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変化していく音楽産業ー台湾で開催された〈アジアローリングミュージックフェスティバル〉での再考

StoryWriter

2019年11月11日~17日、台湾・台北市NUZONEにて〈アジアローリングミュージックフェスティバル〉と称したサーキットイベントが開催された。本イベントは、台湾の音楽式典〈金音創作獎(GIMA)〉に付随して開催され、開期中は〈WATCH展演〉〈CATCH 媒合〉〈PITCH 講座〉〈TOUCH BARセクション〉に分かれて各々の催しが開かれた。StoryWriterでは、11月15日〈PITCH講座〉セクションで行われた、音楽業界の中に渦巻く海外市場攻略、音楽フェス、デジタル化の3つをテーマにしたトーク内容をレポートを行う。

取材・文:エビナコウヘイ


Elephant Gym×寺尾ブッダが語るインディーズ音楽の海外市場攻略

13時からの回では台湾のスリーピースバンドElephant Gymと寺尾ブッダが登壇。Elephant Gymは台湾内のみならず、ヨーロッパ・北米ツアーも敢行する実力派のマスロックバンド。今年は世界各地の音楽フェスや2度に渡る北米ツアーを行うなど、まさに世界を股にかけて活動している。一方の寺尾ブッダは、青山と台北でライヴハウス「月見ル君想フ」や音楽レーベルBig Romantic Recordsの運営をし。日本と台湾の双方向での音楽リリースを行い、去年より台北のライヴハウスTHE WALLのブッキングにも関わり、アジア全体のバンドのツアーブッキングも担当している。

トークでは、Elephant Gymが7年の活動の中で数多くの海外公演を成功させてきた事について語られた。海外でも自分たちの音楽が通用するのか試したい気持ちが強く、政府の補助金を得て初めての海外ツアーを行ったという。日本ではイメージがないかもしれないが、台湾では政府が文化交流の名の下、音楽業界やバンドへのサポートがある。それが昨今の台湾インディーズシーンの盛り上がりを後押ししている部分もあるのだろう。また、アメリカでの音楽レーベルTopshelf Recordsとの出会いについて、海外での対バン(日本だとtricotやtoe)やフェス参加などを通じて、興味を持ってもらったのではないかと考察した。Topshelf Recordsとの出会いによって、今年の2回に渡るアメリカツアーも可能になったという。

Elephant Gym(左からTell Chang,KT,Chia-Chin Tu)

バンド内でのプロモーターも担当しているKT(Ba)は、海外とコンタクトを取り始めた時、先輩バンド達がどこの国でどのレーベルと協力したのかを調査し、自分達の曲調やスタイルに合うレーベルや国を見つけたことによって、現地での音楽市場の注意を引き付けることができ、現地での活発な活動をしてこれたと話した。Tu Chia Chin(Dr.)は、現地でのチケット興行に実績があり、時間や熱意をかけて現地でのバンドプロモーションを行なってくれるマネージャーを見つけ出すことも大事な条件であると語る。現地での動員が多いバンドのファンに気に入ってもらい、そのバンドが台湾で公演を行う際、動員数に不安がある場合は、Elephant Gymと対バンする機会を与えるような協力も大切だと語る。

これに対し寺尾ブッダは、落日飛車(Sunset RollerCoaster)の日本公演やレーベル事業を担当する際にも同様に、現地で動員数のあるバンドやファン層との関連が見込めるバンドをブッキングすることを意識してきたと語った。彼の主催するBig Romantic Recordsでは、スプリット形式で落日飛車がシャムキャッツの楽曲をカバーした7インチレコードをリリースするなどして、現地での人気を高める手法を取ったという。

また、Elephant Gymは、音楽市場の規模が大きい国でのツアーを成功させ、周辺の音楽メディアで取り上げられることが宣伝となることもポイントだと話す。同時に、音楽市場の規模が大きい国で得られた収入を活用することで、まだ行ったことのない国での活動に繋げることも、バンドを海外運営していくポイントだと語った。

寺尾が落日飛車をアジアでプロモートする際は、「新たな市場に臨む際には自分がプロモートするバンドと、曲風やスタイルが似ているバンドを現地で探したり分析を行なってから、宣伝やブッキングを行なうことを心がけていた」という。また、現在のシティポップブームの影響もあり、世界のどこに進出するにしてもシティポップのバンドはやりやすくなっている状況ではないかと語った。ポストロックは海外進出にあたっても有利なジャンルではあるが、台湾のバンドのように中華圏をメインにファンを獲得して知名度を得てから欧米に進出してこそ、一定のファンの層を獲得できうるベースが生まれるのではないかと語った。

寺尾ブッダ(写真中央)

台湾と韓国のフェス仕掛け人が語る変化の大きな音楽フェス体制への課題

続けて、台湾・台南市で開催されている〈LUCfest〉主催者・洪維寧と、韓国の〈Buzzer Beat Festival〉や音楽フェス〈MIX MAX Festival〉を主催し 、HIPHOPレーベルでのマネージメントなどを主催・担当する施炫靜によるトークセッションが行われた。過去10年ほどで音楽フェスの形態は大きく変化し、その規模や特色などイベントの持ち味を出すことができるようになった。それぞれがフェスを立ち上げたキッカケや、企画してきた内容を語るセッションとなった。

洪維寧がポーランドにいた際、400人以上の業界人が参加する〈Eurosonic Festival〉に初めて参加し感銘を受け、まだ台湾になかった多元的な産業とコラボレートする音楽フェスを作るため、パートナーを探すところから〈LUCfest〉は始まったと言う。確かに、〈LUCfest〉は音楽フェスのみならず、台南市のアートやカルチャーを集めた9つの会場、業界人と交流ができるイベントも包括されているなど、BtoBにも力が注がれている音楽フェスである。台南を選んだ理由としては、緩慢な街の雰囲気とグルメ、アートなどの魅力がある都市であるに加え、台湾中の人が台南に滞在して集まることで、街を楽しむことに集中できるのではないかと考えたという。

イベントの様子

台湾では音楽イベントやアーティストに対して政府の補助があるが、韓国ではそういったことはないと洪維寧は語る。それでも、韓国でテレビ番組などによるHIPHOP文化の隆盛と、人々の生活水準が上がったことによって、イベントへの参加者が年々増えていることがモチベーションになってきたと話し、今後はどんな年齢層の人もフェスに足を運べるようにしていきたいと語った。

続いて、「音楽フェスは現代のSNSやメディアをどう利用していくのか?」というテーマへ。〈LUCfest〉や〈Buzzer Beat Festival〉の参加者は7:3で女性が多く、共にSNSの利用率や情報拡散・収集に敏感である若い女性をターゲットにしており、InstagramやYouTuberとのコラボも取り入れているという。〈LUCfest〉ではターゲットとなる大学生などの若者を取り入れるため、文化祭や学校内での講義とも協力してきたといい、リアルでのPRも大事にしているそうだ。同時に消費能力が高い35-40歳の層にもフェスを浸透していくことを目標としている。また、海外アーティストを招聘し、現地でのイベントの知名度のアップと海外向けに多言語化したチケット販売サイトを用意したり、海外市場への展望も大きく望んでいる。SNSの使い方では、〈LUCfest〉の客層が丁寧且つ情感の溢れる文章が好きだという事に気付いた洪維寧が、台湾で主流SNSのFacebookに出演アーティストの紹介文を投稿し、少ない広告予算の中でターゲット層の心を打つように試みてきたと語り、国民性などへの研究も欠かしていない。

また、施炫靜は、韓国のフェスでRAPをテーマにした謎解き企画を用意し、正解する度に景品を用意。企画の中の映像にブランドロゴなども採り入れて、マーケティングとしての広告の役割も果たしていると語った。SNSではフェスを盛り上げ観客の注意を集めるために、食べ物の持ち込みを促してみたり、スタッフが非公式のイベントグループを作りファン同士の交流を刺激する試みも行なってきた。各S N S上でのターゲット層が異なることから、少ない人員と限られた予算でプロモーションを考えていかなければならない事が課題だと共通して語った。時にはファンが投稿した素材をStory上で取り上げたり、フェスチケットプレゼントなどもせざるを得ない事もあるが、他の賞品をプレゼントする予算などもない為に、チケットプレゼントというやり方を選ぶしかなく、チケット収益の減少にもつながっていると課題を述べた。

洪維寧(写真最前中央)と施炫靜(写真最前右)

デジタルプラットフォームは如何に音楽の影響力を拡大していくのか?

最後は、分野もマーケットも異なる2人、音楽ビジネス・エンタメテクノロジーメディア「All Digital Music」編集長のJay Kogamiと、ネットワーク会社で10年の経歴を持ち、ソニーTaiwanでデジタルマーケティング部門を担当していたZoeが、それぞれの知見を語った。

この10年の間にデジタルプラットフォームは大きく変化した。その中でも、日本で正式にストリーミングサービスが浸透した2015年頃からの変化が特に大きいとJay Kogamiは語る。SpotifyやApple Musicなどグローバルなプラットフォームと、LINE MUSICcやawa、KKBOXなどローカルなプラットフォーム比較が混合する状態になったという。

音楽に限らず、ブログやSNS、TikTokなどのショートムービーアプリなどの発展にも大きな変化を及ぼしてきたとZoeは語り、それがマーケティングや広告を打ち出す媒体の変化にも直接関連していると述べた。特にSNSの種類の増加によって、ターゲット層を絞ってどのSNSに力を入れるべきか検討せねばならず複雑になっていると指摘。各SNS専門のマーケティングを行う企業も出来ている流れなどを考えていると、音楽産業もデジタルマーケティングの経験がある人を集めた専門の部門を作ることが必要になってきていると語った。

イベントの様子

Jay Kogamiは、日本の音楽市場の特徴として、コト消費としてのライヴ集客なども重要視しているが、まだCDの売り上げが市場の大きな割合を占めていることもあり、レーベルとしてCDの売り上げに力を注いでいることを指摘。一方で、インディーズやマイナージャンルの人たちは、ストリーミング方面に力を入れており、勢いがある面白い状態になっていると話した。

一方、Zoeが語る台湾の音楽市場で大切なことに”Story Telling”を挙げた。いつ誰がどんな曲やライヴを行ったり、MVを発表したという事実をニュースにするのではなく、読者が曲を聴きたくなるようなストーリー、つまりアルバムの制作の理念やMVに込められた思想などバックグラウンドをメインとしたストーリーを引き出すことで、聴き手の興味をそそることが大事だという。そうすることで、ストーリーに感銘を受けた人がファンとなり、それを拡散することによってファンの総数を増やすことが可能であると、日本の音楽メディアとの大きな相違点を語った。

また、マーケティングに必要な要素としてMVも欠かせないと語る。近年の台湾のバンドでMVによるマーケティングの成功を収めた良い例に「茄子蛋(Egg Plant Egg)」を挙げた。彼らの楽曲「浪子回頭」のMVに込められた映画のようなストーリー性が評価を得たのみならず、次作の「流浪連」のMVとストーリーが繋がっていることも話題になって、YouTubeのMV再生数やTikTokなどSNSでの再生回数も含めて合計6億再生数近くにも上ったという。

 

Zoe(写真最前中央)とJay Kogami(写真最前右)

これに関してJay Kogamiは、最近日本では、MVの公開に合わせたYouTubeのプレミアム配信やLINE LIVEを通してファンとアーティストが同時に最新MVの公開を迎え、メッセージを送ったりできる状態を作ることができるという施策を挙げた。かつてはインディーズ音楽などではよく見られたことかもしれないが、最近だと星野源レベルの歌手がこうした試みをすることによって、より多くのファンを獲得する機会になっているという。また、星野はMVでもイギリスのインディーズバンドSuperorganismとコラボしており、人気メジャーアーティストがインディーズアーティストとコラボするのも一つの潮流になりつつあるのではないかと語った。

 

YouTubeやストリーミングサービスの主流化によって、インディーズバンドの楽曲に触れやすくなっていることは、ここ10年程度の技術進化がもたらした大きな変化の一つかもしれない。そして彼らが活躍できる舞台として、フェスの多様化と海外進出も確実に以前よりも容易になってきている。グローバル化、デジタル技術、コト消費と社会の変化と音楽産業は切り離せずにいられない関係にあるため、日々変化していく状況に日本の音楽産業も対応していくことに、音楽産業不況の解決のヒントがあると感じたイベントだった。


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