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柿本ケンサクと馬詰正が語る『時をかける』展──わざと解像度を上げたり下げた理由

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2021年9月17日(金)から9月26日(日)まで、演出家・映像作家・撮影監督として映画やコマーシャルフィルム、ミュージックビデオ、広告の世界で幅広く活躍するアーティスト、柿本ケンサクによる展覧会「時をかける」が開催中だ。

音楽現像によって生まれ変わる写真の変化を独自のアルゴリズムで表現したインスタレーション「Trance Music」をメインに、過去に発表した「Trimming」シリーズ、「TRANSLATOR」シリーズも新たな方法で展示。さらに、昨年世界同時配信され細野晴臣、半野喜弘、大橋トリオが賛同し参加し話題となったリモート映像プロジェクト「+81FILM」の新作『DROP BY DROP』が、これまでの3作とともに一夜限りで一挙上映される。

本展示会について、柿本ケンサクと、『DROP BY DROP』プロデューサーの馬詰正に、Zoomで話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎


わざと解像度を落として抽象化していく作業をしている

──「時をかける」展の大きなテーマを教えてください。

柿本:今回の展示は、ちょっとだけインスタレーションに振っていて。というのも、作品を見る人たちの解像度を意識的に上げたり下げたりしたかったんです。大きく3作品シリーズあるんですけど、音楽現像によって生まれ変わる写真の変化を独自のアルゴリズムで表現した「Trance Music」がメインになっています。

「Trance Music」シリーズ

「Trance Music」シリーズ

──「Trance Music」は、具体的にどのようなものなんでしょう?

柿本:今年1月に、AIを使った「Time Tunnel」というシリーズを発表したんです。簡単に言うと、これまで1番パーソナルに撮ってきたランドスケープの写真展示「TRANSLATOR」を機械学習させた上で、2020年のコロナ禍にあった世界の出来事やニュースも機械に勉強させ、その出来事によって写真の像も変化させていきました。そこに音楽を使って変化させていくのが「Trance Music」なんです。

──音楽を聴かせて写真を変化させていくと。

柿本:「Time Tunnel」は、写真がうにょうにょと動くムービーの形に1回変換して、そこにニュースなどの出来事を使って歪みを作ったり色を変化させていくものなんです。例えば、怒りのニュースだと赤が出たりする。その際、一瞬を切り取った写真がムービーになるところがポイントで。そこに音楽を組み合わせるとどうなるのかやってみたかったんです。

「TRANSLATOR」シリーズ

──どんな音楽を学習させていったんでしょう。

柿本:歴史を振り返ってみると、人間のターニングポイントみたいな瞬間って実は結構たくさんあったと思って。そういうターニングポイントで、時代を変革させようとしたアーティストたちの音楽を集めてみました。例えば、ボブ・マーリーの「War」とか、ジョン・レノンの「Imagine」など、10組くらいの革命を起こそうとした歌を聴かせることで、写真がどういうふうに動き出すのかやってみた。実はまだ実験途中なので、今回の展示会では同じタイミングで馬詰さんと一緒に作ったショートフィルムで使った曲を聴かせています。もちろんその曲もコロナ禍の映像ために作られた作品で、ある種、僕の中では映像の革命が起きている時代の曲だと思っています。その曲を写真に聴かせて、現像していく過程を見せるインスタレーションがメインになっています。

「Trance Music」シリーズ

──最初におっしゃっていた解像度の上げ下げとはどういうものなんでしょう?

柿本:2つの作品の反対側に「Trimming」というシリーズがあって。普段生きている世の中を、どういうふうにトリミングして見つめ直すかに焦点を当てた作品で。一見ゴミのように見えたり、役に立たないように見えているものを上手く切り取ることによって、新しい作品として生まれ変わらさせる作品なんです。のぞき穴が設置されいるんですけど、のぞくと作品がスライドショーで流れていて、フットペダルが設置されている。気になる作品の時にフットペダルを踏むと、タクシーの領収書みたいな感じで作品が感熱紙にプリントされて出てくるんです。すごく解像度の落ちたレシートの作品で、持って帰ってもらってもいいんです。ロールペーパーが終われば、それ以上出てこないエディションになっています。対称的に「Trance Music」は大きなLEDモニターに『2001年宇宙の旅』のHALじゃないですけど、音楽とともに生きているような抽象化された写真がうにょうにょとずっと動き続けている。観客が来ると、観客の動きに合わせて、写真もちょっと変わったりする。4つプリンターが上に設置されていて、5分に1回、その瞬間の写真が降ってくるんです。それも持って帰ってよい作品にしています。

「Trimming」シリーズ

「Trimming」シリーズ

──ある意味でハイレゾの時代に、どうして解像度を下げたんでしょう。

柿本:普段、僕の写真は結構大きなサイズの作品が多いんですけど、今回はパルコでの展示ということもあるので、若い人に向けてわざと解像度を落として抽象化していく作業をして、誰でも持って帰っていいようにすることで作品の新しい活路を見つけようかなと思ったんです。ものすごい情報が多い世の中だから、本当に自分が正しいのか判断したり、自分が大事だと思っているものを見つけるには、情報をシンプルに削ぎ落とさないと見つからないんじゃないかと思って。静かな湖の湖面に大雨がバーっと降っていると、波紋がたくさんできるじゃないですか? ああいう状態で石をポーンって投げられても気づかないけど、湖面が無風の状態の時に一石を投じたら波紋が1個できるというか。そういう状態に自分をどうやって持っていくか、作品を通して表現できたらなと思っています。

いくつかの価値観に分断されている時期が反映されている作品になっている

──同時に、リモート映像プロジェクト「+81FILM」の新作『DROP BY DROP』も公開されます。これまでの3編とともに一夜限りで一挙上映されますが、どのようにして今回の展示で発表することになったんでしょう。

馬詰:もともと「+81FILM」は、柿本さんのプライベートプロジェクトみたいな感じで、チリ、モンゴル、ロンドンで撮影が開始されていたんですね。コロナ禍で海外はどういうことになっているかを映像作品にしようとしていた。日本から海外に電話をすると「+81」から始まるということで「+81FILM」というタイトルなんですけど、スタッフが現地に渡航せずリモートで繋いで撮影を続けていきました。僕は僕で「+81FILM」とは別のリモート撮影プロジェクト「リモートワールド」をフランスでし始めていて。スポーツブランドの広告をリモートでケニアやドイツで撮影したりしていた。柿本さんも僕もリモートのムービーのプロジェクトを動かしていたので、ウェブメディアで対談したりする機会があったのがきっかけで、いろいろ近くなっていったんです。

──『DROP BY DROP』は、ハンガリーのブタペストで撮影をされた作品になります。どうして今回の展示会で上映することに決めたんでしょう。

馬詰:今年の春、柿本さんと僕で何度か広告の仕事をしたことがあるハンガリーのプロダクションチームが入った上で、第4弾を作りましょうと動き出したんです。それを今回の展示のタイミングで上映しましょうというのは、柿本さん主導で持ち上がった話で。去年今年と「+81FILM」を続けてきたのは、コロナの時代を世界中で定点観測して俯瞰してみてみようというコンセプトもあったので、オンライン上で見れるだけじゃなくて、どこかで上映できる場があればそれは素晴らしいよねという話をしていたところ、上手くタイミングが合った形ですね。

柿本:たまたまパルコのギャラリーXの展示が決まったタイミングというのもあるんですけど、僕自身、写真作品と映像作品を同時に展開するのをやったことがなくて。やっぱり映画は映画の人、写真は写真の人って、どこかでまだ区別されている中、いろいろな垣根を越えて発表する機会があったのでやりたかったんです。今回の展示がパルコのアートウィークの中で行われるインスタレーションで、映画もあって、インスタレーションもあって、それを音楽が繋いで架け橋になるのは立体的でおもしろいなと。それで映像の上映もやってみようと思ったんです。

馬詰:音楽で両方とも括れるというところも非常に意味があると思っていて。「+81FILM」にはこれまで、細野晴臣さん、半野喜弘さん、大橋トリオさんと、錚々たるメンバーが参加していて、今回はケンモチヒデフミさんに参加いただいています。音楽映画としてもおもしろいシリーズになっていると思っています。

 

──今回どうしてケンモチさんに楽曲制作を依頼しようと思ったんでしょう。

柿本:ハンガリー編は、結構スリリングなチェイスするシーンがあるんですよ。レジスタンス側にいる女性が、政府側で管理しているワクチン的なものを病気の弟のために盗んで持ち帰ろうとする。それがある男性に見つかって、チェイスするシーンがあるんです。ケンモチさんはオリンピックで100mの音楽を作られているんですけど、それが『テネット』的なすごくかっこいい曲だったんです。細野さんがコンテンポラリーかつ雄大な曲で、半野さんがオケストレーションみたいな曲、大橋トリオの大橋くんはジャズ・ポップみたいな楽曲だったので、映画にもいろいろな表情があるように、音楽もいろいろな表情が欲しかったんです。そこで今回、スリリングなアクションシーンの曲をケンモチさんなりに表現してもらえたらうれしいなと思って頼みました。

──同じコロナ禍でも、約1年半以上続いています。並べてみたときに、作品の内容だったり撮り方に変化は何か感じられましたか?

柿本:前の3本は、まだコロナが何者かも分からないようなときに制作したんですけど、ハンガリー編はそこから約1年経って、コロナとの向き合い方をなんとなくではあるけれど体験している中で作りました。ワクチンも開発され、多くの人はそれを良しとして打っているし、まだどうなのかなって不安に思いながら打ってない人もいる。いくつかの価値観に分断されている時期だと思うんです。ハンガリー編は、特にそういうものが反映されている物語になっていると思いますね。正直コロナの終息まであと1年とか2年の話じゃないだろうし、ちょっと長い目で時代の変化とともに、いくつかの国で撮影して、将来的にはこれが10本とか20本になって、世界地図に並べてみると、この時代の地球ってこういう顔してたなみたいなふうになると価値のあるものになるんじゃないかなとは思っています。

──展示用に作られたZINEはどういったものなんでしょう。

柿本:主にはギャラリーの展示作品を30ページぐらいのZINEにしてます。これも解像度にテーマを置いていて。開くと袋とじみたいになって、開かないと見えないページがあったり、紙も全部バラバラで。一見すごいカオスに見えるZINEなんですよ。それが紐で一束になっていて、紐を取るとポスターになったり。読み物として見てもいいし、分解して展示もできる、かつ、いろいろな紙の種類がカオスにあって、ちょっとよく分からないものになっている。というのも、訳の分からないものからしか新しいものは生まれないし、そういった有象無象の中に自分なりのものを見つけてほしい思いもあって綺麗にまとめようとはしなかったんです。ちょっとコンテンポラリーなZINEになっていますね。

──最後に、この先考えていることなど、お訊かせいただけますか?

柿本:写真作品をNFTで販売するようなことをやろうとしていて。NFTっていろいろなタイプのものが出てきているけど、実態がまだふわっとしていて分からないし、アート業界の中では嫌煙している人が多いんですよね。要は仮想通貨を持っている人しか買えないこともあって、実態が一気によく分からないままチープなものが有象無象生まれているのが実態だと思うんです。今、ライゾマティクスとパルコで新しいNFTのプラットフォームを作ろうと考えていて、その第1弾で今回の作品を実験的に発表してみようかと思っているんです。NFTの中にもいろいろなマーケットがありますけど、ライゾマと僕らとでプラットフォームを作って出すのはちょっとおもしろい取り組みになるのかなと。目下制作中なので詳細はまた発表できたらと考えています。


■イベント詳細

「Kensaku Kakimoto Exhibition 時をかける」

イベント期間:2021年9月17日(金)―9月26日(日)
会場:GALLERY X(渋谷パルコB1F)
営業時間:11:00―20:00 ※最終日は18:00閉場
※営業時間は変更となる場合がございます。詳細は渋谷パルコHPにてご確認ください。
※開催内容は予告なく変更される可能性があります。予めご了承ください。
※感染症対策や天災等の諸事情、混雑状況により、整理券配布・入場規制させていただく場合がございます。
入場料:500円(税込)
主催:パルコ
協力:一般社団法人オンザヒル・Alt.VFX・堀内カラー
楽曲提供:細野晴臣・半野喜弘・大橋トリオ・ケンモチヒデフミ

「+81FILM」プレミアム上映
Kensaku Kakimoto Exhibition 時をかける Collaboration with Luke Bubb, Piotr Stopniak 開催記念 Premium 上映『+81FILM』
日程:2021年9月25日(土)
時間:17:00〜 上映時間:約40分
会場:渋谷パルコ8F「ホワイトシネクイント」
料金:1,200円均一
チケット予約:9月17日(金)12:00からホワイトシネクイントHPで受付開始
https://www.cinequinto.com/white/topics/detail.php?id=420

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