしれないですけども、俺、今からCDJ使えるかな。

──今回の野音は、いろんな人が応援コメントや注目をしてくれているんですけど、クリトリック・リスが野音に立つ上で、坂本さんが期待していることってありますか?

坂本:やっぱ音質だよ、音質。あそこはほんと音質が重要だから。天気が良くて、昼からビール飲んで、気持ちいいなっていう時にさ、シャカシャカシャカシャカって音だと、酒も進まないじゃないですか。

スギム:ほんまにWAVで全部入れ直しますよ(笑)! CDJが使いこなせるかどうかは別として。最悪坂本さんにDJやってもらうしかないですね(笑)。

坂本:オケは作り直さなくてもいいけど、せめてWAVでやってほしい。当日聴き比べてみればいいじゃん。今までの2GBのやつと、WAVと外で出してさ。それでやっぱり俺はmp3の音の方がいいってことであれば仕方ないけど。

スギム:たぶん、2GBあればWAV音源が1時間以上は入るんですよ。2部構成にするから、やれると思う。メモリーカードを入れ直す事が。

坂本:大きい会場になればなるほど、差ってすごいはっきり出てくると思うんですよね。家で聴いている以上に。せっかくやるんだったら、もったいないじゃないですか。

スギム:ありがとうございます。そこは確実に変えていきますんで。ハイレゾでやりますから(笑)!

坂本:でも、元がmp3なんじゃないの?

スギム:そうやった(泣)! でも野音までになんとかします! 約束します。


クリトリック・リス生誕50thイベント

2019年4月20日(土)東京都 日比谷野外大音楽堂
料金:全席指定 3,000円
チケット:発売中
http://w.pia.jp/t/clitoricris-yaon/

・クリトリック・リス 日比谷野音特設 HP
https://clitoricris-yaon.site/

・クリトリック・リス 公式twitter
https://twitter.com/sugi_mu

クリトリック・リス『ENDLESS SCUMMER』再現ライブMD予約受付中!!

2月20日に渋谷LOFT9で開催したイベント「クリトリック・リス日比谷野音 決起集会Vol.3 〜新アルバム『ENDLESS SCUMME』発売記念〜」にて行なったアルバム『ENDLESS SCUMMER』再現ライブを収録したライブ音源。

観客を巻き込んだ熱いライブを、1枚1枚丹精こめてMDに手焼きでダビングして販売。なお、同音源のハイレゾデータがダウンロードできるダウンロードコードが付いてくる。

数量限定となっているので、気になる人は早めにご予約を。

予約ページはこちら

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