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【連載】「嬢と私」~キャバクラ放浪記編~ 第3回 港区新橋「S」の嬢(前編)

StoryWriter

サラリーマンの街、新橋。

私の人生とは決して交わることのない、背広を着た人々が行きかう街。夕暮れ迫る午後6時、私は新橋駅前のSL広場に佇んでいた。

キャバクラEDに悩む、私。千歳烏山、渋谷、歌舞伎町、新潟、経堂と、世界の車窓からキャバクラを周遊してきた結果、本当のことが何なのか、わからなくなってしまった。

キャバクラとは? 嬢とは? 答えはずっと奥の方。心のずっと奥の方。

しかし、諦めたらそこで試合終了。安西監督もそう言っていた。

「キャバクラが、したいです」

キャバクラ界の三井こと、アセロラ4000。嬢に逆転のスリーポイントを決めないことには、引退などできるわけがない。

そして私は今、新たな舞台を開拓するために、サラリーマンの聖地・新橋に降り立ったのだ。

近くで、テレビ局のクルーが街ゆく人を呼び止めてインタビューを行っている。若い女子に向けられたマイクには、「サンデージャポン」と書いてある。

にこやかに取材に応える、女子。年の頃は20半ば。近くの企業に勤めるOLだろうか。それとも、飲食店勤務のアルバイトだろうか。

いや。キャバ嬢の可能性も否定できない。だとしたら、なんという店なのか。料金設定はどうなっているのか。何という源氏名の嬢なのか。何カップなのか。知りたい、今すぐに。私は、無意識に取材クルーに近づいた。

「すみません、収録中なので」

女子に近づく5秒前。スタッフにたしなめられる、私。完全に、不審者扱い。この街では、正規雇用者以外は不審者だというのか。私が派遣登録社員だからなのか。

「やめてぇ〜」

私は、遠藤弁護士ばりに抵抗を試みるも、見るも無惨に駆逐された。

「俺はマスコミのおもちゃじゃない」

座右の銘としている千昌夫の名台詞を吐き捨て、その場を離れる私。時計の針は、すでに19時を指していた。

それにしても、腹が、減った。

私は、小諸そばで一杯のかけそばを食べると、しばし駅周辺をデューク更家ばりのウォーキングで練り歩いた。

さまざまな飲食店、風俗店が目を覚まし、新橋の夜に煌びやかな光を放ち出す。

「夢精でがんばるキミへエールを♪」

と書かれた風俗店の看板を一瞥する。私は、下ネタが、大嫌い。イノセントに、嬢とのアヴァンチュールを楽しみたいだけ。キャバクラを訪ねること。それはすなわち、私なりの『アナザースカイ』なのだ。

私は、しばし街を探索すると、ついに目的地を決めた。

雑居ビルの5階にあるキャバクラ「S」。

路上にある看板には、「20:00-21:00 60分 4,000円」と書いてある。しかも、サービス税込みでこの価格。なんという、低価格だろうか。歌舞伎町のキャバクラでは、1万円以下は通貨として認められていない(※アセロラ4000調べ)。4,000円では、入り口にすら立たせてもらえないだろう。

躊躇することなく、エレベーターのボタンを押す私。一見のキャバクラにも、余裕で足を踏み入れることができる、ライオンハート。

私は、キャバクラウォーカーとして、着実に成長している自分に、気付いた。

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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