こんにちは! 先日4月18日(日)に〈坂元裕二朗読劇2021〉を観劇し、興奮さめやらぬたまざわです。
私は高橋一生さん×酒井若菜さんの「不帰の初恋、海老名SA」回に行ったのですが、朗読劇ということで舞台上では椅子に座ったお二方がスポットライトに照らされ、往復書簡式に物語が読み進められていきます。
ことばのみの舞台なはずなのに、お二方の表情や声色、息をつく間。さらには坂元裕二さんが紡いだその脚本から、まるで映画やドラマを観ているように頭の中で容易に情景が想像できて、約1時間半があっという間に感じるほど物語に惹き込まれてしまいました。
生活に寄り添う本を紹介するこの連載。第3回目に紹介するのは、まさにそんな「不帰の初恋、海老名SA」が収録されている坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』です。
vol.3 坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』
『往復書簡 初恋と不倫』
著者:坂元裕二
発売:2017年7月
出版社:リトルモア
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784898154618
作品情報: おかしいくらい悲しくて、美しく残酷な、心ざわめく2篇の恋愛模様。
<不帰の初恋、海老名SA>
「わたしはどうしても、はじめのことに立ち返るのです。団地で溺れたわたしと同い年の女の子のこと。
わたしだったかもしれない女の子のこと。」
初恋の人からふいに届いた手紙。
時を同じくして目にしたニュースでは、彼女の婚約者が運転する
高速バスが横転事故を起こし、運転手は逃走中だと報じている――。
<カラシニコフ不倫海峡>
「僕たちは捨てられた。問題は、さてどうしましょうか。ということですね?」
アフリカへ地雷除去のボランティアに行くと言い残し
突然旅立った妻が、武装集団に襲われ、命を落とした。
一年後、後を追おうとしていた健一のもとに、一通のメールが届く。
〝あなたの妻は生きていて、アフリカで私の夫と暮らしている〞
同じ喪失を抱えた2つの心は、徐々に近づいていき――。
メールや手紙、二人の男女が綴るやりとりのみで構成された、息を飲む緻密なストーリー展開。生々しい感触と息遣いまで感じられる、見事な台詞術。「台詞の魔術師」 坂元裕二がおくる、忘れえぬ恋愛物語。切なさに胸が痛む、ロマンティックの極北。
著者はドラマ『カルテット』、『最高の離婚』や、現在も大ヒット公開中の『花束みたいな恋をした』の脚本を手掛けた坂元裕二さん。本書には「不帰の初恋、海老名SA」と「カラシニコフ不倫海峡」の2篇が収録されており、どちらも手紙やメールで2人の男女がやり取りをする往復書簡形式の物語になっています。
日曜日の朗読劇を観劇してから、まだまだ熱が冷めないので、今回は特に「不帰の初恋、海老名SA」について紹介したいと思います!
何の説明もないまま、中学生の玉埜広志と三崎明希、男女2人の文通から始まるこの物語。一度、あることがきっかけに文通は途絶えるのですが、大人になり、再び文通やメールのやり取りをするようになります。何を書いてもネタバレになっちゃいそう…… (笑)。とにかく、文通、メールでのやり取りだけなのにいろいろな出来事が起きて、喜怒哀楽たくさんの感情が複雑に絡み合う初恋にまつわる物語です。
特にこの物語のキーとなる、また個人的にも強く印象に残ったフレーズがあります。
大切な人がいて、その人を助けようと思う時、その人の手を引けば済むことではない。その人を取り巻くすべてを変えなければならない、と。(坂元裕二(2017年)『往復書簡 初恋と不倫』20ページより引用)
三崎が玉埜への手紙に記したことばです。当たり前のように思えるフレーズですが、実はとても難しいことだなと、個人的には思いました。例えば、自分の大切な人が学校や職場でいじめられているとします。「気にしなければいい」、「悪いのはあなたじゃないよ」、「嫌なら辞めていいんだよ」とか、そういう言葉をかけるしかないことって、もしかしたらやさしさの暴力、偽善なのかもしれない。当人が1人になってしまったとき、取り巻く環境が何も変わっていなければ、当人のつらさは何も変わらないんじゃないか。私は今まで大切な人のために何をやってきたんだろうと思うほど、上記フレーズに胸が締めつけられ、考えさせられました。
誰かが会話をしている姿を垣間見るように読み進められる本になっているので、坂元裕二さん脚本のドラマや映画が好きな方はもちろん、時間がないけど本が読みたい! という方にもおすすめです。気になった方はぜひ読んでみてください!
それでは今週はここまで。来週もよろしくおねがいします!
※「本と生活と。」は毎週水曜日更新予定です。
1993年生まれ。もともとクラリネットとドラムをやってました。音楽以外の好きなもの:本、映画、動物、ドラマ、Netflix、Hulu、ぬいぐるみ、文房具など諸々たくさん。モルモットのごまちゃんと生活してます。30歳になるまでに本屋さんの開業を目指しています。