2019年8月31日と9月1日の2日間に渡って、沖縄県那覇市の桜坂劇場にて音楽カンファレンス〈Trans Asia Music Meeting 2019-Summer Edition-〉(以下:TAMM)が開催された。アジア諸国の音楽シーンにおいて海外へのアプローチが非常に強まって来ている現在、日本からアジアへ、アジアから日本へと、音楽に携わる業界人がそれぞれの事業や活動を互いに持ち寄ることで、新たなアプローチを考えたり問題意識を共有することを目的として行われている同イベント。今回も10名の登壇者を迎えて、 各セッション2人ずつ登壇し、各々の活動や事業を通しての認識を共有し合い、大変意義のあるイベントとなった。その様子の現地レポートをお届けする。
取材・文:エビナコウヘイ
写真:金 載弘 (Jae Hong Kim)
■DAY1
DAY1のSESSION1では、1人目に桜坂劇場の野田隆司が登壇して本イベントのガイドラインを説明。ワールドミュージックの一分野としての沖縄音楽を世界に発信するために、海外の音楽イベントに参加して沖縄音楽を紹介してきた経歴と、沖縄発でアジアの音楽ネットワークを築きたいという志の下、Music from Okinawaという事業を立ち上げた経緯を語った。一部アーティストの意識が海外に向いたことや、沖縄という地から音楽を発信している事実を海外の音楽関係者へ発信でき、海外フェスへ日本のバンドが招かれる機会が増えてきたという。
SESSION1の2人目は、齋藤幸平が「音楽産業都市・福岡のいま」をテーマに語った。アジアの玄関口としても知られる福岡からアジアと繋がっていこうとする音楽人が増えている現状を伝え、9月に毎週末開催される5つの音楽フェスをまとめてPRする〈Fukuoka Music Month〉のプロジェクトを紹介。今年で6年目となる本イベントでは「音楽都市・福岡」として全国やアジアに向けた情報発信を行って、都市のにぎわいを創出と音楽産業の振興を目指していると語る。その上で、今後はアーティストが活動しやすい音楽産業インフラ作りや国内外のプロモーションサポート、新たなご当地コンテンツの育成を目指すと語った。
SESSION2では、1人目に東京・青山月見ル君想フを経営しながら、「BIG ROMANTIC RECORDS」を立ち上げた寺尾ブッダが「中華圏マーケットアップデート」をテーマに台湾・中国で着実に増えてきた音楽フェスを紹介。数多くの日本のバンドを中国・台湾の音楽フェスへのブッキングを担当してきたなかで、フェスに参加しパフォーマンスを見た人の口コミで、他のイベントへの招聘が決まるという体験を話し、今後は日本の音楽のマーケットを中華圏へどんどん広めて日本のバンドをもっと紹介していきたい旨を伝えた。
SESSION2の2人目は東京・世田谷区にあるライヴハウスFEVERの店長、ブッキング担当の西村等が「FEVERは、いかにアジアを目指すのか」をテーマにトーク。タイ・バンコクで行なっている〈FEVER TOUR in Bangkok〉では自身で日本のバンドを率いて、現地のバンドとイベントをしているという。現地でライヴをする為に、バンドの海外遠征の費用をバックアップできる試みを行なったり、補助金の申請をするなど、ライヴハウスとしてアジアとの音楽の繋がりを強めてきている。ライヴハウスの人間が現地へ実際に足を運んで、広告や営業をしていける事例を作っていきたいと語った。
■DAY2
DAY2のSESSION3では、先ず「Tokyo International Music Market(以下:TIMM)の役割」のテーマで古市卓也が登壇。TIMMでは、アニソン歌手やアイドルなどジャンルの垣根なしに音楽コンテンツの振興と海外マーケットとの連携を図っていこうとするもので、海外からもアーティストを招いてショーケースを行なっている。その一方で個別商談会など確実にビジネスにも繋げる機会も創出しており、海外に向けた情報発信も行なっている。年々増加している海外からのバイヤー数などを元に、音楽コンテンツの海外展開には可能性が広がっているという意見を述べた。
同じくSESSION3では、続いて音楽プロデューサーの末﨑正展が登壇。音楽市場の媒体の変化と市場に着目し、日本ではサブスクリプション音楽サービスがまだ一歩遅れている点や、ストリーミングマーケットの中で世界で歌われ聞かれている言語比率データなど、配信音楽サービスに着目した論を展開。デジタル音楽サービスでは世界のボーダーレスで楽曲を届けられるメリットや現地との人的交流を図る必要性、エンゲージメントを増やすことで配信サービスの中でも安定した再生数を狙うことなどがアーティストに必要だと語り、もっと世界と繋がっていく為に鎖国を解いていくことが重要だと危機感を説いた。
SESSION4に入ると、石垣市役所観光文化課の傍ら、ラジオDJや音楽ライター、野外フェスの主催も行なっている宮良賢哉が登壇。伝統芸能や歌手を多く輩出している石垣市を、ユネスコが進めるプロジェクト「音楽創造都市」に選定される方向性を提示し、国際的な音楽文化プログラムを実施するなどの交流を通して、石垣市を音楽都市として世界にPRしていくアイランダーカルチャーを創出していくことを目指した。
続いて富山県南砺市在住で、2006年からワールドミュージック・フェスティバル〈スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド〉のプロデューサーを務めるNicolas Ribaletが登壇。世界ではワールドミュージックのジャンルとしての規模が大きく、ワールドミュージックだけのフェスもあるなど、各地の状況の紹介や自身の分析を会場に紹介。近年クオリティが上がってきているアジアの音楽をもっと誘致すると共に、海外のフェスに積極的にコンタクトをとったり、事前に英語での資料などを用意しておくことと、洗練された音楽クオリティが必要不可欠だと語った。
SESSION5では、福岡の商業施設「キャナルシティ博多」のイベントプロデューサーの松本一晃が登壇。2010年より福岡の音楽産業活性化を目的とした「FUKUOKA MUSIC FACTORY」、2017年より「ASIAN PICKS」を開始してアジアのアーティストの招聘や、音楽カンファレンスなどを行なっている。これからはK-POPを聴いて育った世代がアジアでも増えていく中で、日本の音楽市場の賞味期限が近づいてると警告し、今のうちにアジア音楽業界やアーティストとの積極的交流を図らなければ手遅れになると話した。その為に、ASIAN PICKSの中でBeyond ASIAという国境を超えたアジア面的共創戦略を展開し、音楽ネットワークの形成を進めていくという。
続けて、バンコク在住13年で自身もタイのインディーズバンドで活動しつつ、日本とタイの音楽交流活動「dessin the world」を行なっているginnが登壇。タイの国としての概況から、ライヴハウスは少ないものの大型音楽フェスが多いことなどインディーズ音楽シーンの特徴と状況を語った。加えて、バンコクから見たアジア各国の音楽シーンの概要という、現地在住ならではの視点も見せた。また、先の松本一晃と同様に、アジアの音楽シーンから日本が取り残されていく危機感を持つことを促し、この1、2年が日本音楽のアジア進出の賞味期限と断言。積極的な現地での活動を通してファンベースを構築しながら、信頼できる現地パートナーを探して双方向のやり取りをしながら、アジア音楽コミュニティーに参加することを語った。
最後のSESSION6では、沖縄のアイデンティティを受け継ぎ、業種も超えて21のアパレル・アクセサリーブランドが一同に集結するプロジェクト「APARTMENT OKINAWA」を発足させた伊是名淳と主催の野田隆司の対談形式でスタート。沖縄独自のアパレルを国内外へ発信していくことと日本とアジアを音楽で繋がっていくことなど共通点を見つけていく。音楽同様に危機感を感じている中で、沖縄のアイデンティティを重視して世に出していく「APARTMENT OKINAWA」と、海外を視野に入れる時に日本の音楽の良さを知ってもらおうとしていくべきという、イベント中に何度も取り上げられたテーマにも触れていき、ファッションと音楽は切っても切り離せない関係にあることを痛感させた。
最後は2日間の参加者が全員登壇し、改めて各々の持っている意見を述べていく。その中でも、アジア内でまだ日本の音楽をアピールしきれずK-POPなどに呑まれていっている現状への危機感を再確認し、アジア内で繋がっていくインディーズ音楽シーンの輪に日本も遅れず参加できるよう積極的に繋がっていくべきという意識を共有して、今回のイベントは幕を下ろした。
世界第2位の音楽市場規模を持つ日本とはいえ、年々その規模は縮小している現状がある。一方で、モノ消費からコト消費へと以降していく流れで、国内外で音楽フェスやイベントの機会もどんどん増えている。音楽配信サービスによって、世界中の音楽に容易に触れられるようになった現代でも、アーティストにとってライヴは一番の見せ場であり新規ファンの獲得の場でもあるはず。その機会を海外でも積極的に増やしていけるようにしながら、もっと広い視野で見据え、世界と音楽で繋がっていくべきではないだろうか。日本の音楽市場への危機感と可能性の視点を提示したイベントであった。
尚、次回の<Trans Asia Music Meeting 2020>は、2020年2月22日・23日、沖縄・桜坂劇場にて開催される。是非足を運んでみてはいかがだろうか。
■公演概要
〈Trans Asia Music Meeting 2019 – Summer Edition〉
〜トランス・アジア・ミュージック・ミーティング2019 サマー・エディション〜
日程:2019年8月31日(土)・2019年9月1日(日)
会場:沖縄県那覇市・桜坂劇場
登壇者(順不同)
・末﨑正展氏(fun and games合同会社 / プロデューサー)・古市卓也氏(Tokyo International Music Market)・松本一晃氏(Fukuoka Asian Picks)・斎藤幸平氏(Fukuoka Asian Picks)・宮良賢哉氏(石垣市観光文化課)・寺尾ブッダ氏(月見ル君想フ / 東京・台北)・Ginn氏(dessin the world / バンコク)・西村 等氏(LIVE HOUSE FEVER / 東京)・Nicolas Ribalet氏(Sukiyaki Meets The World / 富山)・野田隆司(Music from Okinawa / 沖縄)
プログラム:
◎テーマ:沖縄・日本からアジア・海外の音楽マーケットへのアプローチ
A面:プレゼンテーション
2019年8月31日(土)
Session1:野田隆司「Music from Okinawa アウトライン2019」
齋藤幸平氏「”Fukuoka Asian Picks”が目指すもの」
Session2:寺尾ブッダ氏「中華圏音楽マーケットアップデート」
西村 等氏「FEVERはいかにアジアを目指すのか」
2019年9月1日(日)
Session3:古市卓也氏「Tokyo International Music Marketの役割」
末﨑正展氏「海外マーケットへ日本からのストリーミング活用事例」
Session4:宮良賢哉氏「石垣市が”ユネスコ文化都市(音楽部門)”になるべき理由」
Nicolas Ribalet氏「沖縄音楽の海外ワールドミュージックマーケットでの可能性」
Session5:松本一晃氏「いかにフクオカはアジアと手を組むのか」
Ginn氏「バンコクから見たアジアの音楽シーン。そして今日本からやるべきこと」
B面:ディスカッション
Session6:「ジャンルを超えた、異業種との協働の可能性」
Session7:「まとめ・今、目指すべきゴール」
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