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前代未聞の“入場料制展示会”とは?──デザイナー丹野真人に訊くブランドTANGTANGの次なる一手

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デザイナー丹野真人によるブランド「TANGTANG」が、2020-21年秋冬シーズンの展示会〈『タンタン展』TANGTANG Autumn Winter 2020 Exhibition」〉を、2月11〜16日の期間中、東京・原宿にあるART・IN・GALLERYで開催中だ。新作のTシャツ72型に加え、フーディ、スウェットパンツ、キャンバスバッグの他、BiSHのセントチヒロ・チッチやFUMIKA_UCHIDAとのコラボTシャツ、写真家の佐内正史とスタイリストの伊賀大介とのフォトTシャツシリーズ“ガサタン”の新作なども展示される。

この展示会がおもしろいのは、一般来場者向けの入場料制の日程が2日間用意されていること。15、16日は1000円を払えば誰でも入場可能で、商品を注文すると定価から1000円引きされ、入場料がキャッシュバックされる。丹野が知る限り、入場料制の展示会というのはアパレル業界では誰もやっていない施策だという。なぜ丹野は有料制の展示会を行おうと思ったのか? TシャツメインのブランドであるTANGTANGがスェットも手掛けた理由とは? 展示会2日目の12日に会場を訪れ、丹野に話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎


波が下がった時に次の一手を考えるのは遅いなと

──今回、TANGTANG単独での展示会を行おうと思ったきっかけは?

丹野真人(以下、丹野):今までは、TAKAHIROMIYASHITATHESOLOIST.と合同展をしていたんですけど、だんだん自分の作っている商品の物量が増えてワンラックに収まりきらなくなってきて。アイテムを増やしたいなと思って相談したら、ワンラック以上場所をもらうのは難しそうだったので、1人でやるしかないなと思ったのがきっかけです。

──これまでTシャツをメインで製作されてきたTANGTANGが、アイテムを増やそうと思ったのはなぜだったんでしょう。

丹野:Tシャツだけでも全然やれていたんですけど、ブランドのような人気商売って絶対に波があるので、波が下がった時に次の一手を考えるのは遅いなと思ったんです。なのでチャレンジするなら今のほうがいいなと思って。それで前回からパーカーとスウェットパンツを増やしたんです。Tシャツの可能性は大きくて、国境も世代も関係なく展開できると思っているんですけど、それをより後押しするためにスウェットの展開も考えました。

──Tシャツの次のアイテムとして、スウェットを選んだ理由は?

丹野:僕のように資本が小さいところだと、いろんな生地やパターンを使っていろんな見せ方をするのが難しくて。表現として1番キャンバスになりやすいのはTシャツ、その次にいいのがスウェットやパーカーなんです。プリントも入れられるしアレンジが効く。キャンバスとしてのポテンシャルの高さというところで、Tシャツの次はパーカーとかスウェットを選びました。

──前回スウェットを作られた際、手応えがあったからこそ、今回よりアイテムを増やしたというところもあるんでしょうか。

丹野:売り上げ的な手応えというより、自分の中での手応えがあったんです。続けていくことで認められるところがあるので、しっかり続けていこうと思っています。

単純な好奇心だったりもしますね

──今回の展示会がおもしろいのは、一般のお客さんが1000円を払って入場できるという点です。どうして、有料で入場できるという施策を行おうと思ったんでしょう。

丹野:理由はいろいろあるんですけど、どうせ1人でやるのであれば、おもしろいことをしたかった。アパレル業界の常識でいうと、卸先であるセレクトショップにアイテムを買ってもらい、それをお客さんがお店で買うのが通常の流れなんです。自分の会社でオンリーショップを持っていたら好きなものを好きなだけ見せられるんですけど、僕はオンリーショップを持っていないので、卸先のバイヤーさんに買ってもらったものしか店頭に並ばないんですよ。今回、グラフィックのTシャツが72型あるんですけど、実際、1店舗に並ぶのって10型とか、多くて20型とかだと思うんです。そうなると、他の30、40型はこの世になかったかのような感じにもなるんですよ。

──お店のスペースもあるので、すべて置くというのは難しいですしね。

丹野:一方で、お客さんから「あのサイズ、あのデザイン、どこで買えますか?」っていうダイレクトなメッセージを結構いただいていて。どうせ1人でやるし、どうしてもほしいお客さんがいるのであれば、こういう場を設けたらお客さんにとってもいいし、僕にとっても新たな試みになるな、と。僕のやりたいこととお客さんの求めていることがいいところに繋がりそうだと思ったんです。最初は無料でもいいかなと思ったんですけど、それだと通りすがりの人も来ちゃうので、1000円というハードルを設けて、1000円払ってでも見たい、オーダーしたい人が見やすい環境にしました。

──アイテムを注文すると1000円がキャッシュバックされるので、実質無料というか。

丹野:そう。注文する人にとっては別に入場料はないことになるんです。

──ちなみに、届けたい人に届けるという意味では、通販でもいいわけじゃないですか。そうではなくて実際の場所を設けることが重要だったんでしょうか。

丹野:顔が観たいっていったらあれですけど、僕は自分のお店を持っていないので、インスタとかでタグ付けして着てくれている人のことしかわからなくて。実際それって全体の数%だと思うので、それだけを見て判断したくないというか。もっといろいろな人がいるだろうし、そういう人たちを見たいなっていう単純な好奇心だったりもしますね。

テクノロジーだったり、そういうところからデザインが始まる

──今回の展示会におけるテーマはどういったものなんでしょう?

丹野:Tシャツって、1ダース12枚×6セットがダンボール1箱に入っているんですよ。日本人って10で数えがちですけど、12がワンセットで6セットあるから1箱に72枚入っている。ダンボール一個だったら、大人1人で持てるサイズというところで、1箱に72デザイン入っていたらおもしろいなと思って、今回72デザイン作ることにしたんです。

──ワンシーズンで72個デザインするのは大変なことなんじゃないですか?

丹野:グラフィックだけで考えたら多いですね。そんなにいらないのかなって(笑)。

──72個のデザインには、どんな特徴があるんでしょう。

丹野:僕はシリーズ化が好きなので、まったく違う72っていうわけではなくて。ABCは同じようなデザインで、書いている文字は違うみたいな。シリーズ化していくことによってデザインが古くならないなと思うんですよ。2011年からTANGTANGをやっているんですけど、2012年ぐらいから同じパターンで、同じフォントを使って、文字や言葉だけ変わっているアイテムもあったりする。それだと、いい意味で5年前の商品も去年の商品も見分けがつかないんです。もちろんシーズンっぽいものもあっていいと思うんですけど、継続的に10年後着ていてもおかしくならないものも意識してデザインしていますね。

──TANGTANGのアイテムに時代性が現れているとしたら、どんな部分にあると思いますか?

丹野:今回、アラビア語とかヒンディ語を使っているんですけど、5〜10年前はその発想は僕の中になかったんですよ。今はGoogleの翻訳ソフトを使えば、なんて書いてあるか読めるし、iPhoneでカメラをかざせば英語が日本語に変換されたり全然知らないアラビア語が読めたりする。時代っていうより、テクノロジーだったり、そういうところからデザインが始まったりするんです。僕は古典的なことがすごく好きなので、シルクスクリーンっていう何十年前から変わらない技法で綿100%のTシャツに水性のインクをプリントしていくので、全然時代は関係ない部分も強くあって。古くからの手法を使いつつ、デザインする発想だったりは、今の時代に影響されている部分もあるんじゃないかと思います。


■展示会情報

〈「タンタン展」TANGTANG Autumn Winter 2020 Exhibition〉
2020年2月15日(土)、2月16日(日)@東京都 ART・IN・GALLERY
時間:OPEN 11:00 / CLOSE 19:00(入場は18:30まで)
入場料:1,000円 ※商品オーダーの場合は1,000円キャッシュバック

丹野真人(たんの・まさと)
2011年レーベル開始。現在はTシャツの製作をメインに活動中。代表作はまだ無い。
Official HP:http://tangtang.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/tangtang_design/
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