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園子温が語るハリウッドデビュー作「思い出作りのために撮ったわけじゃない」

StoryWriter

園子温監督がニコラス・ケイジを主演に迎え制作した、念願のハリウッドデビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が、2021年10月8日より全国劇場で公開される。

裏社会を牛耳るガバナーのもとを逃げ出した女バーニスを連れ戻すよう命じられた悪名高き銀行強盗ヒーロー。特殊なボディスーツに身を包んだヒーローは、東洋と西洋が混ざり合った美しくも暴力的な世界「ゴーストランド」で奔走する……。「キングスマン」のソフィア・ブテラ、「悪魔のいけにえ2」のビル・モーズリー、「きみに読む物語」などの監督として知られるニック・カサベテス、日本から「RE:BORN リボーン」のTAK∴(坂口拓)、「愛なき森で叫べ」の中屋柚香らが参加し、らしさ全開で描かれる本作について、とある平日の昼間、園子温本人に話を聞いた。

取材&文:西澤裕郎
写真:大橋祐希


ある意味、やけくそに近いかもしれない

──園監督はだいぶ前から、ハリウッドで映画制作するためにアメリカで飛び込みで企画を持ち込んだり、ピッチ(※自分の脚本をプロダクションなどに売り込むこと)の時間を設けてもらうなど、自身の足を使ってアプローチされていたんですよね。

もう15年くらい前からハリウッドに行きたいなと思っていて。『愛のむきだし』(2008年)の撮影が始まるちょっと前からピッチを始めたり、いろいろな人にプロモーションをかけていたんです。ただ、上手くいきそうになった直前で企画がなくなったりすることもあったので、4年前にプロデューサーから今回の台本をもらったときは、内容を読む前から「オッケー!」って返事をしていて。とはいえ、怖いから一応は読んだけど(笑)。

──それくらいハリウッドで映画を撮ることを実現したかった、と。

小さい時からハリウッド映画をたくさん観てきていたのと、初めて自分が日本映画を観たのが高校生のときに黒澤明だったので、ある意味、DNA的にはアメリカ映画が馴染んでいたんです。自分で映画を作り始めて何本か撮っていくうちに、「やっぱりアメリカで撮りたいな」という気持ちがデカくなっていきました。

──そうして実現したハリウッドデビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』ですが、プロデューサーから渡された脚本から6割ぐらい書き直したそうですね。

最初はメキシコが舞台の西部劇みたいな作品だったんですけど、そこから半分くらい内容が変わって。その後、僕が心筋梗塞で倒れたこともあり、ニコラス・ケイジの提案で日本で撮ることを決めて、また180度変わりました。とにかく正統派のアクション映画というより、ごった煮にしてやろうと思って。ヤスジロウってキャラクターはオリジナルにはいなかったんですけど、『用心棒』『椿三十郎』での三船敏郎に対する仲代達矢みたいなやつが欲しいなと思って加えました。だから、骨組み以外残っていないんじゃないかな。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──最初は『マカロニ・ウエスタン』的な話だったんですね。

そうそう、匂いはそんな感じだった。『マカロニ・ウエスタン』と『マッドマックス』。プロデューサーが目指したのはきっと『マッドマックス』なんだろうけど。

──それにしても、今作を全編日本で撮影されているのには驚きました。ハリウッドデビュー作を日本で撮っているというのも不思議な感覚ですよね。

ある意味、やけくそに近いかもしれない。いくらなんでもハリウッド映画のデビュー作を馴染んだ日本で撮るなんて、もってのほかだと思っていたから。今までハリウッドで撮った日本人監督の映画って、東京を舞台にしたり、日本人の役者を何人か入れたりだったから、俺は単身でハリウッドに乗り込んで、スタッフもキャストも1人も日本人を入れない心意気でいたのに、結果ほとんどが日本人になって。「日本映画を撮っている時の違いはどこでした?」って質問されても、残念ながらどこにもない(笑)。1つあるとしたら、ニコラス・ケイジにバスが用意されていたことくらい。撮影中のモニターにニコラスがアップで映ったとき、「今俺が撮っているのはハリウッド映画だ」って初めて認識した。それぐらいニコラスはハリウッドの顔をしているよね。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──ニコラスさん他、外国人キャストとのコミュニケーションは、どのように行われていたんですか?

後半になると忙しすぎてそれどころじゃなくなったので通訳に任せたけど、初期の頃はできるだけ英語で直接しゃべっていました。撮影1年前にニコラスが「もっと話したい」って東京に来たので2人きりで会ったんだけど、その時は英語でしゃべらざるをえなくて。今でもニコラスとはLINE友だちなので、もちろん英語でやりとりしています。

──ニコラスさんとゴールデン街で飲んだっていうエピソードですよね。どんなことを話したか、印象に残っていることはありますか?

その時は2人でドアーズの歌をハモったりしていたんだけど、この映画でニコラス・ケイジ扮するヒーローのイメージは、セルジオ・レオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』、公開当時の邦題だと『ウエスタン』に出演しているチャールズ・ブロンソンみたいだと思っていたんです。ニコラスに会ったら、「俺もそう思っていた」って言われて。まさかと思ったら、彼の被っている帽子が『ウエスタン』でチャールズ・ブロンソンが被っていた帽子のレプリカで。Tシャツもチャールズ・ブロンソンだし、お前……って(笑)。なおかつ、僕の映画が大好きだよって言ってくれて。日本のオーディションだと『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』って言われることが多いんだけど、彼は『アンチポルノ』と『紀子の食卓』って言ったから、本当に好きなんだなと思ってうれしくて。現場でもお互いチャールズ・ブロンソンがイメージにあるので『ウエスタン』のサウンドトラックを流したりしていましたね。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──ちなみに、今日も『紀子の食卓』のTシャツを着てらっしゃいますね。

これは偶然(笑)。さっきも指摘されてびっくりしたね。

日本であまり好まれてない映画ほど、海外では評価されている

──僕が園監督の映画に強いインパクトを受けたきっかけが、『恋の罪』を観た友人から「ここに描かれているのは私だ」と言われたことなんです。彼女は事件現場に足も運ぶくらいのめり込んでいて。それで、水曜日のカンパネラの連載で『恋の罪』を取り上げたら、コムアイさんもすごく共感を示して。

じゃあ、彼女に『恋の罪』を観せたのはあなたなの?

──当時、映画をピックアップしたのはそうです。

あの歌(水曜日のカンパネラ「ミツコ」)が生まれたのはあなた経由?

 

──きっかけのひとつとしては、そうかもしれないです。だから今日お会いできてすごく感慨深くて。今作では、女性に暴力を働こうとするとボディースーツの爆弾が爆発するみたいな描かれ方があるじゃないですか。

そもそもの台本に、そこは存在していたんですよ。女性を守るというより、自分の娘に手を出すな、っていう意味が強い。ガバナーは獣みたいな男なので。

──そういう意味で、今作で女性の描き方に関して意識されたことはありますか?

台本を書き直していく中で、ガバナーが日本人の女性を支配下において、遊郭で働かせながらも自分の女に飼いならしている設定になっていったんですね。オリジナルの台本だと、ソフィアは女の子たちと「いえーい!」とか言いながら、おっぱいをおっさんに見せて騒いで事故って捕まっちゃうという、とんでもない設定で。これじゃあこの子を愛せないなと思ったし、そんなやつを助けに行く話でどこが盛り上がるんだ! と。小さい頃にガバナーに拾われて遊郭で働いた設定にして、少しずつ自分にシナリオを引き寄せていったんです。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──今回出演されている日本人の役者の方は、園監督のワークショップに参加していた方々が中心になっています。どういう理由からそうしたんでしょう?

この映画撮影の前に、ワークショップの人たちで自主映画を1本撮ったんですよ。『エッシャー通りの赤いポスト』っていう冬に公開される予定の作品なんですけど、そこで一緒にやっていたので、新しく他の人をオーディションするよりワークショップの人を使おうってことになったんです。よく僕の映画にエキストラで出ている女の子が、ソフィアの横でマネキン役をやっているんですがニコラスと結婚しました(笑)。だから、俺がキューピットなんです。ハリウッドだからって構えて有名女優を使わず、もっと軽くやった方がかっこいいなと思って構えないでやっていきましたね。

 

──これまでの著書でも語られていますが、オーディションに関しては、園監督のことを知らない人が来たり、審査するのが大変だと言っていましたもんね。

ワークショップには真面目に園子温から勉強したいって人が来ているから、むしろいいんです。これからも劇団みたいにワークショップメインにキャスティングしますよ。オーディションで、『愛のむきだし』が好きですとか、僕グロいのが大好きなんで『冷たい熱帯魚』がとかって言われると… うるせえって(笑)!

──あははは。それにしてもニコラスさんの好きな映画に『アンチポルノ』が入ってくるのが、おもしろいですよね。

ニコラスは『アンチポルノ』で号泣したって言ってました。そこは日本と世界でどんどん差ができている感じはして。日本であまり好まれてない映画ほど、海外では評価されているという変な状況が起きている。中国のプロデューサーから「中国で何が1番人気あるか分かるかい?」って言われた時も『アンチポルノ』って言われて。ソフィアも、ソフィアを推薦したギャスパー・ノエ監督も『アンチポルノ』が好き。日本ではなんだこりゃ? ってなっていたけど、海外ではめっちゃカルトクラシックになりつつあって。そういう部分が逆転しつつある時代なんですよね。

 

ママチャリアクション映画で今作に勝てるものはいない

──以前どこかのインタビューで、そうした「日本の状況に対しては諦めつつある」みたいなことをおっしゃっていましたが、そのあたりは現在どうお考えなんでしょう。

諦めるというか、敵わないなという感じかな。自分が日本の文化をあまり吸収していない分、愛される日本映画は敵わないというか。ずっとアメリカカルチャーばかり吸収していたから頭も全部アメリカだし、出てくる曲の雰囲気もヨーロッパ系かアメリカ系で、J-POP風な曲が1個も作れないというか想像もできない。だから海外に渡っちゃった方が早いなって感じですね。

──今作には随所にユーモアも入れ込まれています。ニコラスさんがママチャリに乗るとか、金的でチーンと効果音が鳴ったり。ユーモアはどう考えて入れられているんですか?

この映画じゃなければ、アメリカのデビュー作でお笑いを取ろうなんて微塵も考えていなかったと思う(笑)。こういう映画になったからには、おもしろいことを貪欲に入れていくしかないと思ったんですよね。アメリカでカーアクションをする上で、100億ぐらい予算をくれるなら『マッドマックス』を凌駕するぐらい迫力を出す自信はあるけど、予算がそんなにないんだったら、むしろ侍アクションに切り替えた方がいいと思って。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──そのようにして設定が変わっていったんですね。

ママチャリを出したのも、カーアクションじゃなくてママチャリアクションはどうだ?って提案したんです。「ママチャリアクション映画でこれに勝てるものは世界にない」という映画を作ろう、と。そういう発想をしていきました。誰もやらないだろうけど(笑)。勝てることをやらなきゃしょうがないじゃない? 二番煎じをやってハリウッドに肉薄したとか、ハリウッドに最も近いとか、そんなのどうでもよくて。ハリウッドは、そんな挑戦の仕方じゃダメなんで、何にしても目立てばいいと思って。

 

──タイトルクレジットでペンキが飛び散っているのも園監督らしいですし、ハリウッドに迎合せずやりたいことをやってらっしゃることに感激しました。どうしてもビビるじゃないですけど、ちょっと寄せちゃうというか。

ハリウッドに来たらハリウッドっぽいことをしないといけないなんてことはないんです。寄せて失敗するなんて情けない。今のままでそのままでいくしかない。肩肘張っちゃうとダメですね。

──プレス資料にあるコメントで、「非現実的世界のリアルを描くことによって生まれる現代社会の歪み」と語られています。それはどういう部分に現れているんでしょう。

それに関して言うと、(ハリウッド)2作目、3作目の方にもっと強いメッセージを込めるつもりです。これからは自分のオリジナル脚本で作っていく。送られてきた脚本でやるのは1本目だけだと思っていて。というのも、それしか手段がなかったから。例えば、みんなが縄で時計の針を止めている時計塔があり、これ以上動かしたらまた惨事が起きると言っているけど、なぜあの時間なのかと言うと、広島原爆が落ちる1分前なんです。裏の意味として第二の広島原爆が落ちるぞってことを言っていて。ジョージ・オーウェルの小説『動物農場』バンザイ!ってガバナーが日本人に言わせているところも、ある意味、社会批判的なところもあるんですけど、一種のエッセンスであって中心にはなっていない。今回はそんなに真っ向からやっているというわけでもないんです。

──今作を足がかりにして、2作目、3作目で園監督のオリジナル脚本作品が観られるということなんですね。

日本の監督はハリウッドで1本撮ったら呼吸困難になったのか帰ってきちゃうけど、僕は向こうでずっと撮り続けていきたい。実際、撮っていくって決めているから、思い出のために今作を撮ったわけじゃない。次も次も次もずっと撮り続けて、とにかくアメリカで映画を撮り続ける。もちろん日本でも撮るけど、日本では超個人的な自主映画しか撮らないぐらいの気持ちで撮っていこうと思っていますね。


■公開情報

プリズナーズ・オブ・ゴーストランド

2021年10月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー!

キャスト:ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサヴェテス、TAK∴、中屋柚香、YOUNG DAIS、古藤ロレナ、縄田カノン
監督:園子温
脚本:アロン・ヘンドリー レザ・シクソ・サファイ
音楽:ジョセフ・トラパニーズ
配給:ビターズ・エンド
提供:POTGJPパートナーズ(ビターズ・エンド、日本ケーブルテレビジョン、常盤不動産、松田眞理公認会計士事務所、クオラス)
原題:Prisoners of the Ghostland
アメリカ/2021/カラー/105分/PG-12
公式サイト:bitters.co.jp/POTG

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