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StoryWriter
※写真は我が家で真似をしてみた緑のスープです

 

写真は一枚も撮ってないのに、記憶に残ってる時間がある。

いや、写真を撮ってないから、記憶に残ってるのか。

そこはずっと気になっていた、女性店主が1人でやっている下町のお店。完全予約制で大人気のため、抽選に応募。予約完了メールが届いたときは、小さくスキップした(怪しい)。

注意事項には

「店内は撮影禁止です」
「17時と同時に扉が開きますので、外でお待ちください」

とのこと。

地図を見ながら5分前に着くと、お客さんらしき女性が一人。ここかな?とその人の後ろに並ぶ。向こうからはカップルも歩いてきた。

彼女さんが「ここだよ〜!」と嬉しそうに彼氏さんに伝える。

どうやら彼女さんは何度か来たことがあるらしい。

外観を撮る彼氏さんに

「ここ、店内は、写真撮影禁止だからね」

と優しく伝えると

「え? いまどき珍しくない?」

と少し不満げ。

“注意事項、読んでないんかーい!”と心の中で突っ込んだ瞬間、ガラガラガラ、と扉が開く。

荷物を置き、指定された椅子に座る。お客さんはわたしも含め、5人。女性店主の後ろには、素敵なオープンキッチン。飾り棚には素敵な器が飾られている。

私たちが頂いたのは、糧菓(りょうか)とお茶のコース。

糧菓とは

<和菓子とも洋菓子ともいえない、菓子とも料理ともつかない味や食感をたたえ、一定量の大きさの入れ物を“糧”とし、その範囲内で展開され続ける“菓子”>を意味するまったく新しい菓子の概念。

調べると、こう書いてあった。

うん、まさに。

初めて食べる味、喉ごし。部屋のあかりもろうそくのみなので仄暗く、視覚というよりは香りや食感、店主さんから言われる言葉と自分の舌を頼りに頂いた。

特に印象に残ってるのが、緑のスープ。

緑のスープと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。ブロッコリー? キャベツ? スナップエンドウ? 想像を膨らましながら、コトコト温めてるスープを待つ。

そして一口。

すると、今まで食べたことのない、いや、今まで食べてきた野菜の旨みが全て凝縮した味がする。なにがどうなって、こうなったの?と脳が混乱。味覚に全ての意識を向けていただく。

聞くと、10種類以上の野菜を使っているとのこと。どれだけの時間をここに注いでるのだろう。

そして、もうひとつ印象的だったのは、手作りもなか。

誰かが「せーのっ」と掛け声をしたわけじゃないのに、みんなが同時に口を運ぶ。あまりのいい音に笑ってしまった。

できたて、ぱりっぱりっのもなか、あんこは甘すぎず、絶妙な味わい。あぁ、思い出すだけで、また食べたい。

そのあとも出てくる手の込んだ料理と、それに合わせたお茶に、心の中で拍手喝采。

そうそう。写真撮影禁止と聞いて「え? いまどき珍しくない?」と言っていた彼氏さん。

一杯目に出てきた、低温でゆっくり入れたお茶をこぼしてしまっていた(悪気はもちろんない!)。

だが、そこから一気に集中モード、誰よりも店主さんの声に耳を傾け、最後には

「本日は、誠に感銘を受けました」

と真剣に伝えてる姿が印象的だった。

どうやってここを切り取ろう、ということに意識がいきがちな現代だけど、たまにはそんなことも忘れて今この瞬間をしっかりと「味わう」ということが、なんて贅沢で幸せなことなんだろう、と感銘を受けた一人だ。

あぁ、いい時間だった。

ろうそくが消える時間と共に終わったこの会。

お店を出たら空が綺麗だったので、思わず写真を撮った。

岡田ロビン翔子(おかだ・ろびん・しょうこ)

1993年生まれ。2006年から2018年8月2日の解散まで、チャオ ベッラ チンクエッティ(THEポッシボーから改名)のリーダーとして活動。 頭の回転の良さからくるトーク力には定評があった。解散後はラジオDJを中心に、MC、モデル、自身のアコースティックライブ「ロン喫茶」など、マルチに活動中。 様々なジャンルに興味を持ち、多方面にアンテナを張りめぐらせ、スキルアップのために努力を欠かさない向上心の持ち主。

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