【連載】「嬢と私」~キャバクラ放浪記編~ 第6回 町田「熟女キャバクラD」の嬢(前編)

「GWは旦那と、海外旅行でも行こうとおもってて~」

仕事の昼休み。そんな声が聞こえてきた。声の主は、結婚退職した川野マネージャーに代わりやってきた、生田マネージャー。

推定年齢40歳、意外とかわいらしい声。口元の色っぽいホクロ、そして巨乳。

おばさんなのにスタイル抜群で巨乳という、男性にとって1番やっかいなタイプ。そして、なぜか結構な頻度で、前傾姿勢で胸の谷間をチラ見せしてくる。

さっきだって、そうだった。電話口で対応に苦慮していたサカイくんをヘルプすべく、隣の席に座り、やけに接近して鼻先に胸元を寄せていく生田マネージャー。サカイくんの股間が大阪・天保山ばりに隆起していることが目視できた。

「ジョウジギ、グラジャマシガッダヨ」

ロリコンのエトウさんですら、正直うらやましいと言うほど、フェロモンを発散させている生田マネージャー。おかげで、昼休みの間トイレから出てこなかったサカイくんは、清々しい表情で戻ってくると、珍しい提案をしてきた。

「熟女キャバクラ、行きませんか?」

どうやら、生田マネージャーの色香に我慢ができなくなったらしい。さりとて、生田マネージャーは、人妻。その響きに、さらに股間を隆起させるサカイくん。まるで実写版『ジャングルの王者ターちゃん』のようだ。

「だから、かわりに熟女キャバクラを僕に、ください」

武田鉄矢ばりに、叫ぶサカイくん。「熟女キャバクラ」。さすがの私も、聞いたことは、ある。だがしかし。この1年でキャバクラ・ウォーカーとしてスキルアップを果たしてきた私には、もはや熟女キャバクラなど、眼中になかった。

20歳そこそこのピチピチギャルたちを相手にサバイバルしてきた私にとって、25歳以上のキャバ嬢は、定年レベル。そう、25歳になったらどんな人気選手もリングを降りねばならないという古き良き全日本女子プロレス伝統の掟と同じなのだ。

「10連休なんて、どうせやることないですよね? 行きましょうよ」

よりによって、GW熟女キャバクラツアーを企てるサカイくん。冗談じゃない。たしかに、10連休にやることなど、まったくない。しかし、ないがゆえに、世間との接触をすべて遮断して部屋にこもり、ファミスタ(’89 開幕版)に打ち込むつもりだったのだから。江川のカーブを、攻略したいのだ。

「だってこれ、見てくださいよ、綺麗な人多いんすよ」

スマホを私とエトウさんに見せるサカイくん。

映っていたのは、どう見ても40歳ぐらいの、嬢。いや、熟女キャバクラの嬢を、嬢と呼んで良いものか。私は悩んだ。嬢は嬢でも、熟した嬢。30代や40代の女性を、恋愛対象にしたくない私がいる。

私は、しばし検討させてもらうこととした。煮え切らない私に、苛立っている様子の、サカイくん。

「だって、アセさんってもう四捨五入したら50歳じゃないすか。熟女だって、ほぼ全員年下ですよ」

サカイくんの言葉が、私の心に突き刺さる。なんて、デリカシーのない、やつ。

私は、部屋を飛び出した。泣いていたのかも、しれない。気が付くと、自宅のベッドで横たわっていた。ふと、本棚に視線を向ける。そこには、ブックオフで50円で購入した「星の王子さま」があった。何気なく、パラパラめくってみる、私。ふと、ある言葉に目を止めた。

「いちばんたいせつなことは、目に見えない」

そうか。そうだったのか。つまり、40歳、50歳に見えても、そんなことはたいせつなことじゃない。仮にしわやシミが見えたとしても、目に見えているかぎり、逆にたいせつなことではないのだ。キャバクラという名の舞台に上がれば、すべての女性は嬢。熟女であろうと、19歳のギャルであろうと、たいせつなことは、嬢が嬢らしく生きられる社会。ありがとう、星の王子さま。良いことを言う。カレーの話じゃ、なかったのか。

私は、目を瞑り、熟女をイメージしてみた。

「やる気・元気・いわき」

ピンクのスーツに身を包んだ、元衆院議員・井脇ノブ子氏をイメージしてしまう、私。

いや、井脇嬢がいても、いい。ただしそれは、エトウさんに担当してもらおう。やはり私は、熟女であっても、美しい嬢と出会いたい。私がもっとも愛する熟女界のセンター、大地真央さまに似た嬢も、いるかもしれない。

そうだ、熟女キャバクラに、行こう。

私は意を決し、サカイくんにLINEメッセージを送った。私がキレたことで、きっと針のむしろのような心境だろう。自宅で塞ぎこんでいるに違いない。きっと、私サイドからの連絡に驚き、すぐに返事をしてくるはず。罪を憎んで人を憎まず。なんと寛大で人格者な、私。

1時間後、返事が、ない。

もしかしたら、私を傷つけてしまった後悔から、自ら命を絶ってしまった可能性もある。心配した私は、すぐに電話をかけた。しばらくコールした後、通話がつながった。

「なんすか? 今、熟女キャバクラ来てるんすよ」

私のことなどおかまいなしに、すでに熟女キャバクラへと足を踏み入れていた、サカイくん。そして裏切者・エトウさん。しかしどうせ、やる気・元気・いわきレベルの嬢と飲んでいるに違いない。

「は? いわきってなんすか。超美人ばっかですよ」

そんな、バカな。もしかして、大地真央さま(風の嬢)も、いるのだろうか。

「ああ~似てなくはないですよ。ていうか、超美人ばっかですよ」

リピートする、サカイくん。私は、靴下を履いた。

「来た方がいいすよ、町田まで。「ダイヤモンド」って店です」

まさかの、町田。東京だけど、東京じゃない感じの遠さの街、町田。

私は、靴を履き、ダッシュで家を出ると、小田急ロマンスカーに乗り、町田へと向かった。

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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