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カクバリズム代表・角張渉に訊く、コロナ禍におけるインディペンデントのあり方

StoryWriter

YOUR SONG IS GOOD、SAKEROCK、キセル、二階堂和美、MU-STARS、cero、VIDEOTAPEMUSIC、片想い、スカート、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、mei eharaなどなど、良質な音楽とエッジの利いたアーティストを輩出し続けている、日本を代表するレーベル/事務所、カクバリズム。

コロナ禍の3月13日にはceroが電子チケット制のライヴ配信〈Contemporary http Cruise〉を実施。6,000人という視聴者を集め、有料配信ライヴの先陣を切った。また、思い出野郎Aチーム、YOUR SONG IS GOODのオンライン上映、スカートとキセル・辻村豪文のYouTube liveでの弾き語りなど、オンラインでの配信も積極的に行っている。

2020年6月6日(土)には、カクバリズム所属アーティストがそれぞれの家などで撮り下ろしたライヴ映像にて構成されたオンラインフェス〈カクバリズムの家祭り〉が、サイトウ“JxJx”ジュンのMCのもと、配信される。初披露の新曲やスペシャルなコラボも配信されるスペシャルプログラムとなる予定だ。

そんな、コロナ禍においても積極的に行動を起こし続けるカクバリズム代表の角張渉に、イベント開催直前の6月4日に話を訊きに行ってきた。2002年のカクバリズム立ち上げから、インディペンデントでD.I.Y.なスタンスを保ちながらレーベルを続けている角張ならではの考え方にリスペクトを込めて。

取材&文:西澤裕郎


小さく集まって音楽をやっていく方法を見出していく時期

──6月に入り、音楽業界も自粛期間から動き出すフェーズに変わってきています。カクバリズムも6月6日にオンラインフェス〈カクバリズムの家祭り〉を開催されますが、現状をどう捉えていらっしゃるのか聞かせてください。

角張渉(以下、角張): 4月末に、Bandcampが「アーティスト還元デー」を7月までの毎月第一金曜に実施することを発表したんですけど、そのタイミングで、うちも過去カタログをBandcampにアップすることにして。同時期に、アーティストに対してweb上で家祭りみたいなことをやりたいって一緒にメールしたんです。なので、企画自体は一ヶ月前に立ち上げって感じ。現状に関していうと、もうすぐキャパを抑えてライヴをやれると思っているかっていうのと、年内はまず無理じゃないかと思っているか、その考え方よってこれからの手法が変わってくると思っていて。〈カクバリズムの家祭り〉は自宅からという形ですけど、これからは(ソーシャルディスタンスに気をつけながら)小さく集まって音楽をやっていく方法を見出していく時期なんじゃないかと思ってます。

──そう考えると、家などで撮り下ろしたライヴ映像で構成される〈カクバリズムの家祭り〉は、コロナ禍の過渡期で行われる貴重なイベントになるかもしれないですね。

角張 : 〈カクバリズムの家祭り〉に関していうと、想像以上にクオリティが良いものになったなって思っていて。僕が案外家でみんなが作る映像、音が好きってのがあるんですが、なかなか良いものにになっています。是非とも見て欲しいです! ただ世の中的に有料配信にも徐々に慣れてきている時期なので、余程話題性を作っていかないと、これからは観てもらうのも大変なのかなとは思うんですけど、過去に有料配信でどのくらいの人が見てくれているかデータがないから判断が難しいんですよね。

──そういう意味で、ceroが有料ライヴ配信をいち早くやりました。6000人が電子チケットを購入したという実績もできたわけじゃないですか。

角張 : ほんとびっくりしましたけどね。凄かったですよね。最初500人くらいみてくれたら御の字! って話していて、告知からライヴまで1日しかなかったので、本当に驚きました。電子チケットってチケットの枚数制限もないし、いつ何時も買えるというお客さんに対して優しいなとは思って。これまでは、チケットが売り切れちゃうから早く買わなきゃいけないとか、先行予約をしなきゃという状況だったけど、無限大に売れるじゃないですか。今はそれだけじゃなくて、例えばヒップランドの柳井(貢)くんがやっている「#オンラインライブハウス_仮」みたいに、ライヴハウスのキャパ(より抑えめ)しか電子チケットを売りませんみたいなものも生まれてきているので、おもしろいですよね。

cero

──自宅からのライヴ配信という点で言えば、キセルのお兄ちゃん(辻村豪文)がやっている配信に関しては、観ていてすごく相性いいのかなと思って。

角張 : そうそう。だからバンドにもよるんですよね。3月のceroの時はまだスタジオに集まれることができたんだけど、4月の非常事態宣言からスタジオにも集まれなくなってしまって。レコスタとか練習スタジオ、ライヴハウスも人が密集しちゃうから難しかったんです。そういうとき、スカートの澤部くん、キセルのお兄ちゃんみたいな弾き語りできる人たちは当たり前ですが相性がよくて。普段バンドをやっている人たちからすると、弾き語りって真っ裸というか。澤部くんは配信がカクバリズムに所属前からやっていたりしたのでやっぱり上手いなってみていて思いますね。キセルのお兄ちゃんの場合は、こっちが思っているほど楽ではなかったんですよ。やってほしいなと思う気分と、なかなか難しいよなと思う気分、どっちもあって。そういう点では、家祭りもみんなに協力してもらっているんです。やっぱりアーティストとしては100点のライヴができる環境ではないじゃないじゃないですか。そういうのを強いてしまう状況でもあるから。

──そこをどう割り切るかというところでもありますよね。

角張 : だから、僕はお客さん気分で結構観るようにしていて。そうすると、キセルのお兄ちゃんの配信も単純に嬉しいんですよね。家で子どもたちが寝た後に、テレビに繋いだり、PCをつけて、ビールを少し飲みながら観ていて。コメント欄を見ていると、この曲やってくれるんだ、とか書いてあって。うちのアーティストってSNSが得意な人たちが少ないというか、SNSを盛んにしない人たちが多いんですよ。そういう感想を送ってくれる場所があまりないから、SNS、YouTubeライヴのコメントとかを観ているとありがたいなと思うことも多いんですよね。単純にやってくれてありがとうって気持ちが生まれて、内容がまた良いもんだから、次につながっていっているんじゃないかな? と想像できるのがまた良いんです。

 

──角張さんの著書で、キセルのアルバムを出す時に、彼らの意向を組んで完成を待ち続けたけど、もうちょっとケツを叩いて道しるべを作ってあげた方がよかったんじゃないかって葛藤も描かれていました。そういう意味で今、角張さんからミュージシャンに対して、どういうふうに伝えているのかなって。

角張 : ceroが有料配信を想像以上に成功したので、他のみんなもやろうと思っていたとき、CRAZY KEN BANDの事務所の方々からも有料配信をやりたいって相談を受けて、いろいろ相談していたんですよ(6月8日に配信あり)。その流れもあって、これは皆有料配信が盛んになるかなって。で、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、YOUR SONG IS GOODで会場を借りて、お客さんがいなくてもめちゃ踊れるお祭りっぽくできるなとも思って。キセルにも何かやろうよって言ったら、彼らもレーベルが大変だと分かっていたから「何かやりたい」って言ってくれて。それでもそこから1ヶ月以上かかりましたけどね、キセルは(笑)。「大丈夫? いつやるの? 弾き語り」と連絡したら、「いやーまだ今機材のこと調べてるから」って。本当は4月中旬ぐらいにやってほしかったんですけど、1回目はゴールデンウィーク明けで。それもやっぱりキセルのお兄ちゃんらしいなと思いました(笑)。今3回やってますけど、どれも素晴らしいので流石です。

YOUR SONG IS GOOD

──ある程度指針は示すけど、アーティストの意向もちゃんと汲んで、コロナ禍の活動に関しては進めてらっしゃったんですね。

角張 : うちの会社って、オンラインが向いていない人もいっぱいいると思うんですよ。今回の家祭りも、みんな頑張ってくれましたけど、コロナ禍で大変だから、という状況じゃないと難しいと思っていて。結果、すごくいいものが上がってきているから、めちゃめちゃ楽しみなんですけど、反面、普通になんとかライヴをさせてあげたい気持ちももちろんあります。自粛期間中はリリースも多かったので、なんだか焦ってやってそうにレーベルが見えるかと思ったんですけど、昨日散歩していたら、たまたま近くの全然違う仕事の友達に会って。「4~6月、こんな状況なのにすごく動いてるよね。カクバリズムらしくていいよ」って好意的に言ってくれたんです。確かにどこかで焦ってはいるんですけど、うちららしい動きはできているのかなとは思いましたね。

〈カクバリズムの家祭り〉は幕の内弁当みたいな感じ

──ライヴができない一方で、アーティストにとって楽曲の制作期間にもなったのかなと思います。とはいえ、気持ちがネガティヴに引きずられて曲を作れなかったというミュージシャンの方も、取材をしたらいらっしゃいました。

角張 : みんなそうだと思いますよ。結構、食らっていると思います。

──カクバリズムのアーティストの方は、そのあたりいかがなんでしょう。

角張 : 半々ですね。実際、今週ぐらいから再開しましたけど、レコーディングもなかなかできなかったので。スタッフが立ち会わなかったり、セパレートがちゃんとされているスタジオで録ったりしています。あと、自粛期間中、CDショップなど販売店がやっていなかったじゃないですか。4、5月はアナログが順調に売れていたんですけど、お店が開いていかなかったからCDは在庫が店頭に残っている実情があって。どうやって1枚でも多く売っていくかは考えています。ただ、おもしろい売り方も考えていくと、アーティストが作ってきたものより、売り方の方が今だと目立っちゃうから、どうしたもんかなみたいな。情報も多いし、スタンダードに出しても埋もれちゃうだけだし。そこは悩みどころですよね。

キセル

──たしかに、ストリーミングが始まってから、より目に付くような仕掛けをしないと気付いてもらえない感覚はありますよね。ライヴもオンライン化したことで、埋もれてしまうんじゃないかって懸念はあります。

角張 : そうそう。有料にすると、ちょっと閉鎖するわけじゃないですか。もちろん無料で見せるやり方もバランスを考えて、澤部くんとかキセルのお兄ちゃんは無料でやっていますけど。オンラインは観に来やすいはずだけど、新規開拓というのが難しいですよね。ただ新規開拓しやすいかもなので、なんとか頭捻っていきたいですね。あ、あとオンラインライヴには不親切さがないからかなとかいろいろ思っていて。オンラインだとみんなが同じ画を観れるけど、ライヴハウス特有の見づらいとか、場所によっては音が悪いとか、居心地が悪いとか、でこぼこの雑味、情緒みたいなのがなくて。まぁなくても良いかもなんですけど(笑)。たまにメンバーの家のWi-fi環境が悪いとかあると、凄く良いなって思ってしまいますね(笑)。それはさておきいずれ値段によって画質が違うとか、内容が違うとかってシステムは出ると思いますけど、1発で腹9分目ぐらいになる感じというか。そういった点では〈カクバリズムの家祭り〉は幕の内弁当みたいな感じだから、満腹になってもらいつつも、そのお買い得さを感じてもらってから各アーティストに興味を持ってもらって、単独とかに繋がればいいなと思います。

──ビジネス的な面もありますけど、ライヴハウスに行けない=遊びに行く場所がなくなっちゃったというのが、結構つらいんですよね。

角張 : 分かる、分かります。今遊んでますか?

──遊んでないですね……。人ともあまり会っていないので。

角張 : ね、びっくりするよね。俺もちょっと喋ると、喉が枯れるんだよね(笑)。喋ってないから。どうしたもんかなと思うんだけど、いつもね。

──小さいライヴハウスで少しずつ再開しているところもありますよね。客席のスペースを空けたり、ステージに幕を張ったりとかになっちゃいますけど。

角張 : 例えば、検温して、消毒して、半分くらいのキャパで、ライヴを観て帰るだけだったら、できるんじゃないかという気持ちもあって。この前J-WAVEの収録で澤部くんが弾き語りして。300人ぐらい座れる場所に、スタッフ入れて30人くらいの人数だったんだけど、やっぱり生で久々に観たらめちゃくちゃ良くてさ。3分の1キャパでも寂しくないというか、むしろ見やすいみたいな感覚もあった。助成金とか文化基金とかで足りないキャパの分を保証してとかやり方はあると思うんだよね。ミュージシャンの売上はどうするかとか課題はあるけど。

インディペンデントとして当たり前のこと

──最近、浜野謙太さんがTwitter始めたじゃないですか。このタイミングでSNSを始めるのは珍しいなと思って。

角張 : 時間があったんでしょうね(笑)。インスタはやっていたんだけど、検察庁法改正案のことがあって。会社としては、個人の意向もあるし、特に何かいうことはないですよ。ハマケンも今社会的責任というのを痛感したのかなって。大人として当たり前の行動なんじゃないかと思ってます。ただ浜野さんはほんとSNSが下手なので、注意とかは凄いしますけど(笑)。

──マネジメントとしては、SNSでトラブルにならないよう管理するほうが多いのかなと思っていたので、その点もカクバリズムは寛容というか、アーティストを尊重しているなと感じます。

角張 : 寛容というか、まぁみんな大人だしね(笑)。普通に自分で考えて、変だなってことに対して声を上げることはなんら良いと思いますよ。ね、なんだか知らないうちに、事なかれ主義みたいなの下地ができちゃっている感じはありますよね。それに気がついたら、今からでもしっかり変えてやるしかないという気はしていて。僕も42だから、あと10〜20年ぐらい頑張って、少しでも良い社会にしてバトンを次の世代に渡さないといけないじゃないですか。それは、今回のコロナだから云々じゃなくて思います。俺もそう思ったのは震災ぐらいからですけどね。

──たしかに震災のときと同じで、いま何をすべきか、何ができるか考えることはすごく多いなと思います。同時に、10年経ったけど、自分は無力だなと思うこともあって。裏方であることで、何ができるかをすごく考えます。

角張 : たしかに今回それが特に出るよね。ただ今回コロナで知らず知らず緊張状況だった心が音楽によって少し和らいだと思うんですよ。それが、思い出野郎の曲だったり、キセルのお兄ちゃんの配信だったり、家祭りの出演者の音楽を聴いてそう思ってたりしたら、僕は本望というか。頑張ってやってもらってよかったってなるよね。

思い出野郎Aチーム

──実際、そういう人は多いと思います。僕も気持ちが楽になりました。

角張 : 震災の時もそうでしたけど、音楽というのは、経済の濁流がバーってある端っこの方で石のようにコロコロってなっていると思うんです。それでも気づいてくれる人がいるんじゃないかなと思うし、僕もいつもそこに救われているから。最近、ダニー・ハサウェイのライヴ盤を歌詞カードを見ながら聴き返していたんだけど、俺は歌詞を全然分かってなかったなと思って1人でおんおん泣いちゃって。次へ繋げる意識、感覚を音楽は持っていると思うんです。今コロナ禍でライヴなどができない間でも、やっぱりねうちのアーティストも会社もできる限りジタバタしたいなって思っているんですよね。音楽を鳴らすと繋がっていくんじゃないかって希望を持って。

──プラットフォームとかオンラインの方法も変わっていくとは思いますけど、いい音楽がもっといっぱい出てきてくれたらと願っています。

角張 : そこは出てくるんじゃない? 自ずと。有料配信とかネット上の云々との相性もあるけど、おもしろいことは普通にバシバシ出てくるんじゃないですか? ライヴハウスが再開される時も、それ以降も、伝えるという部分で僕たちは地団駄を踏んでがむしゃらにやることが良い音楽を生むとも思うし。そこに可能性というか希望を感じてはいる。今現在、銀行の融資とか助成金を申請しているけど、仮にお金が入ったからコロナ禍が終わるまで待とうかではないんだよね。ダサいなと思う人はいるかもしれないけど、しっかり音楽レーベルとしてかましていきたいよね。グツグツ沸騰していきたい(笑)。

──コロナ禍があったことによって生まれた名曲とか、絶対に表現の中から普遍的なものも生まれてくるんじゃないかと思います。

角張 : 思い出野郎Aチームがクラウドファンディングをやったんだけど、あれに僕はすごく感動して。でね、さらにレコード屋さん支援として「独りの夜は」って曲の7inchの売り上げをその販売してくれたお店に100%渡すんですよ。その企画は、バンドとカクバリズムのスタッフのタッツ(仲原達彦)から「やっていいですか?」ってあがってきて。レコード屋さんも僕らにとっての大切な場所であり、みんなの大切な音楽への入り口じゃないですか? だからそれは絶対やろうって。こっちも気合いが入るというか、そういう繋がりや想いをしっかりやらなきゃいけないなと改めて思うんです。持ちつ持たれつ、支えましょうみたいな。それは、インディペンデントとして当たり前のことっていうのを再確認しましたね。


■イベント詳細

〈カクバリズムの家祭り〉
2020年6月6日(土)START 20:00
チケット : 前売1000円/当日1500円
放送終了後72時間アーカイブ視聴可

出演 :
辻村豪文(from kicell)
辻村友晴(from kicell)
yamomo(吉澤成友、野村卓史、辻村豪文、辻村友晴)
二階堂和美
鴨田潤
VIDEOTAPEMUSIC
スカート
思い出野郎Aチーム
在日ファンクfeat.サイトウ“JxJx”ジュン, MC.sirafu
mei ehara
Hei Tanaka
and more…!!!

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サイトウ“JxJx”ジュン

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