2019年11月3日(日)、林整骨院にて音楽イベント〈There is no beginning or end〉が開催された。
出演者は、Velladonとテンテンコ。本イベントは、“整体の施術と演奏が同時に行われる”という他にはないスタイルで開催された。主催したのは、林整骨院の林副院長と、フライヤーなどのデザインを手掛けるemi。2人がTwitter上でやりとりをしたことをスタートに今回のイベント開催に至ったという(その経緯は、こちらのnoteを参照)。気になった私は、栃木県真岡市に足を運んだ。
取材・文:横澤魁人
写真:武田政弘
整骨院×ライヴを可能にした会場
JR石橋駅に到着すると、程なくして林先生の友人が車で到着。ご好意で送迎を行っているのだという。私は、林先生からCDを借りそこから影響を受けバンドマンになったという2人グループと共に乗車し、田畑を横目に林先生との思い出話を聞きながら、15分程で林整骨院にたどり着いた。
到着すると、すでに一軒家風の建物に10数人が入口で待機していた。周りには一応住居もあるが音量などは大丈夫なのだろうか。そんな心配をよそに、会場(林整骨院の1階)に入る。
会場には数台の施術用ベッドが置いてあり、いかにも整骨院といった印象。ただ、1つだけ違和感を発していたのが、何台もの機材が所狭しと乗ったテーブル。Velladonは、この日の為に機材を買い足したとの情報もTwitterで発信していた。ここからどんな音が発されるのかと考えるとワクワクで胸が高まる。
よく周りを見渡すと、天井にはレントゲンの装飾、そして骨格模型にも装飾が施されている。事前インタビューにてVelladonは「複雑で精巧な骨のような音楽を即興で奏でる」ことが今回のテーマだと話し、テンテンコも「骨格を意識しながら、骨格からも抜け出す方法を考えていきたいと思っています!」とコメントしていた(noteより)。
開演前、ベッドの上ではどこを施術して欲しいかなどの事前診察が行われた。事前に予約をした10名だけがその特等席でライヴ中の施術を受けることができる。会場には、10歳にも満たないだろう子どももイヤーマフをして待機していたのには驚いた。そんな光景に柔らかな日の光も差し込み、のんびりとした空気がライヴ前の会場を満たす。
テンテンコ
14時00分、テンテンコのライヴが始まった。入場時には、その存在感に一瞬会場に緊張が走ったようにも感じたが、彼女が作り出すリズムに体を揺らしていくうちにそれは段々と一体感へと変化していった。その後は、真剣に聞き入る人もいれば、目を閉じてそのリズムに体を委ねる人もいる。テンテンコが即興で作っていく世界は移ろいゆきながら、だんだんと圧を上げうねりを増していった。私は、その周期的なカタルシスの崩壊に心地よさを感じていた。
そして、もちろん会場では施術も行われていた。観客の誰よりもステージに近く、その様子は観客というよりパフォーマンスの一部であるように見えた。そしてよく観察すると、施術と演奏のリズムがどこか共鳴していることに気がつく。テンテンコは基本的には機材に目をやっているのだが時折林先生の施術に視線を送り、林先生も彼女の音楽から何かを感じ取りながら施術を変化させているように見えた。そうした肉体的な、そしてそれを超えた見えない骨という存在まで媒介して演奏と施術、そして会場が繋がっていたのではないだろうか。
当日の音源は、すでにテンテンコの公式オンラインショップ・テンテン商店(Link)からCD-Rとして購入することができる。
Velladon
そして14時45分、Velladonが登場した。彼はしばらくテンテンコの演奏を聴くと、そのリズムに上乗せするように演奏を始めた。その地鳴りのような音が響き渡ると、会場の電気は消え和らげな自然光の中でのライヴが始まった。そんな他の要素を省いた環境のなかで、体で受け止める音に集中して聴くことができたのは、とても貴重な体験になった。
前出のテンテンコと比べて、彼の演奏はリズムを常に破壊し続け、音のストラクチャーの変化が常に迫ってくる。今まで聴いたことの無い音に貫かれるような、言い換えれば脳をマッサージされているような感覚が続く。爆音の中にも関わらず、不思議とリラックスできるそんな空間だった。
そして、Velladonの演奏時も施術とのリンクを感じ取ることができた。林先生も、時に施術をとめ演奏を聴きその解釈を表現するように施術をしたり、Velladonもマッサージされている人を見ながら機材で音を変えていくといった様子も見受けられた。やはり、その2つの表現方法は呼応しあっている様だ。
15時45分、演奏が終わりを迎えると大きな拍手が会場を包んだ。そして、再びテンテンコが前に出ると、2人のコラボ演奏が始まる。後から聞いた話によれば、ほぼリハーサルなしの演奏だったというが、その時はそんなことを全く感じさせない息のあった演奏だった。テンテンコが始めにリズムを形作り、そこに肉付けする様にVelladonが仕掛けていく。その役割が交代するかの様に混じり合いながら、全く違う方向へと進んでいく。ほとんど目も合わせず会話もない2人であったが、音で会話している。そう思わされた。誰も予想のつかない演奏に、観客は息を呑む様に聴き入っていた。その豪華な10分間の演奏が終わると、2人に大きな拍手と歓声が送られた。
そんな2時間で本イベントは終了。ライヴ後には、観客通しで歓談したり、グッズ購入の際に2人と話していたりと、暖かい雰囲気に包まれていた。話を聞いてみると、施術を受けた人は、「本当に気持ちがよかった。施術と音の共鳴を感じた」と語り、受けていなかった人も「久しぶりに良いものを見た」という満足感で一杯の様子。決してスピリチュアルな方向や、アングラな方向にイベント自体が進まなかったのが、今回のイベントの成功要因であろうと私は感じた。林先生も、「せっかく来てもらったんだから、誰も置いて行かないイベントにしたかった」と話していた。
イベントを終えてみて
施術と演奏という前代未聞のチャレンジを終えた4人から終演後、コメントをもらった。
テンテンコ:
・今日のライヴについて
始まる前はどうなるかなと心配だったんですけど、いざ始まってみると独特な雰囲気というか、皆が楽しもうとしてくれている感じがあって入り込みやすかったです。そのシュールな光景が良いスパイスになっていたというか、私自身良い経験になりました。
・Velladonとのコラボについて
事前に2人でリハーサルができていなかったのと何分やるのかも話さないで始まっちゃって。でも、やってみるとすごい楽しかったです。私は普段よく即興でセッションすることも多いんですけど、今回は音の感覚が少し違いましたね。単純にスピーディっていうのもありつつ、Velladonさんがどう来るのかわからなかったで。ライヴを見てどうするか考えようと思っていたんですけれど、それを見ていても先が読めない感じがあって。でもそれはセッションの醍醐味として、めちゃめちゃ難しかったですけれど、その分面白かったです。
Velladon:
・今日のライヴについて
普段のライヴでも、決まったことってないんですよね。僕は作曲する時も、“現実”を見ることを大事にしているというか。風景を見て自分にまつわる物だったり社会の現象だったり、そういう事象から曲や音色を作っていて。今日は1番目の前のオーディエンスとして存在する人の動きとか鼓動とか、血管の動きとかを見てBPMや音色やシーケンスを変えたりしました。でも、僕にとってそれは凄く自然なことで。逆に1人で、唯我独尊でやるのっていうのは僕にとっては難しくて。誰かが僕を演奏してくれるっていう感覚っていうのかな。施術を受けている人と林先生の鼓動、お客さんの視線が、今日のVelladonを演奏してくれました。僕、めっちゃ目が良いんですよ(笑)。首とか心臓の動きが見えるんです。だから今日はみんなでセッションをした感じですね。林先生もたまに僕のこと見ていたし、その感じがすごく良かったです…… セックスだね(笑)
・テンテンコの演奏を聴いて
テンテンコさんは、やっぱり優れたアーティストです。音に対する探究心を持っているし、長い時間グルーヴをどう変化させていくのかという快楽的な部分をすごく追求している方だと思います。フィルターのかけ具合とかどういうタイミングでハイハットを入れるのとかもかなり工夫されていて。僕の音楽もそういうふうに聴いてくれれば嬉しいです。
・テンテンコとのコラボについて
僕は自分の音楽を“帯域の芸術”だと思っているのですが、テンテンコさんが出してきた音は僕が今日殆ど出してない帯域の音でした。実は僕が全く演奏しないパートもあったんですよ。「どうくるかな?」って見ていて。そこからグルーヴがノリ始めたらハイハットやタムを入れようかなとか、BPM変えて行こうかなとか。今日はガジェット使いの2人だったので、やっぱり目線を揃える機会が少なかったんですけど、とっても可能性を感じました。
林先生:
・施術の環境について
音楽って、そこにあるだけでも気持ちがいいじゃないですか。もちろん施術だけでも気持ち良いんですけど、でもそれが合わさった時に、1足す1が2の先に行ける可能性があるんだなと思いました。先ほど施術を受けた方に感想を訊いていたんですけど、みなさん「すごく良かった」と言ってくださって。羨ましいなと思いました(笑)。お2人とはグルーヴのようなものを感じましたね。向こうが合わせてくれた部分もあるし、こちらが合わせに行った時もあったので、セッションをしたような感じです。本当は10人一気に施術するのはかなりきついことなんですけど、やってみて僕も気持ちよく終えることができましたね。絵的にもそうですけれど、施術を受けてくれる方も、プレーヤーとしても近くでやった方がいいなと思ったので良かったです。
・イベント運営をおこなってみて
今回、emiさんが入ってくれたおかげで新たな色が入って、伝わりかたも全く変わったと思います。個人事業主なので普段1人で動くような立場が多いですけれど、誰かと組むことでこんなにも可能性が広がるんだなと知りました。でも今はやり切った感覚でとにかく一杯です。ありがとうございました。
emi:
誰にとっても銘心鏤骨な一日だったと思います。 私は初めての企画でしたし、林先生にとっては過去最多の動員と収益であったこと。 また、その後の心境や生活にも色々と変化があったことも伺っています。 Velladonさんとテンテンコさんは普段とは違う環境で不安もあったと思いますが、お二人とも聡明なので自由自在にその場を見て考え、音にしていて、その一挙一動に釘付けになりました。
そして何より、このイベントを知ってくださった一人一人が、当日だけではなく、この日までの過程をそれぞれの方法で楽しんでいたように感じました。 個々の行動が少しずつ人を引き込んで、その求心力は想像以上の結果をもたらしてくれました。 今回のイベントに関するお知らせはTwitterを中心に行ったのですが、目に入ってきた情報が全てではなく、それ以上に多くの方々にご協力いただいて本当に感謝しています。 またそれぞれが好きな音楽を楽しんで、いつかどこかで音楽が引き合わせてくれることがありますように。
本イベント〈There is no beginning or end〉。「始まりも終わりもない」という名前の通り、本イベントは様々なストーリーの上で成り立ち、これからもその経験はそこにいた人々の身体を通し新しい世界を形作っていくのだろう。(横澤魁人)
■イベント情報
〈There is no beginning or end〉
2019年11月3日(日)栃木・林整骨院
open 13:00/start 14:00
出演:Velladon、テンテンコ
Velladon 公式HP:https://velladon.com/
テンテンコ 公式HP:http://tentenko.com/
テンテン商店:https://tentenko.theshop.jp/