2016年末に崩壊したアイドルグループ・BELLRING少女ハート。独自のサイケデリックなサウンドからブチ上げロックまで、変幻自在アイドル・ユニットとして活動。幅広い音楽性と、黒い羽をつけたセーラー服でステージを駆け回るパフォーマンスで「東京最狂」の名を欲しいままにした。しかし、その儚さ故に、惜まれながらも崩壊という形で解散を迎えた。
ベルハーにとってデビュー10周年を迎えた2022年4月8日。全楽曲のサブスク配信スタートを開始し、約5年半ぶりとなるワンマンライヴ〈Grave Robbery〉を東京・Spotify O-nestにて開催。詳細が一切明かされていないにもかかわらずチケットは即日完売。大きな注目の中、BELLRING少女ハート’22としてライヴを行い、メンバーはベルハーと同事務所AqbiRecに所属するNILKLYの小河原唯(おがわらゆい / 小笠原唯)、MIGMA SHELTERの橘田あまね(きったあまね / タマネ)、新倉のあ(にいくらのあ / ブラジル)、美波未優(みなみみゆう / ミミミユ)であることが明らかとなった。
ライヴの中で、BELLRING少女ハート’22の新メンバーを募集することも表明。リキッドルームのワンマン公演もチケットが完売するなど、2022年に再び動き出したベルハーのこれからに注目が集まっている今、「BELLRING少女ハートとはなんだったのか?」を、さまざまなゲストを迎え、多角的に検証していく連載をスタート。記念すべき第一回目のゲストは、現・文京学院大学客員教授で、元・TOKYO IDOL PROJECT総合プロデューサー、TOKYO IDOL FESTIVAL 2015/2016 総合プロデューサーを務めていた濵田俊也を迎え、TIF出演時のベルハーや、これからのグループの在り方などを、ディレクターの田中紘治とともに語ってもらった。
取材&文:西澤裕郎
TIFはベルハーにとって挑戦の場だった
──様々な角度から「BELLRING少女ハートとはなんだったのか?」を検証しようということで、本日は、元・TOKYO IDOL PROJECT総合プロデューサーで、TOKYO IDOL FESTIVAL 2015/2016 総合プロデューサーを務められていた濵田俊也さん(現・文京学院大学客員教授)と、ベルハーのディレクター田中紘治さんの対談を行わせていただきたいと思います。直接お二人でお話されるのは意外にも今日が初めてとのことですが、濵田さんはベルハーに対して、どのような印象を持たれていたんでしょう?
濵田:僕は2016年を最後に「TOKYO IDOL PROJECT」と「TOKYO IDOL FESTIVAL」を後進に託したのですが、その後ベルハーさんの崩壊を知り、ベルハーさんはもったいない終わり方をしたなという印象を持っていたんです。たしか、崩壊した年にSMILE GARDENのトリに出られていましたよね?
田中:僕、その話をしたかったんです。TIFって、ベルハーにとって挑戦の場だったし、いろいろな人に知っていただくチャンスの場でもあって、イベントに対して報いていきたい気持ちが強かったんです。ただ、あそこまで持っていきながら崩れてしまったら、どう作り直してもグループとして別物になってしまうと思って。その状態でBELLRING少女ハートとして続けるのは違うと考えて活動終了を選んだんです。ずっと道が途絶えてしまった気持ちがありました。ただ、当時の続きというよりは、10周年の今年いっぱい、どこまで楽しめるかということで始めたのがBELLRING少女ハート’22です。
濵田:その情報を知ったとき、どうなさるおつもりなのかなと思っていたんですよね。ここ数年、コロナ禍で思うようにできないエンタテインメントの状況の中、嬉しい機会が増えていくことが大事になってくると思っていて。ベルハーさん復活は、そのきっかけの1つだと思うんです。ベルハーさんはブランドでしたからね。老舗というか、ちゃんとしたアイドルだったので、ファンがそこに戻れるようになるのは、いい機会だろうなと思って見ていました。
田中:BELLRING少女ハート’22を始めるにあたって、オーディションやオリジナルメンバーではなくMIGMA SHELTERやNILKLYなどAqbiRecに所属しているメンバーから選出しました。理由としては、活動してた後半からはBELLRING少女ハートのイメージ的にオーディションに応募してくる方が「私も暴れたい」って人が多くなってきちゃって。もともとは、AKB48に入りたかったとか、ハロプロが好きですって子たちがベルハーに染まっていく過程がおもしろかった。あのときのベルハーはステージから飛び出すような無茶なことばかりする子たちでしたけど、ファンに「もっと声を出せ!」みたいに煽らせたことはなくて。でも、いわゆるロックアイドルをやりたい子たちが集まるようになってきたので、そういう意味でも当時、ベルハーの継続は難しいなと思っていたんですよね。
濵田:そういう意味で言うと、ベルハーさんはTIFスタッフの支持がすごく強いグループだったんですよ。
田中:そこがすごく不思議で、聞きたかったところでもあるんですよね。ベルハーの出番のときに、明らかにセキュリティがどんどん増えていくんですよ(笑)。メンバーと次のステージに移動している最中、横でボンズさんとかが無線で「足りない! 足りない! 10人回して」みたいに連絡を取り合って、ダーって警備が増えていくみたいな。なので、こういう状態で立たせていただくこと自体、中の人からチャンスをいただいていると感じていました。
濵田:そこは期待していたんだと思います。ベルハーさんがSMILE GARDENのトリに決まったのも、TIFスタッフみんなが、純粋に期待していたんだと思いますよ。このグループで最後盛り上げて終わりたいと思ったから選んでいたはずですし。
田中:僕の中では、うがった見方で、場が荒れすぎてしまうから最後にしかしようがないんじゃないかなと思っていました(笑)。
濵田:いやいや、全然そういうことではなくて(笑)。TIFスタッフの支持が大きいグループだったからだなと思いますね。
アイドルは音楽的に遊べるコンテンツという捉え方をしていた
濵田:田中さんは、どういうきっかけでアイドルグループを手がけることになったんですか?
田中:僕がアイドルを作ったのは、ベルハーが最初です。右も左も分からない状態で始めたんです。アイドルを始める前は映像ディレクターをしていました。あるとき、アイドルに毎回いじわるな企画を仕掛けられそうなディレクターとして声をかけていただいて。そのとき初めてももいろクローバーと仕事をご一緒させていただきました。その流れで、アイドルシーンの知識がほぼない状態で作ったのがベルハーだったんです。
濵田:もともとは、映像ディレクターさんだったんですね。
田中:番組とかMV、企業VPなどを作っていました。ももいろクローバーの番組の仕事をいただいたものの、始めてすぐにガーッと売れていかれたので、半年間しか関わりはないんです。そのときに、アイドルはおもしろいなと思って。僕の中のアイドル知識って、小泉今日子さんとかだったんです。小泉今日子さんの音楽性って、結構自由だったじゃないですか? ニック・カーショウをフィーチャーしたような曲をやっていたり、当時珍しかったハウスだけのアルバムを作っていたりしていて。それもあって、音楽的に遊べるコンテンツという捉え方をしていたんですよね。
濵田:そういう意味で言うと、映像ディレクター出身というのが、なんとなくベルハーさんの見られ方、見せ方には影響を及ぼしている感じがしますね。
田中:そうだと思います。なので、初めて曲を公開したとき、アイドルファンから「奇をてらっている」というリアクションがあって。それが全く分からなかったんです。サイケデリック・ロックというジャンルで最初は始めたんですけど、僕が知っている中では、マニアックな楽曲を女の子が歌うからポップスになる、みたいな感覚だったんです。それを地下アイドルの現場でやったら、ちょっと変なことをやっているグループみたいなリアクションがあったので。そうか、違ったのかと思いながらずっと続けていたのがベルハーです(笑)。
濵田:そこは個性ですもんね、完全に。ベルハーさん復活になりますが、もともとのメンバーの方って今どうされているんですか?
田中:当時のメンバーは、就職したり結婚したり。今も活動を続けている子もいます。
濵田:あの頃のベルハーさんの雰囲気を、そのまま再現されようと思われているかは分からないですけど、どうやってベルハーになっていくんだろうみたいなところは気になります。
田中:あのベルハーには当然なれないと思うんです。やっぱり当時いた子たちが作り出したものなので。今のベルハー ‘22は、その後の6年間で作ってきたグループの中から、ハマるムードを持ってる子たちを選びました。当時の子たちはエネルギッシュだったけど、1つのステージをみんなでやり遂げる感覚は薄かったんです。だからこそ隙間がいっぱいあって、お客さんの気持ちが入る余地もあって最大の魅力でもあるファンとの一体感が生まれたと思います。ただ、グループなので、大きいステージで観るときにはメンバーの気持ちが一塊りになっていないと説得力が出ない。お客さんが盛り上がっていたらいいライヴに見えるけど、映像で観たときに物足りなさを感じていたんですよね。僕が導き切れず、メンバーの意識がバラバラのままだったから、という反省があります。
濵田:映像で見たときのことも考えていたわけですね。
田中:TIFはステージによってはテレビ番組になる前提の収録をされるじゃないですか。そういう場面での勝負ができていないと感じていて。ベルハーのパフォーマンスって、ダンスというよりお芝居に近いところがあるので、そういった部分を理解して、全員でやりきらせたいなと思ったんです。でも難しいところで、真面目なだけでもダメなんですよ。ベルハー ‘22の子たちは、表現に対してすごく忠実だし、真面目なんだけど、言い方はあれなんですけど、ネジが何本か外れている子たちです。ちょっと浮世離れしているというか。そんな子たちがまとまっていたら面白い。特にコロナ禍以降はお客さんも自由に動けないので、ベルハーらしい異次元性というか、非常識なものをステージ上で見せたい。しっかりやり切って、それが来年以降に繋がっていくかまでは考えていないんですけど。
濵田:僕はマーケティングが専攻なのですけど、マーケティング論で論じられる視点の一つに”ノスタルジー消費”ってあるんです。復刻商品とかに対して当時買っていた人が非常に魅力を感じてあらためて商品を買ったりするわけなんですけど、僕は、アイドル界隈でも、ノスタルジーって重要な、お客さんを呼び込むファクターだと思っています。今、田中さんのお話をお聞きすると、昔のファンだけを呼び込もうと復刻をするわけではなくて、新しいファンも取り込んだ形で、新しいベルハーを作ろうとされている、ということで、どんな展開になっていくのかマーケティングの目線でも非常に興味深いですね。
田中:(4月24日に開催した《BABEL ‘22》の時点で)すごくいいバランスかなと思いますね。新しいベルハーが観たいと思ってくれている方と、当時知ってはいたけど観れなかった方とか、話には聞いたことがあるから来てみた方の比率がちょうどいいと、フロアを観ていて感じます。僕が今回オリジナルメンバーを一切出さなかった理由の1つは、当時のフロアが自由すぎたことです。メンバーが同じなのにフロアは同じようにできないと物足りなさが残ってしまう。このパートのとき、メンバーは俺らの上を歩いていたんだよとか、そういう昔話ばかり出てくると「当時を観たかったなぁ」って萎えちゃうじゃないですか。オリジナルメンバーの子たちの中には、なんで出してくれないんだって泣いちゃった子もいたんすけど……、そういう理由だよって説明をして理解はしてもらいました。
濵田:それは理由がわからないと泣きますよね(笑)。
田中:例えば、レジェンド枠で数曲だけオリジナルメンバー参加とかは企画としておもしろいかもしれないけど、レギュラーとしてのメンバーは違う子たちでいこうと決めてました。
濵田:過去のメンバーも選択されるのも再結成という”回答”の一つだと思うんです。でも、大事にしていないという意味でなく、違う”回答”を求めているということなんだな田中さんはって、今話をお聞きしてよく分かりました。
田中:言い方が拙いんですけど、すごいことをしたいんですよ。
濵田:いいですね。
田中:すごいものが作りたいんです。で、そのグループが認められたい。とにかく観ていて最高だった、おもしろかったって、現場でもライヴハウスでも配信でもテレビでも、誰がどう観てもすごいものを作りたいんですよね。なので、思い出で100%成り立っちゃう企画は絶対したくないと思っています。
田中さんが田中さんであれば、どんなベルハーでもベルハーとして受け入れられる
──濵田さんは当時、ベルハーの特異性をどういう部分に感じてらっしゃいましたか?
濵田:元気がいいグループだったということはもちろん、しっかり活動されていた印象ですよね。じゃないとSMILE GARDENのトリにはならない。つまり、運営さんがしっかりしているグループだと思っていたんです。ファンとしてはもちろんステージにいるライヴアイドルを応援するという気持ちもあるんでしょうけど、運営さんとのエンゲージメントがものすごく重要だというのがアイドル界隈だ思います。先程、田中さんは、ベルハー ‘22は、前のベルハーにはならないとおっしゃっていたんですけども、それはたしかにそうだけれども、田中さんが田中さんであれば、どんなベルハーでもベルハーとして受け入れられると思います。
田中:ありがとうございます。
濵田:ベルハー ‘22は今年限定でって思われているかもしれないんですけど、上手い言い方を考えて、2023、2024も続けてもらった方が、みんな幸せだと思うんですけど、どうですか(笑)。
田中:僕、ずっと言わないようにしてきたことがあるんですよ。いろいろなグループをやっているし、いろいろなメンバーがいるので誤解されたくなくて。ただ、僕のやり方に一番ハマってたのは、という意味では、衝動的に始めたBELLRING少女ハートなんですよね。なので、そういうふうに濵田さんが考えて言ってくださっているのはすごくうれしいです。
濵田:無責任に言っちゃってますけど、ご検討いただければとは思います(笑)。
田中:単純にライヴハウスでベルハーが聴きたい気持ちが強くて期間限定で始めてみたんですけど、特に初期曲は10年以上前に作ってるんですよね。今ライヴハウスで流れていても大丈夫な音だっていうのは、作家さんたちが本当にしっかりしたものを作ってくださっていたからだなって。もともと古い味わいのある曲だったりもするので当然かもしれませんけども、これはしばらく続けても大丈夫そうだなという気持ちはちょっとありますね。
濵田:そういう確認ができるチャンスでもあったということですね。
田中:僕からも質問なんですけど、濵田さんとベルハーって同時にTIFを終えているじゃないですか? 当時はどんな心境だったんでしょう? 濵田さんなりに目指していたTIF像とか、愛着はあったのかなって。
濵田:僕は人事異動でアイドルとTIFに関わることになったんです。当時は、これから伸びるよっていうときだったり、再構築が必要なときに関わる仕事が多くて、自分としても得意だと思ってました。TIFには2012年ぐらいから携わっていたんですけど、なんとか1万人くらいのオーディエンスに来ていただいていたのが、2016年は最終的に7万5千人にお越しいただけるようになった楽しくて区切りのいいところでした。TIFなど、アイドルの仕事をしていることについては、よくよく考えてみたら、僕、中学生ぐらいからフジテレビに入りたいと思っていたんですけど、そう思ったきっかけが『夕やけニャンニャン』だった(笑)。
田中:来るかなって思ったんですけど、『夕やけニャンニャン』なんだ(笑)。
濵田:だから、アイドルが好きでフジテレビに入ったし、アイドルの番組をやりたくてやった人間なんです。
田中:でもTIFに関わったのは意図せずって感じだったんですね。
濵田:意図せずですけど、神様が、TIFやりなさい、ってことでの巡り合わせだったんだろうなと。
田中:それはすごくいい話ですね。
濵田:何度も言ってしまって申し訳ないですが、ベルハーさんはこれを機に続けていってもらえたらいいなと思っています。
田中:ベルハー自体が曖昧なもので。コンセプトがしっかり明文化されたアイドルが多いと思うんですけど、ベルハーって曖昧なんですよ。ジャンルも、コンセプトも、方向性も、いかようにも解釈できるようになっている。嘘を平気でつけるような曖昧さをグループ自体が持っているので、なんだかんだ続いたらおもしろいなとは個人的には思っています。
濵田:僕自身も、曖昧に期待していますね(笑)。
田中:曖昧にお願いします(笑)。
■お知らせ
BELLRING少女ハート、新メンバー・オーディション延長
一時審査を通過した応募者の全員面接が都内で行われたが、5月19日の時点で合格者がいなかったためオーディションの延長が決定した。基本的な応募条件は変わらないが、今回は個人面接に切り替えて行われる。
《参加資格》
14〜20歳までの女性。
合格後はBELLRING少女ハートのメンバーとして2022年いっぱい活動できる方。
特定のレコード会社、プロダクションと契約のない方。
現在所属されている場合、等契約解除通知を持参できる方。
オーディション参加にあたり必ず保護者の同意を得ていること。
《参加方法》
■一次審査
内容:書類選考
受付期間:6月14日23:59〆切
応募フォームより必要事項を記入してください。
PCの方 https://www.secure-cloud.jp/sf/1651061658ddyaAJBJ
スマホの方 https://www.secure-cloud.jp/sf/sp/1651061658ddyaAJBJ
添付写真は3ヶ月以内に撮影されており、アプリで加工されていないもの。
合否_合格の場合のみ、申し込みから4日以内に返信いたします。
■二次審査
内容:対面の個人面接
日程:6月中旬~6月下旬を予定。候補日から選んでいただきます。
ダンスと歌唱を1曲ずつ披露。
そのほか、ディレクターの指示に応えていただきます。
音源は各自スマホでご用意ください。
ダンスやストレッチの動作の見えやすい服装をご用意ください。
■三次審査
内容:現メンバーを交えての最終面接
日程:6月中旬〜7月上旬を予定。合格者の都合を確認して決定。
改めてダンス、歌唱を披露していただきます。
また現メンバーとの簡単なオリエンテーションなども行います。
この三次審査にて、加入する1名が選ばれます。
■合格後
加入が決定すると、BELLRING少女ハートとして活動を開始。
レッスンやプロモーション活動、ライヴを行います。
他グループのメンバーとしても活動を希望される場合は、話し合いの上で加入グループを決定する場合がございます。