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【INTERVIEW】四枝筆樂團(Four Pens)&洪安妮、台湾アーティストによる”アコースティック”への拘り

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2019年11月23日〜26日の4日間、台湾のアコースティックバンドの四枝筆樂團(Four Pens)と、シンガー・ソングライター洪安妮(Anni Hung)の来日ツアー公演が開催された。キーボードとアコースティックギター、時折鉄琴の優しく流れていく演奏とハーモニーが魅力的な四枝筆樂團、決してかき鳴らさない柔らかなフレーズと透き通る歌声の浮遊感が魅力的な洪安妮(Anni Hung)の音楽は、ライヴでも会場の空気と溶け合っていくように観衆の耳に馴染んでくる暖かさがあった。名古屋、加古川、東京2公演を含むツアーを終えたばかりの彼女らに、インタビューを敢行。アコースティックという音楽ジャンルに対する彼女らの拘りと、変化してきていた台湾インディーズ音楽シーンの変化について話を伺った。

取材・文・翻訳・写真:エビナコウヘイ


INTERVIEW:四枝筆樂團「最新デモ『美麗的人/遠方』は「破壊と再生」がテーマ」

──四枝筆樂團(Four Pens)というバンド名の由来を教えてください。

Bibo(Gt./Vo.):バンドメンバー全員の本名の漢字から1文字ずつ漢字を取ってつけました。Candace(Vo)とSunny(Melodica / Metallophone)と僕のBibo。なので、メンバーは3人だけですけど、4本のペン(四枝筆樂團)っていう名前になっています。

Candace:メンバーは大学のギターサークルで知り合いました。Biboはサークルの代表で、Sunnyはサークルの副代表、私は幹部を担当していて、私とSunnyは同じバンドで、Biboは別のバンドでした。

写真左より、Bibo(Gt./Vo.)、Candace(Vo)、Sunny(Melodica / Metallophone)

──普段はどんな音楽を聴いているんですか?

Bibo:大学での頃は、みんな盧廣仲とか陳綺貞がとても好きで、よく3人で集まって聴いていました。でも今はそれぞれ違う音楽を聴いていて、僕はちょっと古いジャズとかオリジナル感溢れるジャズをよく聴いています。

Candace:私達は全員日本のクラムボンとか好きですね。今回のツアーでも、彼女らの楽曲「シカゴ」をカバーできてよかったです。私は基本的にどんなジャンルでも聴くんですけど、最近はtwo door cinema clubとか、アメリカやイギリスの音楽が多いですね。最近はR&B風なリズム拍も歌に取り入れたくて、Alabama Shakesとかも聴いて練習してます。あとはROTH BART BARONも好きですね、北欧っぽい曲調なのに日本語で歌っててちょっと変わってる感じがあります。

Sunny:私は日本や台湾のバンドを多く聴いてますね。日本ならCorneliusとかテニスコーツ、サニーデイ・サービスとか色々ですね。台湾だったらTizzy Bacとか陳珊妮なんかも聴いてます。

──台湾の音楽好きな人ってCorneliusが好きな人多いですよね。

Sunny:台湾になかなかないタイプの音楽だと思います。この前台湾でCorneliusがライヴした時も観に行きました。私たちにとってはアイドルみたいな感じです(笑)。去年初めて来台公演を行なったので、台湾の音楽好きな人はCorneliusさんに結構注目してるかもしれませんね。

──四枝筆の楽曲はBiboさんがほとんど手掛けていらっしゃるそうですね。どういう時に作曲の閃きが下りてくるんでしょう?

Bibo:以前はとても簡単で、日常の中のたくさんの小さな出来事をテーマに書いていました。
でも今は自分の心の中でちょっと単純ではない考えを込めていることが多いですね。前までは単純で可愛い感じの曲が多かったんですけどね。今回のツアーで発売した新曲デモ『美麗的人/遠方』の2曲は今までと違って深いと思っていますよ。実はメンバーにも伝えていないことなんですが、今回のデモは「破壊と再生」がテーマです。最近の曲はちょっと悲壮な感じがするかも。たぶん私たちの最近の作品はそういう感じがあって、今後は、これまであまり触れてこなかった愛に関係する曲を多く書いていこうと思います。

下北沢のライヴハウス風知空知でのライヴの様子

Sunny:私は、曲はもちろん楽器の部分にアレンジを加えることが多いです。Biboとたくさん討論して、どんな音色がいいとか拍をどう変えていこうとかたくさん工夫しています。

Candace:私たちの曲は基本的にBiboが作曲していますが、彼が持ってきた作品に自分のやり方や心の中のものを上手く乗せてこそ、バンドの曲として成立すると思います。私達が彼の曲への想いを乗せたものでもあるし、ボーカルの私としては自分のストーリーも曲に込めて歌っているつもりです。なので、元々の彼が作った曲風とはどこか異なっているものを皆さんが聴くことになると思っています。

 

 実は四枝筆の表現の幅って一般的なバンドよりも多いんじゃないかな

──ロックや他ジャンルの曲と比べると、アコースティックの音楽ってどうしても音楽の表現の幅に制限があるんじゃないかと思うんです。それでもアコースティックスタイルで音楽をやり続けるみなさんにとって、アコースティックの魅力ってなんでしょう?

Candace:私としては、音楽の表現の制限は実はそんなにないのかなと思います。もちろんロックバンドはロックバンドの良さがあるけど、四枝筆の場合は元々の基礎がロックではない分、いわゆる一般的なロックバンドとは違うアプローチができると思うし、アコースティックならではのオリジナルの良さが出せるし、ベースとドラムを加えることでロック風な変化を見せることもできるので、実は四枝筆の表現の幅って一般的なバンドよりも多いんじゃないかなと思いますね。

Bibo:僕らも、ちょっとロックっぽい作品も作ったことはあるし、ドラムやベースのサポートメンバーも呼んで、いわゆるバンド体制で演奏していたこともあるんです。最近になってやっと自分たち3人だけの演奏っていうスタイルに戻ってきた感じがあります。3人で1つのバンドっていう空気感もあるし、3人でどこまでできるか試してみたい気持ちも強くなってきました。アコースティックの表現的について言うと、グルーヴを出すことの難しさを改めて感じています。打ち込みにアコースティックを重ねたりしたこともあるし、色々なことを試してきてそれなりに幅を広げてきたつもりです。私達の初期の曲と最近の曲風も違ってきているし、楽器やボーカルにエフェクトを掛けるようにもなったりしてきました。そうすることで、より曲を聴いて想像できる部分や、アコースティックのイメージとは少し異なる作品やライヴができていると思います。

下北沢のライヴハウス風知空知でのライヴの様子2

SUNNY:私は元々フォークソングがすごく好きでテニスコーツとか聴いていたんですけど、例えば彼らの人柄の良さとか演奏の細かさなどを、純粋でダイレクトに表現して伝えられるっていうのはとても大きな魅力だと思います。なので、ロックと比べてもなにがどうだってことはあまり思ったことはないですね。

Candace:ロックをやる時に、爆音だったりシャウトしたりすることがあると歌詞が聞き取りにくくなって、音をメインで楽しむことが多くなってしまうのかなと思うんです。でもフォークソングやアコースティックだと、音楽も歌詞もどちらもお客さんにしっかり届けることができるんじゃないかなと思いますし、しっかり届けられる分、お客さんが私たちも想像できないようなことを感じてくれたりできるんじゃないかなって。

──2011年に四枝筆樂團が結成されて、今年で活動8年目になるわけですが、この8年間に台湾のインディーズ音楽のシーンの変化って感じてきましたか?

Candace:たくさんありますよ。結果として良い方向に向かってきていると思います、ここ数年は新しく若いバンドも出てきていますし。私たちがバンドを結成して本格的に活動し始めた頃は、フォークソングがとても流行っていたのでフォークバンドやアコースティック・ポップの歌手がたくさんいました。

Bibo:僕からすると、リスナーはどんどん受け入れられる音楽の幅が増えてきていると思います。インターネットの発展で音楽に触れやすくなったことと色々なジャンルのアーティストがライヴを行なうようになって、音楽ファンがより多くの音楽に触れる機会がどんどん増えましたよね。アコースティックやフォークが流行だった時期から、エレクトロなものやHIPHOPなど音楽ファンの好みが多様化していったんだとも思います。こういう音楽もあるんだ! と、皆が気付いて、聴く音楽のジャンルの選択が広がった経緯もあり、台湾の今のバンドはとても多元的だし、リスナーも自分の好みがあるいい状況かもしれません。

Candace:音楽的にはいいことですよね、皆が自分の好きな音楽を追求できるわけですし、フォークが好きな人だってもちろんいますもん。聴けば聴くほど、好きな音楽が増えていくみたいな。

Bibo:インディーズ・アーティストがどんどん流行ってきていると感じます。自分で自分をマネージメントしないといけないバンドが多いけど、今の時代なら自分でSNSなどで情報を発信できるし、できることがどんどん多くなってきていると思います。最近のバンドだと「茄子蛋」や「草東沒有派對」なんかは、自分たち関連の業務だけやる会社を作ったりしてますよね。実は私たちも台湾で自分の音楽事業専門の会社を作っていたりしますし。

Candace:以前までのインディペンデントなバンドは、やはり陽の目を浴びることはあまりなくて、もっとメジャーになっていきたいなら、マネージメント会社やレコード会社に所属してサポートをしてもらわないといけなかった。現在なら自分たちだけでも上を目指せるようになってきていると思います。

Bibo:落差草原WWWWとかもそうかな? 吳唯祥(落差草原WWWWのGt/Vo)も大学のサークルの先輩なんですけど、さっきお話したような聴き手側の変化もあって、皆インディーズ音楽流行の勢いに乗れるようになってきているんじゃないかなと思います。もう時代は変わって、皆がビッグバンドになれるチャンスが多くなってきている気がします。

──最後に今回の日本ツアーの感想を教えてください。

Bibo:前回日本に来た時は「台湾のバンドってどんなもんだろう?」と興味本位、好奇心で来てくれる方が多かったイメージなのですが、今回は四枝筆や台湾の音楽が好きで観に来てくれる方が多かったような気がして、前回とちょっと変わったポイントかなと思います。皆さん来てくれてありがとうございました!

INTERVIEW:洪安妮「ピアノで作曲する時に他の人に聴かれるのが恥ずかしくて」

洪安妮(Anni Hung)

──音楽を始めたきっかけって何ですか?

Anni:小さい頃から歌うことは好きでした。高校の時に音楽クラブに入ったんですけど、後々にクラブ自体がギタークラブに変わって、それで私もギターを始めるんですが、曲を書いてみたかったんです。ピアノは元々弾けたのですが、家ではピアノがリビングにあるので作曲する時に他の人に聴かれるのが恥ずかしくて……。その点、ギターは自分の部屋で1人で作れるので便利だなあと思って。高校はそんな感じでギターを弾いたり、たまにバンドを組んでライヴしたりしてました。大学に入った後も音楽は続けて、インターネット、Street Voice(台湾の音楽メディア)で自分の作品を公開してみたりしていて。再生数を見ると聴いてくれる人もいたけど、「親とか友達が聴いてるのかなあ」って思うくらいの小規模でやってました。そういう活動と並行して、小さいカフェで歌わせてもらう機会もできて少しづつ入れ込んでいった…… という感じです。

──四枝筆樂團とはどうやって知り合ったんでしょう?

Anni:大学の時に四枝筆樂團のメンバーと知り合いました。私の先輩と四枝筆樂團の友達が知り合いで、先輩たちはファッションブランドの仕事をしていたんですけど、そこで小さな音楽イベントを企画していて。そこでお会いしたことはあったんですけど、一緒に何かをやる機会はなくて、今回初めて四枝筆樂團と一緒にやるのがまさかの日本ツアーでした(笑)。fastcut recordsと四枝筆樂團は元々長いこと一緒に仕事をしていて、私もfastcut recordsが担当しているアーティストの曲を聴いていましたし、スケジュールも丁度合いそうだからやろうかっていう事になりましたね。

──好きな音楽とか影響を受けたアーティストはいますか?

Anni:小さい頃は流行の歌手ばっかり追ってましたね、S.H.E(台湾の女性アイドルグループ)とか。高校の頃からもっと広く聴き始めて、大学の時は韓国に一年留学していたこともあり、韓国のインディーズ音楽なども聴いていました。

──他の音楽ジャンルに比べると、アコースティックって制限が多い音楽だなと個人的に思うんですけど、Anniさんがアコースティック音楽を続けるって何でしょう?

Anni:アコースティックに拘っているわけではないんですよ。大きな規模のライヴなどであれば、ベーシストやドラマーを探してバンド体制でやるのも全然いいと思ってます。でも、私はアコースティックが好きですよ。自分で歌って自分で弾いて、リズムや強弱、情感など全部自分の采配で決められるのがいいなと思います。長時間の弾き語りライヴとかもやってみたいです、いい勉強になりそう。

他の人が真似できないような特徴を全面に発揮していく必要がある

 

──では、最新作品の『世界這麼有趣,哪能一直傷心?(世界はこんなに面白い、ずっと傷ついてなんかいられない)』にはどんな想いが込められているのでしょう?

Anni:曲を書いている当時、10年来の親友たちが皆元気がなく、社会生活に対して疲弊しきっている時期がありました。そんな友達とお喋りしていると、当時はあんなに楽しく過ごしていた仲間たちが日常の中の様々な物事に向き合って、複雑な気持ちになっている事に気づいたんです。そんな友達に伝えたいこと、思いを曲にしました。

下北沢のライヴハウス風知空知でのライヴの様子

──なので、こんなに優しく語りかけているような曲になっているんですね。Anniさんがインディーズでアーティスト活動を始めて今日までの間、台湾インディーズ音楽シーンはどんな変化がありましたか?

Anni:インターネットの発展と関係があるのかもしれませんが、私が音楽活動を始めた頃には今ほど情報も多く出回っていなくて、音楽を聴くプラットフォームもとても多くなって、リスナーが聴く音楽の選択肢も増えてきましたよね。最近のアーティスト達は、人気を得るのが昔に比べて容易になっていると思いますし、新しいバンドやアーティストが生まれるのも早くなっていると思います。世界どこでも同じかもしれませんが、台湾にもJ-POPが好きな人もいるし、K-POPが好きな人、欧米のアーティストが好きな人もいます。だから、他のアーティストと被らず、真似できないような特徴をそれぞれが全面に発揮していく必要があると思います。

──では最後に今回の日本ツアーの感想や今後の目標を教えてください。

Anni:今回のツアーが実は私のこれまでの音楽活動を通して初のツアーでした。スケジュールも詰まっていて移動も多く疲れましたし、緊張し過ぎてベストな状態にすることが難しいこともありましたが、そういう課題も見つかったし、結果とても楽しかったです。私は大きな音楽関連の賞が欲しいとか、そういう欲には無頓着ですが、歌うことが好きだし、一回でも多く皆の前で歌える機会をこれからも増やしていけたらいいなと思っています。


■リリース情報

fastcut records & Sailyard
V.A.『A HAZY SHADE OF WINTER EP』

配布日:2019年12月24日(火)
※店頭・通販で税込3,000円以上購入の方にCDRを配布。

Pictured Resort, Pale Beach, Feat.her, Anni Hung参加のレーベル・サンプラー。
全曲録り下ろしの年末年始に似合うカヴァーを4曲を収録。

fast cut records公式サイト:http://fastcutrecords.com

 

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