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ライヴハウスと飲食店の現在 Vol.1──緊急事態宣言直前、売上0で毎月200万ずつ減っていく現状を語る

StoryWriter

森大地

2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を踏まえ、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令された。

感染リスクを避けるために営業自粛を余儀なくされていた全国各地のライヴハウスは、営業再開の見通しが立たないどころか、収入が絶たれた苦境へと立たされている。営業停止を行う文化施設に対する助成金を求める「#SaveOurSpace」といった運動や、ライヴハウス主導のクラウドファンディングなど、音楽を巡る環境を守るための活動も行われており、なんとしてでも文化の火を絶やしてはならない。

StoryWriterでは、2店のライヴハウス(埼玉県宮原にあるヒソミネ、東京吉祥寺にあるNEPO)と、2店の飲食店(埼玉県宮原にあるbekkan、東京吉祥寺にあるMOCMO sandwiches)を経営し、自らもミュージシャンである森大地に現状を聞き、定期的に現状を伝えていく記事を急遽連載することにした。状況は毎日大きく変化しており、そんな中でストラグルしている森の言動を共有することで、他の同業者のヒントになればと、そうでない人たちもライヴハウスのリアルを知ってほしいと思う。

第1回目となる報告は、緊急事態宣言が発令される直前に電話で森に話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎


営業すること自体が難しくなってきている

──タイミング的には、緊急事態宣言が出る直前の取材になります。森さんはヒソミネとNEPOのライヴハウスを2店舗、bekkanとMOCMO sandwichesの飲食店2店舗経営されています。緊急事態宣言が出る前と後では考え方や気持ちの面も変わると思いますので、直前の率直な心境を訊かせてもらえますか?

森大地(以下、森) : 泣き言を言っても始まらないので、打つべく手は全部打とうと思っていろいろ策を練っていたんですけど、正直営業すること自体が難しくなってきていて。テイクアウトに力を入れるとか、ウーバーイーツや出前館の手続きもやっているんですけど、混んでいて手続きに1ヶ月近くかかりそうで。できることはやりつつも限界があるというのが現状です。特にライヴハウスは、お客さんが来ないと売り上げが0。無観客で配信をするにしてもバンドとかスタッフで5〜10人とか集まっちゃうので、配信だろうがやめてほしいという声もあって。そうなると本当に今すぐに打てる手がない。この状況を乗り切るには補償金や助成金を頼りにしたいんですけど、数時間前のニュースでは、少なくとも飲食店の休業手当の補償金は出さないみたいなことを国会の答弁で言っていて。それが衝撃的で。

──衝撃的でしたね。

森:正直、事態が収束するまでにまだ数ヶ月はかかると思うんですね。そんな中、現段階での赤字額もえげつなくて。融資の相談もしているんですけど、5年間かけて返してきた借金の倍を借りないと、数ヶ月は耐えきれない。1からのやり直しどころか、5年かけてやってきたものがマイナスになってスタートするような状態です。それに今スタートしたところで、売上が全く立たないかもしれないという状態なんです。

MOCMO sandwichesの外観

僕自身、運の悪いところもあって、1ヶ月前にMOCMO sandwichesをオープンしたんですけど、正直評判も売上もめちゃくちゃ良かった。今までの店舗の中でも有数の売上が見込めたんですけど、自粛要請が出てから売上が10分の1にまで落ち込んじゃって。テイクアウト店舗に変えるのかどうなのかも今後考えていかないといけない。今4店舗経営しているので、家賃やらリース料だけでも毎月何もしなくても150〜200万くらいかかっていきます。売上0で毎月200万ずつ減っていったら、融資を受けたお金が減るのに怯えながら過ごすしかない。ここまで全店舗合わせて月1000万ぐらいの売上があったので、それが限りなく0に近づいてくると支払えるものも支払えないし、わりと今は放心状態というのが正直なところです。

──僕も規模は小さいですが会社を経営しているのでわかる部分もありますが、かなり不安が大きいですよね。

森:でも今回、西澤さんもそうなんですけど、いろいろな人から「何か手伝うよ」とか「大丈夫?」と声をかけられると、これはなんとかしなきゃいけないなというのもあらためて思いますし、うちのナイスなスタッフのことを思ったり、お店を応援してくれている人たちの声を聞くと、どうにかしなきゃなという気持ちはいまだに消えてはいない。ただ、華麗な復活劇を遂げたいなとは思うんですけど、気合いだけでどうにもできないことばかりで。もちろん知恵を振り絞ってやってはいるんですけどね。今の時点で、3、4つ手は浮かんではいるんで、気持ちを切り替えてこれからスピード感を持ってそれを実行していくつもりです。ただすぐに月々の赤字を補うほどの売上をあげるのは難しいと思うので、助成金とか情報を毎日チェックしながら策を練っています。助成金はNEPOとMOCMOディレクターの白水君が主導して動いてくれているので助かってます。

──実際、助成金などはどういったものを検討されているんでしょう。

森:今うちで助成金を受けられる方法として、雇用調整助成金テレワークの補助金をそれぞれ申請しているんです。ただ、テレワークならテレワークをやるための機器を購入する代金で、雇用調整助成金もうちのスタッフが休業している分の給料を払うというものでうちに入るわけではないので、今発表されている中小企業に200万円給付というのがあとはどうなるかって。とはいえ、200万円をもらえるのは嬉しいですけど、200万もらったところでうちの1ヶ月分の家賃がチャラになるというぐらいのところなので。さあ、どうしようかなというところなんですよね。

MOCMO sandwichesの内観

──森さんはライヴハウスと飲食店の経営者なので、ご自身が仕事を辞れば済む話じゃなくて、従業員の未来も背負っているわけですよね。従業員の人からも不安みたいなものは感じたりしますか?

森:感じるんですけど、やさしいというか。こっちの空気を察してか、あまり言ってこないところもあるんです。むしろ力になれるならなりますよって。泣けますよね。もちろん社員に対して補償しなきゃいけない法律で定められた額はあるんですけど、アルバイトスタッフや周りにいるミュージシャンとか友だちにも同じように困っている人がいっぱいいる。今から始めようと思っている新しいプロジェクトで、なるべく給与が発生するような仕事を与えてあげたいとは思うんですけど、少なくともライヴハウスは今月中までの休みは決定しているので、今は仕事がないんですよ。飲食店のbekkanもめちゃくちゃ売上が減っていて、人をとにかく減らすしかない。むしろ今までの状態で働けば働くほど赤字なので。bekkanだけでも売上は前年比50%ぐらい、NEPO、ヒソミネは前年比0%という感じの状態になりそうなんですよね。

今自分に何ができるかって知恵を絞っていくしかない

──森さんは、売り物を作るとか、新しい手をというふうに考えていらっしゃいます。あえて攻める考えをしているのは、自分を奮い立たせる気持ちでやっている? それとも、もともと森さんの気質的なところなんですか?

森:もともとの気質かもしれないです。もちろん政府や国に声を上げるところは上げるべきで、「Save Our Space」にだって賛同しているんですけど、現実問題、補償を満足に受けられなかったからという理由だろうと結局潰してしまったら自分自身に対して無責任かなって感じるところがあったので。分かってくれない政府が悪いと言って変えてくれるのをただ待っていても何も始まらないところがある。声は上げつつも、ある程度実際に起きている状況を受け入れて、その中で何ができるかということを考えないと、負け犬の遠吠えみたいになっちゃうかなって。悔しさとか、なんでだよという腹立たしさももちろんあるんですけど、そこは次に気持ちを切り替えて今自分に何ができるかって知恵を絞っていくしかないかなと。潰れてスタッフも路頭に迷ったら最悪だなと思っているのが大きいです。

──デジタルでの課金のシステムが注目されています。毎月200万を売り上げるというのは、いくら投げ銭システムが整ったとしても、なかなか難しい金額じゃないですか?

森:いやーおっしゃる通りですね。

──そうした中、いろいろ戦略を考えてらっしゃると思うんですけど、具体的にはどんな感じの案が今は浮かんでいるんでしょう?

森:人が集まる良い場所があるというのがライヴハウスの商材というか、一番の売りだった。なのにその場所が使えない。そうなると根本的な価値観をリセットして考えなきゃいけない。場所以外にうちでできる良さは何だろうと考えたら、人を繋げていくとか音楽との出会いとかを提供することかなって。今はその場所をネットに移して何かを始めようかなと考えています。5Gが始まるし、以前から考えてはいたんですが、例えばオンラインサロンとか動画、ファンクラブ的なもの、サブスクリプションを利用して、うちでしかできないことをやっていく。NEPO、ヒソミネ、MOCMO、bekkan、kilk records(※森の主宰する音楽レーベル)、さらにはまわりのミュージシャンやお客さんまで全て巻き込んだコミュニティを作ろうかなと考えています。

──NEPOは、白水悠(KAGERO / I love you Orchestra / chemicadrive代表)さんと、河野岳人(LAGITAGIDA / SuiseiNoboAz)さんと一緒に立ち上げられたライヴハウスですが、他のお店ではどういうメンバーで話をされているんですか?

森:NEPOは白水くんと店長の河野くん、bekkanとヒソミネ、MOCMOは各店長、あとはよく入ってくれているスタッフや社員の意見を訊きながら、それぞれの店舗でできる方法を考えています。例えば、bekkanが中心となって、渾身の「塩キャラメルテリーヌ」を売ろうとしていて。それは以前から宮原の町おこしみたいな形で売りたいなと思って箱のデザインを依頼していた時にこういう事態になったので、無理を言って箱の完成を急いでもらっています。1本3000円前後の値段がするものなんですけど、その価値あるものとして名物みたいになればなと思って。もともとは店頭中心でと考えていたんですけど、今はやっぱり通販中心で考えていかなきゃなと思っています。あとはOTOTOYが企画してくださった「Save Our Place」のコンピに参加してデジタル販売をしたり、プラスアルファでうちで独自でTシャツ付けてレーベル直の通販を始めようかなと思っていて。コンピの話をアーティストに声をかけたら、50アーティストぐらいアーティストが集まってくれて。本当に嬉しかったです。それで今、同時に複数プロジェクトを動いている最中ですね。

NEPOスタッフたち

 

空気を読めないと思われる雰囲気が出てきている

──森さんはミュージシャンとしての顔も持っています。しかも、ご自身のバンドAureoleの復活も発表したばかりでもありました。バンドマンとしては今どういうふうにこの状況を受け止めてらっしゃるんでしょう?

森:バンドマンとしてだけで言うと、前向きに曲を作りまくろうかなと思っています。今までできなかったような集中した曲作りだとか、映画や本を読む時間を増やしたり、どう考えてもピンチですが無理やりにでもチャンスだと変換して曲を作ってアルバムを作りたいなって。もともと今年は音楽活動を頑張ろうと思っていたところもあって、ガンガン動いて収束後にすぐにライヴできるようにしたい。本当は〈SYNCHRONICITY〉の出演も決まっていたんですけどそれがなくなっちゃって、その後は6月くらいにライヴができたらと考えていたんですけど、今のままだとそれも開催できるか分からなくて。2マンでと思っていたんですけど、対バン相手も誘うにも誘えない状況なので。スタジオも閉まっちゃっていますし。

──練習もできない状況なんですね。

森:つい3日ぐらい前まではスタジオに入れたんですけど、今日の緊急事態宣言で、よく使っているスタジオも少なくともゴールデンウィークまで休むと言っていたので。スタジオに入れないので、曲作りをする時期にしたいですね。アルバムも出したいです。あくまで自分がミュージシャンなのは、どんな状況だろうと変わらないんで。

 

──ちなみに、NEPO、ヒソミネは今後のブッキングは入っているんですか?

森:全然入っていないです。いつものペースだと、6、7月くらいまで入っているはずなんですけど、どんどんキャンセルが出て。5月の出演バンドも半分くらいキャンセルになっています。出演バンドも、半ば諦めている人も多いでしょうし。推移を見守りながら、小出しに何日まで営業を辞めるみたいな判断をしているところですね。不安なのは、つい1週間ぐらい前までは「中止になるかもしれないけどクヨクヨせずポジティブな気持ちに切り替えて動いていきたいので、出てもらえませんか?」って感じで、7、8、9月のブッキングも声をかけていたんですけど、それすらちょっと空気を読めないと思われる雰囲気が出てきているので。だから、ブッキングも今止まっちゃっていて。仮に、数ヶ月後に自粛はもう大丈夫、危機は去りましたとなったところで、そこから出演オファーをかけるので、動けるのはそこからさらに3ヶ月後とかがリアルなスタートになっちゃうんですよね。

──それぞれの立場があるとは思うのですが、会場のキャンセル代がかかるからライヴハウスを借りるのに躊躇するミュージシャンもいるのかなと。

森:ちなみに、うちはキャンセル料をもらっていないんですよ。こんな状況で、もらえないなと思って。もらわないけど、次に開催してくださいとかって話をしたりしています。中には、存続が大変だから寄付みたいな感じで全額払いますよって言ってくれる人もいて。たしかに今は大変なのでキャッシュとしてありがたく受け取るんですけど、次回開催の時には無料にすると伝えています。実質キャンセル料なしでという感じの状態でやっている感じですね。

──明日になったら、また何かが変わっててもおかしくないような状態なので。都度都度、こういう感じで話を訊けたらなと思います。

森:ありがとうございます。ぜひよろしくおねがいします。


・森大地 Twitter : https://twitter.com/daichimori

・NEPO HP : https://nepo.co.jp/

・ヒソミネ HP : http://hisomine.com/

・bekkan HP : https://bekkan.kilk.jp/

・MOCMO sandwiches HP : https://mocmo.kilk.jp/

 

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