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StoryWriter

街を歩いていると「ん? この中はどうなっているんだ?」というお店の看板をよく見つける。

好奇心が働き、ついつい扉を開けてしまうのは、誰に似たのやら。

このあいだも、ものすごく不思議なお店に出会った。

あの日の私は、遅めのお昼をファミレスで食べ、おやつの時間にコーヒーを飲み、気になる道をどんどんと進んでいたら「ここはどこだ」状態。気がついたら外は暗くなってきた。

このまま家に帰るか、はたまたどこかに入るか、迷っていたとき、たまたま目に留まったのが、

「クラフトビール、ウィスキー、オレンジジュース」

というなんとも魅力的な文字。

目線を上げると、なんだか可愛らしいお店が。

明かりはついているが、お客さんはいない。よくよく覗き込むと、奥のカウンターにお店の方と思われる女性が二人。仲良く喋っている。

ものすごく気になるけど、お店の名前は表に書かれてないし、Googleマップで見ても詳しい情報はなにもない。

あ、あやしい。でも、めちゃくちゃ喉が乾いたぞ。

5秒考えたが、勇気を振り絞り、一歩踏み入れてみることに。

「すみませーん。ここって、ビール飲めます?」

オーナーさんらしき人に声をかける。

すると、

「あら~入って入って~!」

とかなりフレンドリーな感じでお出迎えしてくれた。

カウンターに座り、お目当てのビールを頼むと

「名前は?」

と聞かれる。

出会って数秒の出来事に

「……アリサです」

と、偽名を名乗ろうとしたが、とても魅力的なオーラを放っているこの方に嘘はつきたくないなぁと

「ロ、ロビンです」

といつもより少し高めのキーで答えた。

「ロビンちゃん~! 可愛い名前。誰かの知り合い?」

と聞かれ

「いや、たまたま看板が目にはいったので……」

と言うと

「たまたま? すごいね~ここは変わった人しか来ないよ~」

目の前のキッチンでグツグツと何か美味しそうなものを煮込みながら、一言。

ほう、今まで自覚していなかったが、どうやら私は変わった人みたいだ。

そして視線を横に向けると、店内でベーグルを売ってるもう一人の女性が、真っ直ぐな目で私を見る。

なんだか照れくさくなり、早くビールを飲んでここを立ち去ろうとしたところ、

「ロビンちゃん、よかったら2階も見てって~」

出会って数分とは思えないこの空気感に少し戸惑いながら、ここは一体どんな場所なんだと興味本位で飲みかけのグラスを持って階段を上がることに。

すると、なにやら優しい音が聞こえる。

階段を上がった先には、たくさんのキャンドルが置かれた素敵な空間にウクレレを持った女性と、ギターを持った男性が。

「このあとライブがあるの。よかったらリハーサル見てってー」

とオーナーさん。

詳しく聞いたらウクレレさんとギターさんは友人同士。それぞれ歌うらしく、このあと1時間後に本番を控えているらしい。

そう、私は開店前の準備中のお店に入ってしまったのだ。

二人は「この人は誰なんだろう」と思っているに違いない。そんなことはわかってる。私が逆の立場だったらそう思う。

でもビールを飲み少し心も緩んでいたせいか、優しい音楽のせいか、気がついたらリハーサルの最後まで見ていた(途中お腹が空いたのでベーグル買ってちゃっかり食べた)。

よし、そろそろ帰ろうと腰を上げたら、ウクレレを持った女性の方が突然、

「あの~もしよかったら、本番のとき、ラストの曲で、これ鳴らしてもらってもいいですか?」

と楽器を渡してきた。

聞くと「ティンシャ」というヨガや瞑想をする時によく使うものらしい。

彼女は今日が初めてのライブで少し緊張してる様子。

レコーディングした時はいろんな音を重ねたが、今日は一人で寂しいとのことで、彼女の為になるのならと、恐る恐る慣らしてみると、あら、綺麗な音色。

「どこで鳴らせばいいですか?」と尋ねると

「好きなところで鳴らしてください」

とのことで、そのままなぜか本番に参加することに。

ライブ中もどこかソワソワ。そしてついに、最後の曲がやってきた。

「てぃーん」

私はなんで今この場所でこの鐘を鳴らしているんだろうと思いながら、楽しくなって結構鳴らしてしまった。ティンシャ、こんないい音するのか。

ライブも無事終わり、そういえば、チケット代はどうしたらいいのだろうとキョロキョロしていると

「皆さ~ん、チケット代はいりません。お気持ちだけ、ここに入れてくださーい。そのお気持ちでこのあと美味しいご飯を食べにいきまーす」とギターの方が明るく会場に言う。

よーし、人生でなかなかない経験をさせてもらったからいくら入れようかしらと自分の財布を覗くと、キャッシュレスに慣れていたせいか、まさかのお札が一枚も入っていない。

申し訳ない気持ちを抱えながら、ありったけの小銭を入れた(たぶん800円くらい)。

ビールが飲みたくて扉を開けたら、まさかこんな展開が待っていたとは。

人生、何が起きるかわからない。

岡田ロビン翔子(おかだ・ろびん・しょうこ)

1993年生まれ。2006年から2018年8月2日の解散まで、チャオ ベッラ チンクエッティ(THEポッシボーから改名)のリーダーとして活動。 頭の回転の良さからくるトーク力には定評があった。解散後はラジオDJを中心に、MC、モデル、自身のアコースティックライブ「ロン喫茶」など、マルチに活動中。 様々なジャンルに興味を持ち、多方面にアンテナを張りめぐらせ、スキルアップのために努力を欠かさない向上心の持ち主。

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