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【現地レポート】台湾で開催されたインディーズ音楽の式典〈金音創作獎〉 26部門の受賞者が決定

StoryWriter

台湾で開催されるインディーズ音楽アワード〈金曲創作獎〉の授賞式が、2019年11月16日に台湾台北市・国父記念館に開催された。今年のテーマは「自由就是”Freedom”」。台湾のインディーズ音楽分野の情熱、地元の文化、自由を表すことにより、台湾のインディーズ音楽の10年間を示す式典となった。

会場の国父記念館は、台湾のグラミー賞とも呼ばれる〈金曲獎〉、中華圏を代表する〈金馬獎〉の授賞式も例年開催される場所であり、それらと同じ地で、台湾や香港のインディーズ音楽の授賞式典が開催された。如何に大安でインディーズ音楽が隆盛し、重要視されているかがお分かりいただけるだろう。2500近くの座席が用意されたこのホールが埋まるほどに観衆も集まり、一般のリスナーファンも年々多くなってきていることを感じた。

StoryWriterでは、当日の式典の様子をレポートでお送りする。また、今年度の金音創作獎受賞者のプレイリストも作成したので併せて楽しんでもらいたい。

取材・文:エビナコウヘイ


ベストライブ賞:落差草原WWWW「台湾人が血や汗と引き換えに得てきた自由」

〈金曲創作獎〉では、ロックはもちろんのこと、ジャズやヒップホップ、電子音楽など細かくジャンルごとのベストソングとベストアルバムが選出、それに加えて台湾内外、歌手、演奏者など計26部門に細かく分けられていることから、全てのジャンルを等しく評価する点でも、自由な風潮を感じられる式典であった。

式典の中では、各部門の受賞者の発表の合間には「Free your Belief(信念)、Life(命)、Love(愛)、Heart(心)、Mind(精神)、Future(未来)、Soul(魂)」と7つのセクションでのライヴパフォーマンスも行なわれ、会場を盛り上げた。特にSoulセクションでは、来年に台北での公演も控えており、次世代日本トレンドカルチャーの代表として招聘されたSuchmosもゲストライヴを行ない、「MINT」「808」の2曲を披露。近年アジアで絶大的な人気を誇るというSuchmosの登場に歓声は高まり、他の台湾アーティストのコラボステージと同様に盛り上がりを見せた。

ゲストライヴを行なったSuchmos

血肉果汁機と三牲獻藝によるコラボステージ

式典では、各ジャンル内で権威のある、もしくは人気のあるアーティストがプレゼンターとしてトロフィーを授与する。式典のオープニングから、アジアンメタルバンド「血肉果汁機(FLESH JUICER)」とデジタル音楽と宮廟文化を取り入れた「三牲獻藝(サンシェンヘゲ)」のコラボバンドのパフォーマンスからスタート。曲の終わりに突然、ベストライブ賞の落差草原WWWWを発表するサプライズもあり、会場は一気に驚きの歓声に包まれた。落差草原WWWWのPro / Voである吳唯祥は「台湾という島々がバンドシーンへのサポートをしてくれることに感謝致します。そして、これは何代にも渡って台湾人が血や汗と引き換えに得てきた自由ではないでしょうか」とコメントを残し、会場からは拍手喝采が浴びせられた。

落差草原WWWW

 

海外創作音樂獎(海外作品賞):香港の歌手Serriniが受賞

また、海外創作音樂獎(海外作品賞)として香港の歌手Serriniが受賞する際には、海外からのゲストとして日本からYogee New Wavesが賞のプレゼンターとして出演するなど、豪華なラインナップのプレゼンターが現れた。香港大学の学生でもあるSerriniは、「私は二日前に突然窓から飛び降りたくなりました、最近の香港の若者と同様、とても大きな社会的なプレッシャーの下に私もいます。自由があってこそ良い文化芸術があります。ある友達が言っていました。例え星が落ちてくるときでも、皆があなたの周りにいます。全ての物事がうまくいきますように」と涙ながらに語ると、観衆の心を打って会場からは大きな拍手が起こり、自由をテーマにした今回の金音創作獎にふさわしい内容であった。

香港の歌手Serrini

また、ベストジャズソング賞を受賞した蘇郁涵は本人が不在の為、母親が代わりにステージに上がって受賞した。娘に向かって「あなたを誇りに思います!」と叫び、娘が留学に行きたい話をした際に家族内で確執が生まれたものの、最終的に母親が貯めてきた100万台湾ドルをあげて後押しした話を語り、親子の絆に会場も感動の拍手が鳴り響いた。ようやく舞台に上がり受賞する機会を得てとても誇らしいと語った。また、娘に代わって最新アルバムを宣伝し、政府には「もっとバンドへの奨励金を出しなさい! 音楽人たちをサポートしてね!」と叫び、会場からは温かな笑いと拍手が起こる微笑ましい場面もあった。

 

一枚のアルバムを聴いた後の感動を何度も感じられる人が増えてほしい

ベストヒップホップアルバム賞は、熊仔 & BOWZ 豹子膽の『嘻哈囝』が獲得した。ビートメイカーのRGRYと一緒に登壇すると、アルバム制作過程で挑んだことや、注意力が短くなりそうなこの時代で、ストーリーを盛り込む手法を試して1枚のアルバムを制作した過程の中で、お互いのファンの反応もアルバムの中に込めたという。これ以外にも、「いつだって物語を聴くのが好きな人はいるはずですし、一枚のアルバムを聴いた後の感動を何度も感じられる人が増えてほしい」と、アルバムというものに込めるストーリー性を強調する言葉を残した。

熊仔 & BOWZ 豹子膽

ベストクロスオーバー&ワールドミュージックソング賞は、客家語の歌詞を用いる春麵樂隊の「我在你的眼睛我看到了你」が受賞。「僕らが話す客家語は正しくないと嫌う人もいるし、母語を重んじていないんじゃないかと僕らを嫌う人もいるけど、それでも台湾に感謝します。基本的人権と自由が僕たちに創作のエネルギーをくれました。香港も台湾も皆がんばってください。世界中の人々が自分と関わりの薄い人々とも関わりを持っていくようにしましょう。簡単なことではないかもしれないけど、皆が互いに異なる存在であるということの意義を守っていけますように」と多様性の重要性を述べた。

春麵樂隊

台湾の音楽が如何に多元的でユニークな文化の下で生まれてきたのかを再確認した

ラジオDJ・作家でもあり、これまで5回に渡り金音奨の審査員を務めてきた馬世芳は、式典の最後に、「金音創作獎の選考審査は音楽性で決めており、音楽のスタイルやジャンル、売り上げで評議していません。金音賞を受賞することがアーティストの未来へのサポートになることを期待しております。今年の各部門の受賞者を決める評議の中で、亀田誠治さんなど海外からの審査員の意見も得ることができたので議論が盛り上がり、台湾の音楽が如何に多元的でユニークな文化の下で生まれてきたのかを再確認いたしました。しかし、ここ数年で評議を担当する機会が増えていく中でも、受賞者を決めるのが最も早い年であり、例年は数回の機会を設けて評議を行ないますが、今年は大体2回で誰を受賞者にするのか合意が得られました。審査員としても、とても気分良く受賞者を決められる一年になりました」とコメントした。

馬世芳と亀田誠治

昨今の時勢もあってか、香港や台湾では自由や権利についての意識が高まっている。台湾では、1987年の戒厳令が解かれた後に、作品や創作活動に政府の検閲が入らなくなって以来、音楽などカルチャーが発展してきた経緯がある。これまでの文化発展の経緯と現在の中国と香港の問題についても無関係ではいられないからこそ、多くの受賞者から改めて自由を尊重するコメントが出てきたのではないだろうか。そして、その台湾が求めてきた自由こそがインディーズシーンという音楽をより豊かにしていく土壌となった。名実ともに優れ、勢いのある台湾インディーズシーンのアーティスト達の言葉とその作品は、今の時代だからこそ注目すべきなのかもしれない。

R&B歌手のJulia Wu(吳卓源)とソロシンガーØZIのコラボステージ

また、本年度の各部門の受賞者は以下の通りである。

=金音創作獎受賞者一覧=

・最佳現場演出獎(ベストライブ賞):『盤』/ 落差草原WWWW

・最佳新人(團)獎(ベスト新人アーティスト賞):『燒金蕉』/ 百合花

・海外創作音樂獎(海外作品賞)『邪童謠』/ Serrini

・最佳創作歌手獎(ベストシンガーソングライター賞):『西部』/ 廖士賢

・最佳樂手獎(ベストプレイヤー賞):
謝明諺 / サックスフォン、ディジュリドゥ、ティンホイッスル、プラスチックパイプ・
葉賀璞 / ギター
張仲麟 / ギター

・最佳爵士單曲獎(ベストジャズソング賞)
「腳步之舞」/『城市型動物 City Animals』/ 蘇郁涵

・最佳爵士專輯獎(ベストジャズアルバム賞)
『響味|味響 Sounds|Savors』/ 葉賀璞

・最佳嘻哈單曲獎(ベストヒップホップソング賞)
「嘻哈囝」/『Later That Night』/ 國蛋

・最佳嘻哈專輯獎(ベストヒップホップアルバム賞)
『夢想成真』/ 熊仔 & BOWZ 豹子膽

・最佳電音單曲獎(ベスト電子音楽ソング賞)
「One of Us」/『Brutalist』/  Waves of Doppler

・最佳電音專輯獎(ベスト電子音楽アルバム賞)
『Alb_2』/ FunkyMo

・最佳另類流行單曲獎(ベストオルタナティヴ・ポップソング賞)
「玉仔的心 Jade」/『玉仔的心』/鄭宜農 Enno Cheng

・最佳另類流行專輯獎(ベストオルタナティヴ・ポップアルバム賞)
『換句話說』/ HUSH

・最佳跨界或世界音樂單曲獎(ベストクロスオーバー&ワールドミュージックソング賞)
「我在你的眼睛我看到了你」/『狐狸莫笑貓』/春麵樂隊

・最佳跨界或世界音樂專輯獎(ベストクロスオーバー&ワールドミュージックアルバム賞)
『Salama』/ 查勞・巴西瓦里

・特別貢獻獎(特別貢献賞):黃韻玲

・最佳民謠單曲獎(ベストフォークソング賞)
「風箏/白雲 Kites / Clouds」 /『劉庭佐』/ 知更

・最佳民謠專輯獎(ベストフォークアルバム賞)
『原始的嚮往』/ 王榆鈞與時間樂隊

・評審團獎(審査員賞)
『盤』/ 落差草原 WWWW

・最佳節奏藍調單曲獎(ベストR&Bソング賞)
「長期有效」/ Karencici

・最佳節奏藍調專輯獎(ベストR&Bアルバム賞)
『ØZI-ØZI The Album』/ ØZI

・最佳搖滾單曲獎(ベストロックソング賞)
「電火王」/ 美秀集團

・最佳搖滾專輯獎(ベストロックアルバム賞)
『燒金蕉』/ 百合花

・最佳樂團獎(ベストバンド賞)
『水底 Underwater』/ 大象體操

・最佳專輯獎(ベストアルバム賞)
『城市型動物 City Animals』/ 蘇郁涵

・最佳現場演出獎(ベストライブ賞)
『盤』 /落差草原 WWWW


■関連リンク

金音創作獎 公式サイト:http://gima.tavis.tw
金音創作獎 公式FB:https://www.facebook.com/bamidgima/

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