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【INTERVIEW】京都在住・宅録ローファイSSW、湧とは何者?「気高いビッチになりなさい」

StoryWriter

1999年生まれ、京都在住のシンガー・ソングライター、湧。アナログシンセサイザーとギターを駆使したLo-Fiサウンドを特徴とし、作詞、作曲、編曲、レコーディング、ミックスまで自宅スタジオで1人で行っている。同時に、Tik TokをはじめとしたSNSでも積極的な発信を行い、「ミスiD2021」にもエントリーしファイナリストにノミネート。

2021年1月には、1曲の中で9つの展開を見せる9分の狂想曲「ソーリョベルク幻想曲」を配信リリース。バッハから、トム・ヨーク、『涼宮ハルヒ』までさまざまな影響を受けつつ、妄想の世界で繰り広げたストーリーを音楽で表現している。

強いこだわりを持ちながら、あくまで音楽を中心に活動を続けている湧に、これまでのキャリア、楽曲、同時代を生きる女性に伝えたいことまで、ざっくばらんに話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎
写真:渡辺知寿


昔はずっと怒っていたし、それを歌っていました

──湧さんは現在京都在住ですが、生まれも京都なんですか?

湧:出身は青森県です。3歳から6歳まで岡山で育って、小1のタイミングで京都に来ました。そこからは、ずっと京都です。

──青森での記憶はありますか?

湧:ないんですけど、肌は一応白いです(笑)。あと、最近リリースした「ソーリョベルク幻想曲」に、ねぷた祭りの祭囃子が入っています。

──ちゃんと自分のルーツを入れているんですね。ちなみに、小さい頃はどんな音楽を好んで聴いていたんですか?

湧:昔はバッハが好きでした。緻密に構成されていくのが格好いいなと思って。あと、お母さんが斉藤和義が好きだったので、一緒にライヴへ行ったりしていました。

──自分で音楽をはじめたきっかけはなんだったんでしょう。

湧:高校で軽音楽部に入ってギターと歌をはじめたんです。ガールズバンドのリードギターでKANA-BOONとかコピーしていたんですけど、自分で作りたいと思い始めて、だんだん部活に行かなくなって。最終的に自分で作るほうが楽しいなと思い始め、軽音部も学校も辞めて一人で歌い始めました。当時は、いろいろ溜まっていたものを吐き出しましたね。

──自分の中で作りたい音楽のビジョンがあった?

湧:当時はそんなになかったです。思春期って言葉にできないようなモヤモヤとかいらだちがあるじゃないですか。昔はずっと怒っていたし、それを歌っていました。

──モヤモヤとか怒りの原因みたいなものはなんだったんでしょう?

湧:大学受験をするためだけの授業が嫌になってしまったんです。進学校に行っていたんですけど、とりあえず賢い大学に行きたい! みたいな雰囲気に苛立ってしまって。やりたい勉強があるから大学に行くんじゃなくて、とりあえず賢いところへ行くみたいな周りの人たちの理由にイライラして。

──大学に行くためだけに勉強している環境に疑問を感じたと。

湧:今思えば、学校に行けば友だちがいるという状況はすごく貴重だったんですけど、当時は教室にいる事が苦しかった。家でギターを弾くか、アニメを観るか、寝るか、バイトかという生活をしていました。

──逆に、湧さん自身は学校に行く明確な目的を持っていたんですか。

湧:中学でいじめられていたんです。それもあって、賢い高校へ行けばいじめがないと思ってひたすらに勉強して。賢いところに入って勉強を頑張ろうって思っていたんですけど、軽音楽部に入って音楽が楽しくなっちゃって。

──高校には一生懸命頑張って入ったわけじゃないですか。辞めるのに躊躇はなかったんですか。

湧:一生懸命入ったけど、音楽の魅力の方がすごかったので躊躇はなかったと思います。

──作詞作曲はどのように覚えていったんでしょう。

湧:先輩にコードとかカポをつけたらキーが変わるよとかいろいろ教えてもらって。弾きながら歌っていたら曲ができて、やったー! ってなりました。最初に曲ができたときはうれしかったですね。

──初めて作った曲のタイトル、覚えていますか?

湧:「サガシモノ」です。家出をした黒猫を探す曲でした。

──Twitterなどでも猫のことを投稿していますよね。湧さんの人生において、猫の存在は欠かせない存在なんですね。

湧:生まれてから猫がいない生活はほとんどなくて。1人暮らしを始めて3ヶ月間くらいいなかっただけで、ずっと猫がいます。

──今一緒に暮らしている、キクちゃんはどんな子なんですか?

湧:キクちゃんは湧ちゃんが大好きな猫ですね。肩に乗ってくれたり、私を抱きしめてくれるんですよね。かわいい……。生活の中にいるのが当たり前なので、歌詞にもポロッと出てきます。

羊を数えながら寝ようと何回も試みるけど、だいたい爆発が起こる

──高校を辞めてから、どのような生活を送っていたんでしょう。

湧:通信高校に通いながらバイトをしたり、アニメを観たり、家で病んだりって感じでした。思春期は、生きることにいろいろ絶望もしたりしていました。

──僕は毎年、アイドルのオーディション合宿に密着して10代の女の子の話もよく訊くんですけど、何者かになりたい、今ここじゃない場所に行きたい子がすごく多くて。湧さんは、そうした欲求が音楽へと繋がっていった?

湧:何者かになりたいという気持ちはめちゃくちゃ分かります。湧は、そういう時にめっちゃ妄想するんですよ。私が世界を救ったり、誰かとお話をしたりする。そのストーリーの中で曲ができていくんです。湧の曲を聴いてくれた人が、その曲を通してハッピーな脳内ワールドの何者かになってくれたらうれしいなと思います。

──例えば、どんな物語を妄想したりするんでしょう。

湧:羊を数えながら寝ようと何回も試みるんですけど、だいたい丘の向こう側で爆発とかが起こって。そこからの展開はその時々で、戦争の場合もあるし、宇宙人の侵略もあるんですけど、大体羊を10匹超えたあたりから死んじゃう。なので、全然眠れくなっちゃうんです。

──羊を数えて小屋が爆発する人と初めて会ったかもしれないです(笑)。

湧:そういう妄想の世界があって、その中だけで話せる人とかもいるんですよ。例えば、失恋したら妄想の中でその人と喋るとか、そういうのを音楽でも表現していますね。

女の子が機械に囲まれていたら映えるじゃないですか

──Twitterで楽曲の制作環境を拝見しましたが、PCだけでなく、ハードウェアの機材をたくさんお持ちですよね。ものに対する愛着があるんですか?

湧:シンセサイザーとか、サンプラーとかですよね? かわいいし、映えるんです。昔はMacのMIDIとかで作っていたんですけど、機材を見たら欲しくなって。めっちゃいろいろな色で光ってくれるんですよ。かわいいし、楽しい。

──最初は見た目から入ったと。

湧:そうそう。それでめっちゃ制作がしやすくなりました。入口はかわいいからなんですけど、結果的に曲作りの幅がめっちゃ広がりました。

──機材を買った理由もおもしろいですね。

湧:女の子が機械に囲まれていたら映えるじゃないですか。愛用しているMC-707は電源だけ点けて置いておいたらイルミネーションになるんですよ。家に豆電球がないから、夜にそれだけ点けて寝るんです。

──そんな使い方してる人、初めて聞きました(笑)。

湧:持っている人、絶対してますよ(笑)。「ソーリョベルク幻想曲」は、ほぼその機材で作っています。

──曲を聴いて思ったのが、型にはまってないというか、自分の中で想像しているものを音にしている感じがする。オリジナリティがすごくありますよね。

湧:ジャンルが固まってないっていうことをよく言われるんですけど、それは曲や歌を自分の頭の中で作って音にしていくからで、毎回全然違う曲になっちゃうんですよね。それがよいことだと考えて、歌や歌詞、曲調が全然違っても、湧だなと伝わるように頑張っています。

──作詞作曲編曲、さらにミックスまでやることもあるんですよね。

湧:「ソーリョベルク幻想曲」は全部自分でやりましたね。

──そこまで自分で全部やるというのには理由はあるんですか?

湧:そのほうが早いから。あと、自分のこだわりが強いものは自分でやっちゃいます。ミックスは下手だけど、こうしたい! という構想もあるので。ミックスを想像しながら作ったりすると楽しいというのもあります。

──音色にも好みやこだわりがありそうですよね。

湧:ありますね。自分で作りながら、あ、私この音めっちゃ好きなんだなって分かってきた。言葉にできない部分を音が補っているので、音とかフレーズはすごく大事ですね。

 

──音作りをするうえで、参考にする曲やアーティストをあげるとしたら?

湧:いろいろ聴くからなあ。これだ!っていうのは難しい。でも、なにか言っておいた方がいいな。どうしよう、どうしよう。トム・ヨークはめっちゃ好きです。あとゲームはやったことがないんですけど、『サガ・フロンティア』のBGMをめっちゃ聴きますね。アニソンめっちゃ聴いちゃいます。

──アニメからは、かなり影響を受けている?

湧:そうですね。dアニメストアに入ったので、最近は、生活の中でアニメがめっちゃ流れてます。

──どういうアニメが好きなんですか?

湧:かわいい子が出てくるアニメが好きです。沼ですね。1番『涼宮ハルヒ』が好きです。だから、神前暁さんの音楽とかめっちゃ好きです。

淘汰されて生き残った人たち、もの、音楽が待っている希望がある

──これだけ音楽にこだわりを持っている反面、TikTokInstagramTwitterとかSNSもかなり力を入れてやっているじゃないですか。あまり表に出たがらない人もいますが、どんな気持ちからやってらっしゃるんですか?

湧:自分の音楽をもっと広めたい。そのためにやっていますね。TikTokとかは特に自分の曲を聴いてほしいなと思って、自分の曲を歌ったり音源を使ったりしていて。Twitterも一応宣伝とかには使ってるけど単純に好きなんですよ。

──言葉を使って、発信する感じが?

湧:そうです。Twitterだったら、どうでもいいこととかも呟けるので好きですね。極力曲でいろいろ伝えようとしているけれど、総まとめして伝えたいことは、インスタとかTwitterとかでたまに書いたりします。SNSの投稿を見てこういう人いるのか、じゃあ、曲も聴いてみようってなったらいいなって。

──さらに、「ミスiD2021」にもエントリーしています。これも曲を聴いてほしいという想いからなんでしょうか?

湧:ミスiDは、コロナになってからエントリー始まったので応募しました。コロナの中、私たちミュージシャンはライヴハウスだけではやっていけなくなって地上に出ないといけなくなってしまった。オールマイティに戦える人にならないといけないので、勝負しようかなという気持ちからエントリーしました。

──「アフターコロナの世界に期待することは何ですか?」という問いに対して「淘汰」と答えているじゃないですか? これはどういう意味なんでしょう。

湧:わー! そんなん言ったら、湧が悪者みたいになる(笑)。

──悪者になりそうだったら、書かないから大丈夫です(笑)。

湧:例えば、コロナになって解散してしまうバンドがいたり、ライヴハウスも頑張って生き残りをかけている。どの業界やジャンルに関してもふるいにかけられている気がするんです。その中でも必死に頑張ろうとしている人は、コロナが終わった後もスタートダッシュでバーって切れるだろうから。今めっちゃつらいけどコロナが終わったら、淘汰されて生き残った人たち、もの、音楽が待っているんだなっていう希望がありますね。

 

女の子はみんな、もっと欲望に自由に生きてほしい

──「ソーリョベルク幻想曲」について、聞かせてください。1曲の中で何度も曲調が変わっていくじゃないですか。断片がいろいろあって、それを1つの曲にしたというイメージなんですか?

湧:この曲を作ったときは、ものすごい躁状態にあって。すごく興奮していたから、作らなきゃ、作らなきゃという気持ちで、どんどん言葉とか、メロディが溢れてきて。それを順番に作っていきました。5日間ぐらいで作ったんです。寝ようかなって思ったら、言葉とメロディがバーって出てきて、やらざるをえないみたいな。疲れ果てて眠っても、興奮しているから3時間後に起きちゃって。起きて、作っての繰り返し。で、最後、自分のルーツとして、ねぶたの祭ばやしで締めるかと思って入れて終わりました。

 

──躁状態になるきっかけのようなものはあったんですか。

湧:その時、女の子に生まれた自分とめちゃくちゃ向き合ったんですよ。そこで、女の子はみんな、もっと欲望に自由に生きてほしいなと思ったんです。自分の魂の解放みたいな感じの曲とも言える。そのまますぎる言葉だったので、ちょっとは修正しているんですけど、自分の脳みその一部をそのままむき出しで出した。「女の子たち、もっと気高く強く生きて!」っていう気持ちがこもっていて。私が欲望を解放するから、それを見てみんなも解放してほしい。気高いビッチになりなさいって。それはちょっと前から言っていて。

──気高いビッチ?

湧:誰とでも寝るとかじゃなくて、誰のものにもならないでっていうことを言いたいんです。誰かに依存するとか、男の子に存在理由を求めちゃう子たちを見ていると、湧はかなしいんですよね。もっとみんな気高く強く、かわいく生きてくれと思って。湧みたいに欲望を発散することで、ストレスも減って、お肌もつやつやになると思うので(笑)。

──周りの女性や、世の中の女性を見ていて、そう思うことがある?

湧:そうなんですよ。女の子が欲望を管理できるようになってほしいという希望がありますね。

──自分は男ですけど、なんでこんなに偉そうにしているんだろうなと思う瞬間はあります。無意識化でそういうマインドが蔓延している部分もあるので、そこを変えていくのは時間がかかるだろうなと。

湧:現実問題、社会的に男女の差はあるというのはわかっていて。それを理解しつつも、女の子の欲望を解放して、高いヒールで胸張ってカツカツカツ歩いているところが見たいんです。街中の女の子が、着たい服を着て歩いている。男ウケする服、メイクとか、髪型とか、そんなの取り払っていいんだよって。

──ちなみに、「ソーリョベルク」という単語はどういう言葉なんですか?

湧:バッハの「ゴルトベルク変奏曲」がめっちゃ好きなんです。セクションとか、分け方とかもわりとリスペクトで。そこから着想しています。

──さっきのねぶたもそうですが、バッハとか自分の好きなものとか、ルーツをこの曲の中には取り入れているんですね。

湧:今回、入れてみました。「ソーリョベルク幻想曲」を作ってから、女の子の欲望とかも歌っていきたいなとだんだん思うようになって。これも女の子たちみんなに言いたいんですけど、「抱かれるな、抱け!」って。こんな卑猥な言葉はメディアに出したことないけど(笑)。

──あははは。「ソーリョベルク幻想曲」の中で、「宅録の人は大体暗い」ってフレーズがあるじゃないですか。そんなことある? と思って。

湧:あれ、ライヴ制作のATフィールドの青木(勉)さんにラジオで紹介してもらった時、宅録の人は大体暗いんだけどねって紹介されたのがきっかけなんです。

──それ、僕も一緒にやっているPODCAST「自粛のススメ!」ですよね? 確かに言っていたかも……。

湧:そのワードがめっちゃおもしろくて(笑)。宅録の知り合いとか友だちってあまりいないので。あ、そうなんやって。

──それは100%青木さんの偏見ですよ(笑)。

湧:でもたしかに湧は暗い(笑)。プライベートとか家とか。

バンドは奇跡

──コロナのことはどうなるか先行きの見えない部分がありますけど、2021年は、どんな活動をしていきたいと思いますか?

湧:聴いてくれた人が妄想ワールドを広げられるような曲をいっぱい配信していきたいと思っています。あとライヴ配信とか家からできるので、やっていきたい。みんな生き残ってほしいって気持ちです。

──湧さんは、Marie Louiseというバンドも組んでらっしゃいます。それはどういう想いからやっているんでしょう。

湧:バンドって生き物で、似ている思想が集まっているけど、絶対に一緒の考えにはならない。私たちの場合は、3つの思想が集まって、1個のMarie Louiseっていう生き物になっている感じがして。どんどん曲とか、歌の内容とかも変わっていくんですよ。ベースと私が初期メンバーで18歳くらいから一緒にいるから、人生観とかも変わっていって。それがバンドにも影響していておもしろいですね。生きている!って感じがする。湧のソロが黄色とか黄色と赤と青とか3色ボールペンで書いてるとしたら、ベースの子が水色と濃い青と白の3色ボールペンを持っていて、それを合わせて絵を描いていくみたいな感覚がバンド。自分にはないものを持ってるのがおもしろい。バンドは奇跡ですね。

──バンドの方も曲を作ったりはしているんですか?

湧:しています。湧が全部バンドの曲まで作っちゃうと、それは湧ソロになるから。歌を弾き語りで送って、ベースに編曲をしてもらうとか、ベースがオケ作ってきて、メロディと歌乗せてとか、そういう作り方をしています。

──2021年、どちらの新作音源も聴けるのを楽しみにしています。

湧:たくさん曲を作っていくので、聴けるのを楽しみにしていてください!

湧(わく)

京都発。1999年生まれ。作詞、作曲、編曲、レコーディングまで一人で行う宅録シンガーソングライター。アナログシンセサイザーとギターを駆使したLo-Fiサウンドが彼女の魅力。

Official HP:https://wakupeggio.wixsite.com/poyo

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