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【短期連載】〈京まちなか映画祭〉はじまりの物語ーー「生きていること自体、毎日お祭りなのでね」

StoryWriter

京都で、音楽と映画にまつわる斬新な試みが行われている。

その名は「京まちなかMVパーティー」。

プロの映画監督、若手映像作家、大学生が「ミュージックビデオ(MV)撮影」によってバトルを繰り広げるイベントだ。すでにMV作品はネット上で公開されており、11月23日(土)に、審査を兼ねた上映会を経て優勝者が決まる。審査員は、久保憲司(カメラマン/ライター)、安田謙一(ロック漫筆家/ラジオDJ)、バンヒロシ(バンビーノ/京まちなか映画祭実行委員長)という目と耳の肥えた3名。まさに全員が本気で優勝を狙いにいく熾烈な争いとなりそうだ。

そもそも本イベントは、11月28日〜12月1日に京都・木屋町で開催される映画と音楽の融合イベント〈木屋町文化祭(仮)〉で行われる〈京まちなか映画祭2019〉のプレイベントとなっており、「京まちなかMVパーティー」を皮切りに映画や音楽をテーマに上映やライヴ、トークなどが繰り広げられていく。StoryWriterでは、上映会1週間を切った今、「京まちなかMVパーティー」の運営陣、監督、ミュージシャンの声を短期集中連載でお届けしていく。

連載4回目、最終回となる今回は、〈京まちなか映画祭〉運営スタッフ全員が「あの人には物語がある」と語る、運営スタッフの1人渡辺氏へのロングインタビューを掲載する。そこには人と人との繋がりから生まれた、このイベントの物語が詰まっていた。

取材&文:西澤裕郎


尊敬する人であると同時に越えなくちゃいけない壁

──昨日、実行委員会のみなさんにお話を伺ったんですけど、渡辺さんはいつから〈京まちなか映画祭〉に関わられているんでしょう。 

渡辺:第1回の〈新京極映画祭〉の打ち上げを、僕がバーテンとして勤めていたお店でやってもらったのかな。そのときに井上さんに声をかけてもらったんですけど、お店があるから手伝えないと思っていて。でも第2回開催のときにはお店を辞めていたので、井上さんの下で受付などを手伝いはじめたんです。

石塚:井上さんという人が当時の映画祭の主催者の方だったんです。

渡辺:新京極で〈新京極映画祭〉というイベントがあって、数えて10回やって一旦終了したあと、新京極から離れ〈京まちなか映画祭〉が始まったんです。

──井上さんというのはどういう方なんでしょう?

渡辺:行動力の塊というか。もともと日大芸術学部を出て、家業が左り馬という京都の有名な化粧品屋さんということもあり、資生堂に入って広報をやってはって。ずっとそういう畑にいはったんですけど社長さんに就任して。映画、音楽、歌舞伎が好きで観に行き続けている中でイベントを立ち上げることになったんです。イベントの委員長として始めて、途中から新京極の商店街の理事長になられて。趣味がとにかく広いのと知識がものすごく広い方で、それを形にしていくのがこの映画祭でした。似ているというのはおこがましいんですけど、井上さんと僕は考えていることがほぼ一緒なんですね。女性の趣味とか、あのおっさんはズラちゃうかとか2人で永遠に言い合っているという(笑)。店をやっているときは2人で有線で曲を流してイントロ当てクイズをしながら日々2、3時間が過ぎていくというのを毎日やっていましたね。映画祭にはすごく思い入れがあって、作品選定から何からまで全部自分でされていたんです。公式に言われている舎弟は一応6人ぐらいいたんですけど、私は1番舎弟で。

石塚:当時、全然映画とか知らへん人も映画祭のスタッフにいたんですけど、みんな井上さんが好きで集まってきていたんです。井上さんが、毎晩どこかの飲み屋に行っては映画の話をしていていたりして。

渡辺:映画祭の最中は毎日打ち上げですから(笑)。毎日今日の映画がどうやったとか、来年これやりたいというのを永遠と語ってはって。

石塚:街の顔役クラスの人から、僕みたいな下っ端まで本当に分け隔てなく接してくれる、懐の大きい人というか。

渡辺:怒っている姿をほとんど見ないぐらい温厚な方で。当時、映画祭に関わっている人はほとんど井上さん絡みですね。例えば、受付の女の子も、前の日に飲みに行ったところで「君、明日暇かー?」言うて誘って、その子が何年も続けてやっているとか。きっかけは些細なところからドーンっと広げはるので。それをずっと繋ぎ合わせて、広く人を繋げていったような人なんです。

──今回井上さんは実行委員の中にはいらっしゃらない?

渡辺:お亡くなりになったんですよ。3年前に肺がんで。いかにして映画祭を存続するかは、今まで世話になった人間がやらないといけないと思って、〈京まちなか映画祭〉を続けているという一面もあるんです。正直、我々映画祭への思い入れもあるんですけど、それよりも井上さんに対する思い入れでやっているところの方が大きかったりして。

石塚:思い入れと同時に、井上さんという存在の大きさや、あの人のやってきたすごさを感じるというか。井上さんがいなくなったことで規模が小さくなったりとか、お客さんが減ったりしてしまったという事実もあって。尊敬する人であると同時に、越えなくちゃいけない壁にもなっているというか。

スマホで映画を観るなんて全く理解できない世界

──渡辺さんは1番の舎弟とおっしゃっていましたけど、近くにいたからこそ、その意思を引き継いでいる部分があるわけですよね。

渡辺:1番近いようで、1番離れているんですよね。他の人らは仕事を一緒にしていたんですけども、僕は全く違うところで働いていて、井上さんに呼ばれたときだけ行くという形だった。僕も途中で何回か仕事を辞めたり、変わったりして、井上さんに3回就職祝いをしてもらっているんですけど、4回目をしてもらえなかったのは残念で。年に1回映画祭がありますから、その手前でバーっと喋れば、すぐスッと入れる。そういう距離にいたんです。

──渡辺さんは最初バーテンをやられていたそうですが、今はどういうことをされているんですか?

渡辺:去年まで映画館で働いていたんですけど、今は映画館を辞めて、来週から木曽御嶽という山小屋で4ヶ月間働くことになっていて(笑)。山から降りて来たらサラリーマンに戻ろうと思っています。バーテンダーをやった後の話でいうと、ビジネスホテルで働いて、それから映画館に入って。僕が映画館に入ったときに井上さんが1番喜んでくれましたからね。「なべちゃんがやっと映画の仕事に就いてくれた」って言って。

──映画の仕事をしようときっかけは?

渡辺:もともと僕は映画の専門学校を出ていて。映画を作る側に行きたかったんですけど、調べると全然お金が儲からないということがわかって。シナリオを書くにしても、30、40になってからでもできるだろうということでサラリーマン続けていたんですけど会社が潰れて。そこからバーテンをやっているうちに、しばらくした頃に井上さんと知り合ったんですよね。

──運営座談会で、昔に比べると京都の映画館が減ってきたという話や、もうちょっと映画とか音楽を発信して人が集まるようにしたいという話が出てきたんですけど、そのあたりはどのように捉えてらっしゃいますか。

渡辺:新京極には、商業映画を上映する映画館がかなりの数あったんですよ。新京極だけで4つぐらい。今、京都自体、僕らが小さい頃いたよりはスクリーン数は増えているんですよ。でも劇場が減って、シネコンになっているという背景があって。たくさんの映画はかかっているんですけども、小屋自体が少なくなっている。僕らは映画は映画館で観るものとして育ってきたので、家でDVDを観る、ましてやスマホで映画を観るなんて全く理解できない世界で。井上さんもスクリーンで観るというのにすごくこだわってはる人でしたから。

──ライヴハウスで映画を上映するというのは、そういう発想からなんでしょうか?

渡辺:ライヴハウスで上映するというのは、正直言うと、そこしか場所がなかったからという側面があって。映画館自体が減っているので、大きいシネコンで1枠を借りようと思うと、すごいお金がかかるんですよ。ましてやフィルムをデータで借りて上映するとなると、映画館側にもお願いしないといけない。そこに行き着くためにはたくさん手間をかけないといけないので、まずは続けるためにも、言い方は良くないかもしれないですけど上映していくという形が大事だったんです。小さいとは言え、プロジェクターでスクリーンに映すシステムが映画を観る姿勢やと思っているので。昔、新京極に映画館がある頃はそこを1週間お借りしてやっていましたけど、その雰囲気だけでもやりたいなということで、今回あるところがお知り合いでできたので、そこで少しずつやっていって。井上さんの繋がりから、吉本さんがやっている〈京都国際映画祭〉で我々も1コマもらえているんですね。そこでは、スクリーンにうちの名前を協賛でドンっとできるんですけど、いずれはうちだけでもそれくらいの規模でやりたいなというのは1つの夢としてあります。

ひらめきだけでやっているのが映画祭を続けてこれた秘訣

──昨日、運営スタッフの世代交代という話も出たんですけど、そのあたりに関してはどうお考えですか。

渡辺:井上さんもそれをずっと思われていて。〈新京極映画祭〉を辞められた理由の1つが、世代交代をしていかないといけないということだったんです。自分は一歩引いたところで見てやっていかないと、いつまでも世代交代できないというのがあって、〈京まちなか映画祭〉にされた。私は井上さんの影だけで存在しているようなもので能力は全くないので、石塚くんみたいに若くて意欲のある人たちがどんどんよくしていってくれると思っています。

石塚:6年前、僕が近くの映画館で働いていた頃に井上さんがふらっと来て、ご自分が収集されていた映画雑誌のコレクションを提供していただいたんです。見たらすごく貴重なやつとかもあって、「本当にいいですか?」と言ったら、「わたしが持っていても意味ないので、若い子たちが見れる環境に置いてほしい」ってことを言っていて。

渡辺:井上さんは、まだ実家の蔵にすごいのを持ってはりますよ。何をどう手つけていいかわからんぐらいのものがある。レコードからレーザーディスクまであるって言っていましたからね。レーザーディスクはあるんやけど、再生機がないという。僕はまだその蔵に入っていないので。

──広い質問なんですけど、渡辺さんがそれだけ情熱をかける映画の魅力というのはどういうところにあるんでしょう。

渡辺:最初に知った娯楽として、映画というのはすごく大きいですよね。父親に連れて行かれて、「007 カジノロワイヤル」という映画を幼稚園のときに観に行ったんですけど、子どもながらに字幕の映画を観ていたらおもしろかったんですよ。あと、映画についていくと、帰りにおいしいもの食べさせてもらえるので、まず映画についていくことが大事やったんですね。ゴジラとか、映画ばかり観ていました。映画を観ていると、全部自分のような気もしますし、全く違うものものような気もする。新しい知識も入ってくるし、映画があったからこそ、今の自分があるような気もします。何かひらめくときも、過去の映画のベースから出てくることが多いですし。体の中に染み付いている。

──映画を好きな方って、作品を話すときの熱がすごく伝わってきますよね。その部分は、音楽より映画の方が強い感じがします。

石塚:衰退している文化というのは大きいんじゃないですかね。音楽は配信とかいろいろな形を変えて残り続けるけど、映画館で映画を観るというスタイル自体は衰退しているから、その行為を知っている人は、もう1回その文化を取り戻したいという気持ちにどうしてもなってしまうんだと思います。

渡辺:言ってみれば、オーディオ・マニアみたいなものやな。なくなる方向に行けば行くほど真空管にこだわるというか。うちの子どももスマホで観たり、パソコンで観たりしていたんですけど、最近はスクリーンで観るようになって。スクリーンで観れば、いつか作品の良さが分かってくるので。将来的に僕がじいさんになった頃に映画館がどれだけ残っているかなと思うんです。ちゃんとしたフィルムで撮って、スクリーンで上映することを前提にやっている作品自体、どんどん減っていますからね。今は配信用のやつとか、それメインで撮っているし、編集もデジタルやしね。

石塚:今年で言うと、配信用に作ったアメリカとメキシコの合作映画「ROMA/ローマ」が映画館で流れたらわりとお客さんが入ったらしくて。やっぱりいいものはスクリーンで観たいって気持ちはみんなどこかで残っているんだと思います。

渡辺:昔からアメリカでようあるパターンやね。映画館でかけてもええレベルでテレビ番組も作るから。作ってテレビで当たったら、劇場でかけたりな。

石塚:それこそスピルバーグとかもそうですもんね。

渡辺:もともとのスキルが日本のドラマのレベルと違うからね。「海猿」とか「踊る大捜査線」とか、スクリーンで観てもテレビでええやんこれとか思ってしまいますからね。けど、それでもやらんと子どもたちとか学生さんが映画館に来ないので、そういう意味では大事なんですよね。映画館に来てもらうということが大事。映画館に来て、予告編を観て、この映画観たいな、また今度来ようって思ってもらうのが大事なんです。

石塚:テレビドラマ映画でもええから、ヒットしていること自体希望がありますからね。

渡辺:続いている限りは何かのチャンスあるので。それは〈京まちなか映画祭〉もそうやったりして。絶えずやり続けていて、映画のことが伝わってくれたらいいなと思っています。

──昨日今日とみなさんの話を訊いていて、〈京まちなか映画祭〉に対して、すごく熱い情熱が込められているんだなと伝わってきました。その秘訣というのは何なんでしょう。

渡辺:直感でやっているというか、ひらめきだけでこれやっているんです。それがこの映画祭を今まで続けてこれた秘訣なような気はしますけどね。井上さん飲み屋で「最近クレイジー・ケン・バンド気に入ってるんや。1回呼びたいよな」って言い出しはってから、最終的に呼びはりましたからね。第4回の映画祭にケンさんを呼んでトーク・イベントをやったんですけど、キーボードを弾きながら喋ってくれて、ライヴでもそれをやるようになって。その後も京都に来たときは井上さんのイベントに来てくれはったりして。井上さん亡くなったときも、僕がお墓参り行くまでにケンさんが先に京都に来て先にお墓参りされていて。そういうきっかけは飲み屋での与太話からなんです。金はないけどコネはある、というのが井上さんの口癖でしたから。バンちゃんもケンさんを呼んだ第4回映画祭のお客さんで来ていたんですよ。打ち上げに来て、「僕、音源を持っています」ってところからバンちゃんと連絡先を交換をして、それからずっとバンちゃんもいはりますから。そういう部分もイベントをやる楽しみの1つだし、生きていること自体、毎日お祭りなのでね。この映画祭自体が、そうやって生まれた繋がりの集大成みたいなものですからね。


エントリー中の5作品をチェック!!!!!

再生回数1位の作品は11月23日、LIVE HOUSE Indigoで行われる審査会にて「動画ポイント」が与えられます。なお、再生回数の集計は11月23日午前0時00分時点です。

安田淳一×MOLE HiLL

 

浅川周×Yuri×Meri

 

中村瞳太×ふらっと♭

 

肖藝凡×安田仁

 

中山渉×Rinana

 

京まちなかMVパーティーvol.1 審査会 詳細

2019年11月23日(土)@LIVE HOUSE Indigo
時間:17:00~19:00
料金:500円+1ドリンク

出演者(予定):安田仁(ミ二ライブ)、浅川周(「ふわり」MV監督)、中村瞳太(「爬虫類」MV監督)、肖藝凡(「二人はRUN AWAY」MV監督)、中山渉(「Run」MV監督)、沙倉ゆうの(「Smile」MV出演)

審査員:久保憲司(カメラマン/ライター)、安田謙一(ロック漫筆家/ラジオDJ)、バンヒロシ(バンビーノ/京まちなか映画祭実行委員長)

審査ルール:
①YouTube再生回数1位の作品に3ポイント。
②審査員が持ち点10を各作品に配分(1作品に10点すべてを与えるのも許される)。
③観客票1票につき1点(当日の観客のみ参加可能。1人1票)。
以上、①~③の合計点数を競う。

副賞:優勝チームに賞金5万円他


■イベント情報

〈京まちなか映画祭2019〉

クラウドファンディング
木屋町文化祭(仮)
MVパーティー

http://musicparty.info/

PICK UP