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【連載】Times O’ Youth Vol.9 台東区・三ノ輪のタトゥースタジオ兼カフェ「KABUTO」、タトゥーと共に生きる兄弟が店を始めた理由と哲学とは?

StoryWriter

音楽、アート、ファッションなど、様々なカルチャーの中で活躍する若きアーティスト・クリエイターを取り上げて紹介していく連載『Times O’ Youth〜次世代カルチャーの担い手〜』。第9回は、台東区・三ノ輪にあるカフェ&タトゥー店、KABUTOを取り上げる。

今、日本人のタトゥー対する認識は過渡期を迎えている。街中を見渡しても、若者を中心にタトゥーを入れた人々を目にすることが年々増えているのではないだろうか。しかし、海外と比較した時に、まだまだ日本ではタトゥー・カルチャーが社会的に広く受容されているとは言えない。今でもタトゥーを入れた人々は理不尽な偏見を持たれたり、不自由な暮らしを余儀なくされている。

今回、タトゥースタジオ兼カフェという斬新なスタイルを取るハワイアンカフェ・KABUTOのスタッフでありながら、モデルとしても活動するKamiruにインタビューを行い、ファッションや自己表現の在り方として存在するタトゥーについて話を訊いた。

取材&文:北村蒼生
写真:田中輝光


兄弟ふたりで始めたカフェ&タトゥー

──KABUTOがどういったお店なのか教えてください。

Kamiru : 元々、父が「兜」というハンバーグレストランを15年くらい前から自営でやっていて、その流れで同じビル内にある隣のスペースを使って店を始めることになりました。それでカフェをやることになった時に、弟がタトゥーを彫りたいってことで、タトゥー&カフェの店にしたんです。バイクや自転車も一応は売ってはいるんですけど、基本はカフェとタトゥーでやっています。

──KABUTOという名前は隣の店から来ているんですね。

Kamiru : そうですね。わざわざ名前変えてもややこしくなると思って、名前は一緒にしました。隣は漢字なので、こっちはローマ字でKABUTOにして、ちょっと若い子向けのカジュアルな印象にしました。

Kamiru

──兄弟2人で一緒にやることになった経緯を教えて欲しいです。

Kamiru : 俺がオーストラリアから日本に帰ってきて、大学を辞めるってなった時に、弟に誘われて荷上げ屋の仕事を一緒にやりだしたんですよ。そこから弟と今まで以上に深く仲良くなりました。その後、隣のレストランで長く働いていたスタッフが何人か辞めることになって、父に「お店を続けるかお前らが自由に決めていいよ」って言われて。俺は店を潰したくはなかったんで荷上げ屋を辞めて、レストランを1人でやり始めました。弟のGuraは、若かったこともあって、踏ん切りつかない感じでまだ迷っていて。でも最終的には一緒にやることになりました。俺の高校の友達が今やってる仕事があんま楽しくないってことを言っていたタイミングで、誘ってうちで働いてもらうことになったおかげで少し余裕ができて、一気に進めて去年の9月にオープンしました。父がバイク屋をいつかやりたいみたいなことを言っていたので、結局バイクも置きつつ、今はカフェ&タトゥーでやっています。

Kamiruの父が趣味で集めたバイクや自転車を店内に飾っている

──KABUTOの内装でなにかこだわりはありますか?

Kamiru : このお店の内装は2パターンの空間に分けています。手前のレジがある方は、気持ちハワイアンな雰囲気で女の人が好きそうな空間にしていて、もう一方はバイク、自転車、革ジャンとか、がっつり男が好きなものを置いています。元々この場所は父のガレージで、それを自分たちで時間かけてカフェに改装したんですよ。その時は大工だった経験がすごい役立ちましたね。

女性に人気のハワイアンな雰囲気の店内

──スタッフは現在何人体制でやっているんですか?

Kamiru : 隣のレストランも含めると、同級生、あと昔からいるおじさん、俺と弟と、母も一緒にやっています。たまに、独学でタトゥーを勉強している友達が、Kabutoでタトゥーを彫ったりもしたり。場所貸しじゃないけど、タトゥーを掘るスペースとして使っていますね。

──タトゥーはお店のどのスペースでやっているんですか?

Kamiru : 店の中にあるタトゥーの作業場でやっていて。彫る時は、カーテンを降ろして、ベッドに寝転がってもらってやってます。女の人がやる時は、バイクの絵が書いてある扉を閉めて、シャッターも下ろして、完全に見えないようにしてやっています。

店内に置いてあるタトゥーベッド

雑多な雰囲気が良い作業机

──兄弟だからこそ、うまくいってる部分は何かありますか?

Kamiru : やっぱり息はぴったりですね。言わなくてもある程度お互いが何を求めてるか分かる。喝を入れることはあったりもするけど、基本は仲良くやれています。

──弟だと余計に気になることが出てきて、衝突してしまうことは今までありましたか?

Kamiru : 店を始めて最初の3ヶ月とかは結構衝突することもありました。俺もいきなり自分のお店を持って、みんなを管理する立場になって、それで揉めたりはありました。でも揉めるって言っても、その日には終わる。怒って殴り合いになったりもあったけど、結局その日に仲直りはしますね。最近は滅多にないですけどね。今では弟も仕事が分かってきて、別に怒ることもないですね。信頼しているからこそ任せるところは任せていますね。

──2人がタトゥーに興味を持ったきっかけは何だったんですか?

Kamiru : 俺は最初、自分でタトゥーを彫るなんてまるで思っていなかったんですけど、Gura が自分に対して彫っているのを見て、俺もやってみたいと思い始めました。Guraは元々美容師を目指してたんですけど、そのための学校に通うのが嫌だったみたいで、迷ってたタトゥーをやることにしたんです。お母さんが昔から絵を描くのがすごい好きで、小さい頃にそういうの見て興味を持って、その流れでタトゥーアートに興味が持ったんだと思います。俺の家族はタトゥーへの偏見はなかったから、すんなりタトゥーをやる道に決めたんだと思います。タトゥーをやる決心が固まるまでは、Guraは結構将来のことで迷ってましたね。俺がオーストラリアから帰って、「タトゥーやりたいんだったら、前の仕事で貯めたお金を使ってさっさとやった方がいい」って言って、後押しした記憶があります。やってみなきゃ、本当にやっていきたいかもわからない。そういう風に話した結果、全部貯金使ってやり出したって感じですね。

──勇気ある決断だったと思うんですけど、もう好きなことやっちゃえって感じですか?

Kamiru : 弟は貯金とかする慎重なタイプなんだけど、俺はやりたいことがあるならお金使ってでもやればいいじゃんっていう考え。それは絶対使わないとやれないし、やりたいことを我慢してまでずっと貯めても意味ないと思う。

英字や数字を入れたレタリングタトゥー

外見で判断されることへのアプローチとしてのタトゥー

──タトゥーとカフェっていう組み合わせが珍しいですよね。

Kamiru : それが面白いかなと思って。あと、外国だと何の意味もなく、「今日暇だからタトゥーでも入れるか」みたいな感じでタトゥーを彫ることが日常の中でよくあるんですよ。オーストラリアでもそれが普通だった。でも日本だと「よし、今日タトゥーを入れるぞ!」みたいに固く考える。タトゥーはファッションとしても気軽に入れられるものだし、もっとラフな感覚で、好きな絵を自分の体に入れてるって考えてもいいと思うんですよ。そういう感覚がもっと伝わればいいなという思いでKABUTOをやっていますね。俺自身、タトゥーがあることで今まで偏見の目で見られることがあったし、ぱっと見で判断されることに対して、理不尽だとは感じます。外見で判断されることへのアプローチとして、タトゥーをあえて見える部分に彫っています。普通に街を歩いてて、知らないおじいちゃんからすれ違いざまに「Fuck You!!」って言われたりとか、全然納得できないことが起きたりすることがあるんです。そういう人に限って平気でポイ捨てしてたりする。よっぽど俺らの方がちゃんとしてるのに何でだろうって。俺らがそういう差別や偏見に対してアプローチしていって、タトゥーに対するイメージを変えたいなって思います。例えば、みんなが自由にコーヒーを飲んでいる中、普通にそこら辺でタトゥーを入れてるみたいな。そのぐらいラフな感覚をもっと浸透させたいですね。見た目なんかより大事なことってあるじゃないですか。言葉遣いだったり、ちゃんと目を見て喋るとか。そういうのができてないのに、タトゥーに文句を言うのは違うと思いますね。

──最初にタトゥーを入れたのはいつなんですか?

Kamiru : 18歳の時です。高校を卒業して、大学生になったタイミングですぐ彫りました。もうそこから1年に1回のペースとかで彫っています。弟にタトゥーをやってもらうようになってからは一気に増えましたね。あと気になっていたのが、日本だとタトゥーの値段が外国に比べて高いところ。店によってはぼったくっている店もある。うちでは、弟がまだタトゥー歴が短いのもあるけど、比較的安い値段で気軽に彫れるようにはしてあります。

──最近の日本のタトゥー事情を見渡してみて、世間のタトゥーに対するリアクションが変わってきている兆しは感じますか?

Kamiru : 変わってはきていると思います。山田レンくんがYouTube でタトゥーのことを発信してくれたりしたおかげで、タトゥーが身近になったと。若い子もそれを見てタトゥーを入れてる人が増えてきてるとは感じますね。その若い子たちが歳をとって、今から10年20年後には、タトゥーを入れてるおじさんが増えるわけじゃないですか。そしたら、タトゥーを入れてるおじさんを見てかっこいいと思ってタトゥーを入れる若者が増えていって、全体的にタトゥーを入れている人が増えていくんじゃないかなと思いますね。外国みたいになるかは分かんないけど、近い将来、日本でもある程度は見慣れてくるのかなとは思います。

──KamiruさんとGuraさんの2人はモデルとしても活動されていて、ファッションとタトゥーの関係性を意識することはあるんですか?

Kamiru : やっぱりタトゥーを入れているモデルが受け入れてもらえないことが多いです。でも、俺自身はタトゥーもファッションと同じで好みの問題だと思いますね。絶対にタトゥーを入れてる方がかっこいいとは思わないし。ただ俺は世の中に対するアプローチとして好きだからタトゥーを入れているって感じかな。俺は自分の中でそういう意味を持ってタトゥーを入れているけど、全然ファッションで入れてもいいと思うんですよ。要するに個々のスタイルによるので何が正解とかはないと思いますね。和彫りで渋い感じもかっこいいと思うし、逆にタトゥーを入れてないのもそれはそれでかっこいいと思う。

──一番最初、初心者がタトゥーを入れる場所として手が出しやすい場所はありますか?

Kamiru : 俺が一番最初に入れたのは足首だったと思います。靴下を履けば隠せちゃうし、かといって足首に一個あるだけで存在感はあるだろうし。なんで、本当気軽にワンポイント何か入れたいぐらいだったら足首が一番おすすめですね。

歴史的な背景を持つ祈り手のデザイン

──彫ったタトゥーに対して時間とともに愛着が湧いてきますか?

Kamiru : 入れてばっかりのタトゥーってまだ浮いてるんですけど、1ヶ月ぐらい経つと体に馴染んできて、ちゃんと体に入った感じがしてくる。その期間がタトゥーは楽しいですね。愛着も湧いてきますし。俺はあまり消したいとかは思わないですね。最初は縁だけ入れて、後から中も塗り潰して真っ黒にしたら長い時間で楽しめる気がして、俺はそうやっています。あと、俺は元から綺麗なタトゥーにあまり興味がなくて、汚くてもそれが味になると思ってますね。別に自分が綺麗な人間なわけじゃないしみたいな(笑)。

──タトゥーに一番合うファッションは何だと思いますか?

Kamiru : もう本当シンプルに、ジーパンに白T 、それにタトゥーが一番かっこいいんじゃないかな。あんま着飾らない感じが逆に俺はかっこ良くて好きですね。でも弟は結構着飾ったファッションもするし、本当それも好み次第だと思います。

タトゥーが“日常”に存在する店にしたい

──Kamiruさんが思うタトゥーの一番の魅力は何だと思いますか?

Kamiru : やっぱり、タトゥーは一生もの。ファッション感覚で入れてもいいけど、一生背負っていくもの。だからこそ、自分らしさを表してくれるシンボルなんだと思いますね。日本だとタトゥーに対するネガティブなイメージがどうしてもあるから、生活する上で色々な不自由が出てくる。例えば、温泉やプールでタトゥーが禁止されてたり、最近だと海も入れなかったりする。そんな世の中に向けての対抗の証として、タトゥーを入れていますね。あとはタトゥーがあるから余計に、礼儀正しく振る舞おうとか、愛想よくしようとかはあるかもしれないです。第一印象でマイナスに見られることがいい意味で足枷になって、よりちゃんとしなきゃって。自分が外見で判断されたくないっていう思いの裏返しなのかもしれないです。俺はここに住んで長いんで、みんな分かってきてくれているとは感じてて、それがすごい嬉しいんですよ。この前、全然知らないおじいちゃん、おばあちゃんがお店に来てくれて、「タトゥーいいね」って温かい言葉をかけてくれて。そういうことがあると、ちょっとでも俺たちがやりたいことが進んだのかなって思います。

──KABUTOのメニューで一番人気なものは何ですか?

Kamiru : うちはランチのメニューだと、ケバブライス、タコライスとかが人気ですね。あとは隣がハンバーグ屋なんで、ロコモコもよく出ます。この店では、どこの国とは絞らずに色々な異国のご飯を提供していけたら面白いと思ってやっていて。それ以外のメニューだとワッフルチキン、チキンバーガーなどアメリカンなご飯も作っています。ワッフルチキンは元々俺が別の店で食べた時に「めっちゃうま! なにこれ」て思ってうちでもメニューに載せました。その店では味付けがメイプルだったんだけど、ハニーマスタードも合いそうだと思って、うちではハニーマスタードで出しています。

ワッフルチキン

──ワッフルにチキンとは意外な組み合わせですね。

Kamiru : 俺も最初意外に思ったんだけど、アメリカでは定番な食べ物みたいで実際食べてみたらすごい美味しいんですよ。ワッフルとチキンが絶妙な相性だと思います。

チキンオーバーライス

──今後KABUTOをどんなお店にしていきたいですか?

Kamiru : 今よりも沢山のお客さんがフラっと入れるようなお店にしていきたいですね。まだ入りにくいって言われることが多いから、もう少し入りやすくしたいです。だけど、媚びすぎることなく、バランスよくやっていきたいですね。年齢問わずフラっとお客さんがコーヒーを飲みに来て、店内でタトゥーを入れてても誰も気にせず、それが日常のワンシーンになっているようなお店になればいいなと思います。そういうタトゥーを受け入れる空気が、KABUTOから、この辺の地域全体にまで広がっていけば最高ですね。


■ショップインフォメーション

KABUTO
場所:東京都台東区下谷3-20-10
営業時間:11:00-22:00
定休日 : 火曜日
HP:https://kabuto.official.ec
公式Instagram : https://www.instagram.com/kabuto1173store/?hl=ja

北村蒼生(きたむらあおい)
2000年生まれ、東京出身。大学ではロシア語を専攻している。株式会社SWで学生インターンをしながら、就職活動をしている。好きなものは音楽、ファッションなどカルチャー全般。

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