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【INTERVIEW】甲田まひるが語る、ものづくりへのこだわり「理想のサウンドにすることに今一番興味がある」

StoryWriter

シンガーソングライターの甲田まひるが自らの年齢を冠した初めてのアルバム『22』をリリースした。甲田が特に影響を受けた90年代ヒップホップ/ソウルあり、自らがピアノを弾くラップの一切ないバラードあり、全編ラップ曲あり、ゴリゴリのダンストラックありと、多彩で挑戦的なアルバムだ。彼女のルーツでもあるジャズとヒップホップを大事にしながら、日々目まぐるしいスピードでアップデートしている甲田まひるの稀有さがひしひしと伝わる。

8歳でジャズピアノを弾き始め、2018年には石若駿と新井和輝(King Gnu)を迎えたトリオ編成でジャズ・アルバム『PLANKTON』をリリース。そして2021年、EP『California』でJ-POP、ヒップホップ、K-POP、ソウル、R&Bといった多様なサウンドがないまぜになった新時代のポップスを提示した。小学6年生からインスタグラムを始め、たちまちファッショアイコンとして指示を集め、モデルや俳優としての活動も行う。多岐にわたって存在感を示す活動スタイルと『22』が繋がっているようなのがまた面白い。

取材&文:小松香里
写真:まくらあさみ


自分を表現する上で「結局真面目」っていう言葉がしっくりきた

――これまでのシングルでも様々なクリエイターとタッグを組んでいますが、アルバム『22』は久保田真悟さんや野村陽一郎さんいしわたり淳治さんとさらに多彩な方々が参加していますね。

シンガーソングライターとして初めてアルバムを作るにあたって、割と特定の人とがっつり組んで作っているアルバムが多いイメージがあったので、最初はそういう感覚でいたんです。でも曲ごとに「この人とご一緒したら面白いんじゃないか」というイメージがやっぱり浮かんできちゃう。気づいたら、すごくたくさんの人とご一緒することになってました。途中で「こんなにいろんな人と作るアルバムって他にありますか? 大丈夫ですか?」ってスタッフの方に確認したぐらいです(笑)。結果的に、だからこそ面白いアルバムになったんじゃないかなって思います。

――1曲目は甲田さんが作詞作曲編曲まで担った「Ignition」です。これはアルバムの1曲目として作ったんですか?

イントロ部分のビートが入る前のところは1年半前ぐらいから書いていたんです。ゴスペルっぽさがあって結構リハモしていて複雑なコードを並べていくようなスタイルが私は好きで、遊びで作っていたデモを元にした曲ですね。アルバムを作ることになり「この曲で始まるのはいいかも」って思って、ビート部分を作っていきました。生音を使おうと思ったし、その時点で割と世界観が定まっていたので、プロデューサーさんを入れずに自己完結できました。

――ジャズピアノから始まり、途中からビートが入っていくという展開が甲田さんの歩みと重なっている気がして、ファーストアルバムの1曲目に相応しいなと思いました。「これが第二章」というリリックもありますね。

私のルーツはいろんなところにあるんですよね。ファッションをやっていた頃はMAPPYという名前で活動していて、その後ジャズピアノを始めることになった時はフルネームの名義が良いなと思ったんですが、MAPPYであるということも示したかったから甲田まひる a.k.a. Mappy名義にしました。ここがスタート地点というよりは、そういう出来事を経ているっていうことを最初に伝えようと思って書きました。

――タイトルトラックの「22」は特に甲田さんの気持ちが赤裸々に出ている曲ですが、これはタイトルトラックとして作ろうと思ったんですか?

「22」は2が好きだからっていう理由でアルバムタイトルを「22」にしようと思って、だったら「22」っていう曲があった方がいいなと思って書きました。曲を聞いてその時の自分をはっきり思い出せるのっていいなって思って書いたので、本当にそのままの自分ですね。

 

――歌詞はいしわたり淳治さんとの共作になっていますが、一緒に制作してみてどうでしたか?

まず、いしわたりさんの作詞家としての技術がすごくて、「こんなこと自分にはできない」って思うのと同時に、「作詞ってシンプルなんだよ」っていうことも教えていただいた気がしました。難しい言葉を使わなくても聞いてくれる人の心を打つような表現はできるんですよね。この曲は元々デモがあって、6割ぐらい詞がついていたんです。そこでいしわたりさんに聞いていただいて「22というテーマだからこそ自分の言葉で書かないと意味がないと思う」とおっしゃっていただきました。その時既に歌詞のテーマとして「真面目」と「22」というのがあって、「結局真面目」っていう歌詞もあったんです。それに対して、「ここは面白いから、どう落としたら結局真面目なのかを考えてみたらもっと良くなると思う」ってアドバイスをいただいたことで見えてきました。「こんな私ってどう?」みたいな自分に自信がないような歌詞で。「結局真面目」ってことは真面目じゃない部分もあるっていうことだから、ちょっと挑発的な語尾にしてみようかなと思ったり。書いていく中でいしわたりさんにお見せすると、「前のほうがよかったよ」って言ってくださることが多くて。私は昔から歌詞を書いてきたわけじゃないので、逆にロジック的なことを考えすぎちゃうんですよね。いしわたりさんの作詞法を見ていると、逆転の発想をしたり、ひとつのきっかけで一気に良くなったりする印象があったのはすごく勉強になりました。この曲を書いたことは自信に繋がりましたね。

――「22」というテーマで自己分析すると「結局真面目」というワードが出てくるんですね。

最初メロディからその言葉が浮かんできて。「結局真面目」って、「結局」がついているっていうことは何周かしてるってことだと思うんですよね。その後「結局不真面目」に転がるかもしれない。ただ、私は生きていて、周りを気にしたり、強がっちゃったり、「こういう自分でいたい」って思うのにそれをやめてしまうっていう葛藤が本当に多かったんです。それで自分を表現する上で「結局真面目」っていう言葉がしっくりきたんです。

――自己嫌悪に陥ったり、悲観的だったりしながらも「ほら上を向け」という歌詞になっていますよね。

その時の感情に素直に従うことってそこまで難しいことじゃないのになかなかできないんです。それは自分の悩みでもあって。だから強がって笑ってる歌詞にしたかったんです。「上を向け」っていうのは我慢して上を向いてるんですよね。ポジティブというよりは、実は涙が出ないように上向いている状態。そういうところってみんなにもあるんじゃないかなって思いましたし。

ものづくりって見えないところまでどれだけこだわるかがすごく重要

――「in the air」にもそうやって満たされていない甲田さんのさんの性格が出てますよね。

そうですね。自分の中で「in the air」と「22」は日記的な感じで結構似てますね。

――「in the air」は幼い頃からファッションアイコンとして活躍することで甲田まひる像が独り歩きして、素の自分がわからなくなっている感覚が描かれているように聞こえました。

昔インタビューで「自分はどんな性格だと思いますか?」って聞かれたことがあるんですけど、何も出てこなくて沈黙しちゃったことがあったんです。結局何かしら言ったんですが、帰り道で「なんで答えられないんだろう」「私何でこんなことになってるんだろう?」って思ってすごく落ち込みました。振り返ってみると、幼稚園の頃はネアカで落ち込むことなんて知らないみたいな子だったんです。でも、年を取ったからなのか、仕事をしていく中で自分をどう守るかみたいなことを考えてそうなっちゃったのか理由はわかんないんですけど。でも、作詞するときにそういう自分と向き合って「変わっちゃったな」って思って、それを詞に落とすことでひとつ解消できるような感覚があるんです。そこも作詞の楽しさだなって今は思えるようになりました。

――作詞をするという行為がすごく合ってるんですね。

そうなんですよ。すごく楽しいので、昔からしてこなかったのが惜しいなあって思っています。元々読書をしているよりは、喋ってる方が好きなタイプだったんですが、「詞を書きたいな」ってなぜか思ったタイミングがあって。自分では運命的だなって思ってます。昔から自分ひとりで何でもやることが好きなんですよね。だから、少しでも人のアイディアが入ることに最初は抵抗がありました。シンガーソングライターはほとんどのことが自分でできるのが楽しいです。

――自分の嫌な部分と向き合って落ち込む人もいますが、甲田さんは楽しいわけですね。

そこまでシリアスに捉えてないかもしれないですね。結局は自分の作品がかっこよくなればいいので、「22」や「in the air」は自分のことを書いていますけど、自分以外の登場人物を設定する時もありますし。曲のテーマに引っ張られて歌詞は書いてますね。

――「in the air」はピアノバラードでアルバムの中では一番J-POP色が強い印象があったんですが、それについてはいかがでしょう?

この曲は自分でグランドピアノを弾いているんですが、正直リスナーの方にとっては自分じゃない人が弾いていても、そんなに関係ないと思うんですよ。ただ、ものづくりって見えないところまでどれだけこだわるかっていうことがすごく重要だと思うんです。どのジャンルにおいても、そういう部分って結局ユーザーの方に伝わると思うんですよね。だから自分で弾くことはメッセージになるんじゃないかなと思いました。それでこの曲自体、あまり装飾もないので、すっと入っていく曲になればいいなと思って作りました。ピアノという生楽器はありつつ、低域の部分は自分の好きなベースの強さやキックのニュアンスがしっかり出ているのでサウンドもかっこいいなと思ってます。

――収録曲の中だと唯一ラップパートがないですよね。

そうなんです。でもラップしたいときにしてるので特に何も考えてないんですよね。「バラードだしなくていいかな」ぐらいの感じで。あえて複雑なことをやってる曲とかも、本当にその時の気分次第ですね。

これまで出したラップの曲は全部自分の性格って感じです(笑)

――一方「Ame Ame Za Za」は全編ラップ曲ですね。

そうですね。ラップをすることが今は一番好きなので、全編ラップをしている曲はアルバムには絶対に入れようと思ってました。ラップが一番早く書けるんです。作詞も迷わないので、他の曲に比べたらストレスが全然ないです。ラップだと「何を言ってもいい」っていう感じで強くなれるんですよね。これまで出したラップの曲はもう全部自分の性格って感じです(笑)。

――「Ame Ame Za Za」はかなり挑発的なリリックですよね。

悪い意味じゃなく私って二面性があるなって思うんですよね。それを自然と受け入れている人もいると思うんですけど、私はそれに対して動揺しているところもあるんです。自分は一人しかいなのに、寝て起きるだけで性格や考え方が昨日と違ったりするので、何を信じていいかわからなくなっちゃうんですよね(笑)。最近はふたご座だからしょうがないっていう風に割り切ってます(笑)。

――「Ame Ame Za Za」で「今日も好き放題 やるからそちらもお好きにどうぞ」とラップしてる甲田さんもリアルだし、22で「結局真面目なI‘m 22」と歌ってる甲田さんもリアルなわけですよね。

そうですね。だから単純ですね。良いことがあるとめちゃくちゃ自信が出て強気なことを言っちゃうけど、落ちている時は何を言われても自信が持てない。それが歌詞に出ちゃうのはしょうがないのかなと思います。

――そのスイッチはサウンドによっても左右されますか?

あ、そうですね。落ち込んでいても強いサウンドができたらテンションが上がって強い口調で歌詞を書きたくなります。何で落ち込んでいたかも忘れちゃうぐらいに、「かっこいいビート出来た! 最高!」っていう感覚になる。思ったようなミックス上がってきた時とか、すべてが全部どうでもよくなるくらいテンションが上がりますね(笑)。

――音楽活動が天職みたいな感じなんですね。

そう感じています。こんなに自分が左右されるのが面白いし、私の居場所なので本当に大事です。自分の嫌な部分を歌詞にしたとしても、誰か聴いてくださる人がいて共感してくれたり、誰かの気持ちを救えたら最高だなって思います。そう考えると、自分はこのままでもって思います。

パイオニアがやってきたことをしっかり聴いて大事にした上で新しい音楽を生みたい

――「One More Time」は甲田さんのルーツであるローリン・ヒル的な90年代ヒップホップ/ソウルが浮かびました。どんなイメージで作りましたか?

そうなんです。この曲は自分もすごく好きで手ごたえがあるんですけど、90年代のアメリカのヒップホップも好きなんですが、その頃の日本の音楽も好きなんです。宇多田ヒカルさんがデビューして、R&Bを日本人が歌う流れが盛り上がって。「今夜はブギー・バック」とか名曲がいっぱいありますよね。あの時代の日本のR&Bやヒップホップをたくさん聞いていたので、そういうイメージで書いた曲です。ラップをベースにしながらも、サビは聴きやすさを意識しました。私、よくレコード屋でこの時代のアメリカのヒップホップのレコードを掘ることが多いんです。ファッションも昔から古着が一番好きだし、ジャズも60年代のビバップが好きで、昔から愛されているものが好きなんです。そういうものに少しでも自分が関わっていることがすごく嬉しいです。

 

――新曲ばかり追うリスナーもいますけど、そうではないんですね。

そうなんですよ。昔のレコードを追ってるので、新しい曲は追い付けてないです(笑)。パイオニアがやってきたことって絶対に間違いないと思っていて。逆に、そこをしっかり聴いて自分が大事にした上で新しい音楽を生みたいんです。今の楽曲は自分がいる場所でもあるので、あまり気にしてもしょうがないんじゃないかなって思うんですよね。ポップスをやろうと思ってシンガーソングライターになったので、自分のルーツとうまく共存させることでオリジナリティが出せるのが一番いいと思っています。やりたいことがどんどん変わっていくんですよ。前日に服を決めるのも無理で当日決めるんですけど、例えば外出して一度帰って着替えたくなったりするほど飽きっぽいんです(笑)。だからといって、これまでの曲に対する後悔は一切ないんですけど。その時々の気持ちを記録できるのが音楽の良さだと思っていて、その時自分がかっこいいと思う気持ちに正直に作っていれば、べつに何を作ってもぶれてないと思うのでこれからもそうしていくと思います。

――アルバムを作ったことで生まれたビジョンはありますか?

すべての曲に対して全力投球はしました(笑)。自分が思っているサウンド通りにならないともどかしくて諦めきれないんです。とことん付き合ってくれたエンジニアさんとプロデューサーさんに本当に感謝しています。最初聴いた時に「最高!」ってならないっていうことは、絶対に何かしら別の正解があるんだと思うんですよね。絶対にそこまで到達して終わりたいっていう気持ちがあるので、細かい作業をずっとやっていました。カロリーの消費はすごかったんですが(笑)、そういう作業をアルバム単位でやったことで、「こう伝えたらすぐにわかってもらえるんだ」とか「後からこういう風に思うんだったら初めからこういう風に歌っておけば良かったんだ」っていうことがわかったので、次からはもっと効率的に進められると思います。その分別のことをやる時間も生まれる。全行程に関わって本当に良かったなって思います。ますます知りたいことや勉強したいことが増えました。表現力を上げることも大事ですけど、曲を作って理想のサウンドにすることに今一番興味がありますね。だから他のアーティストに曲を書いてみたいし。そうやって高みを目指していくのがすごく楽しみです。


■リリース情報

 

甲田まひる 1st FULL ALBUM “22” SHOWCASE Supported by InterFM
2023年8月2日(水)下北沢ADRIFT
開場 19:30/開演 20:00
応募URL:https://forms.gle/Xm9boezwrRot66Q78
※応募期間:2023年7月12日(水)12:00〜2023年7月24日(月)23:59
※必ず応募サイトの注意事項をご確認の上、ご応募をお願い致します

甲田まひるオフィシャルサイト https://mahirucoda.com/

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