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StoryWriter

エルスウェア紀行・Vo/Gt ヒナタミユによる初の連載”夢幻逃避行”がスタート。ヒナタミユが撮影した写真と共に、小説でもエッセイでもでもない、空想でも生活でもない”夢幻”の隙間を描く自由詩形式のシリーズとなります。


“10秒ももたない”

言語化しなければならない、爆発させるつもりがだんだんと推敲、形式ばっていく文章でなくてありのままを。

わたしの頭の中はいつも忙しい。

身体の方はたいてい暇を持て余してだらしなく広がろうとする。

私にとって夜明けの合図は窓越しの薄青い空なんかじゃなく、おおよそ4:00に始まるテレビ通販だ。

悲しいこと、ハッとすること、ちょっと後ろめたいこと、思い出したくないこと、成し遂げたいこと、あったかいこと、ご褒美みたいな瞬間、こびりついて動かない身体と心のこと。

慢性化した動悸すら加速する深夜3:30は苦しく、同時にその先で変わる何かを、自分を期待できる時間なのだ。

浸っていたい、抜け出したい、秘密の時間は日テレポシュレ(多分)と共に終わりを告げる。

この時間を、決まって一人の場所と決めた風なのはいつ頃からだろう。

昔好きだった人と長電話をして。

あるいは後ろ側ばっかり見せ合ってときどき顔も見たくなくなるのだけど、無性に会いたくなる友人と海にでも出かけたりした。

張り詰めた知らない寒い夜の煌めきがあっけなく消えて、朝はすごいスピードで午前中になって、田舎町のアスファルトみたいな重ったるさを運んできたのに。

なんとなくがっかりする自分を引きずって、シャワーを浴びたら眠る気になんてなれなかったのに。

今はそれがテレビ通販で、それはもちろん大人になった証なんてものではなく

真夜中に隠した情けなさと精気のない目元があらわなれば逃げるように目を瞑るのだ。

僅かなる抵抗として、文字を書くことにし、とりあえずのアカウント名はポシュレとする。

半端なユーモアを笑うように何度ポシュレと打っても、「パシャら」「ぽしゃれ」と変換された30秒に耐えられそうもなかった。

あと10秒ももたない。

どうしてだろう。

わたしだと信じたかったわたしの中の何かは、いつからか10秒ももたない。

ヒナタミユ
2020年始動の音楽ユニット・エルスウェア紀行 にてボーカルギター、作詞曲を担当。
近作ではアートワークも手掛ける。
並行してCM歌唱や作詞提供等の活動も行っており、#夢幻逃避行 は初の連載。

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