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【REPORT】手島将彦、モリッシー本著者 上村彰子を迎えミュージシャンとメンタルヘルスを語った夜

StoryWriter

音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦による書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』が、9月20日に発売。同書の出版を記念して、9月16日にROCK CAFE LOFTにてトークイベントが開催された。

本書は、カウンセリングやメンタルヘルスに関しての基本を語り、どうしたらアーティストや周りのスタッフが活動しやすい環境を作ることができるかを示す1冊。

イベントに出演したのは、著者の手島と『お騒がせモリッシーの人生講座』(イースト・プレス)の著者である上村彰子。本記事では、2人が音楽と社会構造との関係からメンタルヘルスに関する問題へと切り込んだ本イベントをレポートする。


なぜ音楽を好きでい続けられるのか

イベント開始前、会場では先行販売会が行われ、本を手に取りじっくりと読んでいるお客さんの姿も。中には、その内容について早くも議論をしているテーブルもあった。

イベントは、SW西澤と手島が本を出すことになった経緯を簡単に説明した後、上村を呼び込み暖かい拍手でスタート。30年ぶりに会うという2人は、実は大学時代のクラスメイト同士。長い年月を空けても、イベントでこうして再会する事ができるのは音楽の縁だからこそではないか、と2人は感慨深く話した。お互い、音楽好きは印象が変わらないということに関して上村は、「幼稚っていうか(笑)。常に熱き心を追いかけているからね」と笑った。

そしてトークは2人がどのような音楽を聴いてきたのかという話題へ。手島は、中学生の頃好きだったBOØWYから、SODOMなどのインダストリアルやポジパンなどのインディーズを聞くようになったという。会場では「TV Muder」が参考に流れ、手島含むお客さんも当時を懐かしんだ。

一方でパンクブームの中、高校生にしてthe 原爆オナニーズの追っかけをしていたという上村。しかし、バンドメンバーに「受かるまで来るな!」と言われた受験に向き合うようになったという驚きのエピソードを披露。パンクの本質は、ドロップアウトすることではなく自分の本分を全うする中で表現するものなんだというTAYLOW(Vo.)のメッセージが込められていたのではないかと当時を振り返り、筋が通っているからこそ、その時代のパンクロッカーは、今も壊れないで続けているのではないかと重ねて考察した。そこから、Joy Division、XTC、My Bloody Valentinなどを流しながら2人のルーツを語り合った。

なぜアーティストは壊れやすいのか?

第二部では、『なぜアーティストは壊れやすいのか?』と『お騒がせモリッシーの人生講座』の内容から、アーティストとメンタルヘルスの関係性について話し合った。XTCの「would tour no more」でステージを去るアンディ・パートリッジ(Vo.)、映画『Control』でJoy Divisionのイアン・カーティスが過度なストレスでステージに上がれないというシーンを導入に流しトークはスタート。

 

その2人を例に、ただでさえ敏感であったり鈍感な特徴を持っている事の多いアーティストは、常日頃様々なストレスにさらされていることが多く、それを理解した上でスタッフがしっかりと支えていかなければいけないのだと、自身もアーティストとして活動していた過去を振り返って手島は強調。

周りのスタッフは、「アーティストってそういうものだよ」と自覚なくとも考えていたり、精神的に壊れてしまったとしても「弱いな」と攻めてしまうなど、精神論を語ってしまう傾向にあるのだと言う。上村は、そこに学校の教育から真の多様性が尊重されない“押し付け”の文化が続いてきているのではないかと指摘し、「概念化してしまうと、言葉は上滑りしてしまう。その屍こそ、音楽にしろ教育にしろ見せないといけない」と語った。

書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか?』にも、そのような特徴を持っている人がなぜ壊れやすいのかという事を踏まえた上で、社会の構造に目を向けて、“なぜ壊されやすいのか”というところにメッセージが込められているのだという。

『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

そして、孤独のあり方は人それぞれだ、と手島は続ける。確かに、孤独を感じた体験が音楽制作の原点になることもあるが、一方で本人が望まない孤立は存在し、アーティストも産業の中で痛みを伴った孤立を感じているのかもしれないということに、気を配った方がいいのではないかと語った。

“逃げる”ことも一つの手段であり選択肢

続いてトークは、自己肯定感についての話題へ。手島は、「大事なことは、ダメな自分も受け入れるということ。自分自身を良いとか悪いとかではなく、“これが私”だと受け入れられるかどうか」と話す。肯定という強い言葉が何かに蓋をしてしまうと、どこかで歪みが生じてしまう。他人との比較は、優劣をつける為のものではなく、自分を受け入れる段階の一部になれば良いのではないだろうかと主張した。

中盤では、Metallicaの楽曲「Escape」を引用(日本語訳付き動画はこちら)。こんなにも武闘派で屈強な男も自分を表現する為に、戦いを宣言する一方で、“逃げる”ことも一つの手段、選択にしているところが興味深い。手島は、もし身近に相談できる人が居なかったら、家族万能主義に囚われず、柔軟にカウンセラーであったり専門家などに相談しに行ってみても良いのではないかと話した。

 

また、その解決方法も、これをやったら絶対に良くなるという方法はなく、千人いたら千通りの解決策があると強調。そこに共通する基本的な考えが広まれば良いのではないだろうか、と話した。筆者は手島の「藁にすがってもそれはいつか沈むんだ」という言葉が印象強く残った。

上村は、モリッシーの「Action Is My Middle Name」を流し、無理しすぎず心は健康に、Actionを起こしながら生きていくことが大事なのではないだろうか、と主張。やりたいことがわからないという若者には、「やりたいことなんてあんまない! 自分がこれなら輝けるなんてすぐない!」と強調しているという。だからこそActionし続ける事が大事なのではないだろうか。

最後は、質問会やサイン会で来場者1人1人と触れ合いイベントは終了。

メンタルヘルスの問題について苦しんでいる人が多く存在する以上、社会が変わっていくべきなのは明らかな事であるが、まずは基礎知識をつけて自分の考え方から変えていくことがその第一歩なのではないだろうか。

取材・文:横澤魁人

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・なぜアーティストは壊れやすいのか? 精神科医・本田秀夫と手島将彦が音楽業界を語る(Rolling Stone Japan)

・著者・手島将彦と考える、アーティストを取り巻くメンタル問題の未来(OTOTOY)


■イベント情報

〈『なぜアーティストは壊れやすいのか?』発売記念トークイベント〉

2019年9月16日(月)東京・ROCK CAFE LOFT
出演者:手島将彦、上村彰子

■書籍情報

手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)

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