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【INTERVIEW】映画『ある殺人、落葉のころに』監督&キャスト座談会 大磯を舞台に描く、若者を取り巻く閉塞感と淀み

StoryWriter

左上より守屋光治、中崎敏、三澤拓哉
左下より永嶋柊吾、森優作

三澤拓哉監督の長編映画『ある殺人、落葉のころに』が、2021年2月20日より東京・ユーロスペースほか全国で順次公開される。

茅ヶ崎を舞台に男女の恋模様を描いた初監督作『3泊4日、5時の鐘』で、ロッテルダム国際映画祭ほか数多くの映画祭で評価を得た三澤。本作『ある殺人、落葉のころに』でも、2019年9月の釡山国際映画祭を皮切りにすでに6つの映画祭で上映され、2020年3月の第15回大阪アジアン映画祭ではインディ・フォーラム部門のグランプリに当たるJAPAN CUTS Awardを受賞。現在も各国の映画祭からの招待が続いている。

本作は、前作と同じく湘南地域である大磯を舞台に、恩師の死をきっかけに露呈する若者たちの不安と孤独を描いた”最も不可思議(ミステリアス)な湘南映画”。決して暗い場面が多いわけではないにも関わらず、常に不穏な空気が漂ったこの映画では、大磯という舞台に縛られた4人の若者の関係の軋みが霧のように立ち込めている。

 

今回、三澤監督と主演キャストである守屋光治(役名:奥山俊)、中崎敏(役名:瀬田知樹)、森優作(役名:伊藤和也)、永嶋柊吾(役名:足立英太)を一堂に会して座談会を敢行。完成するまで主演キャストも全貌を掴めなかった作品との向き合い方、そして社会や自分の問題と向き合うために本作を作ったという理由に至るまで話を聞いた。

取材・文:エビナコウヘイ


作品で描く社会に自分が含まれていることを忘れたくない

──映画『ある殺人、落葉のころに』の着想は、いつ頃、どんなきっかけで浮かんできたんでしょう?

三澤拓哉(以下、三澤):前作の長編映画『3泊4日、5時の鐘』を携えて色々な映画祭をまわっているうちに、各国の同世代の映画人が作った踏み込んだ表現や、尖った作品を観たり、その作り手と話す中で、もっと社会や自分の問題意識を反映させた作品を作りたくなったんです。そこから『ある殺人、落葉のころに』のスタートラインに立ちました。それと同じ時期に、僕の地元・茅ヶ崎の茅ヶ崎館という旅館の主人から、大磯が面白いというお話を聞いて。茅ヶ崎と大磯はとても近いんですけど、大磯は山も近くて閉じられた空間で、あらゆるものが潮風で錆びているのが目につきました。同じ湘南という括りでも、ここまで雰囲気が違うんだと気付いて、自分が今作でやりたいことと大磯が互換したんです。

 

──社会やご自身の問題意識に目向けた作品ということで言うと、今作にある日本特有の閉塞感や、葬式のシーンで亡くなった人の噂話をコソコソと話すシーンは、村社会に見られがちな問題に目を向けたのかなと思いました。

三澤:日本特有とも思います。僕が社会問題を扱う時、その社会に自分が含まれていることを忘れたくないんです。自分も映画のシーンのように噂話をしたことがきっとある。誰かをしがらみで縛り付けていることも、きっとあっただろうと思うんです。そういう過去や今の自分を見つめ直し、掘り下げていって、ストーリーや場面を考えました。

──そういった監督が抱く社会に対する意識は、主演の皆さんにも事前に共有された?

中崎敏(以下、中崎):そんなにないですね。

永嶋柊吾(以下、永嶋):ロケーションからっていうのも初めて聞いたかも。

三澤:撮影前に自分はこういうことを考えていたっていう話はしてないよね。伝えたのはそれぞれ役のことだけだと思う。

映画がどう仕上がるのか全く想像できなかった

──主演の皆さんは脚本を最初に受け取った時に、作品全体のどんよりとした雰囲気みたいなものはなんとなくイメージしていたんですか?

中崎:最初に読んだ時に、寝たり起きたりとか、回想があったり、不思議な女性が出てきて、この脚本は一体何なんだろう? という疑問を強く感じました。

守屋光治(以下、守屋):閉塞感みたいなものは皆感じていたと思います。台本を一通り読んだ時は話が難しすぎたんですけど、何回か読み直していくうちに、小さいコミュニティを抜け出したい世代の若者たち、でも本当に抜け出したいと思っているのかどうか? みたいな部分は分かってきました。この映画がどういう仕上がりになるのかは、その段階だと全然想像できなかったです。

森優作(以下、森):やっぱり自分の生まれた場所と似ている閉塞感が台本にあったので、単純に監督という人に興味がいきました。

──ご自身の体験や生まれ育った環境に通ずるところもあった?

守屋:僕が今住んでいる家の前も団地があるし、僕の実家も団地に引っ越すって言っていて、ああいう特有の匂いはあるなと思いました。普通にマンションとか一軒家に住んでいる人たちの空気感とはまた違う、独特な空気感が団地や地方の小さいコミュニティの中にもあるんだろうなというのはなんとなく思っていました。

永嶋:僕も、団地まではいかないですけど、1箇所にガーッと建物があるようなところに住んでいたりはしたので。漠然とそういうところにいたんだろうなとは思います。でも、そういう閉塞感みたいなものを感じながら育ったわけではないですね。分かっているつもりで育ってきてはいるという感じです。

中崎:僕は小さい頃アメリカにいて、一番身近な親戚付き合いもほとんどなかったんです。でも、今になってそういうコミュニティの煩わしさを感じる時はありますね。日本に来た当初はずっと何かにいらついているような状況がずっと続いて、ようやくこのコミュニティに馴染めるようになったと思ったのが、高校、大学の時くらい。高校、大学は狭いコミュニティでの自分のあり方に気をつけなきゃいけないから、上手く立ち振る舞う変な技術を身につけた感覚があって。卒業して色々な人と触れるようになってから、とても狭いコミュニティにいたんだなって思うようになりましたね。

中崎敏

──僕は東北の田舎出身なんですが、ご近所さんが用もなく家に来て、誰が体調を崩して入院したとか噂話をする場面をよく見てきたんです。今作の舞台は大磯ですが、日本のある程度の地方都市だったら、本作のような光景はよくあるのかなと思って。

三澤:そうですね。愛情と半々というか裏返しというか。映画の中でも彼らは別に悪気はないんですよね。なきゃないで、寂しくなっちゃうかもしれないし、誰かと関係を築いて維持する、そこに居続けたりすることには安心と面倒くささが半分ずつあるのかな。

根っこの部分を見せないのがマナー

──今回、主役の4人は監督ご自身から声をかけたんですか?

三澤:守屋くん以外の3人は前から知っていて。中崎さんは前作も出てもらったし、永嶋さんは日本映画大学で同じクラスだったんです。定期的に舞台に出演されていたのに呼んでもらったり、勝手に見に行ったりして。自分の舞台人生の半分は永嶋柊吾出演作で、今回の映画でもこういう役やったらおもしろいんじゃないかなって考えてました。森さんは大阪アジアン映画祭でちょっと挨拶したぐらいだったんですけど、すごく印象に残っていて。守屋くんは、主役の一人が最後まで決まらない状態の時に紹介していただいて、オーディションを受けてもらいました。ストーリーを作る上で主役4人というアウトラインだけは決まっていたんですけど、登場人物の肉付けをする上では当て書きに近かったです。

──実際に演じてみていかがでした?

森:現場では初めて会う方ばかりだったんですけど、映画の物語を考えると元々仲良しな人とやるよりも合っているなと思いました。同じ方向を見つつも、根っこの部分は見せるわけではないという関係性が映画と繋がっているというか。

──撮影中は敢えて仲良くしようとしない気持ちもあったんですか?

森:いや、特に仲良くなることを考えていないだけだと思うんですけどね。どうしたって皆で調和はするし、自分たちの考えていることをお互い出して反応する感じがとても楽しかったですね。

中崎:根っこの部分を見せないというのは、僕もその時に感じていたことです。それって、それぞれの持っているマナーだと思うんですよね。お互いに全てを見せきることもできると思うんですけど、馴れ合いにならないで良い作品にするということもできて。お互いの役についてどう思うかという話もしたし、同じ方向を向いている感覚は共有できていたんじゃないかな。

永嶋:皆が作品を作りに来たという雰囲気はずっとあって。ある意味、牽制しあっていた部分も無意識にあったと思います。中崎と守屋が2人で電車で一緒に帰った時、次の日に中崎が「電車に入った瞬間から一回も目が合わなかったんだけど、守屋くん俺のこと嫌いなのかな」って(笑)。

守屋:そんなことありました(笑)? 撮影の最終日前なんか一緒にホテル泊まりましたよね。

中崎:俺がたぶん気にしすぎたんだと思う(笑)。俺が勝手に思っているだけで、周りが覚えてないっていうのはよくある。勝手にすごい根深く思っちゃう。

永嶋:そういう雰囲気もよく映ったんじゃないかなって思います。殺伐としていたわけではないし、無意識な要素のおかげで面白かったですね。

──撮影期間は、カメラが回っていない場面でも違和感を感じていたんですね。

中崎:もちろんそれはありました。どんなに仲良い友達同士でも違和感を感じる瞬間はあるじゃないですか。でも、この4人は逆にそれを取り繕う必要がない人達なんだと思った感覚は今でもずっと残っているからこそ、撮影が終わった後も仲良くなれているんじゃないかなと思っています。

守屋:むしろ、撮影終わった後の方がたくさん喋った気がしますね。僕は何も意識はしていなかったですけど、僕が一番役者歴も短いので、他の3人に色々と訊いたりしてました。

それぞれが演じた役柄

──守屋さんが演じた奥山俊の役は、とてもセリフが少ないですよね。それを表情や視線で演技して、他の3人に負けない存在感を出すのは相当難しいことだったんじゃないかなと思うんです。

守屋:喋らない役が一番難しいってたくさん言われていたんです。喋らないでずっと演技し続けるような映画も観たりしましたけど、それを観たところで別に何かできるわけではなかったので、知り合いにいる寡黙な人を想像しながらやろうと。それでも難しかったですね。そんなに起伏が激しい役でもないけど、反応はするというのが難しい。

守屋光治

──監督も元々そういう寡黙な役をやってもらう人を探していた?

三澤:そうですね。他の3人が決まっていても、俊役のキャスティングだけ空いちゃっていて。少ないセリフで存在が消えちゃったらダメじゃないですか。その時に紹介された守屋くんは、まとっている雰囲気や、表情もそんなに大きく喜怒哀楽を表現するわけじゃないんですけど、視線の強さが何より重要だなと思って。そういう4人の中でも存在感が活きるだろうと思っていました。

──永嶋さんが演じた英太という役についてはどうでしょう。英太という役は気弱で流されやすいところがあると思いました。ご自身に似ている部分なんかもありました?

永嶋:近からず、遠からずですね。僕は英太という役が気弱な人間だと全然思わなくて。どちらかと言うと、自分が思っていることは自分の中にあるから、伝わらなかったら、まあいいかっていうぐらいのキャラクターでやってました。自分でこうしなって言うんじゃなくて、あいつがこう言ったらとりあえずついていこうという、波風立てない人間だと思っていました。

中崎:英太は絶対に守らなきゃいけないものは自分でどうにかするという強さがあるから、そういられると思うんです。映画の中では、彼女のサキと和也のことで一悶着あっても、自分は自分で守るという部分がある。サキと一緒にいる時の英太の強さも感じましたし、人間らしさも感じられると思います。

永嶋柊吾

──英太が波風を立てない役だと仰っていましたが、中崎さんの演じる知樹も皆と上手く接して良い方向に進めようとする性格だと思いました。

中崎:そうですね。色々な捉え方があると思うんですけど、自分では都合いいやつで信用ならないなと思っていて。実際の自分の嫌いな部分でもある姿が、役を通して映されていて。完成した作品での自分を観るのも嫌だなって思ったんです。でも、知樹はグループでのバランスを取らなきゃいけないし、一緒にいる皆に対する愛情があるのは嘘じゃないですよね。器用に振る舞っている不器用というか。そんなことしなくても、4人がまとまっていられる術は何かあるんじゃない? と思いながら、知樹を見ていました。

──森さんが演じた和也という役は、4人の中で1番嫌な人に見える一方で、背景では家庭の問題や、不法投棄を手伝わせられたりして一番可哀想な役でもあります。おばあちゃんを轢いちゃったんじゃないかって、あくせくしている気弱な表情もあったりして、ある意味で一番表情が豊かだったのかなと思いました。

森:嫌なやつではあるんですけど、一番人間味があると思います。僕は俊役を演じたかったんですけど、三澤監督の映画は物と人間をフラットに見るから、自分は守屋くんの役を人間として見ていなくて。三澤監督はその物体が持っているエネルギーみたいな部分を、ちゃんと画として撮っている人だから、そういう意味では、和也は人間味のある役ですけど、俊はそこに収まらない役でしたよね。でも、自分に合っているのは和也だなと思いました(笑)。

──物と人間をフラットに見る?

三澤:カメラで撮るってそういうことだと思うんです。レンズを通して見ることによって、一旦意味付けから解放されるというイメージ。小津安二郎の映画、アキ・カウリスマキ、ジャック・タチの作品の世界では、フラットに存在するように映っていると思います。物語を駆動させるためには誰も奉仕してないのがベスト、ただむき出しに存在そのものがあるという状態。何かを説明するためにこれを撮るとかではなくて、ただ、その瞬間の連続が結果的に映画になる。それをこの映画の編集段階でも意識していて。

──作為的に作り込みすぎない、ということですか?

森:どっちも同じ気がします。演劇もたぶん作り込みしか考えてなかったら、それはピュアだから演じているということに無自覚なところまでいけると思うんですよ。どっちにしても言えることなんじゃないかな。お芝居に関しては作り込むことを考えていなくても無自覚な人は無自覚だし、そこを考えた上で無自覚なところまで持っていける人もいるし。

森優作

三澤:僕があまり演劇を見たことないからかもしれないけど、舞台の場合はお芝居がそうできても、舞台技術がそっちに持っていけない気がするんだよね。何かのための道具、必ず何かを使わなきゃいけない装置みたいな。でも、映画の場合はただそこに存在しているだけという。舞台の場合は、ステージに置いてあるものは全て計算されているけど、映画はそれを越えたところにあるというか。そういうものとあらゆるものがフラットに存在する世界。

森:たしかに。

──森さんは演技において、無自覚ということに重きを置いているんですか?

森:知樹の役もそうですけど、知樹はバランサーのようでいて自分のことが一番見えていない、自分が何色なのかを分かっていないから、無自覚な怖さがあると思うんですよ。だから、自覚していない時にやばい表情してると思って。

三澤:感情の流れから逸脱する?

森:繋がっているんですけど、超えちゃったみたいな。

三澤:それで言うと、サキが倉庫から逃げた時、和也のいる倉庫に入ってきた英太に「(酒を)飲めよ」って言うシーンの和也は人間からモノに近づいていく感じだよね。感情じゃなくて物体、圧だけがあるみたいな。なんの表情だろう、言語化できないなって現場から思っていて。

永嶋:知樹のドアの隙間から見ているシーンとかやばいよね。

守屋:あれは怖いですよね。

森:笑えるじゃないですか、笑えるし怖い。でも、それって無自覚じゃないですか。そういう表情をしてるって自分では思っていない。そういう瞬間ってとてもおもしろいなって思うんです。

──たしかに中崎さんがドアから覗いているシーンは僕もすごい表情だなと思って。あれはどういう気持ちなんだろう、いけないものを見た気持ちですか?

中崎:ただ見るって感じですね。劇中の寝たり起きたりという行動、現実にいるのかさえも分からなかった感じなので。一つ一つの行動をただやるしかなかった。そこに意図を持たないでやるということを、現場の時には意識していた気がします。

むき出しのままを観てもらいたい

左上より守屋光治、中崎敏、三澤拓哉
左下より永嶋柊吾、森優作

──皆さんご自身、撮影中は全体像をイメージできていなかったと仰っていましたが、完成したものを観終わってどう思いましたか?

森:面白かったですね。観た人自身が、考えることを自覚させられる映画ってあまり観たことないですし。のんきに見ていると、何かが流れていっている感覚にもなる。僕は、自分は分からないっていうことを、ちゃんと分からないって伝えている映画が好きで。こういう作品が映画だよなって思うし、僕もこういう作品をやりたい、もっと関わりたいと思いました。僕自身もこういうことを考えているんだと発信していきたいと思える映画です。

中崎:この映画の売り出し方として使われている言葉でもあるんですけど、僕が最初にこの映画を見て思ったのは、途切れそうな糸がずっと途切れていない、爆発しそうで爆発しないような感覚で。前のめりの姿勢でじーっと観て「終わった!」って。全然言葉で説明できないんですけど、そういう印象を抱いたのを覚えていますね。

永嶋:見てもらわないと伝わりにくいし、あまりいい表現か分からないんですけど「最後まで観てられた!」と思いました。ただ観たなーというより「観てられた!」っていう感覚があったんです。観終わって、こっちも今起きた! みたいな。他の人には作れないんだろうなと思うし、皆に観てもらわなきゃって思いました。

中崎:すごい感覚的だよね。言いたいことは分かる。

守屋:映画がどういうふうに仕上がっているのか初めて気になりました。自分が昔から感じている閉鎖感は、日本の良くない部分の一つだと思っているんですけど、それを今作で表現していて。そこに光と音が加わって、文字通りミステリアスな映画になっていると思います。僕は暗い映画が苦手なんですけど、今作は暗そうに見えて、実はそんなに暗くない。日本人が根底に抱えている問題に向かっている。本当に色々な人に観てもらいたい映画です。

三澤:僕はこの映画を通して何かをジャッジするという目的は全くなくて。安易な解決策を提示するんじゃなくて、分からないまま観てもらいたいというテーマがあるんです。編集段階から、スクリーンに映される見かけとは結びつかない感情が湧き上がってくる映画になるんじゃないかと思って。皆が言ってくれたことに関して言うと、観ていられる持続感に繋がっているのかも。画面上では大きな事件もないし、派手さもない。ただ、一瞬一瞬のちょっとした淀みや緊張感が小刻みに効いてくる。でも、関係性自体は大きく変化することなく流れていってしまう。これは何なんだろう? と、感じられる作品を目指しました。むき出しのままを観てもらいたいですね。


■公開情報

三澤拓哉監督作品
映画『ある殺人、落葉のころに』

2021年2月20日(土)より東京・ユーロスペースほか全国で順次公開

公式Twitter:https://twitter.com/oisofilm?s=21

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