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日本を代表する野外音楽フェスティバル〈FUJI ROCK FESTIVAL’21〉(以下、フジロック)が2021年8月20日、21日、22日の3日間、新潟・苗場スキー場にて開催された。

〈フジロック〉は1997年に山梨県の富士天神山スキー場で初開催、1999年より新潟県湯沢町の苗場スキー場に場所を移し毎年開催されている音楽フェス。日本の音楽フェスに多大な影響を与えた草分け的な存在でもある。2020年は新型コロナウイルス感染拡大により開催が中止、YouTube上にて2019年度のライヴ映像が再配信された。

2021年になっても依然としてコロナ禍は続いており、軒並み大きな音楽フェスの中止が発表されていたが、〈フジロック〉は出演者を国内ミュージシャンを中心にし、出演者やスタッフへのPCR検査を実施。来場者数を政府・新潟県のガイドラインに沿った収容人数で例年の半分以下に減らし、ステージ数も絞り、終演時間を繰り上げての開催を発表した。

場内での飲酒禁止、抗原検査キットの配布など、感染対策を実施することを表明したが、新型コロナウイルス感染拡大は続いており、地域の医療体制などを踏まえ開催に対する反対の声もあがっていた。また、SNSを中心に開催の是非についての意見が飛び交っており、開催直前に出演を辞退した出演者ほか、出演を決めたアーティストも事前にステイトメントを発表するなど、混沌とした状況の中で開催を迎えることとなった。

筆者が今年の〈フジロック〉に参加した理由

筆者は、21日、22日のチケットを6月頃に個人的に購入していた。8月にはコロナの状況も落ち着いていてほしいとの願いを込めて買っていたが、状況はよくなっていなかった。

正直、行くかどうかで悩んだ。開催約2週間前くらいから、「フジロックへの参加に不安のある方、体調がすぐれない方」へチケットの払い戻し案内がチケットを購入したプレイガイドからメールで届いていた。それも一度きりでなく、何度もリマインドメールが届いており、開催後の8月25日まで払い戻しができるようになっていた。参加するかどうか、ちゃんと判断する猶予を与えられており、直前まで参加するか悩んでいた。

結果として行くことを決めた。自分は10年以上音楽媒体で記者として、編集者として仕事をしてきた人間だ。例年、この時期になると〈フジロック〉の話題で盛り上がり、音楽関係者たちの多くが足を運んでいるが、今年はどちらかというとチケットを払い戻ししたり、開催自体を反対する声がよく目に飛び込んできた。

そうした状況を踏まえ、自分は行く選択をした。先に述べたように、自分は音楽に携わってきた編集者であり記者なので、〈フジロック〉が開催される以上、そこで何が起こっているのかを目にして記事にすることが自分の仕事であると考えた。なのでこの文章はライヴレポートではなく、あくまで自分が体験したことを記録に残すことを主眼としている。

越後湯沢駅から会場までのバス移動、入場

8月21日(土)、〈フジロック〉開催2日目。朝10時の新幹線に乗って東京から越後湯沢駅に向かった。駅に到着して感じたのは、人の少なさだった。例年なら人で賑わっており、シャトルバスに乗るのにも並ぶことは必至だ。

駅の階段を降りた場所で、事前にダウンロードしておいたフジロック公式アプリで入力していた問診票を見せ、検温チェック。手に消毒をして、検済みのリストバンドをもらい手につける。1000円を現金でスタッフに支払ってシャトルバスに乗った。

複数人で来ている人は別だが、横には誰も座らない状況が作られていた。会場に到着するまでの約40分間、忌野清志郎の楽曲「田舎へ行こう! Going Up The Country」とともに「開催における新型コロナウイルス感染防止対策ガイドライン」の映像が流れ続けていた。バス内が静かな分、楽曲の明るさとのコントラストが強く印象に残った。

会場に到着し、バス乗降口から10分くらい歩いて入場ゲートへ。手前には抗体検査ができるテントが設置され、希望者は受けられる形になっていた。入場ゲートでは、フジロック公式アプリの問診票チェック、手の消毒、アルコール類を持ち込んでいないかなどの手荷物チェックを行い、リストバンドを機会にかざしてから入場できる流れになっており、それぞれに別のスタッフが担当していた。

会場内の様子

入場ゲートを通ると、フードエリアがあり、飲食するベンチがたくさん並んでいた。そこが人で埋まっていることはあまりなく、ちらほらと黙食している人がいるくらいだった。ここに来るまでに、入場時に5分程度並んだだけで、例年の〈フジロック〉を体験したことがある人からするとやはり驚くほど人が少なく感じた。

しばらく歩いていくと簡易トイレがあり、その脇には手を洗う水道が約10口ほどハンドソープとともに設置。消毒液も近くに設置されていた。水道では手を洗っている人たちが常にいるような印象だった。水が冷たくて気持ちよかった。消毒液もところどころに設置されていたが、事前に自分でも用意くるようHPに記載があったので、自前のものと併用しながら消毒をするようにした。

その先はルートによって各ステージに繋がっており、それぞれのステージでライヴが行われていた。1番近い場所で5分程度、遠い場所で歩いて30分以上かかるくらいステージは離れている。

タイムテーブルはフジロック公式アプリで把握することができ、ライヴの様子はほとんどがYouTubeで生配信されていたため、現地に行っていながらにして別のステージは動画で観ることができた。入場規制がかかった際はフジロック公式アプリからプッシュ通知で情報が届くなど、スマホが重要な役割を果たしていた。

会場にはスタッフが多く配置されており、マスクの着用の呼びかけに止まらず、必ず鼻の上まで被るようにと様々な場所でアナウンスしていた。各ステージではライヴが始まる前にスタッフが登場して、感染対策についての説明を毎回して協力を仰いでいた。今年は場内に移動した「ROOKIE A GO-GO」の椅子席は、ライヴ後にスタッフたちが椅子の消毒を毎回行っていた。

ライヴの客席について

ステージ前方から中央にかけて立ち位置の目印が、前後左右約1メートル間隔で埋め込められていた。YouTubeでのライヴ配信で客席が映ると密に見えるが、会場では基本的に皆その立ち位置に立ってライヴを観ていた。これは現在のライヴのガイドラインに従ったものであり、コロナ以後のライヴに足を運んだことがある人であれば、見慣れた光景であると思う。もちろん音楽に乗って踊っている際に多少前後左右にズレてしまう人もいたことは否めない。ただ、ルールを逸脱してモッシュやダイブといった行為は見なかったし、観客の声が聞こえてくることはなく、ライヴに対するレスポンスは皆拍手で応えており、客席も基本的にすごく静かだった。

また会場の後方では折りたたみ式チェアに座ってステージを眺めている人たちが多く、観客が例年より少ないこともあってかなりスペースをとることができた。筆者もほとんど後方で折りたたみ式チェアに座って眺めていた。

飲食について

フードコートは何箇所かに分かれて設置されており、店の数も充実していた。筆者は〈フジロック〉名物のもち豚串を購入。例年であれば行列ができているが、5分も待たずに購入することができた。時間帯によっては列ができているお店もあったが、何十分も待つようなことはほとんどなかった。

また、どの店に関しても電子マネーで精算することができた。自分はスマホ内のSuicaで精算していたので、結果として、現金を使用したのはシャトルバスに乗る際に払った1000円札だけで、それ以外は全てスマホひとつで完結した。

不安に感じた部分

自分は例年の〈フジロック〉を経験している分、人も少ないし、静かだなと感じる部分が多かったが、不安に思った部分がなかったわけではない。〈フジロック〉での天候は毎年非常に変わりやすく、晴れていたとしても、いつの間にか雲が覆いはじめ雨が降ることが多い。今年に関しても雨が何度か降ったが、その際、唯一屋根のあるRED MARQUEEに雨宿りも兼ねて人がたくさん集まっていた。そのときには少し密なんじゃないかと感じることもあった。

また、ひとつのライヴが終わったあとには人がステージからステージに一斉に移動していく。その際に密集した状態で人と人がすれ違ったりする際は緊張感があった。とはいえ、ほとんどの人が移動時しゃべらずに歩いており、移動に関しては大きな不安があったわけではなかった。

とにかくほとんどの状況で、静かでマナーがしっかりしているというのは終始感じたことである。例年もほとんどゴミは落ちていないけれど、今年は本当にゴミが落ちているのを見なかった。これまで多くのライヴ会場や音楽フェスに行ってきたけれど、お客さんたちも、かなり意識的にフェスに参加していることが見てとれた。とはいえ、会場は広いので、たまたま自分が見ている場所がそうだっただけかもしれないということは否めないことも記しておく。

宿泊した民宿、地元の方との話

筆者は、2日目、3日目に参加したが、宿泊先は越後湯沢駅近辺の民宿を予約していた。民宿の方に話を聞くと、初日と2日目は予約で満室になっていたが、直前でキャンセルが少なからずあり、そこに新規のお客さんの予約が入り、最終的には満室になったという。それでいて当日来なかったお客さんがそれぞれ3、4組ずついたとも教えてくれた。

今回の開催については、不安な面もあるが、こうやって人が来てくれることは嬉しいと語っていた。会場に向かう際は、民宿の方が声をかけてくれ車で駅まで送ってくれるだけでなく、事前に凍らせておいてくれたペットボトルのお茶を持たせてくれたりもした。最終日の3日目が終わり、月曜日にかけての宿泊者は自分を含めて2組しかおらず、宿はすごく静かだった。越後湯沢駅周辺も閑散としていて、少し寂しい感じがした。

今回自分は他に、民宿までタクシーに乗った際に話した運転手さん、越後湯沢駅の売店での店員さんくらいしか現地の方と話す機会はなかったが、どなたも積極的に話をしてきてくれるのが印象的だった。毎年開催されている〈フジロック〉が地元に定着しているんだなということを感じた。同時に「楽しんできてくださいね!」と言ってくれたとき、自分はどう応えればいいのか、うまく返事ができていなかったんじゃないかと思う。地元の方たちが気さくに接してくれたのが忘れられない。

東京からの参加者

また、同じ宿に宿泊していた20代の女性にも話を訊くことができた。彼女は東京の実家暮らしの学生で、〈フジロック〉に来るのは初めてだという。彼女にとって大切なアーティストのライヴを観るために来ることを決意してきたという。目当てのアーティストを見て、他のステージを軽く見たが、人が多くいて心配になったので早めに宿に戻ってきたそうだ。彼女は〈フジロック〉に来る前にPCR検査のキットをすでに2個買っており、帰ってすぐに検査しつつ、実家に戻ってからは2週間は自分の部屋にこもって過ごすと語っていた。

〈フジロック〉を終えて

8月24日、〈フジロック〉の来場者数が発表された。

https://www.fujirockfestival.com/news/index

3日間での”延べ”来場者数は35,449人。内訳は、8月20日が12,636人、 8月21日が13,513人、 8月22日が9,300人だった。例年延べ10万人以上が訪れることと比較すると、1/3くらいの客数だったことになる。これまで参加したことのある筆者のような人間にとっては客数が少なく静かに感じたが、初めて参加した人は別の感想を持っていたりもするだろう。

今年の〈フジロック〉への所感が様々な立場で書かれているが、どれも現場に足を運んだ人の感想はその人が感じた真実なのだと思う。この記事で書いていることも筆者の感じた今年の〈フジロック〉であり、人によっては全く別の受け止め方をしていることは理解している。音楽フェスが軒並み中止になっている中で開催された〈フジロック〉を現地で体感した、一音楽関係者の記録としてこの記事を記しておく。

取材&文:西澤裕郎

FUJI ROCK FESTIVAL Official HP:https://www.fujirockfestival.com/

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