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【連載】ヨコザワカイト「digる男。」Vol.59「R&B最初の1枚はTevin Campbell『Can We Talk?』」

StoryWriter

2019年6月にスタートした連載、ヨコザワカイト「digる男。」。大学生のヨコザワカイトが音楽を中心に、レコードやCD、カセットテープなど、様々なアイテムを古今東西digってきた。今週は果たして、どんな店に足を運び、どんな作品との出会いがあるのか。

今回はDJスクール主催のイベントで知り合ったDJのいしいさんに、R&B/ソウルを教わりに吉祥寺へdig。果たしてR&B初心者が買うべき盤とは?


寒い日こそ、誰かを連れてdigをしよう

2020年10月24日(土)、今日は朝から冷える。いや、正確には寝付けない深夜から冷気は街の底に吹き始めていた。

ちなみに、温度を感じる神経系の基本的なしくみが解明されたのはつい最近のことである。切断しても分裂して増殖することで有名なプラナリアの研究より解析が進んだらしい。低温はヒトにとって不利であるが、一方でdiggerには低温だからこそできるdigというものもある。

先日、DJスクール『高円寺DJ部室』開催の素人でも参加できるDJ練習会に参加してきたのだが、そこで出会ったのがDJのいしい氏。Hip Hop/R&B/ソウルのレコードオンリーで渋い回し方をしていたのでつい声をかけてしまった。レコファンの話題で盛り上がり、連れdigをすることになった。ちなみに、彼は普段カメラマンとして活動している。

いしい氏所属のICHIGO STUDIO:http://www.opencork.co.jp/ichigostudio/

この日はいしい氏が普段行かないという吉祥寺へ。

最初に訪れたのは、「ハードオフ TOKYOラボ 吉祥寺店」。ここは、掘り出し物が見つかるというよりは、オーディオ好きのための綺麗な盤が並んでいるといった印象。

実は、ここの穴場は3階の外。爆安でLDセットが放り出されていたりするので、diggerはチェックを忘れてはならない。前にうる星やつら50枚セットが100円で売られていたときは思わず絶頂し失禁してしまったのだが、この日は特に欲しいものが見つからなかった。

毎度思うのだが、diggerと一括りに呼んでもDJをしているか否かでレコード屋の回り方は変わってくる。

DJの場合、レコード屋に行く前に欲しいものを頭の中でチェックリスト化している場合が多い。レーベル名やプロデューサーの名前を大量に知っているので、もうレコードを掘るスピードが早いのなんの。

一方ただのdigger、というと失礼な言い方かもしれないが、dig自体をゆるりと楽しんでいる人は何にも考えずにレコード屋に行く人が多い。DJと連れdigしたことのない人は是非知り合いのDJを誘ってみることをオススメする。

そんなことはさておき、この日はハードオフを尻目に「ディスクユニオン 吉祥寺店」へと向かった。以前は、「コピス吉祥寺」の向かいにあったこの店舗だが、10月より「吉祥寺PARCO」の地下に移転。ノイズ・アヴァンギャルドコーナーというアイデンティティは残しつつ、スッキリとした店舗になった印象。

残念な点は、100円コーナーがなくなった点。100円コーナーを見にいっているdiggerも多くいると思うので、今後是非とも復活して欲しいものである。

この日は、普段行かないR&Bコーナーへ直行。いしいさんに教えてもらいながら、なんとか掘り進めてみた。掘り慣れていない棚を漁るのは一苦労だ。結局「これは350円なら買いだよ!」と教えてもらったTevin Campbellの『Can We Talk?』(PRO-A-6643)を購入。彼曰くAlbum verが特に良いのだそう。

ディスクユニオン 吉祥寺店でDigった1枚 / Tevin Campbell『Can We Talk?』

Tevin Campbell『Can We Talk?』(PRO-A-6643)

購入店舗:ディスクユニオン 吉祥寺店
購入価格:350円
購入日:2020年10月24日(土)
レーベル:Qwest Records
フォーマット:Vinyl
発売日:1993年
ジャンル:Hip Hop, R&B

 

 

1993年のグラミー賞 最優秀R&Bソング賞、最優秀男性リズム・アンド・ブルース・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞した本作。作曲・プロデュースは、エリック・クラプトン「Change The World」もプロデュースしたBabyface。

Tevin Campbell(当時17才)の惚れ惚れするような甘い歌声、今も褪せること無い美しいメロディー。完璧なR&Bの一枚をいしい氏はチョイスしてくれた。

レコードバックに購入品とほくほくとした気持ちを詰め、秋の寒さをいつしか忘れた私といしい氏は、その後「ココナッツディスク 吉祥寺店」へ。

このお店は、一言で言えば「間違いない」レコード屋だ。良質なグッドミュージックが揃っており、価格もお手頃価格に抑えている。

ここでは、これまたいしい氏イチオシのGeorge Benson『Breezin’』を購入。名盤中の名盤だそうで、これまで知らなかった知識の無さに若干の恥ずかさとワクワクを胸に購入。

George Benson『Breezin’』(P-6458W)

購入店舗:ココナッツディスク 吉祥寺店
購入価格:800円
購入日:2020年10月24日(土)
レーベルレーベル:Warner Bros. Records
フォーマット:Vinyl
発売日:1981年(Original:1976年)
ジャンル:Jazz, Funk / Soul

 

通りdigを済ませた後、せっかくなので、いしい氏にDJになった経緯などを訊いてみた。

──いつ頃からDJをやられているんですか?

いしい:16才の頃かな、もう20年前(笑)。最初はMTVのアニメ『BEAVIS AND BUTT-HEAD』にRun-D.M.C.が出てきて、衝撃を受けてさ。それで中学に上がって、掃除の時に出てきたラジオをつけたらInterFMにつながって、DJのミックスショーをやってて。「曲が繋がってる!」ってすごいかっこいいなと思って、16才の頃アルバイトして貯めたお金でタンテとミキサーのセットを買ってさ。Denonの安いやつね(笑)。あと、初めて買ったレコードはJanet Jackson『Doesn’t Really Matter』かな。

 

──そこから、ミックスするということにはまっていったと。

いしい:そうそう。ミックスショーを聴いては、曲を繋げるってことをずっとやってたんだよね。高校の頃はミックステープ作って周りに配ってたかな。そのころからどんどんレコードが溜まっていったんだけど、就職の時にいったんやめて、MPCを買ってトラックメイクしてた時期もあったんだけどそれも頓挫してさ。20半ばになって、行きつけの飲み屋でDJやってる人がいたんだよ。失礼な話だけどその人があんまりうまくなくて、俺でもできるんじゃないかって思ってさ(笑)。それで次の週、自分の家から機材持ってくるんでやってもいいですか、って言っちゃったんだよ。

──勢いも時には大事ですよね(笑)。

いしい:それが人前で初めてのDJだった(笑)。でも、そこからまた月日が経って。29才まで医療事務やってたんだけど、辞めて写真学校に通ってカメラマンになってさ。落ち着いてしばらくした時に、職場の近くに『レコファン横浜店』があって。あそこの100円棚がめっちゃ良くて、死ぬほど買っちゃってさ。また集め出すようになって、溜まったレコードをつなげるようになって。そうすると発表する場が欲しいじゃん。それでネットで検索したら、『高円寺DJ部室』が出てきて練習会に行くようになってさ。

──色々なDJへのなりかたがありますね。

いしい:俺の場合はラジオで耳からだったけど、最近はDMCの動画をYouTube見て始めるとかね。スクラッチできるかっていう壁はでかいんだけど(笑)。

──ちなみに、なんでアナログなんですか?

いしい:もちろんレコードにしかない曲があるっていうのはあるんだけど、もう一つの理由がレコードDJって回ってるものに対して直接触れるわけじゃん。それって“音楽に直接触れている”ような気がしてさ。まあ、レコードじゃないとできないテクニックもあるんだけど、でも不器用でいいからさ。

そんな会話をしつつ、digったものを見せてもらった。本日のいしい氏の購入品は、

・PITCH BLACK(FEAT.STYLES P)『NICE』
・Sauce Money『Against The Grain』
・Jeru the Damaja『Me Or The Papes』
・Bahamadia『Uknowhowwedu』など

この並びを見て気付いた人もいるだろう。プロデューサーが、DJ Premierなのだ。こうした凝ったdigをできることこそDJのカッコ良さだと勝手ながら思ってしまった。

帰って、購入したレコードに針を落としてみる。少し擦ってみたりもした。うまく繋げることはできなかったけれど、レコードがちょっと冷えていることに気がついて、レコードっていいなと思った。

ココナッツディスク 吉祥寺店 HP:http://coconutsdisk.com/kichijoji/
ディスクユニオン 吉祥寺店:https://diskunion.net/shop/ct/kichijyouji
高円寺DJ部室:https://tokyodjlabolatory.jimdo.com/

いしい氏所属のICHIGO STUDIO:http://www.opencork.co.jp/ichigostudio/

※「【連載】digる男。」は毎週月曜日更新予定です。

ヨコザワカイト(よこざわ・かいと)
1997年生まれ、千葉県出身。大学では社会学を専攻している。StoryWriterで連載を担当しながら就職活動中、そして迷走中。最近は、密かに音源も制作している。

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