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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすいものを紹介しているこの連載。3回目は『ニューロダイバーシティの教科書〜多様性尊重社会へのキーワード』(村中直人著・金子書房)です。「ニューロダイバーシティ」という言葉にはまだ馴染みのない方も多いと思いますが、帯に簡潔にまとめられていますので、引用してみます。

脳・神経(neuro)と多様性(diversity)、この2つの言葉から生まれたニューロダイバーシティは、「脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で生かしていこう」という考え方です。
発達障害と呼ばれる現象を、能力の欠如や優劣とは異なる視点、意味で捉えなおす言葉であり、さらには「すべての人の脳や神経の在り方」がその対象となる裾野の広さを持った言葉でもあります。

前回取り上げた発達障害に関連して登場した考え方ですが、それは発達障害当事者だけでなく、全ての人に対しても重要な考え方です。本の中に紹介されている、ニューロダイバーシティという言葉の由来となったと言われる自閉スペクトラム症当事者の方の言葉を借りると「私たちはみんな神経多様者である。なぜならこの星の誰1人として完全に同じではないから」です。また、本書の中で脳や神経由来の違いは基本OSの違いのようなものと表現されています。例えばWindowsとMacでは仕様が違います。そしてそれはどちらが正しいということでも、どちらが「当たり前」「普通」ということでもありません。それぞれに脳や神経由来の違いがあり、その違いの中身を理解することが大切なのです。

他に、この本の中でこんな例え話があります。

今、世界中にあなた以外の人のほぼ全員に翼が生えて自由に空を飛び回れるようになりました。あなたは何も変わっていません。変わったのは周囲の人たちだけです。ですがこの瞬間からあなたは「飛行能力完全欠如の重度身体障害者」ということになります。なぜなら、社会の様々な側面が「自由に空を飛べること」を前提に作られていくからです。例えば、建物から階段がなくなるでしょう。階段を登るより空を飛んだ方が早いし楽だからです。また、建物は、部屋の天井や手の届かないところも活用したような設計になるでしょう。その方が空間を有効に使えます。そうなると、空を自由に飛べないあなたは困ってしまいます。

これは以前僕がRolling Stone Japanでの連載の「『障害』をめぐる考え方、多数派が少数派の文化や特性を尊重する大切さ」の回で書いた、障害の個人モデル・社会モデル・文化モデルの話とも関連することで、ぜひそちらもご一読いただけると幸いなのですが、ものごとを「何かの欠如・欠損」と捉える見方から離れて、個々人の違いと環境との相互作用、そして「多数派・少数派」という視点から捉え直すことは、メンタルヘルスを維持していく上でもとても重要なことです。

その他、目から鱗が落ちるような話もたくさんわかりやすく説明されていてとても面白いです。「生きづらさの正体を探る」、逆に言えば「生きやすさのヒントを探す」のにとてもオススメの本です。

「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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