アートディレクター、千原徹也による初監督映画作品『アイスクリームフィーバー』が7月14日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー公開される。
原案は、川上未映子の短編集『愛の夢とか』(講談社文庫)内収録の「アイスクリーム熱」。アイスクリーム屋のアルバイト・常田菜摘役で主演を務めるのは、俳優の吉岡里帆。アイスクリーム屋の常連客の作家・橋本佐保役にはファッションモデルとして活躍する一方、女優としても唯一無二の存在感を放つモトーラ世理奈。菜摘のアルバイトの後輩・桑島貴子役には本作が映画デビューとなる音楽ユニット・水曜日のカンパネラのボーカル、詩羽。アイスクリーム屋の近所の銭湯に通う、仕事が生きがいの高嶋優役は実力派女優、松本まりかという魅力的なメインキャストが出演している。
そして、アイス屋のある街に引っ越してきた男・中谷役を演じているのが、本作が映画初出演&演技初挑戦となる、マカロニえんぴつのギター/ヴォーカル、はっとりである。はっとりが本作に出演することになったきっかけや、初演技のエピソード、自身の映画遍歴まで、ざっくばらんに話を聞いた。
取材&文:猿田美優
わかりますよね? 僕の気持ちが(笑)。印象的な緊張シーンでした
──まず、本作に出演されることになったきっかけを教えていただけますか。
はっとり:1年くらい前にリリー・フランキーさんと対談でご一緒した時、俳優についていろんなことを教えていただいたんですけど、その流れで、「はっとりくんも近々きっと俳優のオファーが来るから、やってみた方がいいよ」って言ってくださったんです。リリーさんの言うことってすごく力を持っていて、実際今回そういう話がをいただいたので、変に警戒しないで、臆病にならずに挑戦してみようと思ってオファーを受けました。自信はそこまでなかったんですけど、やってみなきゃなわからないことだらけだから、やってみようと思って。素人ですけども、お話が来たので喜んで参加させていただきました。
──はっとりさんの役は少し掴みどころがないキャラクターだなと感じたのですが、どのように役にアプローチしたんでしょう。
はっとり:確かに説明も全体的に多くない映画だし、その中でも特にひょうひょうとしていて掴みどころがない役なんですけど、こういう風にしてくれみたいな要望はなく、いつも通りの感じでいいよって監督からは言われて。普段の自分も家では1人でブツブツ喋ってたりするんですけど、外に出ると、ああいう感じなんです。アイスを注文する時とか。だから、あまり深く考えないで割と自分に近い状態で臨みました。演じようがないっていうのもあるんですけどね。もし、すごく強い個性を持ったキャラクターで、何か訴えかけるシーンが長セリフであったり、まくし立てるシーンがあったら、なにか考えたかもしれないんですけど、セリフ数も少なかったので、いつもの自分の表情と雰囲気でいこうかなと思いました。
──マカロニえんぴつのMVでは、はっとりさん自身が出られた映像が描かれていると思うんですけど、映画との演技の違いってありましたか。
はっとり:カメラに表情を撮られて、見られる角度も把握されているっていう部分では、MVで演技をやってきてよかったなと思っています。ただMVにはセリフはないので、自分が芝居しながら声を出してみたら、こんなにか細い声になんだっていう驚きがありました。
──演技に初挑戦したことでの自分自身の変化ってありましたか。
はっとり:もう1個経験が増えたっていう感じですかね。とんでもなく自分に自信がついたわけでもないし、後悔した部分があるわけではないですけど、完成版を見た時に、思ったほど悪くないなと思ったんですよ。それを見るまで、自分の演技が他の皆さんに混じって1人だけ浮いていると思っていたけど、割と馴染めていたから安心しました。それがもしかしたらちょっとした自信につながったのかもしれないです。幸い千原監督が素敵な役をくださったので、自信に繋がって、また機会があったらやってみたいなと思いました。
──具体的に印象に残ってる撮影エピソードがあれば、教えていただきたいです。
はっとり:どのシーンも鮮明に覚えてますけど、電話しながら荷ほどきしているシーンとかは、相手がいない状態で電話で会話してるふりをするので難しかったです。ただでさえ、慣れてないことなので。かつ、複数のスタッフさんたちがカメラの向こうで見ていて、緊張して恥ずかしいなと思って。3テイクくらいかかって、やっと吹っ切れたというか。最初はほんとに照れが拭えなくて、もう1回やらしてくださいと自分からお願いしました。最後の方は吹っ切れていけた気はしますけどね。あとアイスクリームを買うシーン。「冷たいこと。そして甘いこと。」ってセリフを言った後に、店員の菜摘を演じる吉岡里帆さんを見つめているんですけど、10秒ぐらい泳がされるんですよ。すぐカットじゃないんです。だからずっと見てなきゃいけない。
──緊張しますね。
はっとり:そう、わかりますよね? 僕の気持ちが(笑)。印象的な緊張シーンでした。
レコーディングでやってる自分もこんな感じなんだろうなみたいに思っていました
──監督の千原さんとのエピソードとかがあればお伺いしたいです。
はっとり:僕の好きなAV女優のみなもちゃんっていう子がいるんですけど、その子がプリントされたTシャツを監督が着ていて。僕も好きだったので、めちゃくちゃ話しかけたかったんですけど、監督モードに入っていたから、言えなくて。なんでこんな真剣なまなざしでそのTシャツ着てるのって(笑)。オフィシャルのグッズじゃなく、自分で作ってそうだなと思って、面白い人だなと。クリエイト、デザインとかやってる人って、やっぱネジがちょっと外れた感性を持っている人だし、その着こなしがかっこよかったです。スタイリッシュで。その後も結構プロモーションに何回かご一緒しましたけど、僕も気を遣っていて、自分からフランクに話せなくて。あまり話せなかったのが、ちょっと心残りですね。
──直接のコミュニケーションはそこまで多く取れたわけじゃなかったんですね。
はっとり:でも、僕のシーンが撮り終わった時、ちゃんとできたかなとか思ったんです。千原監督って、今のいいねとか、オーバーには言ってくれないんですよ。ボソッと「あ、これよかった」とか、「じゃあ次いこうか」って淡々と言う。期待に添え添えなかったかなとか思っていたんですけど、全部のシーンが取り終わった後に「よかったね」「助かったよ」みたいなことを言ってくれて。普段あまりリアクションがなかった分、その一言二言で安心して。初映画が千原さんの作品で良かったなって思いました。あと、朝早くから過密スケジュールで短期間で撮り終えてたので、スタッフの人も早起きで、監督もその場にずっといるから、相当お疲れだったのか、よく寝てました。1分ぐらいで寝れる人なんですよね。「千原さん、起きてください」ってよく起こされてました(笑)。普段も目がとろんとしてる方だから、あれ得だなと思って。俺もちょっとあの目を真似したいですね。レコーディング中も、聞いてるふりして寝ててもバレないかもしれないなって(笑)。それでいて、忙しくて当たりが強くなるタイプの人じゃないというか。何かを率いるトップの人としても、すごく尊敬できる方だなって思いました。みんなに慕われる理由がご一緒した短い間でわかった。不思議な包容力を持ってる方だなと思いましたね。
──本作のどんなところに注力して観てほしいと思いますか。
はっとり:カメラワークであったり、衣装のスタイリングとか、「このシーン、絵になるな」っていう連続だったんですね。抑揚を中心にした映画じゃないんですけど、千原さん自身もそういった映画目指してないっておっしゃっていたので、すごくデザインされた映画だなと思うんです。見ていてすごくキュンとくるシーンもあれば、かっこいいなって、惚れ惚れするシーンがあったりとか。映える映画だなあと。最後に役者それぞれが気に入ったシーンをチョイスして、それをTシャツにするっていう企画があって。僕も選ばせていただいたんですけど、Tシャツにしたくなるようなシーンがたくさんあるなって。そういうのが見どころだと思います。
──撮影の現場で、驚いたことや大変だったことを挙げるとしたら?
はっとり:短いシーンでも、いろんな角度から何回も撮るのに驚きました。素材を色々取り溜めるのは知ってたんですけど、こっから見たら意外といいみたいなところで、現場で思いついて、何度も違う角度から撮られてましたね。決め打ちで撮るんじゃなくて、現場での光の当たり方とか楽しんでやってる感じが面白かったです。僕のレコーディングも、この音面白いなってところから違う発想が生まれたりするので、レコーディングでやってる自分もこんな感じなんだろうなみたいに思っていました。千原監督たちがどういう絵を撮りたいのか、一挙手一投足やってみながらついていってる感じに、すごいチーム力を感じました。
ある素材で熱量だけで低予算でやってるのに胸打たれる
──本編の話から逸れるんですけど、はっとりさんは普段映画をご覧になられますか?
はっとり:映画は好きで、特に洋画をよく見ますね。その時々で好きなタイプの映画があって。大学に入ってから急に涙もろくなって、ヒューマンドラマ系――ロビン・ウィリアムズが出てる作品を見ると、あの人の表情で泣いちゃうんですよ。そういう作品が好きな時期もあれば、キューブリック作品とか癖の強い作品が好きな時期もあって。でも、タランティーノはやっぱすごいなって思いましたね。いろんな人が感化されるセンス溢れる作品だなって。その中でも、やっぱりスピルバーグとジョージ・ルーカスが1番好きですね。『スターウォーズ』が昔から好きなんですけど、ウルトラ4Kの18枚組を買って見返したら、改めて『スターウォーズ』いいなって。特撮とかCGがない時代のSFを見ると、その工夫にすごく感動するんです。パペットとか着ぐるみを着たりして頑張ってエイリアンを演じているのとか見ると、泣きそうになるんですよね。『13日の金曜日』にしても『エイリアン』にしても最初期待されてないから低予算で作っているんですけど、その創意工夫に泣きそうになるっていうか。ある素材で、熱量だけで低予算でやってるのにやっぱ胸打たれるんです。
──確かにバンドも、駆け出しの頃の初期衝動とかありますよね。
はっとり:そうそう。それがよかったりするんですよね。
──はっとりさん自身も監督作品を作ってみたい気持ちもあるんじゃないですか?
はっとり:何においても、見てると簡単そうに思えちゃうんですよ。砲丸投げだってできそうだと思うじゃないですか? 無理なのに。だから僕は、無理だと思うな。でも興味はあることは間違いなくて。最初からぴったり制作にくっついて映画がどう作られていくのか見学したさはあります。脚本がどう選ばれ、どのぐらい脚本家の意思が尊重されてとか、裏側を見る方が好きだったりするんですよね。最近好きな映画のBlu-rayを集めているんですけど、『オーシャンズ11』のメイキングにスタイリストさんのインタビューで、「衣装がセリフ言う時もあるんだよ」ってシーンがあって。俳優さんが何も喋ってなくても、服装からその人の背景が見えたりする。逆にスタイリングが悪いと映画の邪魔をするって。衣装もセリフを言うんだってことにすごく感動して。スタイリストさんの仕事1つとっても映画の大事な役割で、何気なく見てるわずか数秒のシーンに、いろんな人の気遣いがあるんだなっていうので驚きました。
──そこまで映画へのリスペクトがあるからこそ、後々撮られるんじゃないかなって期待しています。
はっとり:そこまで言われたら、やっていいですか(笑)? できるよってそそのかされたいんですよ。そうやって言われて嬉しかったです。
■作品情報
映画『アイスクリームフィーバー』
7月14日(金)TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他にて全国ロードショー
吉岡里帆
モトーラ世理奈 詩羽(水曜日のカンパネラ)
安達祐実 南琴奈 後藤淳平(ジャルジャル) はっとり(マカロニえんぴつ) コムアイ
新井郁 もも(チャラン・ポ・ランタン) 藤原麻里菜 ナツ・サマー
MEGUMI 片桐はいり / 松本まりか
監督:千原徹也
原案:川上未映子「アイスクリーム熱」(『愛の夢とか』講談社文庫)
主題歌:吉澤嘉代子「氷菓子」
脚本:清水匡 音楽:田中知之
製作:千原徹也 山本正典 川村岬 與田尚志 岩尾智明 長谷川康 大塚朝之
エグゼクティブプロデューサー:千原徹也 山本正典 木滝和幸
プロデューサー:勝俣円 塚原元彦 撮影:今城純 スタイリスト:飯嶋久美子 ヘアメイク:奈良裕也 照明:古久保亮介 録音:久保琢也 音響効果:田中俊 整音:久保田貫幹
美術:内藤愛 助監督・編集:奥田啓太 制作担当:長川由万 アシスタントプロデューサー:鶴田紫央里 田中朋子 宣伝プロデューサー:小口心平
協賛:両備システムズ アダストリア ウンナナクール グランマーブル 猿田彦珈琲 ボディファンタジー 春華堂 SFW 白竹堂 KISS,TOKYO 宮崎氷菓店
制作プロダクション:れもんらいふ
制作協力:DASH doors ぶんちん
配給:パルコ
2023『アイスクリームフィーバー』製作委員会:れもんらいふ グランマーブル ねこじゃらし 東映ビデオ FM802 マグネタイズ 猿田彦珈琲
2023年|日本|104分|カラー|4:3|5.1ch|DCP
©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会
公式サイト:icecreamfever-movie.com
公式SNS:@icecreamfever_m