【INTERVIEW】『100日後に死ぬワニ』作者きくちゆうきが語る死生観「生きることの裏には死がある」

もしも、まだ『100日後に死ぬワニ』という四コマ漫画を読んだことがなければ、一旦この文章を読むのをやめて、こちらから同作品を読んできてほしい。このタイミングを逃すと本当にもったいない。もちろん時間が経っても作品の本質に変わりはないが、リアルタイムで読むことであなたの感覚は研ぎ澄まされ、作品の意味をよりリアルに感じるに違いない。

さて…… 読んできてくれただろうか?

きっと複雑な気持ちになっていることだろう。『100日後に死ぬワニ』では、心やさしいワニの日常が淡々と描かれていく。友達のネズミとのやりとり、好きなあの子へのはかない想い、何気ない日々の出来事…… 今日も連載は続いており、明日、ワニやその仲間たちに何があるかは誰も知らない。そう、我々の身に、いつ何が起こるかわからないように。

この作品で描かれているのはワニの日常であり、読者である我々自身の日常でもある。作者であるきくちゆうきは、この作品で描きたかったのは「死生観」だと語る。現在進行形で連載中で、明日ワニたちの身に何があるかわからないため、作品を読んでそれぞれ感じてほしいが、きくちが作品を描くにあたって考えていることを、ワニが死まで66日を迎えた日に訊いた。

取材&文:西澤裕郎


死生観とかそういうものを伝えたい

──連載スタート時、ここまで反響があると想像していましたか?

きくち:反響は作品を出してみないと分からないので、そういうことは考えずに今自分のやりたいことをTwitterで発信したという感じなんです。反響が多いことは嬉しいですけど、これだけあるとは思わなかったです。

100日後に死ぬワニ 31日目

──毎回「いいね」や「リツイート」が1万以上されています。それだけ読者の反応があると、作品の内容にも影響を与えるということもあるんでしょうか?

きくち:それによって話のストーリーが左右されることはないです。どんな話にしても賛否両論あると思います。自分が思っていることをワニを通して発信していくということが大事だと思っています。

──どうしてワニの話を描こうと思ったんでしょう?

きくち:日々思っていることを、いつもとは違うやり方で発信しようと思ったんです。同じようなことをやっていてもおもしろくないし、別の形でメッセージを込めて描こう思ったのが、たまたまこういう形だったんです。

──きくちさんが連載されている『SUPERどうぶつーズ』とは絵のタッチが違いますが、物語の中に通底するやさしさは共通しているなと感じました。

きくち:1個1個の作品にテーマやメッセージを込めています。『100日後に死ぬワニ』では、死生観とかそういうものを伝えたいなと思って描いています。

──死生観をテーマにしようと思ったきっかけは?

きくち:終わりを意識したら、些細なことでもやさしくなったり、考え方がちょっと変わったりすると思っています。この作品を通して、そんなきっかけを作れればいいなと思いました。SNSは、匿名でひどいことを言う人がたまにいますが、SNSの先には人がいるわけで。仮に自分の友だちに向かってだと考えたら、そんな発言しないのでは? と思う。そういうことを考えられるようなきっかけを作りたかったんです。

──きくちさんのプロフィールには、ご友人が亡くなられたということも書かれています。きくちさんの人生での出来事も作品に影響を与えている?

きくち:もちろん、今まで経験したことを作品の中に込めて出しています。言葉でツイートするというより、自分の思っていることを作品に変換して出して伝えるほうがいいと思っています。

死を意識してくれれば、世の中がいい方向にいくんじゃないか

──死生観を伝えることって、実はすごく難しいことですよね。僕もそうですけど、生きていることが当たり前のように思ってしまう。でも、ワニの日常を見ていると、自分もいつ死ぬかわからないなと思わざるをえないというか。どうやって100日後に死ぬというコンセプトや、日常を描く発想を選んだんでしょう。

きくち:伝えたいことを伝えるためには、逆のことをやることがいいのではないかと思っていて。コインの裏と表みたいな感じというか、表の反対には裏がある。生きることの裏には死があるし。だから、死ぬことを伝えるには生きることを伝える必要があると思った。1番近いところに答えがあるんじゃないかなと。

──短絡的に考えると、死を描くためには死を描くと考えてしまいますが、逆転の発想をされているんですね。

きくち:それだと重く感じたり、説教っぽくなっちゃったりするとも思うんです。そのあたりの描き方は難しいんですけど。

100日後に死ぬワニ 15日目

──100日という数字は、どのように生まれたんですか?

きくち:そこは単位の話なだけで、100日でも1年でも100年でも行き着く先は同じだと思うんです。以前、100日描き続けていたことがあったので、今回もそうしようよ思っただけで、数字のこだわりは特にないです。

──ワニの日常は、ほのぼのとしていてかわいらしいんですけど、その先に死があると思うと、つらくなる瞬間もすごくあるんです。きくちさん自身、作品を描いていて、悲しいとか、つらい感覚になることもあるんじゃないでしょうか。

きくち:僕も悲しくなりますけど、しょうがないと思っている部分もあって。絶対に誰もが最終的に死を迎えるじゃないですか? この先、ストーリーとしてはどうなるか分からないですけど、僕も悲しくなる気持ちになるときはあります。

──この先のストーリーは、きくちさんの頭の中で決まっている部分もある?

きくち:うーん…… そこはあまり言わないようにしていて。全部作品を通して見てもらえたら嬉しいです。

──きくちさんは20代です。どうしてそこまで死について考えているんでしょう?

きくち:読んでくれた人が、自分が死ぬことを考えて発言とか行動をしてほしいんです。例えば、悪いことしながら死んじゃったとしたら、周りの人が悲しむじゃないですか? 死ぬときに後悔してほしくないし、自分が死ぬときに後悔をしたくない。死を意識してくれれば、世の中がいい方向にいくんじゃないかなって。それを考えるきっかけが作れるんじゃないかと思うんです。

──きくちさんも、いつ自分が死ぬかと考えることがある?

きくち:それはもちろん。電車で席に座っていたとき、目の前に年配の方がいたことがあったんです。このまま席に座っていようか迷ったんですけど、「あのとき、なんでどかなかったんだろう」って小さな後悔が出ると思って席を立って譲ることができて。それ以降、僕はそうやって考えるようにしていて。小さい後悔もしたくないので。

100日後に死ぬワニ 33日目

──作品内で描かれているワニ自身は自分が死ぬことを意識していないわけですよね。それがまた悲しいというか。

きくち:誰もがみんな自分が死ぬことは知っているじゃないですか? でも知っているようで知らないし、知らないようで知っている。そのあたりも、ぜひ作品を観てほしいです。

きくちゆうき
1986年生まれ。なんだかんだいろいろあって27歳でイラストレーターとして独立。
連載:『SUPERどうぶつーズ』(LEED Cafe)、『どうぶつーズの漫画』(幻冬舎plus)、『100日後に死ぬワニ』
https://studio-kikuchi.com/
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