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大学生が音源をdigる!(毎週月曜更新)

【連載】ヨコザワカイト「digる男。」Vol.55「古書ワルツ荻窪店で買った『RIPPLE』」

StoryWriter

大学生が音源をdigる!(毎週月曜更新)

2019年6月にスタートした連載、ヨコザワカイト「digる男。」。大学生のヨコザワカイトが音楽を中心に、レコードやCD、カセットテープなど、様々なアイテムを古今東西digってきた。

今回から数回に渡り、ヨコザワが毎回どこか一店舗に足を運び、そこでdigった渾身の1作品を紹介していく。果たして、どんな店に足を運び、どんな作品との出会いがあるのか。

記念すべき第1回は、ヨコザワの住む荻窪にある古書ワルツにてdigってきた。

古書ワルツ 荻窪店でDigった一枚 / RIPPLE『RIPPLE』

RIPPLE『RIPPLE』

購入店舗:古書ワルツ 荻窪店
購入価格:330円
購入日:2020年10月1日(木)
レーベル:Charly Groove(Original:GRC)
フォーマット:CD
発売日:1995年(Original:1973年)
ジャンル:Funk / Soul

 

今の日本は寒暖が厳しい。しかし、そんな国にも過ごしやすい気候の日が年に10日ほどある。2020年10月1日(木)はそんな稀な日だった。

僕は、朝からオンラインで適当に大学の講義を受けどうでもいいYouTube動画を見て過ごしていた。部屋の空気が悪くなりふと窓を開けると、肌寒くなる一歩手前の心地よい風が僕と部屋を通り抜けた。その時、僕は外に出ようと決意したのだった。

時計を見ると、もう16時をまわっている。いくら天気が良いからといっても今から渋谷にいくのは億劫すぎるので、僕は自転車で行くことのできるレコード屋を思い浮かべた。

僕の住む荻窪は、それなりに選択肢の揃っている街だと思う。駅前には戦後闇市の頃から立ち並ぶレコード屋や古書店がある。その1つ『月光舎』には結構行っている。しかし、あそこはクラシックの店だ。今日の軽い気分にはなんだか合わない。

下井草には『PHYSICAL STORE』もある。有名バイヤー / DJのChee Shimizuさんがやっている辺境音楽が並ぶ店。ここも通っている好きな店なのだが、最近行ったばかりだったので今日はパス。

【連載】ヨコザワカイト「digる男。」Vol.48「地元にこそ、辺境が宿る。」

そんな名前を思い浮かべながら、今日のレコード屋を決めた。いや、古書店だ。CDも置いてある『古書ワルツ』。今日はここしかない。何故だかそんな気がした。

16時30分、くしゃくしゃの髪のまま僕は自転車を走らせた。早めに帰宅する人々の中を逆流しながら、家を出る前に感じていた「何かをしなければ」という焦燥感は10月1日のおおらかな風にかき消されていた。

道に迷うこともなく、『ワルツ』に到着。『ささま書店』の跡地に今年できた古書店だ。その詳細な経緯は知らないが、とにかくdig的満腹度の高い店である。まず僕は店の外の100円コーナーをdigる。というより、ここしか見ない。なぜなら、店に入る前にその両手が本でいっぱいに塞がれてしまうからだ。

品揃えはサブカル中心に思想本〜小説までなんでも。僕は気の向くままにチェックしているが、特に音楽関連の書籍は必ず手に取って確認するようにしている。

この日は、奥平浩康『ヒラヒラ文化批判』、小林勇『人はさびしき』など適当な本を持てるだけ持ち店内へ。『高速液体クロマトグラフィー』という本もタイトルが良すぎて手に取ったが、中身が数式だらけだったのでパス。言い忘れていたが、外の100棚にもCDが少量紛れているので見逃し忘れないこと。この日はウルフルズなどが置いてあった。

 

もうすでに店内でdigる物理的余裕がないので、CDの棚に直行する。意外に奥に広がる店内には数人の客が渋そうに棚を眺めている。実は出来立ての店なので、本棚はジャンル順/あいうえお順に並べられておらずバラバラに詰め込んであるので注意が必要だ。

一番奥の棚がクラシック。ここは専門外なのでパス。その前にあるのがバラのCDコーナー。ファンクが多い印象を受ける。ハードロックや電気グルーヴなんかもあるが、なんともパワーの強いラインナップである。

ところで、「Spotifyにあるものを何故CDで買うのか」と言われることもあるが、それは「出会い」を買っているのである。僕はそう信じて、知っているCDも知らないCDも買う。

今日はそれまで選んだ本の流れもありなんとなくサイケな音楽に出会いたかった。ジャケットをいくつか眺め、特に気になったものを選んだ。『RIPPLE』と書いてある。漫画的なジャケが気持ち悪く印象的な1枚だが、これまで見たことがなかった。検索しようかとも一瞬思ったが、手が塞がっているのもありとりあえず買ってみることにした。

とにかくそんな本やらCDやらを購入。なんと外の100円コーナーは10冊で半額セール中であり、抱えるほど買ったのに1430円。射精しそうな程のお得感に浮き足立ちながら帰宅する。曇りのない夕日が最高に綺麗だった。外に出て良かったと思った。

というわけで『RIPPLE』。どうやらRIPPLEというバンドの『RIPPLE』というアルバムらしい。95年Charly Grooveからリリースと書いてある。どうやら、レアグルーヴのリイシュー盤を出しているレーベルらしい。Funkadelicもここから出ていたりする。オリジナルは1973年リリース。

 

内容は、脳髄が溶け出しそうなほどチルなファンク。1曲目からEndingのような最高な雰囲気が漂うように感じるのは、僕がファンクに慣れていないからだろうか、それともこの高揚感のある1日をうまく締めようという気分からだろうか。7曲目に「A Funky Song」という曲があるがそれを言ったら全曲Funkyである。しかし、そんなツッコミは澄んだ空気に消えていった。

※「【連載】digる男。」は毎週月曜日更新予定です。

ヨコザワカイト(よこざわ・かいと)
1997年生まれ、千葉県出身。大学では社会学を専攻している。StoryWriterで連載を担当しながら就職活動中、そして迷走中。最近は、密かに音源も制作している。

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