ラッパーのGOUU(読み:ゴウ)が2024年12月17日(日)に、東京・恵比寿BATICAで初ライブを開催した。
12月15日(金)にデビューシングル「Qs」をリリースしたGOUUは愛媛出身2002年生まれの新人ラッパー。そのナードな見た目から湧き出てくる飾らないリリックとギャップのある低音ボイスが特徴的でもある。デビューシングルのリリースに合わせて行われた初ライブの様子をレポートする。
彼が進むストリートの中での敵は、等身大の自分自身だ
12月17日に恵比寿BATICAで開催されたGATEで、新鋭ラッパーGOUUの初ライブがあった。眉より短い前髪に大きな丸眼鏡、襟付きの黄色いシャツにショートパンツという某人気アニメの主役級のキャラクターを彷彿とさせる姿でステージに登場したGOUU。その日、愛媛県出身の21歳は低音を操り、エモーショナルにも力強さにも頼らずヒップホップ界に新たな旋風を巻き起こしていた。
ライブでGOUUが披露したのは、YouTubeにMVもあがっている「Qs」、今月31日にリリースを控えている「555」も含めた計4曲。デビュー曲でもある「Qs」では、Yohji Igarashiのドラマテックなビートの盛り上がりに対する、感情の増幅を一切表明しない冷静なラップスキルが際立った。そしてリリックでは、彼の人生を体現するような絶妙な言葉遊びとパワーが込められていた。
序盤で〈今まだゆうに服代よりも使ってる地元帰る交通費〉とラップしていたGOUU。このラインは、上京して間もないラッパーの駆け出しである表明だけでなく、彼のスタイルの定義にもなっていた。業界の全てではないが、元来のヒップホップのドレスコードの一つに据えられているのは、2XLのノースフェイスだ。デザインのカッコよさも去ることながら、オーバーサイズのアウターが果たす一番の役割は「大きく見せること」だ。対して、それらのスタイルを疎外したような平凡よりもナードに振り切ったシャツを着ていたGOUU。このスタイルこそが彼の闘い方であり、スタイルウォーズであると思えた。
しかし、彼が従来の闘い方から離れたとしても、決して卑屈になり自分を小さく見せる意図があった訳ではないと思う。後半のラインで〈出産と同時にマジックは点灯 Vロード邪魔出来ねーもう〉とある。ここで注目したいのは「出産」という言葉だ。仮に「ラップを始めたと同時にマジックは点灯」であれば、それは従来のスタイルである。地元でハスリングして強い繋がりも出来て、仲間たちとRECブースに入ったら化学反応が起きたというナラティブ。「出産」という明確な時間軸の始点は3つの意味をもたらした。まずは前述したようなナラティブとの決別。また、純粋培養さながらのラップスキルがあるという表明。そして何より、彼なりのラッパーとしての生き方を物語っていた。
GOUUが生まれた2000年付近は決して恵まれた時代ではなく、下降の始まりである。さまざまな場面で規制緩和が大きく進み、一般の労働者においては非正規雇用が一気に増加した。70年代ごろからの「一億総中流社会」が終わったのも、2003年だと言われている。そのような年代に生まれた若者が〈出産と同時にマジックが点灯〉と、あえてポジティブな表現を使う背景には、行き過ぎた自由主義や市場主義がもたらしたレールへの不信感があったのではないだろうか。重ねてそれは、そのようなレースには参加しないという気概にもなっていると感じる。そしてこの小節は、〈Big mouth 成し遂げる大したこと〉と締めくくられる。マジックナンバーというプロ野球における用語で始まった小節で、最終的に海外で活躍するサッカー日本代表にレペゼンされるようなビッグマウスという表現が引用されるのも、二項対立が軽快に表現されていて気持ち良い。このように、メインストリームをあえて選ばなくても、クオリティを高くすることにすさまじく貪欲であるのがGOUUである。
彼が目指している姿はいったいなんだろうーー孤独であるが廃れてはいないリリックやナードな装いから剥き出しにされたのは、虚栄のなさかもしれない。そこにはヘイターやハスラーもいない。彼が進むストリートの中での敵は、等身大の自分自身だ。内省的になり自身の痛みを感じさせるような姿勢こそ、“新しい”ラッパーの形であるのかもしれないと思えた。
従来のシーンと適度な距離と取り、新世代のブーンバップを盛り上げてくれそうな期待の新人。これからさまざまな世代のヘッズたちの心をわしづかみにしてくれるはずだ。
取材&文:アキヤママリナ
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