2019年10月9日(水)、渋谷TSUTAYA O-EASTにて〈ハードコアチョコレートフェス -殺戮の20周年-〉が開催された。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。
TEXT BY 志村つくね
PHOTO BY カツミリナ
1999年の設立以来、映画、プロレス、アイドル、ゲーム等、多様なジャンルに渡って、個性が際立つデザインのTシャツを発表してきたアパレルブランド、ハードコアチョコレート。そんな“コアチョコ”の20周年を祝うべく集結したのは、ジャンルを超えて厳選されたバラエティ豊かなアーティスト。会場には思い思いのコアチョコTシャツに身を包んだオーディエンスが訪れ、濃い空気が立ちのぼっていた。
尚、当日は、フェス限定デザインや人気アイテムがお得な価格で購入できる物販も充実。湖池屋、TENGAによるイベントサンプリングも実施されるなど、音楽・お笑い・アパレルと全身で“コアチョコ”を感じられる趣向が盛り沢山だった。
午後5時40分頃、開演に先立ち、サブステージにて、この日の注意事項などを含んだ前説が始まる。司会の2人に促され、ハードコアチョコレート代表MUNE氏が舞台に現れると、コアチョコを立ち上げた当初の思い出話などを披露。そんな彼がせっかくの機会なのでとコアチョコゆかりの大量の地下芸人をステージに呼び込む。ずらりと並んだだけで強烈な絵面の彼らが一人ずつ自己紹介や一発芸を繰り出すと、観客はポカーンと口を開けたり、クスクス笑いを浮かべていた。あまりにもカオスなこの光景のなか、長州小力が登場。かの有名な「キレてないですよ!」のフレーズにフロアが沸く。ここまでわずか10分程度の出来事にもかかわらず、異常な情報量である。
グダグダなオープニングトークから一転、舞台はメインステージへと移行。午後6時にこのフェスのトップバッターを務めたのは、現在絶好調の5人組ガールズユニットBILLIE IDLEだ。1曲目の「be my boy」で軽快にフロアの熱気を上昇させると、口ずさみたくなるようなキャッチーな楽曲が連発される。パンク、ニューウェイヴ、テクノポップ由来の華やかさが心地よい。レベッカの「フレンズ」カバーで見せた切なさなどが印象的で、各メンバーの伸びやかな歌唱とダンスを観ているだけで甘酸っぱい気持ちになった。コアチョコユーザーとしても知られるファーストサマーウイカが「ゴリゴリのメンツのなか、呼んで頂けるのは嬉しいです。今日は新たな出会いや発見があったらと思います」と述べると、フロアからは温かい拍手が送られる。最後は「MY WAY」で手拍子に包まれながら爽快に締め括った。
ステージ転換の合間に、舞台は再びサブステージへと移る。この日は何組かの芸人の出演が事前告知されていたのだが、観客の目の前に突然現れたのは、猫ひろし。告知なしのシークレット芸人だ。いきなりフロアになだれ込み、「猫ひろし!」コールを強制するなど自由奔放。ここから舞台に戻り、“猫ひろしのギャグ100連発”を披露すると、場内には苦笑と爆笑の輪が広がっていく。ビミョーな空気を感じ取ったら、すぐさま「猫ひろし!」コールで盛り上げさせる手腕はさすがだ。
彼が疾風のように去ると、メインステージは準備完了。この日の2番手は、新アルバム『マリアンヌの奥儀』で魅せた新境地も好評、コアチョコモデル経験もあるマリアンヌ東雲率いるキノコホテルだ。妖しく派手な照明に照らされた艶めかしい4名が「ゴーゴー・キノコホテル」のショッキングなサウンドで早速観客の心を鷲掴み。エロスかぐわしい「有閑スキャンドール」などを織り込みつつ、「愛の泡」など『マリアンヌの奥儀』の楽曲を軸とした豊潤なグルーヴで観客を魅了する。身体を駆け抜けるような電撃とやみつきになる淫靡な歌謡性。サイケデリックかつガレージな核を持ちつつ、ポップに洗練されたステージングに思わず見とれてしまう。ラストは「キノコホテル唱歌」でメンバー各人のソロ回しを披露、マリアンヌ様が電気オルガンの上に立った瞬間、大きな歓声がステージに注がれた。観る者に演奏力と扇動力の高さを印象付けるバンドだった。
そんな余韻のなか、舞台はサブステージに移り、親子漫才の完熟フレッシュが登場。父・池田57CRAZYと娘・池田レイラが観客に向けて挨拶すると、フロアからは娘めがけて「かわいい!」の声が飛ぶ。自虐的で頼りない父に対して、娘の毒舌のツッコミが刺さるというスタイルは、親子だからこその絶妙な呼吸が楽しい。コアチョコのヘビーユーザーでもある2人は、どこかほのぼのとした空気を漂わせながら、終始フロアを温めていた。最後はレイラの決めゼリフ「生まれてくる家間違えたー!」のコール・アンド・レスポンスを観客とともに完成させると、再びメインステージに注目が集まる。
3番目のライヴアクトとして登場したのは、柳家睦とラットボーンズ。パンクス、スキンズ&サイコスで構成された流浪の反逆音楽革命集団だ。「これはいったい何なんだ?」と言いたくなるような強烈なヴィジュアルの個性が集まった彼らのライヴは、とにかく理屈抜きで面白く、予備知識がなくても存分に楽しめる。昭和を彷彿させるサウンドと歌詞に、オリジナリティ溢れるエンターテインメント性が融合。大人の余裕とハジケっぷりを感じさせるパフォーマンスを可能にするのは、巧みな演奏があるからこそだと思った。1曲ごとに入れ替わり立ち替わり現れる、肌の露出過多な女性ダンサーたちも観客の視線を釘づけ。柳家睦が時折きわどいMCを交えて場内に笑いをもたらすテクも巧みだ。日本のアンダーグラウンドシーンに旋風を巻き起こしている彼らの実力をまざまざと見せられた思いがする。古き良き芸能の香りをまき散らす強烈なアクトだった。
舞台はサブステージへと移り、コアチョコの盟友・ロックンロールコント集団、超新塾の6人が颯爽と登場。のっけから「そこんとこヨロシク!」の決めポーズを何人もの観客のスマホに向けて繰り出し、ちょっとした撮影タイムに。今夜は公演中の撮影禁止が言い渡されていただけに、このサービス精神に観客は大喜び。小ネタを交えたメンバー紹介の後、テンポよくコントが始まると、息もつかせぬ展開に観客は笑いっぱなしだった。有名ミュージシャンのモノマネなど、完成度の高いネタの数々が観衆をおおいに沸かせていた。
メインステージにて、この賑やかなフェスのトリを務めたのは人間椅子だ。今年バンド生活30周年を迎えてますます絶好調、2020年2月には初の海外ワンマンツアーも決定したばかり。和嶋慎治(G&Vo)、鈴木研一(B&Vo)、ナカジマノブ(Dr&Vo)の3人が織り成すおどろおどろしい爆音は、ここでも場を完全に制圧していた。MVが260万回以上再生され、国内外で高評価の「無情のスキャット」から始まり、「瀆神」などのド迫力の重低音で容赦なく攻めまくる構成。濃密なハードロックを奏でる一方で、笑いの絶えないMCも彼らの真骨頂だ。メンバーそれぞれの“お気に入りコアチョコTシャツ”を発表するなど、初めて彼らを観たであろう観客をもすっかり虜にしていた。情念の滲み出る人間椅子のサウンドはコアチョコとの相性も抜群。本編最後は「どっとはらい」で合唱を誘発して幕を閉じた。
当然、お約束のあの曲を聴かずにオーディエンスは帰路に就くことができない。人間椅子がアンコールに披露した必殺の「針の山」で場内はこの日一番のお祭り騒ぎとなった。今夜の出演者全員が集合写真に収まり、コアチョコ代表MUNE氏が「コアチョコ、バンザーイ!」と叫んだ頃、時計の針は午後9時40分を指していた。
「音楽」×「お笑い」×「アパレル」が激しくぶつかり合った結果、他ではなかなか見られない猥雑で賑やかな一夜となった。一筋縄ではいかないラインナップが終始フロアに爆笑と感嘆を生んでいたのが印象深い。観客はもちろん、ステージ上の演者たちが思い切り楽しんでいるのがよく伝わる、特色のあるイベントだったように思う。めでたく20周年を迎えたハードコアチョコレートには、この先30年40年とシーンを引っかき回し続けてほしいものだ。
■公演情報
〈ハードコアチョコレートフェス -殺戮の20周年-〉
2019年10月9日(水)東京・渋谷TSUTAYA O-EAST
OPEN 17:15/START 18:00
東中野 ハードコアチョコレートヘッドショップ:http://goo.gl/2Q1N8A
ハードコアチョコレート大阪:https://goo.gl/maps/wyTJbkx4k4x
ハードコアチョコレート オンラインストア:http://core-choco.shop-pro.jp/