はじめまして。4月よりSWに入社いたしました、たまざわと申します! これからどうぞよろしくおねがいいたします!
めちゃめちゃ突然ですが、私は心配性+神経質な性格で、すぐに深く悩み、負のループに陥ってしまうタイプです。それでも、本、音楽、映画、ドラマなど、大好きなカルチャーに没頭している時はもやもやした不安を忘れ、楽しむことができました。
特に本は、幼少期に出会った絵本や児童書から始まり、私の生活にとって、今でも大切なカルチャーです。27年というまだまだひよっこな人生ですが、自分にとってお守りになった本がたくさんあるので、これから毎週1冊紹介していきたいと思います。多くの人にとって、本が生活の一部となり、寄り添ってくれるような存在に、この先もなっていてほしいなという思いをこめて!
vol.1 岸政彦『断片的なものの社会学』
第1回目に紹介するのは岸政彦『断片的なものの社会学』です。
『断片的なものの社会学』
著者:岸政彦
発売年:2015年
出版社:朝日新聞社
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784255008516
あらすじ:路上のギター弾き、夜の仕事、元ヤクザ…… 人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。社会学者が実際に出会った「解釈できない出来事」をめぐるエッセイ。
「○○学」とついていると、参考書みたいで難しい印象を受ける方もいると思うのですが、本書は社会学者・岸政彦さんの淡々とした語り口のエッセイで、すらすらと読み進められます。
あらすじにもあるように、著者・岸さんは日々個人の生活史を聴き取りながら、社会学を通して社会というものを研究しています。インタビューを生のまま(録音を素起こしした状態)載せている章もあったり、自身の体験の記憶から分析も解釈もできない出来事をまとめた一冊です。
この本のグッとくるポイントははっきりしたことを言い切らないところです。読んでいて歯がゆさを感じる方もいるかもしれないけれど、著者である岸さん自身、この本を通して私たち読者と一緒に深く悩み、思考しているような感覚になるのがとても不思議。
一見とらえどころのない、まさに断片的な本書ですが、特に印象的だったのは「笑いと自由」という章の下記一節です。
ある種の笑いというものは、心のいちばん奥にある暗い穴のようなもので、なにかあると私たちはそこに逃げ込んで、外の世界の嵐をやりすごす。そうやって私たちは、バランスを取って、かろうじて生きている。 (岸政彦(2015年)『断片的なものの社会学』102ページより引用)
つらかった出来事を誰かに語る時、なんとなく笑いながら語ってしまうことって、みなさんにはありませんか?
自分の話になってしまい恐縮なのですが、私はつらいことがあっても、他者には笑って話してしまう癖があります。前職で上司からひどい仕打ちを受けていたときも、それをネタにして周囲の人に笑いながら語っていました。ずっとそれに罪悪感というか、違和感を感じていて。「こんなに心の底ではつらいって思ってるのになんで笑って話せるんだろう? 人格に問題があるのかな? 治さなきゃ」ってすごく焦っていた頃もありました。でも、上記の一節を読んだ時に、「あ、私は今、嵐をやりすごしてるんだな」と、自分を俯瞰して見る視点が1つ増えて、RPGゲーム風に言うとMPが少しレベルアップした気持ちになったんです。
はじめて『断片的なものの社会学』を読了した時、今すれ違ったあの人にも、誰にも知り得ない断片的な人生があるんだな、それはどんな語りなんだろうと意識的に考えるようになりました。どんな人も断片的な人生やその語りを持っていて、その断片で社会ができている。私たちの人生は断片的なものの連続でできていて、そこに意味はない。だからこそ、生きる意味だとか、希望だとか別に追い求めなくてもいいんじゃないかなって思えました。
自分の人生が例え断片的で無意味でも、気づかないうちに他者と社会と繋がっていて、もしかしたら誰かにとっては意味のあるものかもしれないなという、吹っ切れにも近い爽快感を感じたのも覚えています。私なんかいらない存在なんだとか、自己憐憫に浸ってた自分に読ませたい一冊です。
今でも社会に馴染めないような違和感を感じてつらくなったときに手に取ります。自分がその時々に抱いている感情によって、岸さんが聴き手となってどこかの誰かの「語り」を素起こしした章の捉え方が変わるのもこの本のおもしろさ。私にとってはずっと手元に置いておきたい本です。ご興味をもった方、ぜひ読んでみてください!
それでは今週はここまで。来週もどうぞよろしくおねがいいたします!
※「本と生活と。」は毎週水曜日更新予定です。
1993年生まれ。もともとクラリネットとドラムをやってました。音楽以外の好きなもの:本、映画、動物、ドラマ、Netflix、Hulu、ぬいぐるみ、文房具など諸々たくさん。モルモットのごまちゃんと生活してます。30歳になるまでに本屋さんの開業を目指しています。