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【連載】ヨコザワカイト「digる男。」Vol.50「カリンバでトランスする。」

StoryWriter

お世話になっております。digる男・ヨコザワカイトです。

オルゴールのルーツとも言われている親指ピアノの一種「カリンバ」。Amazonにはいろいろな種類が出品されており、オススメに表示されたという方も多いのではないでしょうか?

これが、またインスタ映えする楽器なんです。YouTubeにはジブリのカリンバカバーなどがたくさんアップされていまして、再生回数100万回なんでザラ。中には1000万回近く再生されているものもあるので驚きですよね。

 

カリンバの何がそんなに人を惹きつけるのでしょうか。

まずは、その音色。横一列に並んだ金属片を弾くと、木の空洞が揺れて音が出ます。穴の上で指を上下させて音をビブラートさせ、あのホワンとした音を出しています。まさに「#癒し」といった感じの音です。

Amazonで買えるものは、最初からドレミでチューニングされており、楽譜が読めなくても数字で表記されたタブ譜の動画を見ながら、簡単に適当な曲を演奏することができます。楽器にしては値段も安く初心者もすぐに音を出すことができるので、そんな手軽さも人気の1つではないでしょうか。

しかし、実はこのカリンバ、発祥の地であるタンザニアやジンバブエ、ザンビアでは逆輸入された単語として使われており、カリンバという名称は元々現地では使われていなかったということを知っていますか?

元々の呼び名は、「リンバ」や「ムビラ」。このような楽器全般を指す言葉としては、親指ピアノやラメラフォーンが正式な名称となっています。貿易会社が欧米や日本に輸出する際にカリンバという名称を使ったことから、その名前が現在のように本来の意味を超えて使われるようになったそう。詳細は、サカキマンゴーさんのHPなどを参照してみてください。

そんなカリンバですが、僕も先日購入して少し弾いたりしています。確かに適当に弾いてもなんとなくオーガニックな雰囲気が出せます(笑)。しかし、そうなってくると、「この道を極めるとどうなるんだろう?」という疑問が沸沸と湧き上がりました。

そんな疑問を持ったまま、ふらっと入った「ジャニス 2号店」でリンバの文字を見かけ買ってみると、これがまた凄くて奥深い世界が広がっていたのでご紹介します!

もう名前を出してしまっていますが、今回紹介するのはこちら。

サカキマンゴー『limba train』

親指ピアノの世界を甘く見ていたということが、初聴から思い知らされました(笑)。

幾重にも重ねられた音色が大きく揺れるように変容していき、ディストートされたようにも聞こえるビビリ音(サワリと呼ぶらしい)の感触は初めてファズギターを聴いた時のようなワクワク感を想い起こします。そのどれもが僕にとって初めての体験で、呆気にとられたまま全13曲が過ぎて行きました。

このアルバムは、親指ピアノと南九州の板三味線ゴッタンの演奏家であるサカキマンゴーの1stフルアルバム『limba train』。ミュージック・マガジン誌 / ベスト・アルバム2006にて、ワールド・ミュージック部門にランクインしています。

曲のジャンルは、ミニマルミュージックになるのでしょうか。ミニマルミュージックといえばスティーブ・ライヒの『drumming』ですが、これは1つの点からだんだんとずれていくような音楽なのに対し、こちらは最初からクライマックスを迎えているような多層構造でスタートし、4小節ほどのループが大きな揺れを伴って繰り返されていきます。聴いていくうちに自我と音楽とががゆるやかに同期し始め、気がついた頃にはトランスの彼方へと連れて行ってくれるそんな1枚。

僕はこれまで商業用にリメイクされたカリンバしか知らなかったので、クリーンな音がこの楽器の魅力なのかと思っていたのですが、彼が演奏するリンバは“びりつき”がまとわりついた音とでも言いましょうか、時には異質ささえ表現されうる音の響きは僕が描いていたイメージを壊すには十分な衝撃を持っていました。

インストゥルメンタルだけではなく日本語の歌が乗った曲も収録されているのですが、10曲目『浜へ』は鹿児島弁で歌われており時々日本語ではない言語に聴こえるほどの訛りは日本の内側にある辺境と自分の内側にあるノスタルジーとがうまくマッチして情景を想起させます。

この1枚を紹介するのは今更なのでしょうが、おうち時間が増えてカリンバに触れる可能性も増えた現代において、この1枚にこんな世界が広がっているんだということを紹介したく、こんな文章を書いた訳であります。

彼の演奏はどんどん進化しており、ピックアップで音を拾ってエフェクターなどで音をどんどん加工していくスタイルは現地であるアフリカのシーンでも評価され、その奏法が逆輸入型されているとのこと。

最新作『Bintay Cry Baby』では、デジタルへのアプローチも鋭どく鹿児島弁の言葉の力もさらに増している印象を受けました。鹿児島の地方楽器、板三味線のゴッタンもふんだんに使われているとのことで、さらに面白そうな世界が広がっていますね!

 

公式HPには親指ピアノの詳しい情報などが乗っていますので、気になった方は是非覗いてみてください!

サカキマンゴー 公式HP:https://sakakimango.com/j_index.html

ジャニス 2号店:http://www.janis-cd.com/janis2/

※「【連載】digる男。」は毎週月曜日更新予定です。

ヨコザワカイト(よこざわ・かいと)
1997年生まれ、千葉県出身。大学では社会学を専攻している。StoryWriterで連載を担当しながら就職活動中、そして迷走中。最近は、密かに音源も制作している。

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