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【連載】広瀬彩海の読書備忘録 vol.1「アイドル卒業後に読んで面白かった本」

StoryWriter

ご覧の皆さま、初めまして。広瀬彩海です。

約1年ほど前にホンシェルジュというサイトで書評コラムの連載をさせていただいていましたが、アイドルを卒業すると同時に書評の方もお休みしていました。

そんななか、今回新たにStoryWriterさんでコラムを連載させていただくこととなりました。

皆さんと本の素敵な出会いのお手伝いを出来るよう頑張りますので、よかったら最後までお付き合いお願いします。

1年ほど空いてこうして筆をとるとどんな風に書いていたかなと戸惑っている自分がいるのも確かですが、どうか温かい目で読んでもらえたら幸いです。

さて、今回のテーマは、私がアイドルを卒業してから読んで面白かった小説三選です。

自粛期間中にたくさんの新しい本との出会い…… と言いたいところですが、ネットショッピングの苦手な私は書店に買いに行けない自粛期間中ほとんど新しい本を開かず、本棚の本を読み返すだけの日々でした。

その後、緊急事態宣言が解除されてからは新しい本との出会いがいつも以上に舞い込んできました。

今年から通い始めた音楽大学の近くの書店で出会った小説や、新しく出会った方にお借りして出会った小説……たくさんの素敵な小説に出会いました。

そのなかから3冊を今回はピックアップしていきます。

なかなか外に出られない日々が続く今だからこそ、いろんな本と出会って新しい世界を見つけてみてはいかがでしょうか。

「水曜の朝、午前三時」蓮見圭一

言わずと知れたベストセラー。何年も前から気になっていましたが、やっと手に取りました。 ずっと気になっていた本に手をつけた時の高揚感も読書の醍醐味ですね。 若くして亡くなった翻訳家で詩人の女性、直美が娘のために遺した四巻のテープをもとに繰り広げられる物語。

直美の若い頃の燃え上がる恋、あの時、あの人との人生を選んでいたら……。そんな切なくも熱い物語です。 生きていれば誰もが、あの時もうひとつの選択をしていればどうなっていたんだろう、と思うことがあると思います。

私も実際に何度も経験してきました。でもその「もしも」が実現する日は来なくて、今からやり直すことは出来ない。だからこそ今を愛おしく感じたり、過去を大切にできたり、自分の選択を慈しめたり。

そんな誰にでもある決断や後悔や懐古を「恋愛」という形で表現した美しいストーリー。 読み始めの辺りは文章表現の綺麗なラブストーリーという印象を持ちましたが、 進んでいく内に惹き込まれ、考えさせられる深いストーリーに心を奪われました。 そして何より男性の作家さんと聞いて驚く女性の心情描写の繊細さ。 女性にはもちろん、男性にもぜひ読んもらいたい小説です。

「きらきら眼鏡」森沢明夫

「コトバノコトバ」で共演していた飛葉大樹くんに貸してもらい出会った小説。

「この小説読んでみて、面白かったら俺に紹介してくれない?」と本を手渡され話を聞くと、 私の言葉選びが好きだから、私の紹介を聞いてから読みたいと、 身に余るほどの嬉しい言葉を頂きました。ありがたいです。 そして読み進めて、更に感謝は深まるばかりでした。 こんなに素敵な出会いを提供してくれてありがとう……と。 とてもいい意味で、国語の教科書のように整った、綺麗な文章表現。 美しい言語表現をされる作家さんの作品を読んでいると心に、晴れた日のきらきらとした小川が流れる感覚に陥ります。

この小説は、まさにそれでした。 ある青年の日常を描いて進む物語に心が温まる傍らで、なんとも深いストーリー、テーマに考えさせられます。

そして何よりの魅力は、飾らず繕わない主人公です。 主人公を取り巻く登場人物は出来すぎているほどの人格者たち。 そんななかで、主人公が人間らしくいてくれることが、物語を味わい深くしているような気がします。

自分が彼と同じ境遇になったら、同じように思ってしまうかもしれない。それはきっと人として綺麗な生き方ではないかもしれないけど、その気持ちを受け入れ成長することも、必要なのかもしれないと感じることが出来ました。 周りに必要以上に干渉したり甘えたりせず、ただただ自分の気持ちや弱さに正直に向き合う彼に惹かれました。

タイトルにもなっているきらきら眼鏡の意味にもきっと感じることがあるはずです。 手に取ったこの本を閉じたときには、今までより少しきらきらとした世界が見えるかもしれません。

「アイドル 地下にうごめく星」渡辺優

「アイドル」というワードを書店で見かけると、次の瞬間には手に取ってしまっている。 ある種の職業病なのかもしれません。アイドル、もっと限定すると「地下アイドル」がテーマになっているこちらの小説。アイドルというものを外側の視点からも、内側の視点からも捉えることによって日常感と非日常感を両立しているような印象です。

4人のアイドルの人生と、アイドルに魅せられアイドルを誰よりもそばで支え見守るプロデュー サーの人生を描いた物語。アイドルの可愛さ、強さ、尊さ。そしてそんな輝く存在の裏に見え隠れする葛藤や脆さ、儚さを繊細かつ力強く表現されている作品です。 現代のアイドル達の褒め言葉はあらかた「エモい」と「尊い」の2種類で片付けられがちな世の中。 もちろん、秀でた学力や文章力をもっている人の語彙力でさえも奪ってしまうアイドルの素晴らしさは、「エモい」「尊い」という、このふたつの言葉がいちばん適切に人々に伝わることも十二分に理解しているつもりです。

そんななかでアイドルが持つ強くて脆い輝きが、物語全てに詰め込まれています。 アイドルが好きな方にも、あまり興味がない方にも、アイドルの皆さんにも、元アイドルの皆さんにもぜひ読んでもらいたい一冊。私は天使ちゃんが推しです。皆さんもきっと推しに出会えるはずです。 ワクワクしながらページを開いてもらえたらと思います。

広瀬彩海(ひろせ・あやか)

2020年3月、自身の所属していたアイドルグループこぶしファクトリーが解散しアイドル活動を終了。その後はソロで活動を開始。ソロ活動初の舞台「春の陽だまりの如し」でヒロインを務め、12月には単独でのライヴを開催するなど、舞台とライヴを中心に活動の幅を広げている。

Twitter
@ayaka_hirose
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