ドキドキとロックだけを発信する音楽フェス〈BAYCAMP〉を主催し、キュウソネコカミ、銀杏BOYZ、神聖かまってちゃん、忘れらんねえよ、クリトリック・リスなど数多くのミュージシャンのライヴ制作を行うロックエージェント、株式会社ATFIELD(以下、エイティーフィールド)。今年で設立20周年を迎え、大々的にイベントを行う予定だったが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、3月以降の全国ツアー、ライヴイベントが200公演以上延期・中止になっている。
そんな苦境に追い込まれている中でも、20周年記念イベントを作り上げるプロジェクト〈エイティーフィールド20周年ライブ開催&ドキドキとロックを続けていきたい!)をCAMPFIREのクラウドファンディングを利用し立ち上げ、6月3日には代表の青木勉の誕生日を祝うイベント〈ポンコツの日 2020〉をオンラインライヴで行うなど、この状況をサバイブするためにアクションを起こしている。
2020年9月12日(土)には、神奈川県川崎市東扇島東公園 特設会場にて、オールナイト野外・ロックイベント〈BAYCAMP2020〉を開催するために、スタッフたちとアイデアを出し合い続けている。今年で〈BAYCAMP〉は10周年、10回目の開催。そんなメモリアルな年に、エイティーフィールドが直面したコロナ禍という事態。代表の青木勉は今何を考えているのか。話を訊いた。
取材&文:西澤裕郎
写真:大橋祐希
〈BAYCAMP〉はやるつもりでいます
──新型コロナウィルスの影響により、8月開催予定だった大規模フェスの多くが中止を発表しました。エイティーフィールドが主催しているオールナイト野外イベント〈BAYCAMP〉は9月開催予定ですが、現状どのようにお考えでしょう。
青木勉(以下、青木) : 〈BAYCAMP〉はやるつもりでいますよ。どういうやり方だったらできるのか、ずっと考えているところです。現実論として、誰かがやらないと一生できないままじゃないですか? 安全性を考えながらも、まずはやりきることが大事で、そうしないと現状は打破できない。各所のフェスが中止になっているのには、いろいろ理由があるんですよ。例えば、設営に関して言うと、準備に1ヶ月近くかかる。仕込みから考えると事前準備が結構必要なんです。
──イベント直前でキャンセルにすると、チケット代の払い戻しだけじゃなく、設営に関する業者さんへの費用など損失が大きくなっていくと。
青木 : そう。だからみんな早めに決断しているんです。発注しちゃったら取り返しがつかないから。コロナでイベントが中止になっても保険が下りないんです。
──大きなイベントに関しては、一回中止になっただけでも会社の存続に関わる大きな額になりそうですもんね。
青木 : 台風などは、しっかり高い保険をかけてやっているんです。仮に台風が来てイベントが中止になっても、そんなに損害はない。逆に今回は本当に取り返しがつかなくて。だから早めに辞める決断するのは当然の安全策なんです。お客さんが不安な中来てもらうのは難しいだろうし、早めに辞めるのも勇気だと思います。ただそれがずっと続くと困るから、どこかで誰かがやらなきゃいけない。時期的にも規模感的にも〈BAYCAMP〉はギリギリ行けそうなところで。もしかしたら地方から来ちゃダメという状況かもしれないし、どういう見解が待っているか正直分からないので、細かく全ての調整をやっている状況が続いています。
──〈BAYCAMP〉は、お客さんが8000〜9000人規模でかなり大型の地方イベントですよね。実際問題、どういったことを現状で考えてらっしゃるんでしょう。
青木 : うちは川崎駅から無料のシャトルバスで来ていただく方法がメインになっているから、そこでの移動リスクはあるなと思っていて。でも、今の段階ですべてダメだと言っていても仕方ないと思うんです。前向きに考えなかったら経済が破綻するし、フェスどころじゃないですよね。言い方を選ばず言うと、コロナにかまけていたら全員死んでしまう。だからこそできない可能性はあるかもしれないけど、「やる予定です」ということで、僕たちはいくしかないと思っていて。
ライヴ自体に行きたがる人が減るんじゃないかって心配もある
──レジーさんがYahoo! の記事で書いていましたが、音楽業界はアフターコロナ、ウィズコロナの流れから取り残されている、と。強い言い方をすると、見捨てられたような状況になっているわけですが、そういう実感はありますか。
青木 : それは本当にありますよ。特に現場のことを考えたら。バンドを組んで、いきなりホールでライヴをやることってなかなかありえないじゃないですか? 普通は小さいライヴハウスから始めて、人気が出てくるとキャパシティいっぱいになって、ぎゅっとなる確率が高くなっていくわけで。そこがライヴの良さでもあるんだけど、そういう一体感を生むこと自身がダメになっちゃっているので。
──一般的に想像されているのは、パンパンのライヴハウスですよね。でも、実際、そんなにパンパンじゃないライヴも多いので、一括りにされてしまうのは、ちょっと違和感がありますよね。
青木 : それは本当にそうで、満員のほうが珍しいというか。ライヴハウスの人たちとも話をしているんですけど、とにかく最初はキャパシティを減らしてやるしかない、と。実験的にやっていって、問題ないんだということを示していかないと、ライヴ自体に行きたがる人が減るんじゃないかって心配もあるんです。特に若い子に関しては、親御さんから連絡が来るんですよ。子どもたちがライヴに行こうとしているから公演を辞めてくださいって。出演者もやろうとしていて、お客さんも観たがっていても、第三者から見ると「なんでそんな自殺行為みたいなことをするんだ」って考え方になっちゃっている。そうなると仕事として成り立たなくて。特に僕らのセクションにいる人間は、自分たちは必要ないのかな…… と思うことが節々にあるんですよね。ロックエージェントとしてアーティストの近くにいるけど、何か権利を持っているわけではないので、ライヴがないと収入にならないわけで。エイティーフィールドを始めて今年20年ですけど、また振り出しに戻ったような気持ちにもなって。
──ここまで実績のある青木さんでも振り出しですか……。
青木 : ライヴだけに特化するのは難しいよねっていう考えに立ち返ったというか。今は各社配信合戦になっているじゃないですか。プレイガイドも含めて。そうなると特にライヴハウスとミュージシャンを繋いでいた我々の仕事って果たして必要なのかってことになってくる。もちろんライヴハウスは必要なんですけど、自分が関わるようになった20年でインディーズシーンも大きく変わって。バンドがフェスをやるようになった。それぞれデカくなって、独立していろいろできる時代になった。そうやってフェス文化が成り立ったところから、いまはコロナの影響で、配信ライヴみたいなものも生まれてきている段階というか。
──それに伴いエイティフィールドにも変化が求められていると。今後、ライヴはどうなっていくと思われますか。
青木 : 2つの可能性があると思って。1個は元に戻る。全国ツアーをやって、地方で待っているお客さんの元へライヴをしにいくというところは変わらない。もう1個は、ツアーに行く必要があるのか? みたいな考え方が出てくると思う。これまでYouTubeで無料で見れたものが、ライヴもそういう有料コンテンツになってきているじゃないですか。チャット機能で投げ銭をもらって収益を得ていくのが、この1ヶ月でスタンダードになり始めている。それはアーティストにとってはいいことだと思うんです。その分、生のライヴの価値はあがっていくわけで。配信ライヴもだんだん物珍しくなくなってレア度がなくなっていくと思うんです。ライヴ配信は地方の人も見れるし、日本中、世界中の人が観てくれるという可能性の部分で、ライヴがプロモーションになっていく。地方に行っても、人気がないと100人キャパのライヴハウスが埋まらないことはざらにあるじゃないですか? でも、ライヴ配信一発だけで2万人が観てくれる可能性もあるし、そのアーティストがどんな感じか伝わるから、好きになっていくというか。そこからCDが売れたり、グッズが売れたりという可能性は実はあるし、応援の仕方が変わっていくと思います。
全対応型のホームというか基地を作りたい
──先ほど、青木さんは「自分たちは必要ないんじゃないか……」とおっしゃっていましたが、そんなことはないと僕は思っていて。海外では、ミュージシャンとエージェントが契約を結んで、それぞれの役割を全うしているじゃないですか。そこは、もっと日本でも対等であるべきなんじゃないかと。
青木 : 本当はそのつもりでエーティーフェールドを始めたんですよ。ロックエージェントと名乗って20年経ったけど、いまだにできなかったということをコロナ禍で実感していて。悲しいかな、僕たちの立場はやっぱり下なんですよ。
──いわゆるパブリシストなども、海外では重要な役割で、ミュージシャンが必要だと思って契約を結んだりしているわけですよね。日本では、いまだに重要視されていないというか、認知すらされていないのが、裏方である我々からするともどかしいですよね。
青木 : きっと、日本の音楽は芸能的な部分も強いんだと思うんですよね。本当は海外のような形にしたくてこの仕事を始めたんですけど、僕の実力が足りなかったというのもあって結果上手く確立できなかった。だけど、もがきたいとは思っていて。悔しいじゃないですか。そのための作戦も考え始めているところです。エーティーフェールドを解散したくないんですけど、ちょっと考え方を変えないと厳しいなとも思っていて。全対応型のホームというか基地を作りたいというのが今の気持ちとしては大きくあるんです。
──そういう意味では、〈BAYCAMP〉が基地になっているんじゃないですか?
青木 : この10年間を生き延びることができたのは〈BAYCAMP〉のおかげだと思っているんです。ただ、今回のようにライヴができなくなったときに、もう1個違う小さいプラットフォームが必要で。それを作らないとと思っている。実験的に何かやっていける場所がほしい。それこそ配信も含めて、そのスペースで何かをやっていけるような場所。四谷アウトブレイクの佐藤さんじゃないけど、ライヴをやれるところをもう1回定義して作らないと、ライヴハウスが成立しない。いろいろな意味で淘汰されていくのかなと思いながらも、ライヴができる場所は必要だから、自分でもやるしかないような気がしています。
──エーティーフェールド自身が場所を作る、と。
青木 : そう。場所を作る。生ライヴもそうだし、配信もそうなのかもしれないし、そういう場所を作るということの重要性を感じています。いいアーティストや新人に出会うことは今後もたくさんあるので、どうやって彼らを応援しながらお金にしていくか。その部分が、ライヴだけじゃ難しいなというのがあるので、次なる展開を考え直さなきゃなと思って。新しいプラットフォームを作っていけたらなと考えています。
──それにしても、まさか20周年の年にこんなことになるとは思いもよらなかったですよね。
青木 : 笑えないけど、笑えるよね。嘘でしょ? って思ったけど、やっぱりコロナには勝てなかったね。しかも世間がエンタメ業界に厳しいじゃないですか。そんな状況に対して抗って、一旗を揚げてやりたいなって気持ちはあるんです。だから、〈BAYCAMP〉もなんとかしてやりたいと思っているし、出演アーティストを発表し続けているんです。そこは最後まで諦めたくないですね。
■BAYCAMP公演概要
ATFIELD inc. 20th presents BAYCAMP 2020 10th Anniversary
2020年9月12日(土) オールナイト・雨天決行
神奈川県川崎市東扇島東公園 特設会場
12:00 OPEN 13:00 START 5:00 CLOSE(予定)
出演アーティスト第2弾解禁!!
・キュウソネコカミ
・the telephones
・夜の本気ダンス
・フラワーカンパニーズ
・Awesome City Club
・Wienners
・teto
・TENDOUJI
・Helsinki Lambda Club
・【DJ】FREE THROW (弦先誠人/神啓文/タイラダイスケ)
and more….
チケットに関して
入場券
オフィシャル3次先行割 5/25 (月) 0:00 〜6/21(日)23:59 ¥8,800(税込)
受付URL:https://w.pia.jp/t/baycamp/
オフィシャルサイト:http://baycamp.net
ATFIELD inc. 20th presents 「フォーエヴァーヤング or DIE」
2020年12月22日(火)@TSUTAYA O-EAST
開場 / 開演 : 18:00 / 19:00 (仮)
料金 : 前売 3,900円(税込)+D別
出演者 : 未定
(プロジェクト始動とともにブッキング開始となります)
チケット発売 :10/31(土) 10:00より各プレイガイドにて発売予定
クラウドファンディングの受付URL https://camp-fire.jp/projects/view/284403