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【INTERVIEW】クリトリック・リスが語る、コロナ禍で産んだ4作目のアルバム

StoryWriter

クリトリック・リスが4作目となるアルバム『ROAD TO GUY』を2020年12月16日にリリースした。「年齢に逆らわず自然体で己の道を進もう」というアルバムタイトルがつけられた本作には、ライヴハウスをテーマにした「WEEKDAYS LIVE LIFE」、「STAY MUSIC」、実体験をもとにした「SUNDAY SUNSET」、「カレーライス」、「さよなら高円寺」など、スギムがコロナ禍の中で家にこもって制作した全12曲が収録されている。そんな本作について、スギムにZoomで話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎
写真:ryutaro saito


自分のやりたいように制作した4作目のアルバム

──今作は前作に続いてスギムさんのセルフ・プロデュースです。レコーディングに関しても、前回と同じく近所の集会所で行ったんですか?

スギム:今回は、コロナの影響で集会所が使えなくなってしまったので、東大阪市が運営する市民多目的センターという所で録りました。隣の部屋でコーラス教室や年寄りが麻雀をやったりしていたんですけど、壁が薄いから僕の歌声が聴こえていたみたいで。休み時間に声をかけられました。

──どんなことを話しかけられたんですか?

スギム:「喧嘩しているんちゃうかなと思って心配していたわ」とか「演劇でもやっているんかな」みたいな。言葉を選んで話してくれたけど、僕1人しか部屋にいなかったので、ちょっと頭がおかしい人と思われていたみたいです(笑)。

──歌っている内容も内容ですしね(笑)。

スギム:シンナーとか、どうせ俺らは早く死ぬとか、歌っているからね(笑)。

 

──あははは。スタジオでレコーディングしない理由はあるんですか?

スギム:レコーディング・スタジオとかエンジニアさんに録ってもらうと、時間やコストや相手の気持ちが気になって集中できないんですよ。その点、市民多目的センターはコロナということもあって大体空いていたので、自分の都合いいタイミングで録れました。一度完成近くまでいったんですけど、納得がいかなくて、マスタリング段階でもう1回市民多目的センターに行って歌詞を変えて録り直したんです。エンジニアの栗本亮平さんには苦労かけましたけど、無理難題を言っても怒らないので(笑)。自分のやりたいように音源制作をさせてもらいました。

──アルバム制作はどのタイミングで考え始めたんですか?

スギム:本当は11月1日に大阪で開催した〈栗フェス2020〉に合わせて作りたかったんです。そこに向けて曲数も増やしていったんですけど、なんだかんだで忙しくて、制作が進まなかった。納得のいく作品を出したかったので、年内まで締め切りを延ばして作っていきました。

──少し前にLimited Express (has gone?)の取材でYUKARIさんと谷ぐちさんに話を訊いたとき、毎日次のライヴに向けて生きていたことを再認識したという話をしてくれたんです。年間200本以上ライヴを行なっているスギムさんも、ライヴハウスが中心になっていたことを改めて感じたんじゃないでしょうか。

スギム:今回のアルバムに「STAY MUSIC」って曲があって、〈音楽は魔法 ライヴハウスは奇跡〉って歌ってるんです。それは「音楽で世界は救えるよ」と言っているミュージシャンに翻弄されるお客の歌なんやけど。そこ数ヶ月で、人数を制限しながら有観客でライヴができるようになってきたけど、お客さんが戻ってこないのでコロナ以前のようにはいかない。規制が強くて全力でやれないストレスもある。ライヴに依存していたのはお客さんというより僕を含めた出演者やったんやなって、再認識しましたね。

 

老害扱いされないために生まれた楽曲とは

──今作に収録されている「さよなら高円寺」と「WEEKDAYS LIVE LIVE」は、2019年の日比谷野音ワンマンで披露していた曲です。この曲を聴くと、たくさんの人たちが集まって、ルールギリギリの中で歌って楽しんでいたあの日の光景が思い浮かんでくるんですよね。

スギム:「WEEKDAYS LIVE LIFE」は日比谷野音直前にできた曲で、どうしてこの曲を作ったかといったら、クリトリック・リスのライヴはOasisの「Don’t Look Back In Anger」をみんなで歌ってよく締めてたんですよ。人の曲じゃなくてみんなで歌える自分の曲が欲しかったんです。コロナがなかった時代でも、平日のライヴハウスには人が入っていなかった。その光景やシーンを歌った曲なんやけど、コロナで土日もライヴハウスが営業していないこともあれば、平日はもっと厳しい。それを思うと、この曲の歌詞から受けるイメージもだいぶ変わってきていると思いますね。

──「さよなら高円寺」は、スギムさんが東京・高円寺にアパートを借りていたことがきっかけで生まれた曲です。

スギム:これは都落ちの曲で。僕は「さよなら高円寺」の主人公のようにデカい夢があるわけやないんやけど、未だに高円寺に部屋を置いていて。今回ミックスしてくれた岡山のエンジニアの栗本亮平さんも、10年ぐらい前に東京に夢を持って出てきて高円寺に住んでいたらしいんです。それが実らず岡山に戻ったこともあり、この曲をすごく気に入ってくれて「ベースを弾かせてくれ!」って打ち込みやったベースを生で弾いて差し替えてくれたんです。場所が高円寺じゃなかったとしても、栗本さんのように若い頃に夢を持って出て行ったのに、それが叶わず今は別の生活を送っている人たちに共感してもらえているのかなと思いますね。

 

──「老害末期衝動」は東京初期衝動を想像するようなタイトルです。実際、対バンもしていましたし、どのように生まれた曲なんでしょうか。

スギム:まさに去年初めて東京初期衝動と2マンをした時、小娘たちを叩き潰そうと思って作った曲なんです(笑)。50歳を超えた今も、僕は若手のバンドと対バンさせてもらうことがあって。もちろん刺激を受けるけど、ついていけない部分もどこかにある。そういうギャップみたいなものも込められています。今は出演者も打ち上げに来ないし、お酒も飲まないし、練習すればいいと思ってる。破天荒じゃない。それを直接言うと本当に老害扱いされるので、それを歌に込めた感じですね。決して東京初期衝動のことを言ってる訳じゃないですよ(笑)。しーなちゃんに怒られます。

 

──あははは。ライヴハウスに出演するミュージシャンの慣習もだいぶ変わりましたよね。

スギム:それに関しては、SNSの発達が大きいと思っていて。10年ぐらい前までのライヴハウスって、いい意味でも悪い意味でも無法地帯で、何かが起こる場所だった。出演者とお客さんとライヴハウスの間に信頼関係みたいなのがあって、そこにおる人たちだけで秘密を共有できてた。今はお客が数人でもその中の1人がSNSで拡散しちゃうと一気に叩かれたりしますからね。昔は喧嘩があったり、演者がゲロを吐いたり、脱糞をしたり、むちゃくちゃなことがありましたけど、今はそこにおる人がそれを面白いと思ってSNSに流しても、そこの空気を吸ってない人たちがそれを観て不快に思う。そういう窮屈さは感じていますね。僕は未だにあの頃のむちゃくちゃなライヴハウスが忘れられなくて、酒飲みながらあの頃はよかったな的なこと愚痴ることがあるんですけど、今の若者はそこを通っていないから、そんなことは知ったこっちゃないとは思うんですけど。さみしいですけどね。

クリトリック・リスが下ネタを作らなくなった理由

──今作では、野球を題材にした歌詞がいくつか出てきます。もともと「崖っぷちのピンチヒッター」で野球について歌っていましたが、今回これだけ野球がモチーフになっている理由はあるんでしょうか?

スギム:僕自身、小学校の頃ずっと野球をやっていたんです。歌詞を書くにあたって、やったことのないアイスホッケーとかフットボールの曲は書けないじゃないですか。コロナ禍で大阪に閉じこもっていたとき、隣の駅に住んでいる母親のところによく行っていたんです。その中で過去を振り返ることも多かった。野球をやっていた頃も思い出して、こういう曲ができていったんやと思います。

──お母さんや弟さん、家族のことをここまで具体的に書くことも、ほとんどなかったですよね。家に帰ったり、昔を思い出していたからこそだったんですね。

スギム:たしかにそれもあると思いますね。アルバム制作にあたって特別意識はしていなかったけど、結果そういう形になって出てきているんかなと、いま聞いていて思いました。

──「カレーライス」は、だいぶ前からある曲ですよね。

スギム:かなり前からある曲なんですけど、だいぶ歌詞を変えましたね。もともと、ここまで踏み込んだ具体的な歌詞ではなくてモヤっとした歌詞やったので。

──歌詞に具体性が出てきた理由はなんなんでしょう。

スギム:自分の体験したこととか見てきた光景は映像のように頭に浮かぶので、より感情移入しやすいんですよね。光景を思い浮かべて感情を込めて歌えば、お客さんにも伝わると思うんです。具体的な表現とか地名、名詞をあえて出すことによって、頭の中でそのシーンが再現できやすくなるから歌詞も具体的になってきているんやと思います。

──それに並行して、下ネタも減ってきましたよね。

スギム:下ネタを入れると、どうしてもコミック・ソング寄りになっていくんですよ。もちろん今後も作っていくつもりはあるんやけども、今回の12曲は、そこまでお笑い要素がないと思うんです。僕は音楽のことに関しては真摯に向き合って作ってきたつもりで。結果として、僕のようなハゲたパンツ一丁のおっさんがライヴでやることによってコミカルに映るのであれば、それはそれでいいかなとは思うんやけど、決して楽曲には笑かそうと思って作ってはいない。そういう意識もだいぶ強くなってきたので、下ネタは減ってきたのかもしれないですね。

──あえて今、下ネタを歌う必然性もないですからね。

スギム:活動初期の頃は下ネタの曲しかやってなかったけど、下ネタが大好き! やっぱ下ネタだよね!っていうお客さんなんていなかったですから(笑)。そんな人はライヴハウスには来ません。家で「みこすり半劇場」でも読むでしょ。僕も生きてきた中で、下ネタに関する思い出や出来事もあったから、今後も歌っていくんでしょうけど、下ネタを柱にしていくつもりはないですね。

──11曲目「ほーむたうん」はこれまでのクリトリック・リス楽曲っぽくないですが、どのようにできた曲なんでしょう?

スギム:「ほーむたうん」は、高知県四万十市の森飛南可くんっていう子が作った曲なんです。四万十市中村ではみんなから愛されてる曲で、今回彼に許可をもらって僕が歌詞を乗せました。高知県の四万十市の光景とか、彼らのことをイメージしながら歌詞を書いているんです。

──それこそ、酒相撲のテーマが生まれた場所ですよね。

スギム:そうです、そうです。毎年〈四万十川じゃんロックフェスティバル〉っていうイベントを秋頃にやっていて、地方からもゲストを呼んでやるんやけども、今年はコロナということもあって僕1人がゲストで単身で行って。規模はものすごく縮小してやったんですけど、思い入れのある場所なんです。

クリトリック・リスに影響を受けて音楽をはじめるクリヲタたち

──アルバム最後の曲「テレフォンオペレーター」は、ちょっとコミカルというかアルバムの中では異質な曲ですよね。

スギム:この曲は、クリトリック・リスの名物スタッフ・あいどんが、テレフォンオペレーターのアルバイトをしていることがきっかけで作ったんです。具体的にどういう仕事をしているのか僕もよくは知らんのですけど、彼の周りで働いている人たちをイメージして作りました。間、間にレゲエのアイリーとかコマゲンとかを合いの手のように入れていて、今回の中では唯一コミカルな曲ですよね。レゲエ調で他の曲と比べると異質なのでアルバムの最後に入れました。間に入れると、ちょっと流れが悪いかなと思ったんで。

──そういう意味で言うと「PUNKISHMAN IN BBQ」もアルバムの中で異質というか、80年代のパンク・ロックっぽい感じの曲です。

スギム:前作には「MIDNIGHT SCUMMER」とか「エレーナ」、「俺はドルオタ」みたいにアッパーな曲がいっぱい収録されていたんですけど、今回のアルバムはわりとミドルテンポの曲が中心でアップテンポの曲がないなと思って。コロナ禍で、わりと気持ちがふさぎ込んでいる中で、自分の中ではアッパーな曲をやれる状況でもなかったし、そういう曲を作る気持ちでもなかったから最初は入ってなかったんですけど、いざアルバム曲が揃ってくるにつれて、やっぱりアッパーな曲を入れておこうということで1日で作りました(笑)。こういう曲があって、アルバムもバランスがとれてきたのかなと思います。

 

──「ROLE-PLAY LOVE」に関しては、スギムさんがコロナ禍で初めてRPGゲームをやったことで生まれた曲なんですよね。

スギム:こういう世界もあんねんなと思って。顔も見えてないけど、生きた人がこのキャラクターを動かしてるんやなと思うと不思議な感覚になって。この人たちって普段はなにしてはるのかな、年齢いくつなんかなって思った時に、二次元の画面の中で繋がる世界もあんねんなと思って。ゲームにはハマらなかったけど、そういう経験があってできた曲ですね。

──1曲目「アイドルジャンキー」は、前回の「俺はドルオタ」もそうですけど、アイドルオタクをモチーフにした楽曲です。未だにスギムさんの中には、アイドル・カルチャーは強く残っているんですね。

スギム:クリトリック・リスを観に来てくれるお客さんにドルオタが一定数おるんと、僕自身もアイドルと対バンすることが増えたので、身近な存在になりましたね。彼らはいい意味でも悪い意味でも等身大なんですよ。自然と曲になっていきましたね。

──曲の中でコールをしたり叫んでいる声は、どなたなんですか?

スギム:これは、録音場所の市民多目的センターにクリヲタ(※クリトリック・リスのファンの総称)を6人集めて、録りました(笑)。女の子2人、男の子4人を集めて録ったんです。メインのコールはスタッフのあいどんです。

──最近では、林也寸夫さんをはじめクリヲタの中から自分の表現をはじめる人たちも出てきています。それに関しては、どう思っていますか?

 

スギム:そこに関しては、素直に応援したいですし、サポートできることがあったらサポートしてあげたいです。僕が音楽を始めた動機も、今後音楽でやっていこうという強い意志があったわけでもなく、お酒の勢いで始めたことが、こうやって人生を変えるまで繋がっていったので。そういう僕を見てきた人たちが、クリトリック・リスのようにやりたい、と思ってくれるのも光栄やし、僕の周りの人たちを見て楽しそうやなと思ってもらえるのも嬉しい。教えられることがあるんやったら教えてあげたい…… けども、バーターにはしないようにしたい(笑)。それはお互いのためにはならないので。

──未だにコロナで先が見えない部分もありますが、クリトリック・リスの2021年の展望を教えてください。

スギム:2020年は地方に行く予定が立てられずに、実際、ほとんど行くことができなかったんです。コロナで行けていない土地が多いので、早く回りたい気持ちが大きいですね。あと、今年は〈栗フェス〉をやれたこと自体とてもありがたかったんやけど、コロナ禍で完全な形ではやれなかったので、継続して〈栗フェス〉も続けていきたいですね。


■リリース情報

クリトリック・リス『ROAD TO GUY』
発売日:2020年12月16日(水)
レーベル SCUM EXPLOSION
【CD】SCUM-002/¥2,500+tax

収録曲:
1. アイドルジャンキー
2. LOST SUMMER
3. 老害末期衝動
4. SUNDAY SUNSET
5. STAY MUSIC
6. さよなら高円寺
7. ROLE-PLAY LOVE
8. カレーライス
9. PUNKISHMAN IN BBQ
10. WEEKDAYS LIVE LIFE
11. ほーむたうん
12. テレフォンオペレーター

■ライヴ情報
〈ROAD TO GUY レコ発ワンマン〉
2020年12月23日(水)名古屋・今池HUCKFINN
2020年12月25日(金)大阪・堺FANDANGO
チケット予約:https://ws.formzu.net/sfgen/S38506632/

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