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音源配信でライヴハウスを救え! 『Save Our Place』主宰OTOTOY取締役・飯田仁一郎に訊く

StoryWriter

ポストコロナ時代を考える

今なお猛威を振るう新型コロナウィルス。イベント自粛を行うライヴハウスやイベントスペースは経済的にも精神的にも大きなダメージを受け続けている。そんな状況の中、ミュージシャンの音源を販売しながらライヴハウスをサポートするために音楽配信サイトOTOTOYが立ち上げた企画が『Save Our Place』だ。

『Save Our Place』には、大きくわけて2種類の施策が用意されている。

1つは、ミュージシャンが用意した音源をOTOTOYで配信。売り上げからクレジット決済手数料と著作権使用料(※著作権登録がある場合のみ)を除いた全額がミュージシャンの希望する施設(ライヴハウス、クラブ、劇場など)へ送金される。

もう1つは、無観客ライヴをレコーディングし、後日ライヴ音源を配信。レコーディング費用は一旦OTOTOYが負担し、レコーディングの実費の採算が取れるまでは、クレジット決済手数料&著作権使用料(著作権登録がある場合のみ)を除いた売上金の50%が施設に送られる。レコーディング費用の実費がまかなわれた時点で、クレジット決済手数料&著作権使用料(著作権登録がある場合のみ)を除いた売上金の全額が施設への支援にあてられる仕組みとなっている。

さらに4月17日より、OTOTOYが独自開発した投げ銭による支援も実装。投げ銭対象作品に対しては最低金額から上乗せして支援することが可能となった。

こうした動きに対して賛同し、音源を販売するミュージシャンもじわじわと増え続けている。

第1弾は、Limited Express (has gone?)やDEATHROなど4組の楽曲を収録した小岩BUSHBASHでの無観客ライヴ音源。第2弾として、folk enough 井上周一『Guitar and voice』など6作品が配信。そして第3弾には、Gotchこと後藤正文の『Stay Inside』など7作品の配信に加え、OTOTOYで独占配信となっていたパスカルズのライヴ音源の売り上げがドネーションに切り替えられた。さらに、Keishi Tanakaや岩崎慧ら13組のアーティストが参加し、SNS上で生まれた楽曲「Baby, Stay Home」も『Save Our Place』にて配信されている。

中長期化が予想されるコロナウィルス禍。そうした状況に対して、音楽をもってライヴハウスを支援しようとする企画を生み出したOTOTOY。どのようにして、この企画は生まれたのか? 取締役である飯田仁一郎氏に話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎
写真:大橋祐希


1番苦しいのはライヴハウスだというところに行き着いた

──OTOTOYは、2011年の東日本大震災の際に、いち早くコンピレーション・アルバム『Play for Japan』を配信リリース、売り上げを被災地に届ける取り組みをしていました。今回の『Save Our Place』に関しても、当時のような速度感や熱量とともに動き出していったんでしょうか。

飯田仁一郎(以下、飯田) : 『Play for Japan』のときは、すぐに寄付をするという選択肢を選ぶことができたんですけど、今回は非常事態宣言が出るまで構造的に2つ分かれてしまっていて。ライヴハウスが、自粛して店を閉めるか、ライヴをやるかで、めちゃくちゃ揺れていた。人件費の保証は出るけど家賃保証は出ないから、店を閉めてしまうと経営者は苦しい状態になってしまう。それこそ(StoryWriterでも取り上げていたnepoやヒソミネを経営する)森(大地)さんの店なんかは立地がいいから家賃も高いだろうし。だから、僕も最初はライヴハウスを営業したほうがいいと考えていたんです。経済活動を止めたらダメだと思っていた。そういう意味ではスピード感がちょっと遅れたんですよ。

──3月中旬くらいまでは、換気をして密にならない状況でライヴを行なっている会場もありました。その分、マスクの着用や消毒などを徹底していましたよね。

飯田 : でもだんだん、自粛しないと抑えられなさそうだということがわかってきて、アーティストたちも声を上げ始めた。そこで、最初はアーティストを支援しようと考えたんです。と同時に、無観客ライヴがたくさん行われていたから、それを録音して収益化するべきじゃないかと思い浮かんだんです。それをOTOTOYスタッフに相談したら、アーティストは自分で曲にお金を払ってくれというのをあまり求めていないんじゃないか? って言われたんですよ。それで、アーティストを金銭で支援することよりもっと大事なことがあるんじゃないか? と思って探していたら、1番苦しいのはライヴハウスだというところに行き着いたんです。

──ライヴハウスは金銭的にもですが、世間からのバッシングなんかも受けていて、精神的にもキツい状態だったと思います。

飯田 : ここからは『Play for Japan』の論理なんですけど、ミュージシャンが楽曲を作る。聴きたい人が買う。売上を1番苦しんでいるであろうライヴハウスに送るという方法論になる。その結論を出したとき、きれいにはまったんですよね。そこで『Save Our Place』のページにあるような図を作って立ち上げたんです。

──音楽をお金にしてライヴハウスを支援するという方法が確立した、と。

飯田 : それと並行して、無観客ライヴでちゃんとお金を生んで、どこかに支援したり、アーティストに還元できる仕組みも作りたかった。3月28日に、僕のやっているバンド、Limited Express (has gone?)(以下、リミエキ)のライヴがあったんですけど、無観客ライヴにするかどうかで議論になって。するにしても何のためにするのかって話になったときに、無観客ライヴをレコーディングして音源販売して、そのお金を無観客ライヴをしてくれた場所の支援に当てたらいいんじゃないかって話になった。僕らとしても無観客ライヴをする強い理由ができたので、無観客ライヴをRecしてみたんです。OTOTOYとしても、いい意味でも悪い意味でもお金のことを無視してでもアーティストや音楽文化を助けたいアティチュードのある会社なので、そういう部分をアピールできるという点でも推し進めていいんじゃないかというところで、こういう企画を立ち上げました。

──他の企画と違うのは、ライヴレコーディングの場合は、エンジニアさんにも仕事が生まれるという点で、それはすごく重要なことだと思います。

飯田 : 『Save Our Place』の特設ページにも詳細は書いてあるんですけど、レコーディングの経費はかかるんです。例えば、5万円をエンジニアに渡すのであれば、経費が回収できるまでは売上をエンジニアとライヴハウスと半分ずつ渡していきます。エンジニアのフィーが終了したら全額をライヴハウスに支援ということになっている。僕らが作ったBUSHBASHのコンピではそういう方法を取りました。ただ、現状はライヴハウスで無観客ライヴをやるのも難しい時期になってしまっているのですが、そういう仕組みはちゃんと整っています。

ミュージシャンが届けたい場所に売り上げを届ける

──実際に、ミュージシャンの反応はいかがでしょう?

飯田 : 『Play for Japan』のときは1枚目がすごく大事だと思ったので、僕らから繋がりのあるミュージシャンに連絡して、知名度のある人たちの音源で固めたんですよね。実際、それでワーっと広まって、そのあと10作品ほど続いたという経緯があります。今回に関しては、シニアプロデューサーの高橋健太郎のアドバイスで、まずは方向性を示すべきだという点でまとまって。まずは僕ら自身がライヴ録音をして提示して、そこから広まっていく方向を選んだ。リミエキやDEATHROでやってみて、こういうことをやれますよということを提示したことで、じわーっと広まっていっています。あと、もう1つ、どうしても投げ銭をしたかったんです。我々の音源を先に出しつつ、投げ銭のシステムができたタイミングで、知名度も実力もあるアーティストの配信ができらいいなと思っていたら、GotchさんやKeishi Tanakaさんがやりたいって言ってくれて一気に広まった感じはあります。今も途上で徐々に広まっている感じかなと思います。

──基本的には、配信したいミュージシャンから連絡があって、音源配信がはじまるといった流れなんですね。

飯田 : 今回はミュージシャンの自主性に任せたいなと思っていて。お願いして楽曲を集めてコンピを作った『Play for Japan』のやり方ではない気がしたんです。というのも、ミュージシャンが届けたい場所が全部違うというのと、ライヴハウス協会みたいなものがないというのが大きな理由です。『Play for Japan』は、東北の人を支援するために被災した人へ届ける目的があった。今回は、ライヴハウスに届けたいけど、全国のライヴハウスが加盟している一つの団体があるわけではないので、ただお金を集めても使途不明金になるなと。そういう意味では、ミュージシャンが届けたい場所に売り上げを届けるってことを明文化させて、それをOTOTOYがサポートするってほうが正しいなと思って。そうじゃないと本当に救いたい小さいところが救えないなと思ったんです。

投げ銭は最初から僕らの中ではめちゃめちゃマストでした

──僕がミュージシャンだとしたら、どういう手続きをして、どれくらいの速度間で配信ができるものなんでしょう。

飯田 : 最初は2日に1回くらいのペースで出そうと思っていたんですけど、どんなアーティストであれ、ちゃんとプレスリリースを作って、メディアに載せて、大きな動きにしてあげたいと思って。個別にポロポロ出すんじゃなくて、1週間に1回、木曜日を『Save Our Place』の音源リリース日と決めて毎週そこにあわせてリリースさせてもらいます。そこにあわせて、僕らはOTOTOYができる宣伝、プレスリリースを作ったり、ニュースを書いたり、DMを投げたりと、音源の広報をやっていく感じですね。毎週木曜日に出しているので、音源さえ作って連絡してくれれば出せます。ただ、ライヴハウスにできるだけたくさんお金を送ってあげたいので、1曲よりも複数曲の作品のほうがいい。実は、高野(寛)さんも、最初は1曲だったけど、「1曲だとどうしても金額が小さくなっちゃうから、高野さんの周りの方と相談してコンピにしてもらえたら嬉しいです」って話をしたら、アルバムにしてくれたんです。まさかの高野さんのアルバムが出るという超嬉しいことがあったりしました。なので、シングル1曲よりは2曲3曲、コンピみたいにするのが単価があがるので嬉しかったりします。

──支援したいライヴハウスに出演していたミュージシャン同士で集まって、コンピレーションを作ったほうが、より多くのお金を支援できる可能性があると。

飯田 : もちろん500円でも送るんですけど、できるだけ大きなお金にしてあげたいなという想いがあります。

──ライヴハウスへの入金タームは、5月に販売した場合、いつぐらいになるんでしょう。

飯田 : 1ヶ月後くらいの予定です。決済会社からOTOTOYへの入金があってから精算作業をしていくので、例えば、4月に売れた分は5末に支払い、5月に売れた分は6月末にという形になるかなと思います。本当は3日くらいで送ってあげたいけど、OTOTOYにもそんなにキャッシュがあるわけではないので。

──実際、売り上げの手応えはいかがでしょう。

飯田 : 手応えはリミエキのコンピのときからあったんですけど、急激に変わったのは投げ銭が始まってからですね。みんな、支援の気持ちでかなり出してくれる。例えば、1350円の音源とかだと650円入れて2000円にしてくれたり、数万円投げ銭をしてくれる人もいて。投げ銭システムが、今回すごく支援が集まった理由かなと思っています。投げ銭文化ってすごいんだなと思って。

──先日、僕も手伝っていたクリトリック・リスが昨年行った日比谷野音ワンマンを1日限りでストリーミング放送したんですけど、チャットに「お金払わせて!」という書き込みが多くて、支援したい気持ちがしっかりあるんだなと実感しました。

飯田 : いくつかのライヴハウスも投げ銭でやろうとしていますよね。今の支援が落ち着き出してからも収益があるのであれば、新しい文化になるかもしれないですね。

──音源配信サイトで投げ銭のシステムをすぐに構築されたというのは、現場の熱量とシステム開発のフットワークの軽さが両立しているOTOTOYならではですね。なかなかすぐに投げ銭のシステムは作れないんじゃないかと思います。

飯田 : 僕らが影響されたのはBandcampです。24時間限定で、購入収益を100%アーティストに還元しますっていう企画をやっているのを見て、OTOTOYもやるべきだと思ったんです。Bandcampは、それがアーティスト支援で、うちは最初に話した経緯があってライヴハウス支援になった。Bandcampには投げ銭があるんですよ。だから、投げ銭は最初から僕らの中ではめちゃめちゃマストでした。

配信には可能性がある

──少し話が広がってしまうんですけど、4月以降の新譜リリースに関して、多くのアーティストのCD発売日が延期になっていますが、音源配信だけは予定日にスタートしている事例が多いですよね。差し支えない範囲で、OTOTOYの音源配信の売り上げ自体にはどのような影響があるか教えてもらえますか。

飯田 : OTOTOYはありがたいことに売り上げがあがっています。その理由は、今言ってくれたCDが出ていないのに配信が出ているっていうのが1つ。あとは『Save Our Place』でたくさんの人がOTOTOYに気付いてくれたとか、リスナーに近い音楽好きの配信サイトなんだと気付いてくれたことが大きいと思っていて。ちょうどそれが絡み合ったのが理由と思っています。通常の配信サイトの流れとはちょと違うから、配信サイトの代弁ではないと思うんですけど。

──OTOTOYは立ち上げ当初から、CD音質での配信にこだわりを持ってやってきていました。それが今、信頼を得る形になったということでもあるんですね。いずれにしても、コロナ以降の音楽環境は、変わらざるを得ないですよね。

飯田 : そういう意味では、音源配信だけでなく、配信には可能性があるんですよね。今、オトトイの学校の「岡村詩野ライター講座」をZoomでやろうと実験してみているんです。100人まで同時参加できて、動画も流したりできるから、実はこっちの方がいいんじゃないかと思ったりもしていて。ミュージシャンとしても、自分のバンドでやったBUSHBASHの無観客ライヴは、たしかにちょっといつもとは違ったんですよ。でも、こういうものだと思ったらどうなんだろう? って話をメンバーとしていて。配信の先にはお客さんがいるんだから、目の前にいないからダメだというのはミュージシャンのおごりじゃないの? と考えたりもしていて。配信の先にいる人を感動させるところに気持ちを切り替えたら、別に俺たちのやることは変わらないんじゃないかなって。今は難しいけど、無観客ライヴもやれる状況になったら、改めてライヴレコーディングでの配信もできたらいいなと思っています。


『Save Our Place』に参加するには?

■支援内容1:音源の配信
この企画に賛同していただいたミュージシャン / レーベルの音源をOTOTOYで配信します。音源の売り上げは、クレジット決済手数料と著作権使用料(著作権登録がある場合のみ)を除き、全額が施設に送られます。支援の対象施設はミュージシャン / レーベル様側が指定していただきます。

【音源の種類】
新曲、新録音源、無観客ライヴの収録音源、スタジオ・ライヴの収録音源、アコースティック弾き語り音源など…

■支援内容2:無観客ライヴ配信&ライヴ音源配信
営業が制限されてしまっている施設にて、ミュージシャンの無観客ライヴ配信(インスタライヴ or YouTube Live or ニコニコ動画を利用)。配信した無観客ライヴを一旦OTOTOYがレコーディング費用を負担して録音、その後OTOTOYでの配信をスタートします。

クレジット決済手数料と著作権使用料(著作権登録がある場合のみ)を除いた売上金のうち、レコーディング費用の実費が音源売り上げで採算が取れるまでは、売上金の50%を施設への支援にあてます。

レコーディング費用の実費がまかなわれた時点で、クレジット決済手数料と著作権使用料(著作権登録がある場合のみ)を除いた売り上げ金を全額施設への支援にあてます。

『Save Our Place』特設サイト:https://ototoy.jp/feature/saveourplace/

 

 

 

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